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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
プリンセスにおしつぶされて
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プリンセス旋風注意報!

「来た、例の機体だ!」


 嘗ての愛機、獄翼によく似た機体が猛スピードで迫ってくる。

 先程、場を支配していたブナシメGをあっさりと退けた技量と度胸は確かに本物だ。

 コイツからは逃げることはできない。


「迎撃する! いいよね!?」


 本物の戦闘の時と同じ緊迫感が部屋に蔓延してきている。

 後ろで画面を見守るエイジたちも、緊張で喉を乾かしていた。


「逃げられないんだね」

「あれから逃げるのは無理だ。戦わないと、やられる!」


 殺戮ジェットが背中から噴出する青の閃光を唸らせ、突進。

 両手に刀を握りしめ、その刃先を向けてきた。


『さあ、残りブレイカーは20機を切った! ブナシメGを倒した殺戮ジェットは、シグナル・ザンに勝負を挑む!』


 赤猿の呑気な実況が癇に障る。

 苛立ちと緊張で舌打ちしつつも、スバルは迎撃の動作を行った。


 牽制用の銃を素早く抜き、発砲。

 すぐに何度も発砲し、リロードの表示が出るまで連打。


「こいつもくれてやる!」


 ライフルを投げつけた。

 投げ出された銃身を見て、戸惑う様子も見せずに殺戮ジェットは突進。

 フルスピードでライフルの弾をすべて躱し、銃身を刀で綺麗に切断。


「全部避けた!」

「なんつー荒業!」


 だがスバルは確信を得る。

 この殺戮ジェット、確かに速度は極限まで高められている。

 パイロットも速度に振り回されていない。


「でも、それだけ速ければ刀の一撃は致命傷だぞ」


 シグナル・ザンが刀を振るった。

 突撃した殺戮ジェットの一撃とぶつかりあい、激しい金属音が響き渡る。


「相手は刀2本だぞ!」

「スバルさん、耐えられますか!?」

「連打なら任せろ! シデンさんに死ぬほど鍛えられてる!」

「あれ。そうだっけ?」


 トリガーを死ぬほど引かせた張本人は首をかしげているが、今こそ経験が役に立つ時である。

 同時に、スバルは殺戮ジェットのような機体を使い続けた実績があった。

 だから相手がどんな動作をするのか、なんとなくわかる。


「集中する! 他に敵が来たら警告してね!」

「は、はい!」


 マリリスが頷いてくれたので、安心して殺戮ジェットのみに集中。

 向こうの一撃を受け止めた直後に来る第二打も続けざまに受け止めることに成功。

 左右の連打が通用しなかったからか、敵機は一旦離脱。


「まだだろう!」


 だが、緩急をつけて再度突進。

 想定内だった行動を見て、シグナル・ザンは右手だけ刀を握り、左手にナイフを握った。


『シグナル・ザンがここで初めてナイフをとった! だけどリーチ差はどうする!?』

「関係ねぇ! どうせ相手から突っ込んできて来る!」


 その言葉を肯定するように、殺戮ジェットは武器を変更しなかった。

 意地でも格闘戦で葬ろうとしている。

 

「来い!」


 互いの刀がぶつかる。

 黒の機体は続けざまに刀を振るうが、ナイフの柄尻を力任せに刃先に叩きつけてこれを防御。

 3色カラーの機体が攻撃に刀を振るえば、同じように黒い機体がこれを刀で防御。


 何度もその動作を繰り返していく。

 連撃速度が更に加速しつつも、2機はこの攻防を止めることは無かった。


 そして、他の機体も彼らに手を出せずにいた。

 自分の身を守るので精一杯だったのもある。

 だが、実況の赤猿を含め、思ってしまったのだ。


『すっげぇ』

『なんなんじゃ、こりゃあ! これ、ホントに予選か!?』

 

