過大評価
予選突破という目標は見事にクリアした。
用意しておいた秘策を使うことなく、プリンセスに挑む権利を得ることができたのは僥倖と言ってもいい。
「だけど、すげー注目されちまったな」
「そりゃあ、あんな凄い戦いしちゃったからね」
どこか諦めたように溜息を付き、エイジはスバルを見やる。
彼は今、蹲っていた。
手首を握りしめ、ぷるぷると震えている。
傍から見ると一昔前の廚二病のような行動だったが、本人が本気で痛がっているので笑えない。
「まさかコメントであんなに称賛されてる張本人が、ボタン押し過ぎて手首痛めてるとは誰も思わないだろうな」
「ボクでもあそこまでやらせないのに」
蛍石スバル、無念の怪我である。
シデンの無理やり連射やカイトの超特急加速を耐えた若き肉体も、今回は耐えきれなかったらしい。
「いてぇ……ちょういてぇ……」
「頑張ってくださいスバルさん! 今手当てしますから!」
周りを気にしながらマリリスが羽を伸ばす。
どうやら大家さんが帰ってきていないかを警戒しているらしい。
「因みにスバルよ。赤猿のところにコメントが来てるんだが」
「な、なんて?」
「最後、殺戮ジェットの方を振り向いたけど、あれは予測か?」
「んなわけないでしょうが! 手首痛めた反動でレバーが動いて偶然同じ方角向いちゃっただけ!」
そうなのだ。
あくまで偶然。
手首を痛めながら殺戮ジェットの攻撃をすべていなし、最後にその行動パターンを完全に予測し、いよいよ決着がつくのかと匂わせたこの動作。
すべてが偶然の産物なのである。
ところが、その偶然はあろうことかとんでもなく注目されてしまった。
これはよろしくない。
「後でカイトにどやされそうだな」
「シグナル・ザンは今回だけって言ってるから……」
「ちょっとやりすぎだな。まあ、お前のせいじゃないのは俺からもフォローしとくけど、コブラツイストぐらいは覚悟しておけ」
言われ、スバルの顔面が青ざめる。
幼少時代から食らい続けた凶悪技だった。
あれを受けた後、しばらくは食欲が低下する。
「問題なのは、これが本選出場プレイヤーや視聴者にかなりインパクトを残しちゃったことかな」
「そんなに言われてるの?」
「傍から見ると面白いよ。新星現るって大盛り上がりさ」
「そんな大げさな」
「本当だよ。これ見る?」
シデンの誘導に従い、パソコンの画面をのぞき見る。
そこには現在進行形で赤猿と視聴者たち、果てには本選から参加予定のプレイヤーたちによる雑談が開かれていた。
『予選突破した中だと、シグナル・ザンと殺戮ジェットが群を抜いてる気はする』
『水中だとカジキ・ポセイドンもいるけど総合だとな』
『本選参加メンバーも太鼓判押しだし、わからないよな』
そこに赤猿は付け加えた。
『俺は総合的に予選メンバーを見たつもりだけど、どいつも本選に出て勝つビジョンが浮かんでくるな。因みにシード選手のプリンセスはどう思う?』
いつの間にかゲストとしてエリアルを呼んでいたらしい。
彼女は興味深げにこう言った。
『面白いと思いますよ。予選で生き残った人は全員』
『一番やりあってみたい奴は?』
『最後に動きが止まっちゃったけど、シグナル・ザンですね』
名前を呼ばれ、スバルは心臓が跳ね上がった。
同時に、コメント欄も『やっぱりな』『確かに』『明らかにアイツはおかしい』と流れていく。
『速度なら確実に殺戮ジェット。水中だとカジキ・ポセイドンなんだけど、それとまともにやりあって生き残ってるんだから、少なくともタイマン性能はとんでもなく強いと思うんですよね。本当に無名なんですか?』
『有名プレイヤーの副アカかもな』
「おい馬鹿止めろ! 俺を化物のように扱うな!」
「いや、お前は割と俺ら側だと思うよ」
エイジが白い目を向けてきた。
自虐も含めた、とても悲しい眼差しである。
『兎に角。その場の対応力はとても高いですね。本選で戦う時が楽しみです!』
「俺も楽しみだけど、そんな過大評価されると困るんですけどね! こう見えても凡人ですから!」
「諦めろ。ただの凡人ならここまで生き残ってねぇ」
「そうだよ。君も立派な戦士さ。ボクらが保証するとも」
保障されても嬉しくないのだ。
特にこのデタラメーズに言われてもちっとも嬉しくない。
いや、慰めようとしてくれるのは嬉しいのだが。
それでも無理やり自分を怪物扱いしてくるのは悲しい。
「でも過大評価なんだって! こんな注目されても……」
「だったら、本選で全部出しきって負けてこない。惨めにな」
そうすれば『あの時は実力以上の物が出たのさ、あはは』と笑いながら話すこともできる。
要は難しく考えすぎなのだ。
「大丈夫だ。誰もお前の正体を探ろうってわけじゃねぇんだ。もしそうなったら俺たちがどうにかしてやる。こんな頼りになることあるか?」
「それは」
この時、スバルは申し訳なさで言い切ることができずにいたのだが。
頼りになる気持ちは半分。
もう半分はどこか頼りにならない、という本音がある。
と、いうのもこのXXXの面々。
幼少時代を戦いの中で過ごしてきた為か、どこか常識が違うのだ。
お陰様でこれまでも大変な目にあっている。
確かに戦いとなると頼りになるのだが、それ以外だと少し頼り辛かった。
「おい、なんだその微妙そうな顔」
「いや、なんでも」
とはいえ、目標だった本選出場ができたのは僥倖だ。
後はプリンセスと戦う基盤を作り、そこで堂々と勝負するだけである。
彼女らは自分を過大評価しているのがちょっと辛いが、全力でぶつかって行こう。
この時、スバルは素直にそう思った。




