強運なんかに絶対に負けない!
結論から言うと神鷹カイトは生きていた。
彼は黒煙を振り払いながら戦闘機の成れの果てである鉄くずを蹴り飛ばし、咳き込みながら走り去っていく。
脇にパイロットを抱えたまま。
『彼、生きてるの?』
「さあな」
『じゃあどうしてわざわざ抱えてるわけ?』
「俺のせいで死んだら目覚めが悪いだろう」
どうやら悪いことをした自覚はあるらしい。
無理やり戦闘機に乗り込まなければ、彼がこんな目にあうことはなかったのだ。
「だが収穫はあった。尊い犠牲はあったが、俺たちはどうやら地球の反対側に来てしまったらしい」
「勝手に殺すな!」
パイロットは生きていた。
彼は振りほどくようにしてカイトの腕からの脱出を試みるも、どういうわけかびくともしない。
「おお、生きていたか。良かったな」
「良かったな、じゃねぇよ!」
「あまり自分の命を軽んじるな。悲しくなるぞ。お母さんとか」
「お前が言うんじゃねぇって言ってるの!」
腕のホールドが外れない。
なんとか自由になろうともがくが、カイトの腕はぴくりとも動かなかった。
「ていうか、どうして降ろさないんだよ!」
「折角の情報源だ。もう少し話していこう」
「こっちは話したくもないんだけどな!」
「コミュニケーションを放棄したら人間は分かり合えんぞ」
「コミュニケーション以前の問題だろうが!」
ダメだ話が噛み合わない。
カイトの心の中で、エレノアが珍しくため息をついた。
『ちょっと提案があるんだけどさ』
「却下」
『まだ何も話してないよ!?』
「お前の提案は大体状況をややこしくさせるだろう」
『でも、偶には聞いてくれるじゃん?』
「偶にはな」
『あれ? もしかして、これデレじゃね?』
「やかましい」
普段なら意見だけでも聞く価値はあるかもしれない。
だが、今は状況が悪い。
まるで底なし沼にはまったように、どんどん沈んでいくような錯覚さえ覚えた。
「ただでさえ疫病神と呼ばれてるんだ。俺の力で打開し、名誉奪還してみせる」
『いや、もう駄目じゃない?』
「十分疫病神だよお前は!」
エレノアとパイロットが同時に突っ込んだ。
お互いに声が聞こえていないはずなのに、見事なシンクロであるとカイトは思う。
「そんなことよりも、状況打破だ。おい、パイロット。お前もさっさと帰りたいだろうが、俺たちは地球の裏側に用事がある」
「じゃあさっさと行ってくれ!」
「行きたいが、今は不思議なことが起こって辿り着けない状況だ」
「なんだそりゃ!」
自分で言っておいてなんだが、本当になんだそれは。
あまりの馬鹿馬鹿しさにカイトはうんざりとした表情を見せるが、すぐさま意識を別の方向へと向ける。
「見ろ。嫌でも俺を地球の反対側に向かわせたくないらしい」
「あ?」
「上だ」
促され、パイロットは空を見上げる。
戦闘機が切り裂くように飛び交う中、確かに飛来してくる大きな存在を視認した。
その存在の名は、
「い、隕石いいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」
馬鹿な。
どうして降ってきた。
しかも、見間違えでなければこっちに向かってきているではないか。
「直撃コースだな。ちょっとばかしでかい」
「なんで冷静なんだよお前は!」
「昔、バイクに乗って隕石になった奴を斬ったことがある」
「何の話!?」
ゆえに、カイトは同じ手段を用いてこの危機を回避する。
「強運で俺を殺せるなら、殺してみろ」
『自分の不運との勝負でもあるね』
「やかましいと言っている!」
言われてとても悲しい気持ちになった。
傍若無人の化身に見えるかもしれないこの男、疫病神扱いされることには結構気にしていた。
「よし。じゃあ一緒に隕石砕くぞ」
「え」
パイロットは驚愕した。
まさかこの男は自分を抱えたまま隕石に向かう気なのか。
どうやって、と一瞬考えるも、その思考は既に無駄だ。
この男はジャンプで戦闘機に飛びついている。
「なんで!?」
「言っただろう。情報になりそうなのは持っていくに限る。嫌なら地図とコンパスか、そういうアプリが入っているスマホでも寄越せ」
即座にズボンの中のスマホを取り出し、カイトに差し出す。
これ以上は命が持たないと思ったのだろう。
パイロットの表情は真剣だった。
一方、受け取ったカイトは軽く操作。
「パスもロックもなしか。不用心だな」
「うるさい! いいから放せ!」
「いいだろう」
用済みとなったパイロットを放り捨てる。
