後編
「では、一列に並んで下さい!!」
ユマは大きい箱を取り出し、台の上に置く。
「この箱の中から一枚クジを引いて、番号を確かめて下さい」
クジは1〜25番まで、それぞれ2枚ずつあった。
『Moon Grave』には50人の能力者がいた。
その中でも強いヤツが生き残る、ということか……。
改めて紹介しよう。
俺は月崎翔夜。
この物語の主人公であり、案内人だ。
キミは前回の物語からこの物語へとやって来てくれた。
そう。それは、これから先の物語に付いてきてくれるという意味なんだね。
『Moon Grave』。
それは、“未来侍”の中でも特別な能力を持った団体。
50人居て、その中でもトップに値するのが“団長”だ。
団長は海原愉真。
指揮官でもあり、まだ10代だけどしっかりしたヤツだ。
俺はユマの次に偉い、“総長”というポジションに着いている。
でも、本当に俺が欲しいものは偉さ、ではないんだけどね。
他にも、個性豊かなメンバーがこの中に居る。
寝ながら返事したりする“組長”や“本部部長”。
気配りがいいのに、面倒くさがりな“副長”……みたいにね。
では、再び俺たちの世界へ案内しよう。
「俺は7番か」
縁起いいのか、それともただの紛れなのか。
そんなことはどうでもいいけど。
「僕は8番です」
そう言ったのは、団長のユマ。
こいつもこう見えて能力者なんだよな。
「ショウさんの次ですね」
そう言ってユマは微笑む。
「なんで僕は4番なのぉぉぉぉぉ」
そう叫ぶのは“本部副部長”、島川昇。
不幸の塊のような人物である。
「あれ? 6番? それとも9番!?」
そう言っているのは“本部部長”士牙龍紀。
確かに6番と9番は分かりづらいよな。
あ、6番だったらしい。
「俺は5番か」
そう言うのは副長の佐田十鬼。
トウキは俺に笑いかけると、さりげなく「負けるなよ」と言ってきた。
お前に心配されなくてもいいっつーの。
「では、順番に並んで下さい!!」
「えーと、7番のヤツは……」
隣を見ると、7番のクジを持った山本務。
“組長”の称号を持っているが、今はずっと震えている。
「なんで、なんでよりによっってお前なんだだよぉ〜」
「いや、なんでそこで震えるんだよ」
山本さんは何が怖いのか、自分から棄権を申し出た。
「いや、なんでそこで諦めるんだよ」
「だって! だってお前は強すぎるだろ!? 俺が勝てるワケねぇよ」
そう良いながら山本さんは何処かへ走り去っていった。
まったく、なんで不戦勝で終わるんだよ。
じゃあ、俺は別の試合でも見に行くか。
1番、“第1部部長”の月丘玖鞠。
ってもう勝っちまったのかよ!
相手は白目を剥いてブツブツと何かを言っている。
「くまりーっ! お前も勝ったのかよ?」
「ショウヤか。と、いうことはお前も?」
「ああ。と言っても不戦勝だが」
「あの山本さんがか? まったく……」
クマリはヴァンパイアのような能力を持っている。
でも、今は昼なので能力は使えないようだ。
どうやって勝ったのかは知らないが、相手を見る限り、コイツとは戦いたくないな。
「そういえば、双太のヤツはどうした?」
「確かそーたは2番だ。あいつが『化け狐』をつかってなきゃいいがな」
檜山双太。
化け狐のような能力を持ち、昼間に発動できるらしい。
んで、あだ名が『化け狐』なんだよな。
あ、そういえば、俺も『堕天使』ってあだ名があったな。
見た目で判断するなよ、クマリの野郎……
「あ!! あれはっ」
声がした方を見上げると、ユマが窓の外を指していた。
「なんだ また“ゴースト”か?」
ゴーストとは、現代の幽霊みたいなものだ。
でも、一つ幽霊とは違うことがある。
それは、具体化すること。
幽霊は普通目に見えないだろう?
でも、ゴーストはそこらじゅうに彷徨いているんだ。
俺ら『Moon Grave』はそのゴースト達を消去してやること。
簡単にいうと、成仏みたいなものかな?
