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死というお仕事  作者: 水奈
2/3

がりがり

 毎日色んな人が来る。


 笑っている人

 怒っている人

 怯えている人。



 今日の人は怯えている。

 両手両足に鎖が付けた、がりがりの男が屈強な男に連れられてやってくる。



 「こんにちわ。けんとうしさん」


 できるだけ警戒させないように慎重に声をかける。

 そうしないとひどいことされちゃうかもしれない。

 だから優しく言う。


 「…………」


 すごく不思議そうにこっちを見てくる。

 目を見開いたその顔に少しだけ怖くなった。


 「君は……誰だ? 何者だ?」


 そう言うとあたりをきょろきょろ見回している。

 とても不安そうに何かを探すかのように。


 もしかしたら救いを求めてるのかも。


 「私は準備が終わるまであなたと話すの。話し相手。だからこっちに来て一緒に話しましょ」


 彼はきょとんとして、その後何か納得したようにこちらに笑みを向けてきた。

 うん、大丈夫だ。

 怖い人じゃなかった。


 「話し相手か。うん、話をしよう。気が紛れるよ」


 片膝をつき上目遣いで私を見据える。

 それは彼の癖なんだと思う。

 彼はここに来ても縛られたままなんだ。

 彼のその目は何かを諦めたようであって。

 とても澄んでいた。


 「あなたは何か欲しいものがある?」

 

 「欲しいものか……考えたこともなかったな……」


 「そう、おなかいっぱい肉が食べたいとか、甘いもの食べたいとかでもいいのよ?」


 視線をそらし、がりがりのこの男は馬鹿にしたような笑いをしている。

 ちょっと怒りかけたけどやめておいた。

 笑った相手は私じゃないんだと思ったから。


 「私は天国に行けるのだろうか」


 「死ぬと決まったわけではないでしょ?」


 「天国ではいい人生遅れたらいいなあ……」


 「そう……いい所だと思う、きっと行けるわ」


 「うん、ありがとう。君がいてくれて助かったよ」


 「どういたしまして」


 扉の前のおじさんの合図を聞いてがりがりさんが扉に向かっていき、消えていった。


 

 なんで生きるのを諦めているんだろう。

 もしかしたら生き残れるかもしれないのに。


 まるで生きてる未来が想像できないみたい。


 死んだほうが救われるのかな?

 私も死んだほうが楽になるのかな?

 死んだらお父さんとお母さんに会えるかもしれないけど顔も知らない。


 うん、考えても無駄。

 死んでみないと分からない。




 がりがりさんが帰ってきた。

 私はいつものように語りかける。

 いつもの独り言。




 「がりがり、頑張ったね。いい試合だったよ」


 がりがりの顔が見える。

 笑っているように見えた。


 「またね、天国で楽しく暮らしてね」


 

 彼はこれで満足だったんだろうか。

 本人に聞かないと分からないや。



 今日できた友達、2人。

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