その後、即座にダッシュ。
疾走。
跳躍。
踏み込みで砂が大きく舞い上がる。
『威勢よく飛び出したのはいいけど、本当にいけるの?』
「俺に不可能はない」
迫る隕石。
自慢の爪を伸ばし、切断する構えに入る。
だがそんな時、横から首を掴まれた。
「うお!?」
不意に飛んできた横から打撃。
引っ張られる身体。
真正面から隕石に突っ込んでいくはずが、どんどん離れていく。
「なんだ!? 何が起きた!」
慌て、周囲を確認。
すると、カイトの目にとんでもない物が映り込んだ。
巨大な翼をもった生物だ。
嘴を持ち、翼と足に爪を持ったソイツの名を何と呼ぶべきなのか、カイトは知っている。
『ねえ、カイト君。私の認識が正しければ、今君の首を掴んでいるのはプテラノドンという奴ではないのかな?』
「本物は見たことはないから断定しづらいな。寧ろ、そいつはとっくの昔に絶滅しているはずだが」
どういうわけかそのプテラノドンらしき生物が群れで突っ込んできたのだ。
その中の一匹の足に引っかかってしまったらしい。
「ええい、放せ! 隕石が落ちるかもしれんというのになにをさせる!」
『もうそろそろ宇宙人でも出てくるんじゃない?』
なんでも登場してくる『強運』を目にしたエレノアがぼやく。
馬鹿な事言うんじゃないと言おうとしたカイトだったが、口を開けた瞬間に声が響いた。
『地球人に告ぐ』
「え」
心なしか天から声が聞こえる。
まるで自分が地球人ではないかのような言い草ではないか。
『我々は遠い銀河の彼方からやってきたアドマイヤー星人。宇宙一のポイ捨て野郎さ』
「最悪だな」
わざわざ自分たちをポイ捨て野郎と呼称する辺り、少し悲しい。
頑張って地球の言葉を学習したのかもしれないが、せめて意味を少しくらい理解してから喋れと言いたかった。
『突然だが、我々アドマイヤー星人のポリシーに従い、君たちの星に隕石をポイ捨てさせてもらった。早ければそろそろ大量に見えると思うので、頑張ってお掃除してほしい』
「おいこら」
飛来してくる隕石の向こう側から更なる隕石が見えた。
しかもひとつやふたつではない。
明らかな隕石群だ。
それが空から突然現れ、降下し始めている。
『こんな多くの隕石をポイ捨てをなぜするのかだって? 我々の趣味さ。地球人諸君も、機会があれば是非ともやってみたまえ。上司や世間へのストレスがスカッと消えるぞ』
誰も聞いちゃいないが最悪な回答だった。
だが、黙ってこれを許す気はない。
「……隕石が急に現れたな。どう思う?」
『ミスター・コメットの空間転移と同じ原理を見たね。小さな穴から直接隕石を放り込んでいるんだろうさ』
「つまり、その先には連中の本拠地があると考えてよさそうだな」
『宇宙空間の方じゃないかな?』
流石にそこまで出たらいかにカイトが超人でも生きていらえないと思う。
だが、当の本人は真顔で言ってのけた。
「じゃあ、息を止めて行くとするか」
『え』
プテラノドンらしき翼竜の足を掴む。
嫌な音が鳴った。
痛みと衝撃を感じた翼竜が足を見ると、男が物凄い表情で睨んでくる。
「おい、俺の言うことがわかるか? わかんなかったら今日の晩御飯にするぞ」
何を言っているのかはよくわからない。
だが、翼竜は直感的に理解した。
逆らったら殺される、と。
「俺をあそこまで運べ。大至急だ」
上を指さされる。
ちょっと大きい石が大量に降り注いでいた。
翼竜はなんとなく『あそこに向かえ』と言われていると察し、嫌々ながら飛んでいく。
「よし、いい子だ。安心しろ。降ってくるのは全部切り刻んでおくからな」
翼竜が泣いた――――気がした。
悲痛な叫び声が砂漠に木霊すると、今度は暗雲が空を覆いつくしていく。
「今度はなんだ」
『カイト君、またえらいものが見えるよ』
エレノアに言われ、真横を見る。
トルネードが迫ってきていた。
しかも、反対側を見れば今度は猛吹雪である。
突然の異常気象の襲来だった。
「……今回の敵は運がいいな。天気まで味方につけるか」
『運がいいって話じゃない気がするね!』
上から隕石。
横からは異常気象と唐突な翼竜の群れ。
地上では絶賛内戦中。
いっそのこと、全部殴り倒したい気持ちになった。
『これさ。やっぱり君の不運も影響してない?』
「ない。絶対に」
大量の汗を流しつつも、カイトは言い切った。
取り囲んできた強運の刺客たちが、一斉にカイトへと降り注いでいく。
砂漠に、巨大な爆発音が鳴り響いた。




