表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
プリンセスにおしつぶされて
113/193

走れリスさん

 リスさんは憤怒した。

 リスさんには政治がわからぬ。

 だが、泣き叫ぶだけで生き延びられるほど、世の中が甘くないことは知っていた。

 現実だけの話ではない。

 ブレイカーズ・オンラインだって同じだ。


 リスさんは、泣くだけの甘ったれが大嫌いだった。


「リスさん!」


 自身を友と呼ぶ頬袋ボッチ仮面は、想定外の出来事があるとすぐに喚く。

 その上、自身に甘いから危機を招きやすい。


 だから、勝手に装備をカスタムさせてもらった。

 甘すぎる防御をカバーするテンガンロンハットは、リスさんがマジコドク・ジャケットのコンセプトを崩さないために気を使った装備でもある。


「リスさん、動かせるの!?」


 そして、リスさんは種を食べながらずっと頬袋ボッチ仮面の戦いを見てきた。

 リスさんには政治がわからぬ。

 だが、学ぶことはできる。


 マジコドク・ジャケットはテンガンロンハットをメタルエンプレスに向けて投げつける。

 直後、スナイパーライフルを発射。

 一直線に弾丸は飛んでいくが、当然メタルエンプレスは射線上から退避していく。


「リスさん、不意打ちじゃないとスナイプは基本的に成功しないよ!」


 知っている。

 そんなことは頬袋ボッチ仮面が嫌というほど見せつけてきた。

 だったら、無理やりにでも当てるのがリスさんのやり方だ。


 ライフルの弾丸は、先に投げつけられたテンガンロンハットに命中。

 シールド効果が発生し、弾丸はあらぬ方向へと弾き飛ばされた。

 その先にいるのは、メタルエンプレス。


『え?』


 スナイパーライフルの弾丸が、メタルエンプレスの胴体に直撃。

 大きくのけぞり、体力を削りとる!


