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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
プリンセスにおしつぶされて
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アンラッキー・カップル

 蛍石スバルが予選を勝ち抜いた後、神鷹カイトは行動に移していた。

 海面を激走した結果、靴から潮の香りがとれなくなるという悲しみを背負い、不審人物扱いで通報され、激走途中で財布を海に落とすと言う大チョンボを繰り広げながらも、彼は何とか大陸横断に成功していたのだ。


『で、その泥だらけの姿で企業に突撃するの?』


 心の中からエレノアが強く訴えかけてきた。

 これまでになく真剣なトーンで語りかけてきているのがわかる。

 彼女もまた、必死なのだ。


「当然だ。俺には全員の安全を確保するという責務がある」

『とりあえず、自分の状況を鏡で確認しようよ』


 今、カイトはボロボロだった。

 先程説明したように靴からは絶えず潮の香りが。

 また、丁度台風にぶつかってしまった為に全身ボロボロ。

 挙句の果てには陸に辿り着いた直後に再び台風に直撃し、全身に泥を被っている始末である。

 誰がどう見ても不審者だった。

 寧ろ、ここまで来ていまだに目的を遂行しようとする鋼の精神には惚れ惚れする。


「しかし、こうしている間にもプリンセスがスバルと接触する可能性がある。ネット上でのやり取りは危険だ。どこから情報が漏れるかわからん」

『今は君の存在の方が危険だよ。あらゆる意味で』


 珍しくエレノアから真面目に諭された。

 この時点で相当自分が焦っているのを自覚し、頭を抱える。


「俺はそんなにダメな状態か」

『うん。そもそも、その結構で企業に乗り込むのは正気じゃないよ』


 確かに、正面から入場すれば不審人物でしかない。

 エレノアの不安はもっともだ。

 だが、カイトは同じ轍を踏む気はない。


「なら、正面から突入しなければいい話だ」

『そんな右がダメなら左で行くみたいな感覚で言われてもね』

「他にどうしようもないだろう」

『それはそうだけどさ。具体的にどうする気なの?』


 エレノアは不安になる。

 普段のカイトならポテンシャルの高さでなんとか乗り切っていくと信じているが、今のカイトはどういうわけかなにをやっても駄目な方向に向かっていきそうな気がした。

 空港から海を激走するなんて選択肢を取る時点で、不安しかない。


「まずは場所の確認からだな」


 不安は的中していた。

 神鷹カイト、22歳。

 彼は今、なにかの呪いにかかっているのではないかと思えるような不運を発揮している。


『全面的に状況を把握しようじゃないか。企業に乗り込む前に、その企業が何処にあるのかもわからない状況ということでいいのかな?』

「いや、場所自体は把握している。住所も記憶済みだ」


 ただ、


「問題なのは、俺が今どこにいるのかがさっぱりわからないことだな」

『一番ダメじゃん!』


 カイトは今、陸に辿り着き、そのまま街へと爆走したただの暴走列車である。

 街へ走ったの自身がどこに辿り着いたかの確認のためだったのだが、これが予想以上に厄介だった。

 なぜならば、そもそも住民の国籍が違うからだ。


「プリンセスが所属する企業は、日本の会社だ。ここはなんというか、文明レベルが明らかに低い」


 周囲を確認する。

 木や藁で作られた小さな家。

 半裸のような恰好で馬を連れ歩く街人。

 おまけに、街の中心と思われる場所にぽつんと存在する焚火跡。


『これ、街っていうより集落じゃない? どこかの部族の』

「奇遇だな。俺もそんな気がする」


 状況は明らかに宜しくない。

 せめて地図が欲しいところだ。

 できれば世界地図単位で、どの大陸なのかは知りたい。


「とりあえず、語りかけてみるか」

『今、君は明らかに泥だらけの不審者なんだけど』

「服が汚れたから買いたいとでも言えばいいだろう」


 近くで豚の世話をしている半裸の男に近寄り、話しかける。


「おい、少しいいか?」

「ん?」


 男が訝しげに振り向いた。

 彼はカイトの出で立ちを上から下にかけて観察し、驚愕。

 その場で尻餅をついた。


「おい、どうした。失礼だぞ」


 お前の物言いが失礼だよ、とは誰もツッコまなかった。

 代わりに、男は震えながら問いかける。


「あ、アンタまさか昨日の嵐に巻き込まれてここに来たのか!?」

「まあ、そうだな」

「ひぇえええええええええええええええええええええええ!」


 男が立ちあがり、どこかへと逃げて行った。

 道中の人間に聞こえるように、大声で叫びながら。


「予言のとおりだ! 泥まみれで潮の香りがする悪魔が来たぞ! 俺たちは終わりだぁ!」

「え、なにそれ」


 とても不名誉ななにかにされている気がした。

 見れば、周囲にいた人間も『きゃー』『うわぁー』と叫びながら逃げている。

 さながらモンスター映画に出てくる、逃げ惑う人々だ。


「ちょっと待て。預言の悪魔ってなんだ」


 だが、そこは空気を読まない超マイペース男。

