妥協の同盟
予選勝ち抜きが決まり、スバルは悩んでいた。
新たな愛機、シグナル・ザンの奥の手を晒すことなく勝てたのはいい。
問題なのは予選を突破したメンバーが予想以上に手強かったことだ。
「じゃあ、おさらいだな」
エイジがモニターを指さす。
これを見たマリリスはマウスをクリックし、先日行われた予選の動画を流し始めた。
「予選を突破した機体は10機。赤猿の話だと、ここにプリンセスを加えてのバトルロイヤルルールだ」
数は予選に比べたら少ない。
その分、濃厚な展開になると予測できる。
全員から集中砲火を受けたら即座に敗北することだろう。
「で、スバルよ。お前は参加して、全体の戦いを振り返ったんだ。プリンセス以外の連中、どう思ってる?」
司会役を担っていたエイジから振られ、スバルは思ったことをそのまま口にした。
「正直、絶対に勝てるって自信はない」
勿論、これは勝負の世界だ。
駆け引きが常について回るのだから、『絶対』なんて言葉はない。
そのうえでスバルはこう思う。
「予選で戦ったカジキ・ポセイドンや殺戮ジェットはタイマンだからある程度なんとかなったけど、今度はより密集した戦いになる。もし、こいつらが束になって襲い掛かってきたらどうしようもないかな」
「そうだな。しかも厄介なことに、こっちは注目を浴びちまった」
予選を勝ち抜くためとはいえ、水中戦最強と言われるカジキ・ポセイドンと応戦して退けた。
更には速度最強機体である殺戮ジェットとまともに格闘戦に応じた始末。
「ネットだと、シグナル・ザンがプリンセスを倒すであろうと予想しているのは全体の4割弱。これは2位の成績だな」
「良かったね、スバル君。高評価だよ」
「今はあまり嬉しくないかなぁ」
注目されれば、それだけ狙われやすくなる。
いかにシグナル・ザンに『秘密兵器』があると言っても、実力者10名に囲まれてしまっては歯が立たない。
「因みに、予想1位は?」
「殺戮ジェットだな。やっぱりわかりやすく特化されてる機体は高評価を受けてるみたいだぜ」
「スバル君自体は順位は高くないけど、殺戮ジェットも含めてかなりいい見世物になったようだね」
シデンの皮肉めいた物言いに苦笑も出ない。
熱くなりすぎたのは反省している。
流石にやりすぎた。
手首がイカれてしまうまでに操縦をしたのは初めての経験だった。
だが、同時にこの殺戮ジェットが最大の障壁ともいえる。
「問題なのはその殺戮ジェットだ。その見世物も、結局のところスバルが根負けして手首をやられてる。また同じことになったら確実にやられるぞ」
「手首については私がすぐに治療するんで、安心してイカれちゃってくださいね!」
なにを安心しろというのか。
笑顔で恐ろしいことを語るマリリスを尻目に、スバルは腕を組む。
「理想を言えば、殺戮ジェットの相手をせず、他の参加者がやりあっているうちにプリンセスとタイマン勝負をするってことだが」
「絶対に無理だね。バトルロイヤルだよ? ライバルは少しでも数を減らしたいに決まってるじゃん」
シデンの言うとおりだ。
これは乱戦。
周りに味方などいない。
「……味方にできないかな。殺戮ジェット」
「え!?」
スバルがぼそりと呟いた一言に、全員が驚愕した。
「ほら。現状一番おっかない敵は殺戮ジェットじゃん。だから、味方につけることができたら心強いかなって」
「言ってることはわかるけどよ。バトルロイヤルでそんなプレイできるのか?」
「システムでは無理だね。だからお互いの合意の下で共闘をする……要するに同盟をその場だけ作るって感じ」
その提案が実現すれば、戦況はかなり優位になる。
11人のバトルロイヤルで味方ができるのは殺戮ジェットにとっても悪い話ではない筈だ。
「けど、そんな上手くいくのか?」
「それ以前に、ボクは反対」
「どうして?」
