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夢日記  作者: 葵枝燕
二〇一八年
7/19

見知らぬはずの男(二〇一八年一月八日)

 こんにちは、葵枝燕です。

 連載『夢日記』第七回でございます!

 この作品は、何か面白い夢見た、これは誰かに伝えたい、記録に残しておきたいーーそう個人的に思った夢を、書いていくものとなっております。

 今回は、二〇一八年一月八日に見た夢です。久々に、夢を見た気がします。寝る時間を削ってゲームをしているのが悪いんですけどね。ただでさえ朝が弱いのに、起きられないという悪循環が続いています。

 そんなわけで。もしよければ、私の見た夢の話にお付き合いくださいませ。

 一階で、冷凍肉まん一個と、ポテトチップス、七個入りの丸いクリームパンを二個、おやつとして食べる。おやつを間食とするならば、カロリーオーバーな気がするし、そもそも炭水化物の摂りすぎな気もするのだが、腹に収めてしまったものは仕方がない。

 おやつを食べ終わり、十六時を過ぎた頃、二階の自室に引き上げる。外が生憎の天気の所為か、それとも単にカーテンを閉め切っている所為か、室内は昼間だというのに薄暗い。電気を点けて、常時引きっぱなしの布団の上で、うつ伏せになって一冊の本を開いた。その本、厚さは約五センチという、凶器的な本である。手に持って読むには、あまり向かない代物だ。しかし、開いたはいいが、襲ってきた睡魔に勝てなかった。私は本を閉じ、目を閉じる。


 そして、こんな夢を見た。


 私は、母、姉、母方の祖母と、四人でとある場所を訪れた。そこは、病院のようだった。白い壁に囲まれている。

 看護師らしき女性に案内されて、私達は建物の中を進む。その最中、武器を持った黒ずくめの男が何人かいるのが気にかかった。彼らは、目以外を黒布で覆っていて、注意深く辺りに睨みをきかせている。案内役の看護師の指示もあり、私達はその男達とは目を合わせないようにしていた。そして、ある部屋へと足を踏み入れた。

* * * * *

 役目を終えて一階へと降りる。白い壁に囲まれていた上階と違い、そこは焦茶色の木の壁に囲まれていた。修道服を身につけた女性がドアの近くに立っている。

(なるほど。ここは、病院と教会が一緒になった場所なんだな)

 そんなことを思いながら、私達は警備員らしき男性に頭を下げつつ、ドアを開けた。

 そして私は、ドアの向こうにいた誰かと危うくぶつかりそうになった。

「ごめんなさい」

 そう言って、顔を上げて、私は凍りついた。

 そこにいたのは、少し襟足の長い髪をした一人の男。歳は、若く見積もって二十代後半、多く見積もっても三十代前半だろうか。目の前に立たれると、小柄な私には壁のように思えた。顔立ちや体格を見ると、おそらく日本人ではないようだ。

 私は、その男に見憶えがあった。そして、瞬時にこう思った。

(殺される……っ!)

 それは、どうしようもないくらいに確かな直感だった。そして、この男から逃げることは不可能だとも感じた。

 この男は、人間の(なり)をした、人ではないナニカだ。人知を超えた、有り得ないほど圧倒的な強さを持った、そんなバケモノなのだ。

 それは、絶望的な直感だった。私は、目の前にいる知らないはずの男に、必ず殺されるのだと、そう感じてしまったのだ。

 そのときだった。男は意外な表情を浮かべたのだ。

(え……?)

 私を殺すはずの男が、垣間見せた表情。それを何度も再生して、その度に私の頭は疑問符で埋まる。

 男は、これ以上ないほどに、哀しい表情をしていたのだ。

 それでも私は、男に抱いた恐怖を思い出す。

「早く」

 その後に続いたのが、“行こう”だったのか、“逃げよう”だったのかは、わからない。でも、このままここにいたら、この男に殺されることだけは確かだった。

 その場になぜか父がおり、私達は駐車場に停めてあった車に乗り込んだ。

「お父さん、早く! おばあちゃん、ドアの鍵閉めて!」

 私は、そんなことを叫んだ。ドアの鍵のかけ方がわからないのか戸惑う祖母に変わって、姉が鍵をかける。

 そのときだった。あの男が、隣の建物の門前に立ち、何かを叫んでいるのが見えた。

「ヤバい!」

 増援を呼ぶつもりだと、確信した。

* * * * *

 車は、道をひた走る。私は、チラリと後方に目をやり、息を飲んだ。

 あの男が、追いかけてきていた。

「追いかけてきてるよッ!」

 そんな私の言葉に、父が驚くべきことを告げる。

「時速百キロメートルで走ってるんだぞ!?」

 それは、普通の人間なら到底有り得ないことだ。時速百キロメートルで走る車に、追いつきそうな速度で走ってくる――そんな人間が存在するはずはない。

 男は、車体を(つか)んだり、石を投げてリアガラスを破壊したりしてきた。その度に、男を振り落として、私達は逃げようとする。

 だが問題は、そこだけに留まらなかった。

 男は、有り得ないほど頑丈だったのだ。振り落としても普通に追いかけてくるのは、まだ予想の範疇だった。それだけではなく、川に落としたときは、コンクリートの地面を突き破って、私達の乗る車の右後方から出現したのだ。てっきり泳いで追いついてくると思っていた私達は、その人間では有り得ない身体能力に驚きと恐怖を募らせた。

* * * * *

 やがて、車は緩やかな左カーブに差し掛かった。執拗に追ってくる男の気配は、なぜか薄れていた。

(逃げきれる。よかった)

 そう安堵したのも束の間、カーブの先は大渋滞となっていた。長蛇の列が続いている。

 その列が、ようやく動き出したときだった。

「何、この音」

 カラカラという、音がした。例えるなら、オフィスチェアのキャスターのような音だ。そんな音が、後方からする。

 私はそっと、振り返った。そして、驚くことになる。

 カーブを曲がってきたのは、黒々とした巨大な戦車だったのだ。


 そんなところで目が覚めた。スマートフォンで時間を確認すると、十八時になっていた。二時間ほど寝ていたらしい。十八時から放送する特番をみるために、十七時半には風呂に入ろうと思っていたのにと、そんなことを思った。

 のどに痰が絡んでいるのか、ひどく息苦しい。そんな状態のまま、夢で見た男を思い出す。なぜか、追いかけてきたときの恐ろしい笑顔を浮かべた顔ではなく、一瞬見せた哀しげな表情が頭に浮かんだ。

 私に、外国人の知り合いはいない。それならば、あの男は赤の他人であるはずだ。しかし私は、あの男を知っていた。前にも、夢の中で出遭っていたのだ。そしてそのときも、殺されかけたような気がする。

(変な夢……いや、こわい夢)

 未だ頭に残る恐怖に支配されつつ、私は何度も唾を飲み込んでいた。

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