「いや、あれはゴーストなんかじゃない!!」
「じゃあ何だって……」
その影は素早く動き、天井の窓を割り、ショウヤの目の前に降り立った。
「い イツキ……」
瀧原 伍樹。
俺の昔の戦友であり、
本当の、弟。
「また会ったな、ショウヤ。でも、お前には用はない」
イツキは長い剣を抜くと、その切っ先をユマに向けた。
「海原愉真。俺はお前に用があって来た」
その黒い刃にユマは息を呑む。
『鉄』と名付けられたその剣は、『銀』という剣に共鳴する。
そう、俺が『銀』の持ち主なんだ。
「イツキ。俺はユマを護るためにココに居るんだ。だから、その剣を下げろ」
『銀』が共鳴し、小さな火花を上げている。
抑えろ、『銀』。抑えてくれ
「もし、下げないと言ったら?」
「俺がお前を殺しちまうかもしれねぇ……」
イツキ、俺は本当の兄弟を殺したくない。
でも、本当に刃向かうというのならば、
「いや、葬り去ってやる!!」
「ショウさん!!」
ユマが必死になって俺を抑えようとしている。
その表情は、あの時と同じだ。
今から、5年前のこと……
「やめて!! やめてよっ」
耳元で子供が叫んでいる。
俺は何をしたというんだ?
「もうやめて。これ以上、殺さないで……」
はっとなって辺りを見回す。
目の前には、何処かで見たことのある男が倒れていた。
こいつは、ユマの、ユマの父親を殺した奴……
そいつは血まみれで死んでいた。
俺が殺してしまったのか?
両手を見ると、右手には白く輝く剣、左手には蒼い本が握られていた。
見たこともない、これは何なんだ?
「ショウさん、能力が発動してしまったんスね?」
後ろを振り返ると、巡回中だったリュウキとノボルが立っていた。
「のう、りょく?」
この剣と本が能力だと言うのか?
でも、俺には既にこの黒い翼が……
「ショウヤ、ちょっとこっちに来い」
「トウキ? 俺、なんで」
戸惑う俺を連れ、トウキは別の部屋へと入っていった。
「あれは一種の“カミサマ”と呼ばれる能力だ。お前に、そんな能力があったとはな」
「でも、俺は知らなかった。しかも、犯人を捕まえるどころか殺してしまった」
勝手に腕や足が震える。
トウキはそんな俺の手をずっと握っていてくれた。
「一度、ユマさんに言った方がいい。お前は本心で殺したんじゃない、と」
あの時と同じ目だ。
もし、あの時にトウキ達が入ってこなければ、ユマも殺してしまっていただろう。
邪魔な奴は殺す、そんな能力を持つこの俺に。
「せっかくの楽しい企画だったけどな、とんだ邪魔が入ったらしい」
その時現れたのは、俺との試合で自ら棄権した山本さんだった。
「山本さん!?」
ユマは一歩前へ出ようとしたが、リュウキやノボルに止められた。
「俺たちに任せろ、ユマくん。たとえ、ショウヤに敗れたとしても俺は“組長”だからな!」
山本さんは刀を抜くと、団員達に向かって叫んだ。
「ユマくんとショウヤを護れ! そして、瀧原を追い出すのだっ!!」
「追い出すとは、俺は邪魔者扱いされてるんだな」
イツキは団員達の波に呑まれ、見えなくなっていった。
「ショウさん、大丈夫ですか?」
こんな状況でも俺を心配するなんて、どれだけ心配性なんだよ。
「悪いな、こんな時までお前に迷惑かけちまって」
「いいえ。僕はショウさんが無事でいてくれるのならそれだけで十分ですから」
どれだけ俺を信頼しているんだ? コイツは。
「とにかく、俺はお前を別の部屋に隠す。そのあとは、自分でできるよな?」
「……」
「ユマ!! お前はそれでも団長なのか?」
「僕は、自分が好きで団長になったんじゃない。父上が、父上が死んでしまったから」
「……っ!!」
もう、これ以上思い出させないでくれよ。
本当は、お前の父親を、
俺が殺したのなんて……
「早く出て行け! 瀧原ッ!!」
山本さんは怒鳴り、大きく刀を振るう。
イツキはそれを簡単に避け、天井へと昇っていった。
正確にいうと、天井へと羽ばたいた。
「“白き悪魔”。その能力は本当だったのか」
山本さんは一度目を閉じた。
それと同時に、辺りは白い世界へと変化していった。
「『空間を呼ぶ刀』。それが俺の能力よ」
「僕は『時を呼ぶ翼』です。二人合わせたら時空、になりますね」
ノボルも後ろから顔を出す。
それと同時にノボルの姿が変化し、人間になっていった。
「久しぶりに見たな〜。ノボルの人間の姿」
リュウキもイツキに刀を向けつつ、二人のもとへ寄った。
「さぁて。ノボル、リュウキ 行くとするか!!」
山本さんと共に二人はイツキの元へと走った。
俺はユマを置いて、一人慌ただしい教団の中を走った。
たまに目に映る飛び散った血の後を見ると、とても心が痛む。
もう、これ以上無駄な犠牲を出したくはない。
犠牲なんて……
俺一人で、十分だ!!
