ぴかぴか
闘技場がすごく騒がしくなってくる。
すごくでっかい建物らしいのだけど、それを揺らすくらい大きな声。
みんな興奮してる。
遠くから人の話し声が聞こえた。
今日最後のけんとうしさんだ、鎧がピカピカしている。
すごく大きな剣を背負っていて、体も筋肉ばかりだ。
今日の2人よりとても強そうに見える。
ぼーっと眺めているとピカピカのお兄さんが話しかけてきた。
「やあ、久し振りだね。相変わらずだね君は」
ん? 前に会ったのかな?
全然思い出せない。
「うん? 前にも会いましたっけ?」
素直に聞いてみる。
子供の特権だ。
「うん、これで6回目だ。☓☓という。いい加減覚えてくれないか、こちらも面倒だ」
☓☓さん。
☓☓さん。
よし覚えた。
「☓☓さんですね、お久しぶりです。元気してましたか?」
と言ったら笑いながらおでこをコツンと殴ってきた。
「調子がいいな相変わらず」
そう言われても思い出せないんだもの。
こう言うしかないじゃない。
「6回目ということは随分勝ってるんですね」
「まあな、俺は強いからな。というか君は俺の勝った姿を毎回見ているはずだが」
「そういえばそうですね。毎回かっこいいですよ」
また殴られた。
うーん、私が覚えていないのがいけないのかなあ。
でも毎回忘れられているのにこの人は優しい。
勝者の余裕?
「☓☓さん、死ぬのと生きるのってどっちが楽しいんですか?」
扉を見ていた彼の目が急にこちらを向き、私はびっくりして椅子から転げ落ちそうになった。
「今日は突飛な質問するな、何かあったのかい?」
「いえ、なんとなく気になっただけです」
そう、なんとなく気になっただけ。
別に意味なんて無い。
会話しなくてもいいなら別に聞いたりしないと思う。
「気になっただけねえ……」
言葉をなぞるようにつぶやいている。
何か彼の気にかかるようなこを言ったんだろうか私は。
「俺の立場だから言えるが生きるのも死ぬのも辛いと思う。ただ死ぬような状況で生き抜くことができると楽しいと思うよ」
「けんとうしさんらしい答えですね」
これが戦闘狂? ってやつなのかな。
ここにくる大人達はちょいちょいこういう人がいる。
「じゃ逆に質問するよ。君は生きるのと死ぬのどっちが楽しいと思うんだい?」
どっちが楽しい?
自分が質問をしといて何も考えていなかった。
生きるのも別に楽しいとは思わないし。
死ぬのは痛そうだから嫌だ。
でも生きたいって思ってるわけじゃない。
死んでもいいと思ってるのかな?
死ぬと天国に行くって言うけどほんとかな?
天国ってなんだろう?
天国に行っても意識はあるのかな?
だったら死んでも辛いままじゃないのかな?
おっさんの声がした。
試合が始まるみたいだ。
ぴかぴかさんは腰を上げ、扉に向けて歩いていた。
何か言わなきゃと思ったけど、その前にぴかぴかが背中越しに言う。
「お前の歳じゃ分からねえだろ。俺でもよく分からねえよ。ま、頑張りな」
扉がしまりぴかぴかの姿が見えなくなった。
なんだか不安になってくる。
ぴかぴかなら何か答えを持ってるかも。
持ってなくてもヒントくらいはもらえるかも。
何が不安なのか分からない。
何か分からないことが不安なのかな?
不安ってなんだろう?
死ぬこと?
じゃあ死ねば不安はなくなるのかな?
でも死ぬとどうなるのかわからない。
どうすればいいんだろう。
その日ぴかぴかは扉から返ってこなかった。
今日できた友達、2人。
今日できなかった友達、1人。