「どうしても何も、その同盟のための交渉はどうやってやるつもりなのさ」
シデンに問われ、反射的に手段を口にする。
「チャットやメールかな」
「今回は普段のゲームとは違うってこと、理解してる?」
スバルはあくまで反逆者だ。
新人類軍に身元がバレたら、その瞬間にこの島は地獄絵図と化してしまう。
どんな経緯であれ、誰かとの接触は避けなければならなかった。
「それに、殺戮ジェット……斬撃姫は新人類王国じゃ有名な異名なんだ」
「マジで!?」
「怖い方なんですか!?」
「そんなに捻った名前じゃないし、内部でしか聞く機会がないから断定はできねぇけどな。可能性はある」
だが、ペルゼニアがわざわざゲームの大会に出ることなどあるのだろうか。
普通に考えたらあり得ない。
彼女は即位して間もないのだ。
そんな暇などあるはずがない。
あるはずがないのだが、それでもやっていそうなのは否定できない。
なにせ何をしでかすかわからない父親、リバーラ王の遺志を受け継いだ娘なのだから。
「だが、用心するに越したことはねぇ。相手が本物の敵である可能性もある以上、普通のプレイヤーとして接するのが一番いい筈だ」
「……そうだね。ゴメン、俺が変なこと言った」
我儘に付き合ってもらっている手前、申し訳なさげに頭を下げる。
その瞬間だった。
マリリスが何かに気づき、クリックする。
「どうした?」
「メールが来てたんですよ。ブレカーズ・オンラインって書いてあったから、もしかすると赤猿さんからのメールじゃないかと思って」
流れるような動作でクリック。
差出人とタイトルが表示され、一同は驚愕した。
「斬撃姫からのメールだ!」
「しかも共闘の申し込みだぁ!?」
丁度話題に出していたら、向こうから先に動いてきた。
マリリスは興味深げにメールを開こうとするが、
「馬鹿止めろ! 開いた瞬間にこっちの情報を取られるかもしれねぇ!」
「でも、お手紙は読まないと!」
「そんな律義にならないでいいから!」
どうもこの娘は良い子なのだが少し融通が利かない。
だが、メール本文を開く前にほんの少し表示されている文字で内容は収まっていた。
小さな要件だった。
『返事はしなくていい。あなたと決着をつけたい。受けてくれるなら、ライフルを地面に撃て』
簡潔で、それでいて傲慢な物言いだと思う。
あろうことかこの『斬撃姫』はプリンセスへの挑戦の場であるイベントで、こちらとの勝負を優先したいと言い出しているのだ。
「どうして俺との闘いに……?」
「納得いかなかったんじゃないかな」
小さく表示されたアーカイブで爆発していく殺戮ジェットを見ながら、シデンは呟いた。
「予選でのスバル君と殺戮ジェットの戦いは、これからが本番の形だった。でも、そこでスバル君が手首を痛めて、そのままあっさり倒れちゃったわけでしょ」
「なるほどな。相手側からすると、消化不良だってわけか」
戦士たちが彼らなりの解釈を提供してくれる。
だが、それは本当に過大評価というものだ。
「でも、手首を痛めたことは相手は知らないはずだろ?」
「勝負をないがしろにされた。あるいは勝ち逃げされたとか思ってるのかもな。人数はクリアしたから、こっちが適当に切り上げたとでも思ってそうだ」
ただ、どちらにせよ。
「だけど、これ以上アイツとの接触は禁止だ。ゲームで戦うのだけはギリギリ許容範囲とする」
「わかった。でも、どうするのかは考えさせてほしい」
「当然だ。戦うのはお前だからな」
当然と言われつつ、スバルは理解していた。
これがかなり譲歩された結果なのだということを。
仲間たちは、このイベントで自分を遊ばせるために本気のサポートをしてくれている。
今はいないが、カイトもそうだ。
だったら、彼らが提供してくれた妥協案の中で、全力で遊びぬいてやる。
そう考えると、スバルは残る敵の観察を続けた。




