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和葉姫物語  作者: さき太
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序章

 「涼花(すずか)さん。何見てるんですか?」

 そう声を掛けられて涼花が視線を上げると、自分の手元を覗き込んで来た香澄(かすみ)が視界に入ってきた。

 「和葉姫伝説(かずのはのひめでんせつ)。清水の研究に関する資料の整理ですか?」

 そう問われて、涼花はそんなところかなと答えた。

 「清水家の超能力者開発にまつわる一件を事件ファイルに纏めておこうかと思って。あの件は研究資料も機材も全部処分されて表向きにはなかったことになったけど、わたし達には深く関わってることだし。わたしたち特殊犯罪対策課の最初の事件みたいなものだから。あの時はまだこの部署は存在していなかったけど、やっぱりあれが始まりだと思うから残しておきたいと思って。」

 その涼花の言葉を聞いて、香澄もまたその時のことに想いを馳せて、そうですねと答えた。

 「清水家は異能家系と呼ばれる家のことや、伝承、伝説の類いを研究して超能力者をつくってたんですよね。わたしもそうやって作られた超能力者の一人だって考えると変な感じ。わたしがお父さんが清水家から盗み出した完成品だって知ってるのに、お兄ちゃんはわたしが超能力者だって信じてくれないし。」

 そうふて腐れる香澄を見て涼花は笑った。

 「香澄ちゃんの能力は、サイコキネシスやパイロキネシスみたいな目立つ能力じゃないからね。それに、色々あって実在してるの知っててもやっぱり超能力が身近に存在するなんてそう受け入れられないんだよ。」

 「涼花さんみたいに瞬間移動とか、見てすぐ解る能力だったら信じてもらえたのにな。なんとなく人の心が解るとか、時々人が考えてることが聞こえるとか、そんくらいじゃ、ただの勘のいい人扱いだし。能力使って調査してるのに、それはただコンピューター技術の凄い人扱いで、自分の意識を電子の世界に入り込ませて活動してるなんて信じてくれないんだから。」

 そうぼやいて、香澄は涼花になんで和葉姫伝説を見ていたのか訊いた。

 「事件ファイルに纏めるだけなら、わざわざ資料用意しなくてもいいのに。」

 そう言われて涼花はちょっとねと言って笑った。

 「和葉姫は実在した人物で、彼女の生まれた葛宮(くずのみや)家は今でも異能家系として有名で存在してて清水の研究の基盤にされてたところがあったから。事件の整理してたら自ずと目にすることが多くて、なんか懐かしくなっちゃって図書館で借りて来ちゃった。」

 そう、つい懐かしくなって借りてきてしまった。自分が前世の記憶をもっていると言ったら、香澄ちゃんは信じるだろうか。和葉姫が今の身体に生まれてくる一つ前の自分の母親だったと言ったら信じるだろうか。かつての自分の母親だった人の面影をもった香澄を眺めながら、涼花はそんなことを考えた。

 「わたしも小さい頃読んだとこがありますよ。強い霊力で護られた葛霧(くずきり)の国。あるとき、結界が破られて国に魔物が入ってきて、滅ぼされたくなければ生け贄に、強い霊力を持っていた巫女姫様を差し出せって言ってくるんですよね。それで困った国主様に姫が魔物を倒す術を持って帰るから旅に出させてくれってお願いして、旅に出たお姫様が鬼を従えて帰ってきて魔物を倒す。それで平和になったかと思ったけど、魔物を倒したらお礼をするって約束を反故にされて追い出された鬼が怒っちゃって、それを見たお姫様が皆が止めるのを聞かずに鬼に自分を差し出して鬼の怒りを治めましたっていう話しでしたよね。」

 そう言って香澄は腑に落ちないという顔をした。

 「お姫様の犠牲で国が平和になりました、ちゃんちゃんってお話だけど、これって結局生け贄になる相手が変わっただけで同じ事ですよね。そもそも、お姫様はちゃんと鬼との約束を守ろうとしてたのに、周りは鬼なんかにって言ってお姫様の話しを聞かないで助けてもらった鬼に酷いことして怒らせておいて、結局怒った鬼をどうにもできなくってお姫様に助けてもらうとか、ここに出てくる人たち酷いと思いません?頑張ったお姫様がかわいそうだし、わたしこの話しあまり好きじゃないです。」

 そう言う香澄を見て涼花は、案外お姫様はお城で暮らすより幸せだったかもよと言って笑った。そんな涼花を見て疑問符を浮かべる香澄に、涼花はいたずらっぽい笑みを向けた。

 「この話がさ、鬼に恋したお姫様が鬼と駆け落ちした話しだって言ったら信じる?」

 涼花のその言葉を聞いて香澄が目を輝かせる。

 「それってどういうことですか?これがそんなお話だったなら、その方が素敵。わたしその話し知りたいです。」

 そんな香澄を見て涼花は、香澄ちゃんは本当にこういう話しが好きねと言って笑った。

 「じゃあ、香澄ちゃんには内緒で教えちゃおうかな。和葉姫伝説の本当の物語。お姫様が鬼と出会って恋をして、駆け落ちするまでの物語をさ。」

 そう言って涼花は内緒話をするように話し始めた。遠い昔、自分がこの身体に生まれる前、自分の母親から聞かされた両親の馴れ初めの物語を。


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