燃えていく(二〇一七年五月二十三日)
こんにちは、葵枝燕です。
連載『夢日記』第四回でございます!
この作品は、何か面白い夢見た、これは誰かに伝えたい、記録に残しておきたいーーそう個人的に思った夢を、書いていくものとなっております。
今回は、二〇一七年五月二十三日に見た夢です。明るくないです。
もしよければ、私の見た夢の話にお付き合いくださいませ。
こんな夢を見た。
まだ明けきらない夜の気配。私は、裸足のまま背後を振り返った。腕には、古びた一枚のタオルケットを抱いている。
爆発音とともに、赤い炎を上げる黒い影が見える。飛んできた巨大な火の粉は、火の粉なんていう生易しいものではなかった。それはまるで、赤く燃える大きな弾丸のようだ。
燃える弾丸は、家々に刺さっては、次々と呑み込んでいく。何軒もの家が炎に包まれた。
そしてついに、私の家にも火の粉が飛んできた。あっという間に、真っ赤に包まれる薄い青緑の一軒家を、私は呆然と見つめるしかできなかった。
「早く逃げるよ!」
そう叫んでいたのは、母だったのだろうか、姉だったのだろうか。
* * * * *
気が付くと、私は木の上にいた。横には、ボーッとどこかを見つめている姉がいた。
「燃えちゃった」
誰にともなく、私は呟いた。目に浮かぶのは、燃えていく自宅の光景。
家が好きかと言われると、返答に窮す。ここ最近は、自宅に帰るとドッと疲れてしまうことの方が多かった。それでも、あの家は、十数年を過ごしてきた、その思い出の詰まった場所だったはずだ。
「ぴーつも」
ピンク色のイルカのぬいぐるみの愛称が口をついて出た。くたびれて、少し黄ばんで、綺麗とは言い難かった、あのイルカのぬいぐるみ。本当は“ぴーち”という名前なのだが、いつの間にやら“ぴーつ”という呼び名が定着してしまった、あのさらふわな触感のぬいぐるみ。
「燃えちゃったね」
見た目を、手触りを、何とか思い出してみる。炎に呑み込まれ、今はきっとカタチをなくしてしまっていることだろう。黒焦げになったぴーつの姿が、浮かんでしまう。
あの騒ぎの中、私が持ち出せたのは、たった一枚のタオルケットのみだった。大切なものは、たくさんあったはずなのに、なぜタオルケット一枚だけしか救えなかったんだろう。なぜ、他のものではなく、あのタオルケットだったんだろう。
「ごめんね……」
どれだけ並べても足りない言葉を、そうやって吐き出すしかなかった。そんな自分が、ひどく惨めなものに思えた。
そんなところで、目が覚めた。廊下の向こう、母と姉が一緒に寝ている部屋から子機の着信音がする。私と姉を起こそうと、母が階下の親機を使って鳴らしているのに違いなかった。いつもの騒がしい、朝の気配だ。
間を置いて、赤い炎が飛んでくる光景を、燃えていく我が家を、思い出した。そして、あのとき呟いた名前も。
視線を動かすと、そこにピンク色のイルカのぬいぐるみがいた。どこかくたびれた様子で、ポテッとなっている。見慣れた、ぴーつの姿だった。
夢で、よかった――……。
ぴーつの頭を一撫でする。そうして私は、眠気を完全には克服できていないまま、立ち上がって一階に下りたのだった。