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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
蛍石スバル、21歳の苦悩
122/199

サラリーマンとドラゴニュートとボンテージ

 真田アキナの目覚めは最悪だった。

 週末は溜まったストレス解消のために飲酒を行うことが多くなり、そのままふて寝までがセットになっているからだ。

 案の定、頭ががんがんする。

 どうにも自分の限界というものがまだ認識できていない。

 流石にずっとこのままなのはかっこ悪すぎるので、どこかで適量を見極めようと思いつつ、アキナはぼんやりとした頭でスマートフォンを手に取る。

 すると、珍しい奴から連絡が来ていた。


『蛍石スバル』


 アイツから連絡をしてくるなんて珍しい。

 しかも時間は深夜だ。

 時計を見る。

 朝8時を回ったところである。

 昨日は早い段階で飲み潰れてしまったので、悪いことをしたと思いながらも内心にやける。


「ふーん」


 アイツから自分に用があるなんて、滅多にないことだ。

 遂に自分のありがたさに気付いたかと自惚れつつも、アキナはメールを開く。

 そこには1文だけ。


『助けろ』


 と、あった。


「あ?」


 思わず、そんな間抜けな声を発してしまった。

 何度も目を擦った後、洗面所へ。

 冷たい水で顔を洗った後、うがい。

 タオルで水滴をぬぐい捨て、意識覚醒。

 リビングに戻った後、もう一度メールを確認する。


『助けろ』


 やはり同じ一文が。

 ぷるぷると震えだすアキナ。

 怒りっぽい性分は即座に彼女の脳に信号を出した。

 吠えて意思表示だ、と。


「今度は何に巻き込まれたのよあのバカ! 助けてやるから待ってなさいよ!」


 文句を言いつつ、素早くお着換え。

 外出用の服装に着替えつつ、最低限お洒落にも気を遣う。

 髪型も乱れていないか確認し、鏡で最終チェック。

 

「よし! 恥ずかしくない!」


 何に対してなのかは自分でもわからないが、とにかく恥ずかしい格好でないのは良いことだ。

 身嗜みを整えるのはとても大事なので、そう納得する。

 扉を開けて外へと飛び出すと、アキナは目撃した。

 隣の部屋の扉がこじ開けられているのを、だ。


「なにこれ」

「あ、隣の部屋の方ですか?」


 取り調べを行っていたらしい警察の人間が近づいてくる。


「先日、この空き部屋で激しい音が聞こえたらしいのですが、何か心当たりはありますか?」

「激しい音?」

「窓ガラスが砕かれていたので、不法侵入の可能性があります」

「いや、少なくとも寝てた頃は気付かなかったかな……」

「そうですか。失礼ですが、何時ごろお休みに?」

「昨日の夕方10時くらいにはもう……」


 ここまで話してアキナは思う。

 アイツ、まさか間違って隣の部屋に突入したのではあるまいな、と。

 もしもそうだったら絶対にぶん殴る。

 理不尽にも心にそう誓いつつも、警察の取り調べに彼女は応じた。














「あれからランナーズは追いかけてこないか」

「ええ。どうやら人の多い朝は襲い掛かってこないようね」


 トラックの荷台からびびあんが周囲を確認しつつ答える。

 結局、彼――――失礼。

 彼女の秘密教室が荒らされてしまった為、それを許せないという理由でびびあんは協力を快諾してくれた。

 尚、三角木馬の男は普通に仕事があると言って出勤していった。

 世の中にはいろんな趣味の人間がいるのだと己に言い聞かせてスバルは彼の出勤を見送ったのだが、なぜか三角木馬に担いでいたので、これからの勤務内容が少し気になる。


「それで、あいつらは結局なんなのかしら」

「ネットニュースを調べたけど、全く話題になってないな。あんな大勢で押し寄せてきたんだし、目撃情報くらいはありそうだけど」


 そうなると、情報規制を行えるほど巨大な組織力を持っていてもおかしくないことになる。

 

