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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
プリンセスにおしつぶされて
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シグナル・ザンの秘密

 人型機動兵器による合体・変形機構は古来から多くの賛否の声が寄せられてきた。

 そんな中、日本にいるとある技師はこう語る。


『ぎゃあぎゃあ喚くなよ。機体に合体・変形機構がナンセンスだとか、そんなんはどーでもいいんだ。どーでも』


 周囲からおやっさんと慕われる小さなおじさん技師は、タバコを吸いながら続ける。


『要は俺たちが作ったもんを、パイロットが上手く扱えるかって話だ。ここまで来たら論争じゃなくて出会いの問題だろうがよ。人と機体の縁って奴だ』


 とはいえ、コストパフォーマンスと機動性を重視しやすいミラージュタイプでそんな機構を求める変人がいるのだろうか。


『もしかするといるかもしれねぇ。いないのかもしれねぇ。でも人生ってそんなもんだ。理想の結婚相手だって同じようなもんだろ』


 独自の理論を語ると、おやっさんはこう続ける。


『とはいえ、だ。半分は俺の趣味であることは否定しないぜ。合体や変形が求められるのは状況対応力が求められる機体だ。つまりはスーパーロボットに多いってわけだな』


 既にそういう期待は存在している。

 複数のブレイカーが結合することで爆誕する念動神などがいい例だ。


『アニマルタイプやアーマータイプに求められやすい機能だってのは理解してる。でも、ミラージュにだってあっていいだろうが』


 なぜならば、


『俺が作りたいからだ! そういう変態マシンをな! がはははは!』


 だが、もしも。

 そんな変態じゃじゃ馬マシンを好んで扱うような『馬鹿野郎』が実在するのであれば。


『もしもいるのなら、是非ともソイツと一緒に仕事してみてぇな。今はこんな時代で戦争が激しいけどよ。もっと俺たちが大好きな機体を前面に押し出していきたいもんだ』


 口から煙を吐き出し、思いを馳せる。

 自分たちが今作っているのは戦争の武器が殆どだ。

 一般的にもそう認識されてしまっている。


 日々、ニュースで犠牲者の名前が出る度に、自分たちが作った機体がパイロットを助けられなかったと悔やむ。


 もっと時代が変わればいいのに。


『今回作った機体だってそうだ。合体や変形をしたっていい。それをうまく扱える奴が、いい方向性で使ってくれるのを心から祈るだけさ』


 このおやっさんの願いがすべて叶うのは、それから数年後の未来の話である。














 シグナル・ザンが3つに分離した。

 上半身と下半身、そして飛行ユニット。

 標的を見失ったメタルエンプレスのミサイルはすべて空を切り、3つのシグナル・ザンはそれぞれミサイルをかいくぐりながら敵を取り囲んでいく。


『飛行ユニットだけでなく、上半身と下半身それぞれ飛行できる機体!』


 ミラージュタイプは飛行ユニットを背中に接続することで飛翔を可能としている。

 だが、シグナル・ザンは3つすべて独立した飛行を可能としていた。


『すごい速さだ! ブレイカーっていうより、戦闘機だぜ!』


 実況の赤猿が興奮気味に語る。

 スバルは構築前に赤猿に少しだけ話していたのだ。

 独立ユニットをひとつのブレイカーとして偽装したプレイヤーはいるか、と。


 そんな酔狂な奴はいない。

 組めたとしてもバランスは崩壊し、たちまち墜落する。


 だが、このシグナル・ザンはそんな様子も見せないままメタルエンプレスを取り囲んでいた。


「八咫烏の変形機構が元だね!」


 プリンセスは感嘆する。

 ミラージュタイプのブレイカー、八咫烏は自身のパーツを空中分解して折りたたみ、戦闘機へと変形し、高機動形態へと変形することができる。

 とんでもなく酔狂な機体として有名だった。

 だが、シグナル・ザンの変形は明らかに折りたたみではない。

 分離したマシンを、そのまま飛行させつつ戦闘続行を可能にしていた。


『八咫烏のカスタム機であることを誰が察することができただろうか! まさか、この時のために1から機体デザインを作り出したっていうのか!?』


 元々カスタマイズ性の高さが売りのゲームなのだ。

 デザインを全く異なる機体に改造することも可能である。

 しかし、それをするには途方もない時間と労力が必要だった。


 プリンセスはそれを知っている。

 同時に、それをこなしたうえで高い戦闘能力を持つ人間をどう例えていいのかも知っている。


「これ、すごい変態だよ!」


 プリンセスは歓喜する。

 予選では使ってこなかったこの機能を、ここで使ってきた。

 自分と戦う時のために、秘密にしておいたのだ。


 秘密にしてくれたのだ。


 期待に応えたい。

 

 シグナル・ザンのすべてを受け入れたうえで、ぶちのめしてやりたい!


