殺戮アンチノミー
一瞬、本当に勝てたのかと疑問に思えた。
メタルエンプレスは既に虫の息だったとはいえ、勝てるビジョンはまったく想像できなかったのだ。
そんな相手を串刺しにし、勝利を収めた。
1対1なら確実に負けていたであろう勝負に、勝つことができた。
「やった! やりましたよスバルさん!」
隣で観戦していたマリリスがはしゃぎだす。
だが、そんな彼女とは裏腹に、エイジとシデン、そして張本人であるスバルは無言のままだった。
「あれ?」
「まだ終わってないよ」
確かにプリンセスのメタルエンプレスは撃破できた。
これは快挙だ。
当初の目的を果たせたので、万々歳だともいえる。
「まだ、ゲームは終わってない」
シグナル・ザンが着地する。
メタルエンプレスの爆炎の奥から、ゆっくりと姿を現した影へと振り向いた。
殺戮ジェットだ。
「同盟関係は、確かプリンセスを倒したら、だったか」
「相手は最初からスバル君とサシで決着をつけたかったみたいだね」
「光栄だね」
知らないプレイヤーだが、そう思っていただけるのなら嬉しい。
こちらとしては大したことなど何もしていないつもりなのだが、戦いたいというのなら何度でも相手になろう。
幸い、邪魔はもういない。
『メタルエンプレスがまさかの脱落! 残っているのは、共に満身創痍の殺戮ジェットとシグナル・ザン! 予選で争いあったライバル同士!』
赤猿が勝手なことをほざいている。
だが、そんなノイズも今は耳に届いていない。
さっきまで気になっていた指先に現れた小さな生物も、今はもう見えない。
蛍石スバルの視界にいるのはただひとり。
殺戮ジェットの奥にいる、まだ見ぬライバルだ。
「勝負!」
シグナル・ザンが分離する。
炎を突っ切り、上半身と下半身が一気に飛来。
これを見て、殺戮ジェットは刀を構えなおした。
「!」
「どうした!?」
肩を震わせたスバルを、訝しげに問い詰める。
「いや、なんでもない」
プリンセスの声らしきものがずっと反響していた影響だろうか。
なんとなくだが、殺戮ジェットのパイロットが何を考えているのか、伝わってきた。
背筋が寒くなりそうなほどの、憎しみ。
だが同時に胸がいっぱいになりそうな歓迎の心。
相反するふたつの矛盾する心が、ダイレクトで伝わってきた。
同時に、それらを刃に乗せて戦おうとしているのも。
殺戮ジェットが刃を滑らせる。
突撃してきた下半身を上手く蹴りでやり過ごし。上半身目掛けてフルスイング。
その動きを見たスバルは、素早くエネルギーソードを持たせた。
双方の刃が激突。
激しいエネルギーのぶつかり合いが繰り広げられる。
『予選の再現になるのか!? このままいけば、再び連打の応酬になるぞ!』
「いいや!」
今回はそうならない。
予選の時は封印しておいたとっておきが、今は使える。
別行動していた飛行ユニットが、殺戮ジェットの真上から迫ってきた。
殺戮ジェット側はこれに気付くと、持ち前の機動力を活かして一気に離脱。
その隙に、シグナル・ザンは合体。
上半身と下半身が接続され、飛行ユニットも取り付ける。
『間合いの管理を徹底しているのはシグナル・ザン! 3つに分離できるこの機体をタイマンで制するのはとても難しいんじゃないのか!?』
リスナー達が同意のコメントを流していく。
だが、スバルは決して流されない。
調子に乗ったら、手痛い目に合うのは理解しているからだ。
「いや、あいつは飛び越えてくる」
「え?」
マリリスが『そんなバカな』と言いたげにきょとんとした顔を向けきた。
完全にこちらが優位だと信じ切っている表情だが、スバルは絶対に受け入れてはならないと考えていた。
「確証はあるのか? 勿論、そう思うに越したことはないが」
「ない。だけど、なんか来そうな気がする」
殺戮ジェットは離脱したのち、浮遊しつつもこちらを観察していた。
スバルには、この行為が挑発のように思える。
「あいつは今、こっちがもう一度分離してくるのを待ってる」
「もしも分離したらどうなる?」
「倒される」
両者ともに体力は残り僅か。
刃が刺さったら、それが致命傷になる。
「多分、次は全部対応してくる」
