ゲームに愛された女
エリアル・ブルーミーはゲームに愛されている。
だから彼女が望めばゲームはそれに応えてくれるし、なんだったら現実も歪んでくれる。
馬鹿な話だと思うかもしれない。
だが、ライブラリアンは知っている。
この馬鹿みたいな話が、本当にあることを。
「エリアル・ブルーミーのマネージャーをしてるのは確かに俺だけど、それは彼女がゲームに集中できるように適切な人材を割り当てられた結果だと思うんだ」
『なに言ってるんだお前』
案の定、友人の赤猿は疑念の言葉を投げてきた。
だが、それでもライブラリアンは続ける。
「今時の偶像はなんでも応えなきゃならない。ゲームに限った話じゃないぞ。歌や茶番のトーク技術だっているし、なんだったら激辛焼きそばまで食べなきゃいけなかったりする」
『マジかよ。芸人だな』
「視聴者は体のいい玩具が欲しいんだよ」
だが、エリアル・ブルーミーは殆どゲームしかやってきていない。
趣味で雑談や冗談交じりに占いをするが、基本的には本人のやりたいようにやっているのだ。
「俺がマネージャーをやってるのは、会社で一番ゲーム事情に詳しいからだな。だから自然とゲームが中心の仕事案件が多くなる」
『まあ、そうなるな』
「だけど、視聴者が求める声ってのは大きくてな。露骨なアイドル方面に売り方を転向すべきだという意見も社内でかなり挙がったんだ」
『歌はうまかったのか?』
「ここだけの話、そこだけエリアルの中の人を変えてしまおうという声もあった」
彼女に思い入れのあるマネージャーとしては複雑な話だった。
だが、会社としてはあくまで売り上げが第一。
視聴者に不信感を抱かせるようなことは、裏でもみ消してしまえば騒ぎにはならない。
その筈だった。
「だけど、ここである事件が起きたんだ」
『どうした』
「新しいマネージャー候補が事故で亡くなったんだ。しかも立て続けに」
ライブラリアンは音楽に関してはまったくのド素人だ。
しかも抱えている案件はエリアルだけではない。
だから他のシャンルは別の人に担当してもらおうと言う話になるのは自然なことだ。
しかし、その『別の人』が用意できないのでは話にならない。
「最初はただの偶然だと思った。だけど、これが立て続けに起こってたら、偶然じゃ済ませたくなくなる」
『じゃあなにか? お前はエリアルが会社の人間を次々と殺してるとでも言いたいのかよ』
「そうじゃないさ。それに、全部事故だ。彼女はまったく関わっていない。不気味なほどにね」
ゆえに、ライブラリアンはある結論に達したのだ。
「だから、ゲーム側が現実に干渉してるんだと思ってる。彼女がゲームに熱中できる環境にするために」
『お前、頭おかしいんじゃねぇか?』
「そうだな。正直、かなり参ってると自分でも思うよ」
しかし、これが笑い話にならない。
そう思えてしまうほど、エリアル・ブルーミーはゲームに愛されすぎている。
「思えば、今回の件もそうだ。彼女が仮面狼と戦いたいと言ったら、それが実現している」
『単なる偶然じゃねぇのか? アイツ自身、結構挑まれたら受けちゃうタイプだし』
「だけど、そもそも彼はこういった場に出てこれる状況じゃなかった筈だ」
敢えて口にはしないが、こうしている間にも仮面狼は新人類王国に追われている可能性が高いとライブラリアンは考えている。
それがこうしてイベントに出場していられるのは、奇跡なのではないだろうか。
「奇跡を可能にできるような人間を間近で見ていると、なんでもソイツのお陰なんじゃないかって思えてしまうよな」
『宗教みたいなこと言うな。まあ、俺は時の運を信じることにするけど』
「けどな、赤猿。彼女がその気でいる限り、このイベントは絶対に成功するよ。これだけは断言できる」
同時に、彼女の障害になりえる物はそのすべてが無力化されるだろう。
なぜならば、プリンセスはゲームに愛されているから。
愛する彼女の望みを叶えるためなら、あいつらは現実の法則だって捻じ曲げてくる。
プリンセス・ブレイカーの異名は、彼女自身が思っているよりも恐ろしい称号なのだ。