「山本さんっ!!」
大広間まで来たとき、初めに目に映ったのは山本さんだった。
所々に切り傷があって、柱に寄りかかるように倒れていた。
「いい加減にしてくれよ、イツキっ」
俺は剣を振り上げ、大広間の中央へと向かった。
周りに倒れていた団員の中にはリュウキやノボルといった、仲の良い団員達もいた。
アイツはどうしたんだ……?
倒れている団員の中にトウキの姿がない。
と、いうことは、まだ戦っているのか!?
ああ見えて意外と優しいヤツだ。
間違いない。まだ二人とも生きている!!
俺は何も考えずに走り続けた。
「そろそろやって来たか」
イツキは通路の方を向いた。
「フン! 今頃来たってなにも変わりはしない!」
トウキは血まみれの相手の剣を見て、自分達は負けていることを改めて悟った。
「正直、俺にとっては有り難いがな」
そのセリフと共にトウキの後ろから何かが飛び出た。
イツキはそれを見て、目の色を変える。
それとは、自ら姿を変えた、
俺の、姿だった。
「『最後の判断者』。それがお前の真の姿か」
「お互い、変な姿じゃねぇか」
イツキは腕や胴体に竜のような模様を付け、
俺はカミサマのような服を纏った。
「じゃあ、お手合わせお願いできるか」
「ああ。お前と一度ぐらい真剣に戦ってみたかったからな」
二人が剣を構えた時、空に稲妻が走った。
そういえば、ユマが言ってたな。
ふと思ったとき、空から大粒の雨が落ちてきた。
「アイツの空間移動も効かなかったみたいだな」
「山本さんは能力の使い手じゃないからね。俺と違って優しいし」
「じゃあ、お前は何だというんだ?」
俺は、
残虐な堕天使だよ
やけに響いたこの一言。
でも、すぐに雨にかき消された。
「『堕天使』。昔のお前によく似合う言葉だ」
イツキは少し笑みを浮かべると、俺目がけて剣を横に振るった。
目の前まで迫った斬撃を避ける気もなかった。
ホントは、お前との戦いなんて避けたいよ。
だから、俺が負けようがどうでもいいんだ。
たとえ、命を落とそうとも……
お前を、護ってやりたかった。
本当の兄弟として。
「ショウさんっ!!」
聞き覚えがある、この声。
えーと、誰だったっけ?
あ! この声は、
俺の飼い主、その名は
「ユマ……?」
気づいたとき、俺はユマの腕の中にいた。
「もう、心配掛けてっ! ペットが死んだら僕はどうするんですかっ」
「ペットって何だよ?」
「僕はあなたの能力を飼ったんです。覚えてますか?」
「あ、ああ。そうだったな」
そういえば、イツキは何処へ行ったんだろう。
他の団員達は無事なのか?
そう考えているうちに、だんだんと目の前が暗くなってきた。
ユマの叫び声を聞きつつ、意識がなくなっていくのが分かった。
結局、教団は一部が破壊され、みんなで修理することになった。
他の団員達も皆軽傷で、イツキがどれだけ手加減したのかが分かった。
ホントは良いヤツなんだ。アイツも。
え? まだ分からないことがあるって?
俺の本当の正体??
そんなのを知りたいのか?
それは……
とある教団の守り神であり、とある人間のペットであるだけさ。
おしまい。
ここまで読んで下さってありがとうございました!!
この小説を書いているうちに自分でも気に入ってしまったので、これからは『Moon Grave』の連載もしていきたいと思います。
本当にありがとうございました。