終章
「涼花。お前、いったい香澄に何を吹き込みやがった?」
不機嫌そうに俊樹にそう言われ、涼花は疑問符を浮かべた。
「急に、花嫁泥棒ってロマンチックだよねとか言い出して。お兄ちゃん、ちょっと涼花さんが誰かと結婚しそうになったらやってきてよとか訳のわからないこと言ってきたんだよ。お兄ちゃんが花嫁泥棒しにきたら、涼花さんきっと喜んでお兄ちゃんの胸に飛び込んでくると思うんだよね。それで二人の逃避行。素敵。とかうっとりしながら言ってきてまじできもいんだけど。何あれ?お前マジで何吹き込みやがった。」
それを聞いて思わず涼花は吹き出してしまい。それを見た俊樹が不機嫌そうな顔を更に不機嫌そうに歪めた。
「お前、やっぱなんか吹き込んだのか?」
「違う違う。何も吹き込んでない。ただ、清水の事件の整理してたら和葉姫伝説読みたくなっちゃって、この間借りてきて読んでたの。そこに香澄ちゃんが来て、この話あまり好きじゃないって言うから、これが鬼に恋したお姫様が鬼と駆け落ちした話しだと思えば面白いよねって話ししただけだって。そう言う話しの方が香澄ちゃん好きかなって思って、ちょっとアレンジして話してみたんだけど、それがそんな風になるとは思ってなかった。香澄ちゃんらしいね。」
そう言って声を立てて笑う涼花を見て、俊樹が頭を抑えた。
「それで何で俺がお前と駆け落ちしなきゃいけなくなるんだよ。」
そんなことをぼやく俊樹に、わたしが俊樹のこと好きだからじゃない?と涼花がさらっと言って、俊樹がはぁ?と声を上げた。
「わたし、俊樹のことが好きだよ。中学生の時からずっと好きだった。」
真面目な顔の涼花に真っ直ぐ見つめながらそう言われて、俊樹は固まった。そんな俊樹を見て涼花がくすくす笑う。
「本気にした?昔は絶対騙されなかったのに、俊樹も嘘見抜くのが下手になったね。それとも、嘘だと思っても期待しちゃうくらいわたしのこと意識するようになった?」
からかうようにそう言われて、俊樹は苛々した様子で、お前なと呟いた。
「お前みたいな性悪女。誰が意識するか。」
「酷いな。わたし結構モテるんだよ?」
「お前の外面に騙されてるだけだろ。」
「俊樹は相変わらずモテないよね。」
「何でお前は昔から俺のことモテない扱いすんの。俺もそこそこモテるから。」
「彼女と長続きしないくせに。どうして俊樹がモテないか教えてあげようか?」
「彼氏がいたことない奴に言われたくない。」
「わたしはいないんじゃなくて作らないの。自分を安売りする気はないから。でも、俊樹になら売ってあげても良いよ?」
「誰が買うか。」
そんなやりとりをして、涼花は目を細めた。
「何かこうしてると中学生の頃に戻ったみたいだね。昔も良く俊樹とこうやってどうでもいいことで言いあいして、楽しかった。俊樹、他の子には普通に優しいし、素っ気ないくらい無口なのにわたしには昔っからそんな態度なんだもんな。わたしにも少しくらい優しくしてくれても良いのに。」
そう言って涼花は笑った。
「中学生の頃、わたし俊樹のことが好きだった。中学時代はわたしに頂戴って言ったでしょ?あれがあの時の精一杯の告白だった。俊樹がわたしの初恋の相手だったって、そんなこと言ったら信じてくれる?」
そう言われて、俊樹は視線を逸らして溜め息を吐いた。
「お前、本当に演技が上手くなったな。お前が作ってんのかそうじゃないのか全然解らない。」
「嘘か本当か解らなくてもさ、俊樹はわたしの言葉なんて信じてくれないでしょ。わたしが基本的に嘘つきで性格悪いの知ってるから。」
「どうだろうな。お前が本気で何か伝えようとしてるなら信じるかもよ。お前が案外不器用でまどろっこしい奴だってのも知ってるし。意外と抱え込んじまう奴だってのも知ってるしな。あと、仕事上のことなら全面的に信頼してる。」
そう言われて、涼花は俊樹の顔をまじまじと見た。
「なんだよ。」
「いや、やっぱり俊樹は俊樹だなって思って。中学生の頃と全然変わってないね。」
「喧嘩売ってんのか?」
「売ってないよ。」
そう言って遠くを見る涼花を見て、俊樹は怪訝そうな顔をした。
「俊樹。本当にわたし俊樹のことが好き。だから付き合って。」
視線を戻した涼花にそう言われて、俊樹は彼女に視線を合わせて黙り込んだ。
「お前、どこまで本気?」
「全部。」
そう言われて俊樹は少し考え込んで。断ると言った。
「なんで?」
「タイプじゃない。」
「あぁ、俊樹、香澄ちゃんみたいなのがタイプだもんね。シスコン直さないとまともに彼女と長続きしないよ。」
そうからかうように言われて、俊樹はお前のそういう所が嫌なんだよと呟いた。そんな俊樹を見て、涼花は笑った。やっぱりフラれたか。昔から本当に好きな相手には好かれないんだよな。まどろっこしいことしないで正面から真剣に向き合えって言うからさ、ちょっと頑張ってみたのに結局ダメじゃん。そもそも自分の好みのタイプの人はだいたい自分みたいなタイプ好きじゃないから、勝算低すぎだって。でもなんだかんだ言って一緒にいてくれるしさ、少し期待してたんだ。知ってたけど。俊樹にとってわたしが友達としては良いけど彼女にしたくないタイプだって。知ってたけどさ・・・。表向きはいつも通りを装いながら、そんなことを考えて涼花は本気で気落ちしていた。
「もう少し素直になって、人のことおちょくって遊ぶの控えるなら考えてやってもいいぞ。」
俊樹にそう言われて、涼花は驚いたように彼の顔を見た。
「お前とは腐れ縁だしな。なんだかんだ言って話しや趣味も合うし、一緒にいるのも楽だし。何だろうな。昔から、お前の前だと自然と素が出るというか。まぁ、お前とそういう関係になるのも悪くないかなと思ってさ。見た目は悪くないし。」
「なにそれ。凄い上から目線。感じ悪い。」
「お前相手だからだろうが。それくらい譲歩しねーとお前となんかどうにかなりたくねーんだよ。」
「わたし主導権は自分が握りたい派だから、どうしようかな?」
「なら、俺のことは諦めろ。」
面倒臭そうにそう言われて、涼花は考えておくと言った。なんだろう。結構酷い態度とられてるのに、俊樹が自分と付き合うの考えてもいいって言ってくれただけで何か嬉しい。わたしこんなタイプだったかな?そんなことを考えて、涼花は自分がおかしくなって笑った。
「わたしもだいぶ香澄ちゃんに感化されたかな。なんかさ、香澄ちゃん見てると恋愛って素敵なことに思えてくるのが不思議。」
「あいつの恋愛脳はどうかと思うけどな。」
「それでも、いいなって思うよ。」
そう言って涼花は、そろそろ香澄ちゃんと浩文さん結婚しないかなと呟いた。
「香澄ちゃんの卒業祝いにペアリングプレゼントさせた時みたいに、今度は婚約指輪贈るように仕向けてみようかな。」
そんなことを言いながらいたずらっぽく笑う涼花を見て、俊樹はほどほどにしとけよと言って溜め息を吐いた。




