怪盗シェル
怪盗。
この単語を聞いてもイマイチ具体的なイメージは思い浮かばない。日本で生活していた頃は空き巣などの報道を聞いたことがあるが、怪盗なんて名乗る者は聞いたことがなかった。
「と、いうわけで怪盗退治をすることになったんだが、怪盗シェルって聞いたことあるか?」
帰宅した後、カイトは仲間たちに問いかける。
「急に言われても」
「話しが唐突過ぎてついていけねぇぞ」
先に帰宅していた仲間たちは揃ってしかめっ面だ。星喰いを退治する準備を進めていた筈なのに、どういうわけか純正アルマガニウムを巡る妙な展開となりつつある。
「そう言うな。純正アルマガニウムの存在自体、俺も初耳なんだ」
「純正、ていうけど具体的には通常のアルマガニウムとどう違うの?」
「わからん。あまりに貴重な資材だから研究もまともに進んでいないらしい。だが、過去の資料を見た限り、通常のアルマガニウムの10倍以上のエネルギーを発するらしい」
「10!?」
スバルは想像する。10倍の出力を叩きだす獄翼を。SYSTEM Xを使えば10倍の速さのカイトができる。10倍の冷気を放出するシデンができる。10倍のパワーでカイトを投げつけるエイジが完成する。
「……カイトさん、地球を貫通するんじゃない?」
「なにを想像した」
兎に角、物凄い資源なのだ。
全員がそれを認識すると、改めてこれを狙ってくる怪盗の話題に移る。
「で、怪盗シェルってのはそのアルマ・ペガサスを純正アルマガニウムだって知ってるんだよな」
エイジが問う。
怪盗シェルは大胆にも予告状を提出し、しかも歴代大統領しか知らない純正アルマガニウムの存在を知っていた。ただのコソ泥だとは思えない。
「ウィリアムが裏で確認を取っているが、少なくとも今の大統領やホワイトハウスの人間は白だそうだ。一番怪しいのは過去の大統領の関係者だが……」
「ちょっと数が多すぎるね……」
事前に捕まえるのは骨が折れるだろう。
癪ではあるが、向こうが出した予告状の時刻に従って、その場で捕まえる方が早い。
「そもそも、怪盗シェルは有名なのか?」
「有名ですよ」
意外にも、そう回答したのはマリリスだった。彼女はノートパソコンを開くと、あるネットニュースの記事を見せる。
「2年前に活動を開始した泥棒ですね。アメリカだけじゃなく、世界各地で活動しているようです」
「すげぇな。新人類王国の美術館からも絵を盗んでるぞ」
ネットニュースには『新人類王国も敗れる! 怪盗シェル、鮮やかなる手際!』と見出しが載っており、彼を称える内容が記されていた。いわゆる、反新人類王国勢力が持ち上げている内容だ。
だが、その内容は馬鹿に出来ない。どこまで本当なのかはわからないが、怪盗シェルは新人類王国の報復をすべて躱して、いまだに活動中とのことである。
「つまり、こいつは2年も新人類王国の報復を回避してるのか」
「面目丸つぶれだね」
「表では出ないだろうな、こんなニュース」
相手が凄腕なのは理解できた。
当然、彼の名を騙った偽物である可能性もあるのだが、ここまで堂々としているのならどっちにしたって相当な自信がある筈なのだ。
「マリリス、こいつの特徴はわかるか?」
「写真がありますよ。えっと、確か……ありました!」
検索をかけ、画像が表示される。黒い仮面をつけた茶髪の男が、堂々と屋根の上からVサインをつきつけていた。
「茶髪のトンガリ頭か」
「結構軽装だな。銃とか撃たれないのか?」
「それが、どうも警察の方が発砲しても当たらないようなんです。かなりすばしっこいらしくて」
マリリスの言葉を聞き、スバル達は一斉にカイトを見る。
「なんだ」
「いや、まさかとは思うが」
「銃弾を避けれるんだよね……」
「俺、そんな真似できそうなのアンタしか知らないんだけど」
