黒革風鞄と奇妙な女達(二〇一九年八月十一日)
こんにちは、葵枝燕です。
連載『夢日記』第九回でございます!
この作品は、何か面白い夢見た、これは誰かに伝えたい、記録に残しておきたいーーそう個人的に思った夢を、書いていくものとなっております。
今回は、二〇一九年八月十一日に見た夢です。何ていうか、妙に記憶に残った夢だったので、朧気な記憶さぐりながら書いてみました。
なお、本文中に出てくる「全国展開している衣料品チェーン店」について、夢の中では普通に実名(?)を言っていたのですが、色々諸々考慮して「◯◯◯◯」と表記しています。まぁでも、おそらくは文字数で察してしまいますよね。とりあえず、「◯◯◯◯」様にはお世話になっております。
そんなわけで。『夢日記』、今年は初めて、そして、久々の更新でございます。
もしよければ、私の見た夢の話にお付き合いくださいませ。
その日も、動画サイトで色々と動画を見て、気が付いたら深夜一時を過ぎていた。最近は、こんなもんだ。なかなか寝付けなくて、というか、寝ようとすら思えなくて、遅くまでスマートフォンを触っている。これではだめだと思いながら、なかなかやめられないのだから、本当に恐ろしいものだ。
スマートフォンを枕元に放ってから、タオルを被り直す。
そして、こんな夢を見た。
私は、バスから降りた。降り立った場所は、隣村にある大型ショッピングモールの敷地内に設置されたバス停だ。オープンして数年、常にアジア圏の観光客であふれてはいるが、オープン直後の賑わいは薄れつつある。閉店したお店も目立つようになっているくらいだ。
私は、メインゲートから店内に入ろうと歩き出した。そのときだった。見知らぬ女に話しかけられたのだ。
「すてきな鞄ですね!」
私と同い年か少し年上に見える若い女だった。髪は、私より少し長めのボブで、私より明るい茶色に染めている。少し目立つ見た目に反して、化粧っ気は薄く、顔のあちこちに黒子が目立つ。茶髪ボブヘアの女は、私が左肩からかけている黒革風の鞄を見つめていた。それは、私がお出かけの度に持っているお気に入りの鞄だった。私は、茶髪ボブヘアの女の言葉に対して、曖昧にぎこちなく頷くしかできなかった。元々人見知りが激しく、初対面の相手と話すことが苦手なためである。それでも、お気に入りの鞄を褒められたことは、素直に嬉しかった。
「どこでお買いになったんですか?」
ブランド名を言うかと思ったら、茶髪ボブヘアの女の口から飛び出したのは、全国展開している衣料品チェーン店ばかりだった。私は、あまり憶えていなかったので、
「多分、◯◯◯◯だったと……」
と、ボソリと答えた。茶髪ボブヘアの女はさらに目を輝かせて、
「◯◯◯◯、いいですよね!」
と、言う。そのときだった。私の鞄に手を伸ばす別の女が現れたのだ。その女は、目の前にいる茶髪ボブヘアの女と違い、暗い印象のある女だった。
暗い印象の女は、無言のまま、私の鞄を物色し始めた。鞄表面を触り、外ポケットの中をさぐり、ファスナーを開けて中をいじくり回した。私はその間、暗い印象の女の得体が知れない行動に、困惑して動けなくなり、何もすることができなかった。
ひとしきり物色して気が済んだのか、開けたファスナーをそのままに、暗い印象の女は茶髪ボブヘアの女に向かって軽く頷いた。茶髪ボブヘアの女の笑顔が強くなる。
「もしよろしければ——」
目を覚ますと、既に夜は明けていた。今日は山の日、祝日で休みとはいえ、おそらくもう午前十一時を過ぎているだろう。さすがに寝過ぎだ、家族からそろそろ怒鳴られるかもしれない。
そう思いながらも、なかなか起き上がれない。タオルにくるまって、またもう一眠りしようとする。
そして、あの二人の奇妙な女達を思い出した。
私の鞄を褒めた茶髪ボブヘアの女と、私の鞄を無言で物色した暗い印象の女。おそらくあの二人の目的は、私の鞄を自分達のモノにすることだったのだろう。大手の衣料品チェーン店で買ったあの鞄の何が、あの二人をあそこまで引き付けたのか——夢から醒めた今となっては謎のままだ。
「そろそろ起きなさーい!」
廊下の向こう、母と姉が一緒に寝ている寝室から、母の声がする。やはり、そろそろ起きないとまずいことになりそうだ。
私は、重い身体を何とか起こして、階下に降りるべく部屋を出たのだった。