 この2機は既に完成されている。

 他の、自分たちが立ち入ってはならないのだ、と。


 それは完璧な芸術作品に余計な色を付けたすような、ナンセンスな行為だ。

 可能ならば、この戦いを動画で保存して記録したいとも思ってしまう。


『きれい』


 誰かがネットで呟いた。

 ぶつかりあう火花は鮮やかで、振るわれる刃はどこまでも華麗。


 このやり取りを行っているふたりの周りにはギャラリーもいるのだが、彼らは皆なにも語ることができなかった。

 あまりの高速戦闘。

 少しでも目を離していると、あっと言う間に壊れてしまいそうな気がして、目が離れない。


「まだだ!」








「まだまだまだまだ」


 ペルゼニアもまた、スバルと同じ意見を持っていた。

 最初はそれほど期待せずに挑みかかったが、これが中々歯ごたえがある。

 周りを気にせず、ここまで乱暴に遊んでいるのは初めてかもしれない。


「……」


 従者のゼクティスも目を離さないでいた。

 彼女はペルゼニアの戦いを眺めつつ、対戦相手のシグナル・ザンを観察している。


 ゼクティスはある仮設を立てていた。

 このシグナル・ザン。

 実は蛍石スバルなのでは、と。


 勿論確証はないし、なんとなくそうではないかと思っただけなので口にはしない。

 だがゲームを始めたてでも信じられない速度で上達したペルゼニアとここまで戦える人間がいることが、驚愕に値したのだ。

 もしも旧リバーラ体勢だったらこのプレイヤーをスカウトしていたかもしれない。


「ハッピーよ。ええ、楽しいわね!」


 口を出さない理由はもうひとつ。

 この遊びはあくまでペルゼニアを満たす要素のひとつだ。

 それが機能するのであれば、越したことはない。

 余計な情報など、今は不要だ。


 遊びは、集中できる方がいい。


「これならどう?」


 途中で回し蹴りを放ってみる。

 だが、シグナル・ザンはこれも見えているのか、腕でガードしてみせた。

 今度は向こうから刀が振り下ろされるも、これはこちらの刀でガード。


「じゃあこれは!」


 加速をMAXでブースト。

 そのまま我武者羅に左右に振るい、自身の軌道を読まれまいと周囲に高速移動を試みる。


 だが、どういうわけかシグナル・ザンは常にこちらを睨んでいた。

 まるで自分の位置がどこにいるのか、完全に見切られているかのようだ。


「あら、私がわかるの? あなたもプリンセスのように次の行動がわかるのかしら?」


 本人が聞けば全力で否定するであろう言葉を呟き、ペルゼニアは嘲笑う。

 下で歯を舐め、姿勢を僅かに低くした。


「面白いわ。ええ、とても。これであなたを殺せないのがアンハッピーなくらい!」


 瞬間、ゼクティスは自身の頬に僅かな痛みを覚えた。

 まさか、と思いながら拭う。

 血痕だ。


 見れば、壁や床にも亀裂のような切り傷が出来上がっている。

 少しずつ、数を増やしながら。


 これはいけない。


 通信は無線とはいえ、このままでは筐体の方がペルゼニアの力の前に木端微塵になってしまう。

 急いで止めないと。


 だが、どうやって。


 主君は極度の興奮状態だ。

 こうなってはなにを言っても聞いてくれないだろう。


「ええ、次よ! 次ね! 早くやりましょう!」


 速度での攪乱は無意味と判断。

 ペルゼニアは力任せにボタンとレバーを操作し、恐るべき速さで行動を開始。

 勢いを止めることなく猛攻に出る。


 無論、これもすべて受け止められるだろう。

 そう考えた末で、この行動をとった。

 どうやって受け止めてくれるのかが楽しみだったからだ。

 ある種の信頼関係のような物が、生まれつつある。


 のだが。


「あら?」


 シグナル・ザンは防御を放棄。

 ペルゼニアの猛攻をまともに受け、残り少なかった体力が一気に削り取られた。


 3色の機体が爆発する。

 呆気にとられたペルゼニアだが、ここで彼女は気付いた。


 残りの機体の数。

 この戦いはあくまで予選だ。

 急いで確認すると、既に7機を切って6機になっている。


 予選勝ち上がりの条件はクリアしていたのだ。

 だから、向こうはわざと負けた。

 なんの為かは知らないが、とても不愉快なことをしてくれる。


 折角楽しかったのに。

 もっと楽しくしてくれると思ったのに。


「許せないわね」


 暴風がペルゼニアの周りに収束していく。

 これまで周囲の物を無造作に傷つけていたものが、彼女の肉体に集まって指に収束された。


「なんて名前だったかしら。見てなかったから後で確認しましょう。それで殺すわ。次の本選とかで、必ず」


 収束された風がゲーム機に解き放たれた。

 通信元からのアクセスが途切れた殺戮ジェットは機能を停止し、ペルゼニアの順位は予選6位で終わった。

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