「俺が2年間ずっとお前と一緒に生活していたのをもう忘れたのか」
青筋を立てつつ、カイトは写真を睨みつける。
「話が確かなら、身体能力は俺たちに近いかもな。あるいは特殊な新人類なのかもしれん」
「そうだとしたらとんでもない強敵だぞ。XXXクラスだ」
「ああ、だから俺たちでコイツを守ってくれって話だろう」
カイトが持っていたケースを開ける。
中には美術館に納められている筈のアルマ・ペガサスが入った。
「ウソ!?」
「なんでこれがあるんだよ!」
「美術館に置いてあるのは?」
「偽物だ。本物はウィリアムが保管していたんだが、怪盗の予告状がどうしても気になったらしい」
そこで本物は一番頼れる人間に託すことにしたのだ。
「簡単にプランを立てると、本物はこの中の誰かが持っておく。シデン、エイジ、俺の誰かが偽物のアルマ・ペガサスの警備員として配置。これを守る」
「偽物を奪おうとする怪盗をそこで捕まえるってこと?」
「そうだ。簡単だろう」
あまりに簡単すぎる作戦だった。
複雑すぎる作戦をいわれてもスバルやマリリスは困るだけなのだが、かといって簡単すぎても不安になる。
「大丈夫なの? そんな作戦で」
「勿論、大丈夫な保証はどこにもない。だが、奴の最大の武器はさっきの記事を見た限りだと身体能力だ。これを止めれるのは俺たちが適任だろう」
「あのゼッペルとかいうやつは?」
「奴は留守番だ。ホワイトハウス側の守りにつくらしい」
ウィリアムは用心深い。守るべき場所に戦力を配置させ、隙が生まれるのを好まない性格だ。
特にホワイトハウスは現在の大統領、カルロスがいる。何時、空間転移で現れるかもしれない新人類王国に対応する為にも、ゼッペルの力は手元に置いておきたいのだろう。
「でも、その作戦だと俺やマリリスは役立たずじゃない?」
「当たり前だ。お前たちに怪盗を捕まえることなど期待していない」
スバルの疑問に対し、カイトは正面から切り伏せた。
とはいえ、マリリスがその気になればこの中の誰よりも強くなれる可能性がある。だが、彼女がそれを望んでいないのはよく知っていた。だから彼らに頼むのは観察である。
「美術館では観光客のフリをしていろ。そこで怪しいのを探し出す」
「まさか、ふたりで怪盗を探し出せって!?」
「勿論、私服の警備員も忍ばせておく。だが、数が大いに越したことはない」
そこでカイトは口を閉じる。
考え込むようにして沈黙すること数秒。なにか閃き、アルマ・ペガサスを手に取った。
「スバル、こいつはお前が持ってろ」
「え!?」
突然貴重品を手渡され、スバルは動揺する。
が、エイジやシデンは納得したように頷いていた。
「そうだな。お前が持ってる方が一番いいだろ」
「ボクらが暴れたら壊しかねないし」
凄く納得できる理由だった。
が、それでも疑問は残る。
「アルマガニウムってそんなに簡単に壊れるものなの?」
「俺たちも流石にアルマガニウムを直接壊せるか実験したことはない。だが、これは純正アルマガニウム。ブレイカーの爆発よりも何倍も強力な威力が込められていると思え」
すなわち、もし壊したら大爆発。
しかもブレイカーの爆発程度では済まないかもしれない。
託された少年の顔色がどんどん青くなっていく。
「……どのくらいの爆発が起きると思う?」
「この前、地球に隕石が落ちてくる映画を見ただろ」
勿論、カイトは純正アルマガニウムが壊れた際に爆発が起きたとして、どれがどの程度の威力なのか、という疑問に対して答えられるわけがない。
想像するしかないのだ。
だから想像しうる限り、一番強烈なインパクトがある映像を表現する。
「ニューヨークが消し飛ぶ。そうなる気持ちでいた方がいいかもな」
言われ、スバルは眩暈がした。
自分がアルマ・ペガサスを預かると言い出す者は誰もいなかった。