 その場で走り出すと、逃げ出した男をあっという間に捕捉。

 肩を掴み、顔を覗き込む。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!」

「うるさい。少し大人しくしろ」


 頭に軽めのチョップを入れた。

 すると半裸の男性は泡を吹いて倒れてしまう。


「げっ」

「おい、見ろ! 悪魔がホイコーローをやりやがった!」

「急いで長老様にお知らせするんだ!」

「預言者様を! あの方にもお知らせを! あの悪魔をどうにかする術を御存知かもしれん!」


 騒ぎはより大きくなってしまう。

 流石にここまで騒がれてしまってはカイトでも居心地が悪い。


「おかしい。なんで俺がこんな目に合っているのだ」

『君、確か単独行動をとると疫病神になるんだっけ? ここまでとは私も思わなかったなぁ』

「やかましい。流石にこんなことは始めてだ」


 本人の名誉の為にも記述するが、こんなトラブルは流石に始めてである。

 ――――と、思いたい。


「ともかく、これでは話もできん。少し入れ替われ」

『はいはい。じゃあ私が君の為にどうにかしてあげようじゃあないか』


 眼球から黒い霧が溢れ出る。

 カイトの姿がその場で消え去ると、それを見た人々はどよめいた。


「悪魔が消えた!」

「悪魔よ! あいつはやっぱり悪魔だったんだわ!」


 散々な言われようである。

 だが、この言葉を聞き、エレノアは瞬時に入れ替わる事を躊躇った。

 ゆえに霧は街から徐々に遠ざかって行き、少し離れた家の裏へと遠ざかっていく。


 そこで霧は再び集い、女の肉体を形成していった。

 不気味なほど色白の肌にどす黒い隈。

 そしてカイトのような泥だらけの姿ではなく、綺麗なジャケット姿でエレノアは再構築された。


「ふぅ。これで少しは落ち着いてくれるとうれしいんだけど」

『最悪、地図だけ買ってここを去るのも手だな』

「今更だけど、君じゃなくて私が空港に行けば済む話だったんじゃないかな?」

『ノーコメントで』

「ふふふ。痛いところを突かれて言葉がないようだね。そういうところも好きだよ」


 と、そんなやり取りをしていると、だ。

 背後からなにか聞こえてくる。

 エレノアは耳をすませ、壁に近寄った。


『はい。皆さんこんにちわ! エリアル・ブルーミーです』

「預言者様のお言葉の時間が始まったぞ!」

「急げ! 朝の予言が当たった。夜の予言もまた的中させるかもしれん!」


 住民がエリアルという少女の言葉を待っているようだ。

 だが、問題なのは少女の名前だ。

 この声と名前は、島を出る前に聞いたことがある。


『そんな馬鹿な』

「これ、例のプリンセスだよね。どうして彼女がこんなところで預言者扱いされてるのさ」

『わからん。だが、もしかするとエリアル・ブルーミーは俺たちが考えている以上の能力者なのかも……』


 その時だ。

 木材の壁を通じ、エリアルの言葉がエレノアの耳に届いた。


『朝は台風で泥だらけの人に要注意。それじゃあ夜の要注意はどんな人かな? エリアルの占いコーナーの始まりです!』

「占い!?」

『おい正気か』


 まさかとは思うが、この地域の住民たちはエリアルの子供じみた占いを本気で信じていると言うのか。

 あまりに馬鹿げている。


『肌が白い人かな。色白を超えた、とても真っ白な人。それと寝不足なのかな。隈も濃いね。この人は要注意だよ』

「え!?」


 エレノアが跳ね上がる。

 この特徴は、間違いなく自分を指した言葉だ。

 だがエレノアはプリンセスと面識はない。

 当然ながら、人形売りとして活動していた時期から全くないのだ。

 それどころか、エレノアはこの騒動でようやくエリアルの存在を認識たくらいである。


『趣味はお人形遊び。今は絶賛恋に大忙しかな。でも、気を付けて。その人、とても怖いから』

『当たってやがる……』

「余計なお世話だよ!」


 しかしながら、これは不味い状況だ。

 どうして自分たちを排除できるような状況を作り出しているのか不思議でたまらないが、それ以上にここから離れなければ。

 いつまでもここにいれば、あらぬ誤解で余計な騒ぎにまた発展してしまう。


『地図は諦める。走れ! ここから離れるぞ』

「走るんだったら交代してくれないかな!」

『やばくなったらな』


 カイトは熟考する。

 最初は未来予知が可能な新人類なのかと思った。

 しかし、この状況はそれだけで説明がつくのだろうか。


『……まさか、本当に運がいいだけなのか』


 プリンセスのコメントを思い出す。

 彼女は自分の勝利を『運が良かっただけだ』と言っていた。

 もし、本当にそうなのなら、この状況も説明がつく。


 あまりに馬鹿馬鹿しい想像だが。


『運がいいから、プリンセスの活動の障害になるかもしれない俺たちが彼女の所に辿り着けない。帰る手段もなくなった』

「ええ!? そんな馬鹿な話ある!?」


 もしもそうだとすれば、恐るべき豪運だ。

 いかにスバルが強いとしても、こんな超豪運に勝利できるのだろうか。


 そんなことを考えつつも、カイトは今後どう動くべきかを真剣に考え始めていた。

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