エリアル・ブルーミーの障害になりえる者に降りかかる災いは本人の意図するものではない。
ゆえに、彼女がその者を知らなくても、世界が排除にかかる。
彼女の素顔を追う神鷹カイトもそのひとりだ。
「これは、なんだ。なにがどうなってこうなった?」
砂煙に包まれた大地でカイトはぼやく。
原住民に追い掛け回され、逃げ切ったこの場所はどこかと思えば砂漠のど真ん中。
右を見れば戦車。
上を見上げれば戦闘機。
左を見ればこれまた戦車。
それとなく後ろを見てみると自分が殴り倒してきた巨大ワニが気絶している。
「馬鹿な。どこをどう走ったらこんな戦場にたどり着くというのだ」
『私も聞いてみたいね』
心の中でエレノアがため息をついているのがわかる。
あまり彼女と同じ気持ちを共有したくないのだが、自分も同様なのが悲しくなってくる。
『それでどうするの? 君の予想通り、プリンセスが運がいい新人類なのだとすると、私たちが彼女に近づくのは絶対にありえないわけなんだけど』
「だからと言って諦めるわけにはいかない」
スバルたちのために身体を張るのが自分の仕事だ。
だから最後までみっともなく足掻く。
自分ができることなどこの程度なのだから、こんなところで足を止めてはいられない。
「それに、まだ攻略は始まったばかりだ」
靴を投げ捨てる。
裸足になり、その場で軽い跳躍。
準備運動を念入りに行うと、カイトは空を睨む。
「戦闘機なら地図くらいはインプットされてるな」
『戦車にも当然あると思うけど?』
「逃げることを考えると、あれが手っ取り早い」
右腕を構える。
握り拳を作ると、空にめがけて思い切り突き出した。
直後、肘から先が切り離される。
銀の糸で繋がれた鉄拳が戦闘機に飛んで行った。
拳はコックピットに命中したかと思うと、ガラスをぶち破ってパイロットの真横に突き刺さる。
「ひえ!」
あまりに突然の出来事にパイロットは驚くが、まだ終わらない。
操縦席を掴んだまま、本体がやってきたのだ。
肘から延びる糸が巻き戻り、肘から先とカイトを接合。
コックピットの無理やりよじ登ってきたカイトは、さも当然と言わんばかりにパイロットの膝の上に座り込む。
「ぐえ!」
「失礼な物言いだな。尻はそんなにでかくないぞ」
『君、割と体格あるから無理やり膝の上に座られると結構苦しいと思うよ』
エレノアの突っ込みを無言で受け流すと、カイトはパイロットに囁く。
「悪いが少し地図出してくれ。後、攻撃が飛んで来たら全力で避けてくれ」
「なんなんだアンタは! バブルガム公国の兵士か!?」
「知らん。さっさとやらないと撃墜されるぞ」
「いや、退いてくれないと操縦桿が上手く握れんし、なにより画面が!」
カイトが邪魔で見えない。
そう言いたげなパイロットだったが、当の本人は無視して手慣れた手つきで地図を表示させてしまう。じゃあ自分がやると言わんばかりに。
「現在地は……ここか」
中央に光る点が自分が今いる位置だと判断。
同時に、目的地を確認。
『地球の反対側じゃない?』
「奇遇だな。俺もそう思う」
「アンタ誰と話してるの!?」
「気にするな。お前も年を重ねたらそのうちわかる」
とても適当なことを言うと、カイトは操縦桿を握りしめる。
「悪いが借りるぞ。ちょっと燃料が持つまでは走らせてもらう」
「ええ!? そんなの困るよ!」
「嫌だったら脱出しろ」
「アンタが俺の上に座ってるから脱出装置が重量オーバーで動かないんだよ!」
そんなやり取りをしていると、だ。
やかましい警戒音が鳴り響いた。
『なにこの音』
「こういうのは、大体ロックされた時のアラートだ」
「操縦桿を返せ! 俺が操縦する!」
「案ずるな。俺も経験がある」
「本当かよ!? めっちゃロケットパンチで突っ込んできたけど!」
「俺に不可能はない」
操縦桿を握り、まずは逃げようと動かす。
力を込めて回した。
とてもいい音が鳴った。
操縦桿がへし折れ、カイトとパイロットは思わず目を合わせた。
「……修理費いくら?」
「言ってる場合か!」
バランスを崩す機体に、無情にもミサイルが叩き込まれた。




