サンタイト・クエスト
戦乱の大地、サンタイト。
人と魔物による長い戦いが続く大地で、君だけの冒険を始めよう!
人として冒険するもよし。
魔物として冒険するもよし。
どんなプレイも君の選択次第で可能だ!
この戦いの大地で、君らしく生き残れ!
「凄く戦闘狂向けのキャッチコピーだな」
これがサンタイト・クエストの宣伝文句を読んだスバルの第一感想である。
だが、隣に座るリナは遠い目でぼやく。
「だが、これが事実だ」
「サンタイトって、君がいた世界なんだろ?」
「そうだ。私がいた世界は、ここほど治安は良くない」
ほんの少ししかこの世界に滞在していないが、リナはこの世界の治安の良さに驚いていた。
魔物と人は対立していて当然。
だが、この世界には魔物がいない。
ゆえに、激しい対立が発生しない。
リナはそう考えていた。
「いや、この世界も言うほど治安がいいわけじゃないけど」
「まあ、今はいいじゃない。リナちゃんがそう思ってくれているならね」
ほんの少し前まで17年も続いていた戦争があったのだと説明しても信じてもらえそうにない。
ましてやこの世界には2種類の人間がいることなど、きっとリナには受け止められないだろう。
だからこの話は後回しだ。
「話を戻すけど、リナちゃんがいた世界がこのサンタイト・クエストなら、ゲーム世界から出てきたってことなのかしら」
びびあんが当然の疑問を口にする。
だが、スバルはそれを決して馬鹿な話だとは思わない。
「多分、そうだと思う。前にミニチュアの世界からやってきた異世界人がいた。リナも同じように作られた世界からやってきたんだ」
「複雑な話のようね」
「まあね。だけど、お陰でどんどん話は繋がってきた」
少し前に現れた夜光竜と、サイ・ゲルパの住民たち。
彼らは天野と大星によって作られた世界の民だった。
同時に、彼らは増えすぎた人類を移民させるためのテストスペースを作成する研究を行っていたのだ。
「リナが持っていた『精霊』の写真は、サイ・ゲルパを作った連中と同じものだった。サンタイトっていうのも、そこの研究室絡みなんだと思う」
「じゃあ、その研究室の人間をとっちめちゃいましょうよ。きっとそいつ等が黒幕よ」
「殺した」
「え」
あまりにもあっさりとリナが言ってのけたので、びびあんは思わず真顔になる。
「ここにいるのは大体殺した」
「ちょっとリナちゃん!」
「待って! 言いたいことはわからないでもないけど、今は待って!」
「待ってってあなた。立派な殺人よ!」
「わかってる。でも、だからって彼女を警察に引き渡したところでどうしようもないだろ! 現にあのランナーズとかいうのはこっちのことはお構いなしに来るし!」
事情を説明しようにも、あれだけ派手に登場したランナーズの情報が世間には一切伝えられていない。
だから最低でも物的証拠が必要だ。
しかし、その証拠も今はない。
「研究室の誰かが何かをしようとしてるのは間違いない。ランナーズを差し向けてきたことから察するに、アイアンゲームズ社の誰かなんだと思う。でも、具体的なことはまだ何もわかってない」
「……その証拠を掴むまでは協力が必要、という事かしら」
「アンタが曲がったことが嫌いなのは十分わかった。でも、今は利用できるものはなんでも利用すべきじゃないかな」
「あなた、随分神経が太いわね」
「それは私も思った」
ボンテージおっさんとドラゴン娘から同時に半眼で見られた。
「仕方がないだろ。良い子でいたって報われないんだから」
「悲しくなるようなことを言わないでちょうだいよ」
「だったら、こんなことをしなくてもいいように、しっかりと証拠を集めようぜ」
言いつつも、彼らを乗せたトラックは目的地に到着する。
アイアンゲームズがある巨大なオフィスビルだ。
遠目から見ると、かなり立派である。
「大きいな」