「殺戮ジェットが勝利するのは、それが手っ取り早いからね」
逆に言えば、狙いはわかる。
それをうまく利用できれば、カウンターを仕掛けられるかもしれない。
考えていると、先に向こうから仕掛けてきた。
『殺戮ジェット、突進!』
フルスピードで突っ込んできた。
追い打ちを仕掛けてこないシグナル・ザンに痺れを切らしたのだろう。
「それなら!」
今度は両手で刃を構えた。
殺戮ジェットと、再度打ち合う。
左右に握られた刃が何度も交差され、時折格闘戦を交えていく。
『予選の再現再び! 攻めているのは殺戮ジェットだが、シグナル・ザンはこれを華麗に受け流す!』
「華麗に見えるか!?」
今、スバルの指は悲鳴を上げていた。
指だけではない。
興奮と思考がピークを迎え、全身が沸騰していた。
今、眼を閉じたら間違いなく熟睡できる自信がある。
『分離タイミングを見計らっているのか!? シグナル・ザンは防戦一方!』
「まだまだ!」
右の剣撃を防ぐ。
「まだまだまだまだ!」
左の剣撃をかわす。
「まだまだまだまだまだまだ!」
何度見てきた足技を、こちらも足技で対応。
蹴りと蹴りがぶつかり、両者が尻もち。
「まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ!」
素早く起き上がる。
既に、殺戮ジェットが迫ってきていた。
対応すべく繰り出した右腕が、切断される。
「食らった!」
「まずい!」
「スバルさん!」
仲間たちが悲痛な叫びをあげる。
このままでは、よろけてコンボの餌食だ。
これを回避する方法は、ひとつしかない。
「分離する!」
「え!? でも、それは攻略されるんじゃ!」
「今やらなきゃ、ここでやられる!」
右腕が爆発。
同時に、シグナル・ザンの体が3つに分離した。
『辛うじてコンボ前に分離して脱出したが、殺戮ジェットはこれを読んでいる! 下半身を追っているぞ!』
「やっぱりもう動いてるか!」
逃げ場のルートも読まれている。
下半身の前方へと回り込むと、こちらが攻撃する前にめった切り。
下半身を丸ごと破壊された。
「……こうなったら」
「どうする!?」
「神頼み!」
「はぁ!?」
上半身を翻し、殺戮ジェットへと飛び込む。
その際、武器を放り捨てた。
「スバルさん、武器は!?」
「あるよ!」
「そこに!?」
「タックルを仕掛けるこの肉体が武器だ!」
無茶だった。
そんな無防備すぎる攻撃に命中するとは思えない。
だが、これを好機と捉えたのか、殺戮ジェットはこちらに向かってくる。
「来たぞ!」
「後はタイミングの勝負だ」
真正面から突っ込んでくる殺戮ジェット。
こちらは敢えて自ら無防備になった。
その意味を、向こうがどう捉えるかが勝負だ。
「気になるか。俺が武器を投げた理由が」
そんなもの、相手を少しでも混乱させること以外にない。
もしもこのまま最大出力で来られたら、こちらの負けだ。
だが、少しでも警戒して左右から回り込んでくるのなら、こちらにもまだ可能性がある。
「気になれ!」
直後、願いは通じた。
殺戮ジェットは右側へと回ってくる。
「そうだ。そっちにこい!」
右腕はない。
だから、来るとしたらそちら側。
合わせて行動がとれる。
そして左腕を掲げた。
一閃される刃に対しての盾かと思われたが、ここで頭部から火が噴いた。
エネルギー機関銃だ。
「それで削り切れるか!?」
「いいや」
これだけでは決定打にならない。
だから、本命が来るまでみっともなく足掻く。
幸いにも殺戮ジェットは超紙装甲。
至近距離でエネルギー機関銃を受けただけでも、少し怯んでしまう。
「ここだ!」
左手で殺戮ジェットを抱きしめた。
どこにも逃げられないように、がっちりと。
殺戮ジェットは刀を握り直し、真下へと突き刺した。
胴体に2本の刃が突き刺さる。
「今だ!」
真下から切り離していた飛行ユニットが飛んできた。
上目掛けて一閃されたそれは、殺戮ジェットの股から頭部にかけて、エネルギーの翼で切り取ってしまう。
直後、同時に爆発が起きた。
画面に表示されたバトルロイヤルの結果は『引き分け』で終わった。




