頑張りました賞
マジコドク・ジャケットの奮闘はリスナー達を大いに沸かした。
先のシグナル・ザンの猛攻の影響もあり、メタルエンプレスの体力はほとんど残っていない。
誰も勝てなかったプリンセスが、脱落するのはないか。
そんな予感が、リスナー達に訪れた。
「これ、やばいんじゃないですかね」
予感はプリンセス側のスタッフにも影響を及ぼし始めている。
無敗を売りにしてきたプリンセスが負けてしまっては、これからの動画配信活動によくない影響を出してしまうのではないかと考える者もいた。
「まだブレイカーは半分以上も減ってないですよ。いかにメタルエンプレスでも……」
「いや、まだまだです」
だが、そんな空気の中でもプリンセスの勝利を信じて疑わない者もいた。
マネージャーであるライブラリアンである。
「ワンコンボ食らえば終わりの状況ではありますが、彼女は負けません」
断定して物事を語るライブラリアン。
どこか達観しているような眼差しを見て、スタッフは呆然としていた。
「今、彼女はかなり深いゾーンに入っています。この領域にまでいくと、もう彼女の支配からは逃れられないでしょう」
「よくスポーツ選手の集中力の例えで言われている奴ですね」
「ええ。正直、マジコドク・ジャケットがあそこまでやれるとは思いませんでしたが」
直前のエリアルのゾーンも深かった。
そのうえで、ここまで戦えたのは素直に称賛すべきである。
だが、その奮闘ぶりがエリアルをより高みへと導いてしまった。
「彼女は、何と言いますか……強い奴と戦って、その勢いを貰うような特性があるんです。しかも、恐ろしいことにゲームシステムも味方をしてると思えるような」
「なんですかそれ」
「だからプリンセスなんて綽名がついたんじゃないかって思うんですよ」
そもそも、無敗なんて伝説めいたことが浸透していることがおかしなことなのに、誰もそこに疑問を抱いていない。
本人がやや謙遜気味な性格なのが功をなしているのかは知らないが、基本的に誰もが認めていた。
彼女こそがプリンセスだ、と。
「別に女王に相応しくなってほしいとか、思ってるわけじゃないんですけどね。ゲームにも才能にも愛されている彼女が負ける姿なんて、私にはイメージがつかないんですよ」
「でも、彼女だって人間ですよ」
そうだ。
理解している。
近くでマネージャーとして接していたのだ。
彼女が普通の女の子であることなんて、当たり前のことだ。
「しかし、人間だからこそ神話みたいな夢物語を実現できる可能性がある。そうは思えませんか?」
力なく微笑むライブラリアンは、まるで狂信者のようにも見えた。
どこか寒気のする笑顔を見たスタッフは、興味本位で聞いてみる。
「じゃあ、もしプリンセスが負ける場合は、どういう負け方になると思いますか?」
「イメージは湧かないですね。でも、彼女を倒せるのは、きっと同じように愛されている奴だけなんじゃないかって思いますよ」
「才能やゲームに?」
「ええ。同じ土俵に立って勝負は成立するものですから」
だが、そんなことがある筈がない。
求めたものに愛されたエリアル・ブルーミーと肩を並べることができる才能の持ち主など、この世に存在する筈がないのだ。
それは最早才能に恵まれた者による理不尽の領域であると、ライブラリアンは思っていた。
天才だ、と評されたことはある。
他人から見ると、ブレイカーを動かすという点においては自分には才能があるのかもしれない。
だが、蛍石スバルは決して自分を優れた人間だと考えたことがなかった。
自分の周りには新人類の凄い奴らがゴロゴロいたし、己の無力さを何度も痛感してきている。
だからこそ、常に奢ることなく全力で戦ってきた。
「すっごいなぁ」
同時に、他人の凄まじい動きにも素直に感心できる。
カジキ・ポセイドンとマジコドク・ジャケットを撃退したプリンセスの腕は本物だ。
あんな人物に正面から挑戦させてほしいと言われたと思うと、嬉しくなってくる。
「何をにやけてるんだお前」