「リスさん!」


 誰が想像しただろうか。

 誰にも負けないとまで言われた最強のプリンセスに、第二の傷を負わせることに成功した。

 その偉業を、目の前で見せつけられている。

 親友のリスさんによって。


『今の、狙えるなら食らわないようにしないとね』


 楽しげに。

 それでいて、少し恨めし気に声が響く。

 先ほどから脳に届くこの声がなんなのか、リスさんは気にも留めていなかった。

 リスさんには政治がわからぬ。

 しかし、声の主が『レベルアップ』したのだろうと察することはできた。


 投げつけたテンガンロンハットが、ブーメランのように戻ってくる。

 引き金を引き、再度跳弾を試みた。


『今度は食わらないよ!』


 テンガンロンハットを起点にして弾き出された弾丸が再びメタルエンプレスに襲い掛かる。

 しかし、メタルエンプレスはこれを回避。

 飛んでくる弾丸を次々と回避しながら、マジコドク・ジャケットに迫る。


「リスさん、来ちゃうよ!」


 親友がまた慌て始めた。

 見苦しくも、涙目である。


 だがリスさんは言いたい。


「黙ってみてな」

「え」


 それは、もしかしたら奇跡だったのかもしない。

 リスさんが喋ったとしか思えないような言葉が耳に届いた瞬間、マジコドク・ジャケットは再び引き金を引いた。


「駄目だよリスさん! もう、あいつには届かない!」

『それはもう見切ったよ!』


 その瞬間、テンガンロンハットが発生するエネルギーシールドが厚みを増した。

 弾丸はシールドに着弾。

 跳弾すると思われたそれは、その場で弾け飛ぶ。

 弾けた弾丸はエネルギー光波となってその場に広がっていき、周囲にいるブレイカーに熱源ダメージを与えていった。


「すげぇ! リスさんすげぇ!」


 遂にメタルエンプレスの体力を半分以下にまで削り取った。

 海底上で、カジキ・ポセイドンを圧倒したプリンセスを相手にして、見事に戦っている。

 しかも、内容だけ見れば圧倒しているではないか。


「リスさんが勝てる!」

『私は、負けない』


 喜ぶ頬袋ボッチ仮面に、悍ましい呟きが聞こえた。

 今にも背後から襲われそうな寒気を感じつつも、声の主は高らかに叫ぶ。


『素敵なスナイプ、どうもありがとう。これで私は、また強くなれた!』


 テンガンロンハットに向けて、メタルエンプレスもライフルを放つ。

 シールドに命中。

 周囲に光波熱線を発生させる。


「同じ攻撃!」


 リスさんが仕掛けた攻撃と全く同じ行動だ。

 その事実に、頬袋ボッチ仮面は驚きを隠せない。

 ただでさえ超人的な技なのに、それを一度見ただけで完全に理解したというのか。


 勿論、出鱈目に撃っている可能性はある。

 しかしプリンセスに限ってそれはない。

 彼女は確かな実績と知識を保持している。


「リスさん、まずいよ!」

「黙ってな」

「リスさん!」


 奇跡は二度起こった。

 テンガンロンハットが利用されてしまったことを知り、マジコドク・ジャケットはこれを引き戻す。

 手で握り、盾の構えをとる。


『接近戦を仕掛けられても、スナイプができるのかな?』


 マジコドク・ジャケットの武装はスナイパーライフルのみ。

 これは長距離攻撃を仕掛ける分には優位に立つが、近づかれたら致命的に攻撃がしにくい諸刃の武器だ。

 一撃の火力は大きいが、それゆえにリスクが高い。


「リスさん、狙って!」


 迫るメタルエンプレス。

 しかし、マジコドク・ジャケットはすぐには引き金を引かない。

 リスさんは画面を見つめたまま不動。

 まっすぐ敵を見つめ、狙いを定めている。


「リスさん、来る! 来てる!」


 リスさんは語らない。

 狙うべきは、眼前のプリンセス。


「リスさん!」


 メタルエンプレスがエネルギーソードを抜く。

 常に狙いを定められないように、しぐざぐに動きながら。


「り”す”さ”ん”!」


 頬袋ボッチ仮面の喚き声が聞こえる。

 リスさんは喚き声が嫌いである。

 だから、行動で示す。


 ライフルの引き金が引かれた。

 だが、その軌道は把握されていた。

 メタルエンプレスは華麗に回避すると、急接近。

 エネルギーソードを叩きつけんと迫る!


 だが、マジコドク・ジャケットの行動は終わらない。

 スナイパーライフルの巨大な銃身を手放すと、それをお構いなしで投げつけた。

 銃身がソードによって真っ二つにされる。

 爆炎が巻き上がった直後、マジコドク・ジャケットが突っ込んできた。


『接近戦!』

「そんなことできる武器なんかないよ!」


 否。

 それが、ある。

 最後に構えているテンガンロンハット。

 これはライフルの弾丸を意図的に弾くため、回転できるように改良されているのだ。

 つまり、回転するシールドをのこぎりの様にして叩きつける。

 これこそがマジコドク・ジャケットケットが最後にできる抵抗だった。


『へぇ、面白いね』


 プリンセスが感嘆する。

 シールドをたたきつける直前、メタルエンプレスが急に離れた。

 カウンターを仕掛けるつもりだった攻撃は回避され、最後の攻撃が空を切る。


『もしかして、と思ったけどやっぱりその帽子は武器にもなるんだね。だから大事なスナイパーライフルを簡単に手放したんだよね』


 淡々とした口調。

 それでいて正確な指摘。

 既にソードは仕舞われ、マシンガンを装備している。


 引き金が引かれた。

 マシンガンの弾が、至近距離で命中。

 マジコドク・ジャケットは爆発すると、わずかに残った体力を守る暇もなく追撃を受けた。


 YOU LOSE。


 決定的な文字が画面に表示される。

 リスさんは肩を落とし、親友に謝罪しようと振り向いた。


「うえええええええええええええええええええん」


 頬袋ボッチ仮面は泣いていた。

 当然だ。

 途中からリスさんが代わったとはいえ、負けは悔しい。

 親友は泣き虫なのも知っている。

 望む結果に繋げられなくて、申し訳ないと思った。


「すごいよぉ。リスさんめっちゃすごいよぉ」


 ところが、頬袋ボッチ仮面はリスさんを抱きかかえて万歳をし始めた。


「リスさんはブレイカーを動かせたんだ! プリンセスにだって挑めるんだ! 凄いよリスさああああああああああああああん!」


 間近で泣かれると、ちょっとうるさい。

 そしてリスさんは煩いのが嫌いだ。


 でも、今は素直に称賛されておくことにしよう。

 喚かれるのは嫌いだが、褒められるのは好きだ。


 リスさんは満足げに称賛を受けながら、再び種を食べ始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