フクロモモンガ着ぐるみ女と仕事しない通信司令室(二〇二〇年八月十一日)
こんにちは、葵枝燕です。
連載『夢日記』第十回でございます!
この作品は、何か面白い夢見た、これは誰かに伝えたい、記録に残しておきたいーーそう個人的に思った夢を、書いていくものとなっております。
今回は、二〇二〇年八月十一日に見た夢です。なんていうか、そう、変な夢だったんですよね。
前回が二〇一九年八月十一日なので、ちょうど一年ぶりの更新ですね。
そんなわけで。『夢日記』、今年は初めて、そして、超久々の更新でございます。
もしよければ、私の見た夢の話にお付き合いくださいませ。
その日も、母と姉が寝ている部屋で、NHK-Eテレでやっている二十三時五十五分放送の五分間番組を見てから、自室に戻る。部屋に戻ると、電気を消した。しかし、すぐには寝ない。スマートフォンに入れている某刀剣擬人化ゲームにログインし、配布された六十二振りのキャラクターをお迎えして、イベントを少し走ってから、ようやくスマートフォンを手放す。
ここまでで、既に午前一時を過ぎている。
そして、こんな夢を見た。
私は、Y中学校沿いの道を歩いていた。正確な時刻はわからないが、おそらく昼間だったのだろう。そこは、約十年前、私が通っていた母校であった。
通りに面したそこは、職員用の駐車場なのだが、私はそこで不審な人物がいるのに気が付いた。
フクロモモンガと思しき着ぐるみを着たその人物は、駐車場の隅、フェンスのすぐそばに停められた車の周りをウロウロしている。私は思わず、
「何してるんですか?」
と、声をかけていた。同時に、そうした自分に驚いていた。人見知り、かつ、積極的ではない私が、見ず知らずの、しかも、不審な行動と恰好をする人物に声をかけるなど、実際ならありえないことであったからだ。
しかし、フクロモモンガ着ぐるみの人物は、私の声に何の反応も見せない。声は聞こえているはずなのだが、特に何も反応はない。
やがて、フクロモモンガ着ぐるみの人物は、車の横にしゃがみ込み、タイヤに何かし始めた。左後輪が終わると左前輪へ、そこが終わると右前輪へと向かった。
(まさか、タイヤをパンクさせてる……?)
そう思っていると、フクロモモンガ着ぐるみの人物は、隣に停めてあった車のトランクを開け、着ぐるみを脱ぎ始めた。胸元くらいまでありそうな、脱色したようなオレンジ色の髪をした、女の顔が露わになった。
(つ、通報しないと……!)
その場でフクロモモンガ着ぐるみ女にもう一度声をかけるほど、私は強くはなかった。だいいち、口封じされるかもしれないではないか。私は、女が着ぐるみを脱いでいた車の写真を撮り、女が何かしていた車の左前輪を見て、確かにパンクしていることを確認してから、その場を離れた。
* * * * *
私は、少し離れたところにある坂道へとやって来た。Y中学校とY小学校を隔てる、赤色の坂道だ。
スマートフォンを取り出し、一一〇番を押す。何コール目かして、少し高齢と思しき男性の声がした。
が、その電話の向こうの相手の様子が変なのだ。まず、名乗らない。そして、こちらの話を聞かず、一方的に話している。
そして、その相手が言うには、通信司令室は今日は休みなのだという。
そんなバカな——と思いながらも、パニックになっていた私は、つい先ほど見たことを相手に伝えられない。“タイヤをパンクさせているところを見た”というキーワードすら出てこない。それどころか、相手は相変わらず私の話を聞かずに、『日をあらためて電話して』と言ってくるため、よけいに混乱に陥っていた。なんとか、
「ちょっと待ってください。思い出すので」
と、相手のマシンガントークを一時停止させ、キーワードを導き出そうと頭をフル回転させる。
そして、ようやくキーワードを導き出し、
「車のタイヤをパンクさせているとこを見たので通報しているんですが」
と、伝えることができた。
電話の向こうの相手は、それは大変だと思ったのだろうか、『すぐに出動させます』と言ってくれた。
(そういえば、場所伝えてないや)
ふと、それに気が付いた私は、
「場所伝えた方がいいですよね?」
と、訊ねた。電話の向こうの相手は、『そうですね。少し待ってください』と答えた。
しかし、それきり、相手から何の反応もなくなってしまった。待てども待てども、電話の向こうは無言であった。
目を覚ますと、夜は明けていた。スマートフォンのロック画面を確認すると、午前六時四十分過ぎ——普段なら起きる時間だが、今日は火曜日、定休日である。あと三時間は余裕で眠れるだろう。いや、むしろ寝たい。
消えてしまっていた扇風機のスイッチをオンにしながら、夢で見たモノを思い出す。
フクロモモンガ着ぐるみ女は不審過ぎるし、一一〇番に出た男性はこちらの話を聞いてくれないし——一体何だったのだろうか。そもそも、一一〇番の通信司令室が休みなんて、そんなバカなことは実際ありえないだろう。そんなんで非常事態に対応できるわけがない。
私は、タオルに包まって、二度寝を決め込むことにしたのだった。