「スバル君、状況は悪いよ」
「悪い。なんか、見てたら本当に強いんだなって思ってさ」
仲間たちから叱咤の言葉を受け、スバルはシグナル・ザンを再度起動させる。
こうしている間にも、他の参加者たちは戦闘を激化させていた。
プリンセスと直接戦っていないブレイカーでも、脱落者が出てき始めている。
「残りの参加者は俺を含めて5人か」
本命のメタルエンプレスは他のブレイカーたちに勝負を仕掛け、正面から勝利を収めていた。
明らかに動きが良くなっている。
マジコドク・ジャケットのような奇策は、もう通用しないと考えていい。
「殺戮ジェットもまだ残ってるな」
「でも、流石に無策で突っ込む真似はしていないね」
「そうせざるを得ないってことだろ。相手は格上だし、痛い目にもあっている」
しかし、何時かは戦わないといけない。
本気で勝ちにいくのなら、メタルエンプレスはどうあがいても突破しなければならないのだ。
そして、殺戮ジェットが勝利に飢えているのは戦ったスバルが一番よく理解していた。
「スバル君、どういうプランで行く?」
「……残りのブレイカーが全滅したら、また仕掛ける」
「今度はどうするつもりだ。また例の分離攻撃でいくのか?」
「いや」
弱点は既に見切られた。
最初から分離で攻撃しに行くと、被弾対象を増やすだけである。
ゆえに、最後は真っ向勝負。
腕で勝っているとは思っていない。
才能でも劣っているだろう。
実戦経験の差が、そこまで響くとも思えない。
「やるだけやって、後悔ないように全部出し切るつもりだ」
「よし、いいぞ。そういうのは好きだ」
「スバルさん、応援してますよ!」
仲間たちから激励の言葉を貰うと、彼らは気持ち一歩引く。
ここからの言葉は不要と判断したのだろう。
画面を見つめ、スバルの戦いを見届けるつもりだ。
「後、4機」
殺戮ジェットが得意の速攻で他の機体を刻み込んだ。
そのすぐ後に、メタルエンプレスがタイマンで勝負していた機体を撃墜する。
状況が変化したことで、赤猿の実況が轟く。
『残り3機! メタルエンプレスとシグナル・ザン! そして殺戮ジェットが残った!』
その言葉を聞いた瞬間、シグナル・ザンは加速。
照準をメタルエンプレスに定め、刀を抜く。
『シグナル・ザンが再びメタルエンプレスに勝負を挑む! いや、それだけじゃない!』
動いているのは、もう1機。
こちらはより鋭く、メタルエンプレスに迫ってきていた。
『殺戮ジェットも嵐のように迫ってきている。メタルエンプレス、またしてもこの2機に挟み撃ちになってしまった! もう体力も少ないぞ!』
体力アドバンテージはシグナル・ザンと殺戮ジェットが優位。
しかし、ゲームを支配しているのはメタルエンプレスだった。
彼女は僅かに上昇すると、片手にエネルギーソードを、もう片方にライフルを握る。
引き金が引かれた。
発射された弾丸はシグナル・ザンへと向かっていく。
このタイミングでスバルにはいくつかの選択肢が生まれた。
体力を保持するための回避行動。
そして最低限のダメージに抑える防御。
回避しつつ攻撃を仕掛ける分離。
瞬時に生まれたこれらの選択肢を無言で蹴り捨てると、シグナル・ザンは刀を仕舞ってライフルを抜いた。
引き金を引く。
直後、シグナル・ザンが被弾した。
代わりに発射された弾丸はまっすぐメタルエンプレスへ。
『これは……!』
プリンセスの集中力らしき思念が聞こえてくる。
これは食らうわけにはいかないだろう。
もしも受けたら、突進してくる殺戮ジェットがすかさずコンボを決めて撃墜してくる。
かといって、回避行動をとったら機動力の高い殺戮ジェットに致命的な隙を見せてしまう。
「多分、あんたならどうにかできるだろうさ。でも、食らいついていくぞ。何をしてもだ!」
メタルエンプレスがライフルを投げ捨てる。
銃身が弾丸に命中した。
ぶつかってくる殺戮ジェットにはエネルギーソードで対応しつつも、武装をひとつ失ったことにリスナー達がざわついていく。