「100階建てのビルよ。アイアンゲームズがあるのは36階から37階のようね」
「問題はどうやってそこに入るか、だな」
サンタイト・クエストの話題に夢中になってしまったが、肝心のアイアンゲームズを調べるためにはビルの中に入り込まなければならない。
しかもリナやびびあんはお世辞にも目立たない人間ではなかった。
間違いなく不審者にしか見えない。
「問題ない。堂々と入り込めばいい」
「あ、ちょ!」
リナはそう言うと、トラックから降りる。
慌て、スバルは追いかけようとするが、
「私はここで待ってるわ。外から動ける人間が必要かもしれないから」
「ああ、お願い!」
「念のため、連絡先くらいは交換しておきましょう。その方が何かあったときにスムーズに動けるわ」
「確かに」
そう言うと、お互いにスマホを取り出して通信。
連絡先を交換し終わったのを確認すると、スバルは飛び出していく。
「じゃあ、俺はリナを見ておくから! こっちはお願い!」
「任せなさい。そっちこそ無茶させないでね」
リナとスバルがビルの中へと消えていく。
途中で警備員に囲まれたが、なぜか招かれるようにしてそのまま入場できてしまった。
「……不思議な力があるのね。彼女は新人類のことは知らなかったようだけど、精神制御系の力があるのかしら」
首を傾げ、びびあんはビルの中へと入っていくふたりを観察する。
やがて完全に見えなくなった後、びびあんはトラックの運転席へと移動。
スマホを起動させ、連絡を入れる。
何度かコールが鳴った後、通話が開始された。
「私よ」
『いかがしました? 確か今日は長期休暇中の筈ですが』
「ちょっと事件に巻き込まれちゃってね。それもかなりきな臭い」
『と、言いますと』
「一言では言い表せないわね。かなり複雑な事情がありそうだけど、正直に言うと私もまだ全貌はつかみ切れていないわ。ただ、アイアンゲームズ社絡みなのは間違いなさそう」
その単語を聞いた瞬間、通話相手は『ほう』と唸った。
『例の会社ですか。確か、新作ゲームの体験会で何名か意識不明者を出したという』
「そう。しかもその意識不明者は数か月のうちに行方不明になっている」
『もしや、その手掛かりを?』
「まだよ。でも、もしかすると尻尾を掴めるかもしれないわ。だから、念のため動ける人間が欲しいのだけど」
『わかりました。早速手配しましょう』
「お願い。それと、もうひとつ調べてほしいことがあるの」
『なんでしょう』
「蛍石スバルっていう若い男。年齢は多分、20代前後ってところだと思うんだけど、彼について調べてほしいの」
その名前を聞いた瞬間、相手は疑問符を口にした。
『その名前は存じませんな。私の頭にはあらゆる凶悪犯の名前を記憶しておりますが』
「多分、悪い人間ってわけじゃないと思うのよ。でも、ちょっとおかしいっていうか」
『あなたに言われるのであれば、相当気が狂ってる若者なのでしょうな』
軽く人格否定を受けた気がするが、びびあんは気にしない。
寧ろ、それを気に掛けるよりも、あの青年の妙に堂々とした態度が気になって仕方がなかった。
「確かに狂ってるのかもしれないわね。でも、彼。もしかすると私たち以上に修羅場を潜っているのかもしれないわ」
『あなたの目から見て、注意すべき人物である、と?』
「ええ。思い過ごしならそれに越したことはないのだけど、念の為ね」
『かしこまりました』
「なにかわかったら連絡を頂戴。それと、アイアンゲームズ社のレポートを纏めておいてくれると助かるわ」
『はっ。では、こちらも進展があり次第連絡を入れますので』
「お願いね」
通話を切る。
アイアンゲームズ社、蛍石スバル、リナ、そしてランナーズ。
いずれも放っておくには怪しすぎる。
せっかくの長期休暇だが、ここは休暇返上で働かせてもらうことにしよう。
そう考えると、びびあんは運転席で静かに背伸びをした。