「警察に連絡しようにも、難しいだろうな」

「どうして?」

「どうしてって」


 隣で腕を組み、前方のみを見つめるリナに視線を送る。

 彼女は既に人を殺している。

 それに、人間離れしたこの姿をあまり人前に出すべきではないと思う。

 同時に、びびあんも。

 寧ろこっちを人前に出すべきではないような気がする。


「どうしてでも」

「ふぅん。でも、どうするつもり? 警察にも頼らないって言うなら、私たちだけであいつ等を追い続けることになるけど、せめて手掛かりがないと辛いわよ」

「それなんだけど、ランナーズの制作会社に行ってみようと思うんだ」


 ランナーズは元々鬼ごっこ形式のゲームだ。

 わざわざゲームに似たキャラクターで追いかけてくるのだから、何かしらの関係性はあると考えている。


「どこなの? その会社っていうのは」

「ロッポンギにオフィスを構えているらしいね。調べてみたけど、最近ゲーム開発に力を入れている企業だそうだよ。売り上げの勢いは大手にも引けを取らないんだってさ。名前は確か、アイアンゲームズ株式会社だっけ」


 びびあんがわずかに身を乗り出す。


「国内企業なの?」

「それがわからないんだ。単純に日本活動のためにオフィスを構えているだけなのかとも思ったけど、情報がない」

「代表取締役は?」

「そこもキナ臭いポイントだよ。普通の会社には少なくとも代表の挨拶があるところだと思うけど、あそこは技術者のインタビュー形式だった」


 とはいえ、会社のアピール形式は多種多様だ。

 スバルも今では怪しいと思っているが、こうなっていなければ特に疑問には思わなかっただろう。


「じゃあ、まずはロッポンギに向かうわけね」

「うん。もしもビンゴだった場合、またランナーズに襲われることになるけど……」

「その時はその時よ。寧ろ、そうなった場合は明確に相手の正体を知ることができるわ」


 本当にそうだろうか。

 スバルは思う。

 アルフレッドたちが世界の抜け道、ゴミバコ。

 そしてミニチュア世界、サイ・ゲルパを作った天野や、それを模倣した天使の存在。

 彼らが仮に関わったとすれば、もっと大きな何かがあるような気がしてならない。


「不安かしら」


 後ろからびびあんが問うた。

 

「不安だよ。でも、だからってビビッてばかりもいられないだろ」

「いいメンタル力ね。気に入ったわ」


 背筋が凍えた。

 褒められている筈なのだが、何か別の拷問を受けている気になる。


「良かったら、不安の理由を聞いてもいいかしら」

「もしアイアンゲームズが黒幕だとしたら、ランナーズ以外のゲームも襲ってくる可能性がある」

「確かにそうね。寧ろ、そのランナーズだけなのは不自然だわ」

「他にどういった敵がいると思う?」


 まっすぐ前を見つめたまま、リナは聞く。

 自分の障害になりえる物がどういったものなのか、興味があるのだろう。

 逆に言えば、それ以外の物は興味がなさそうだ。


「そうだな。ランナーズ以外のゲームでも、レースゲームやアクション、シューティングも手掛けているらしい。それに、新作RPGゲームも発表されてるから、もしかするとそれのキャラクターも出てくるかも」

「RPGは厄介ね。強そうなのが出てきそうだわ」

「そのアールピージー、というのはなんだ」

「簡単に言うと、ゲームのキャラクターになりきって、敵を倒しながら成長する冒険物だな。だから、もし成長したキャラクターだったり、ボスが出てきたりすると、手強いと思う」

「新作なのよね。まだ情報は出回ってないのかしら」

「名前は発表されてたよ。確か、サンタイト・クエストっていう」


 その名前が出た瞬間、リナの表情が険しくなる。

 睨みつけるようにスバルの方に顔を向けると、彼女は強く言う。


「それは本当か?」

「お、おう」


 目が血走っている。

 あまりの迫力なので、スバルは運転しながらも反射的にブレーキを踏みそうになってしまった。


「……そのアイアンゲームズがサンタイトを」

「どうした?」

「私の敵はサンタイトの生みの親だ。それが真実なら、滅ぼさなければならない」


 その言葉を聞くと、びびあんは素早くスマートフォンを取り出してサンタイト・クエストの概要を調べ始めた。

 世界観の説明と、表示された世界地図をリナに見せる。

 彼女の表情が一層険しくなり、スバル達は確信を得た。

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