「じゃあ、やろうか」


 歓喜の笑みを浮かべているのが自分でもわかる。

 向こう側も同じことを思ってくれていたらいいのだが。


『勝負だ!』


 聞いたことがない少年の声が頭に響く。

 それを聞いた瞬間、エリアル・ブルーミーは笑みをさらに深めた。


 いい感じの集中力だ。

 何時からか、ゲームをプレイしていると不思議な声が聞こえることがあった。

 やっているうちに理解したことだが、この声は相手側の声であると察することができた。

 エリアルはこの状態のことを集中力の臨界点――――ソーンに達したと表現している。


「3つに増えたのは驚いたけど、的は増えてるよ!」


 それぞれの動きは速い。

 だが、このゲームでは部位に攻撃を受けたらその分ダメージは食らう。

 メタルエンプレスが銃を抜くと、引き金を引いた。


「え!?」


 だがその直後、プリンセスは信じ難いものを見た。

 上半身と下半身の間に浮遊している飛行ユニット。

 そこから延びる光の羽が、その勢いを増した。

 翅は伸びていくと、メタルエンプレスから発せられる弾丸を弾いて突撃してくる。


「バリア発生装置!?」


 今まで飛行ユニットだと思っていたが、少し異なる。

 偽装のための飛行ユニットではなく、分離した後は他の機体のバリアにもなる遠隔飛行ユニットだ。

 しかも、それは虚を突いたメタルエンプレスへと突撃してくる。


「嘘!」


 バリアを展開したままシグナル・ザンの3機が突撃してきた。

 先ほどまで合体していた状態よりも速い速度で突撃してくるそれに対し、メタルエンプレスは対応が遅れてしまう。

 気づくのが遅かった。


『武器で殴りあったり、撃ち合うだけがないんだぜ』


 バリアを纏ったままの3機が、メタルエンプレスと激突した。

 激しい衝突音がゲーム筐体から響き渡る。

 同時に、メタルエンプレスの体力がこっそりと削られた。


『なんとこの決勝リーグ! 最初に傷を負ったのはメタルエンプレスだ! しかも大ダメージ!』


 体力の3割近くを一気に削られている。

 バリアによる体当たりだけではこうはならない。

 その理由は、見ていたメンバー全員が理解していた。


『バリアの突撃と同時に、上半身と下半身がそれぞれ武器を抜いている! バリアを張った状態で一気に格闘武器で滅多切りだ!』


 コンボにはならないが、その分直撃した時のリターンが多い。

 上半身は両手で。

 下半身は膝からレーザーブレードを伸ばして切り付けていた。

 バリアによる体当たりも含めると、実質3つの武器による直撃を受けたのに等しい。


「す、ご」


 エリアル・ブルーミーは戦慄した。

 これまで戦ってきたどんな相手とも違う。

 丁寧さを感じつつも、獰猛だ。


 シグナル・ザンがやろうとしているのはただのゲームではない。


『次ぃ!』


 現にゾーンに突入してから感じるこの気迫。

 これまでの相手では感じられない、信じられないような熱量が迫ってくる。

 凄まじいプレイヤーだと、切実に感じた。

 命のやり取りが実際に行われているような、妙な緊迫感を覚える。


『あんはっぴぃ』


 同時に、背筋が凍えた。

 ゾーンに突入してから初めてのことなのだが、集中している相手以外の声が聞こえてきたのだ。

 しかも、聞いただけで怖気が走るような低い声である。


『私とも、遊びましょう』


 最高速度を引っさげた殺戮ジェットが、プリンセスの集中力の世界に介入してきたのである。

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