最深部の一歩手前で
副題は、ここで再登場
なんということもなく巨大なゴーレムを片付けた一行はそのままデカブツが守っていた通路の先へと進む、その先でいくつか罠やら何やらがあったのだがやはり彼らの行く手を阻むには何もかもが足りなかったので割愛させてもらう。まあそんな感じで快進撃を続けていると最深部までもう少しというところまで来た。
「もう少し、かな?」
「ああ、もう少しで最深部へと至る階段がある。そこを下れば目的地はすぐそこ…、ふむ」
そんなことを喋っていた一行であったがピタリとその足を止める、視線は通路の先の曲がり角の向こうのあたりに向いている。…ノエルを除いて、だが。彼女だけは急に足を止めた他の皆に目をぱちくりとさせている。
「おや、この気配は…」
「ん? どっかで覚えのある気配だな、こいつは」
「え? 皆さんどうかしたんですか?」
「この先に何某かの気配がするんじゃよ、主殿たちの知り合いかの?」
「誰だったかな…?」
ソフィアの質問にユウは首を傾げる、一応知っているはずなのだがいつものように思い出せない、もしくは忘れてしまっているのだろう。
「相変わらずだね、君は」
「我が友は彼女と縁が薄いから仕方ないだろう。テーリアだ、友よ」
「テーリア? …ああ、彼女か。でももう一つ気配があるな」
気配の名前を聞いてユウもようやく思い出したようだ、ただそれ以外にも気配を感じるのはどういうことだろうか。こちらはもう一方とは違い確実に知らないものだとユウでも断言できる、彼よりは記憶力に自信があるナルも同様で少し首をかしげている。
ただケイだけはその気配の正体を知っていた、いや、正確に言うと正体は知らないか。王都で彼女と再会した時に気配だけは感じている、おおよそ彼女の関係者なのだろうと彼は判断しているが実際間違っていないのはさすがと言うべきか。
「彼女の関係者だな、会っては居ないが気配は感じたことがある」
「どうする? 彼女なら会って即戦闘にはならないと思うけど」
深い付き合いは無いし彼女のそれやら何やらを踏まえると普通は戦闘に入ってもおかしくはないのだが、それ以外の色々もあるのでまあたぶんよっぽどのことが無い限り喧嘩を売られることは無いだろう。もっとも買うことになったとしてもおそらく勝てるだろうが、ユウやケイはともかくナルとしては心情的にあまり戦いたい相手でも無い。
「そうだな、このまま進むか。どうやらあちらもこちらに気がついているようだからな」
「んじゃ行くかね」
とりあえず会ってみる、そういうことにして一行は曲がり角の先へと足を進める。適当なようにも思えるがそれは何が起ころうとも対処できるという自信の表れでもある。なので一応ソフィアとノエルは警戒しつつ、ナル達三人は見た目上はまったく警戒せずに通路を曲がってみると。
「…やはり、貴方たちだったか」
予想通り、そこにはケイが王都で会った女性、テーリアが居た。それと知らない顔の男性もおり、苦笑しているテーリアと違い彼はあからさまにナルたちを警戒している。
「王都ぶりだな、テーリア」
「そうだな、まさかここで会うとは思っていなかった」
「そういえば君達は王都で会っていたんだったね」
「そういやそんなことを言っていたな」
「ああ、そうだな。…久しぶりだな、ユウ、…ナル」
そう言って二人へと視線を向けるテーリアだが、ケイやユウへのそれと比べるとナルの声を呼ぶ声は若干弾んでおり顔にも軽く笑みが浮かんでいる。
「うん、久しぶりだね、テーリアさん」
「変わらず息災のようで何よりだ、ナル」
「君もね」
「お前さんも変わらないねえ」
「貴方も相変わらずだな、ユウ」
「そりゃ変わらんさ、んで? そちらさんはどちらさん?」
「…」
そう言ってユウはテーリアの傍に控えている先ほどから一言も話さない男に視線を向ける、へらへらとしているがその実多少の警戒はしているのだろう。他の面々の注目も集めている男の方はテーリアに意見を求めるように視線を向け、テーリアが頷いたことを確認して軽く頭を下げながら口を開く。
「クロブチ、と申します」
「私の仲間だ、そちらこそ知らない顔がいるようだな?」
「む、妾かの。ソフィアじゃ、以後よろしくのう」
「テーリアだ、よろしく頼む」
「私は前に名乗りました、よね? あ、でもそちらのクロブチさんには名乗っていませんね。ノエルといいます、ケイさんの弟子です」
「…よろしく頼む」
自分のことかと察したソフィアが名乗り、テーリアとは面識のあるノエルもクロブチの方とは面識が無いので一応挨拶をする。ノエルは知らないがクロブチは彼女のことを知っているのでその必要は無かったりするのだが、まあケイが教えていない以上自然な流れであろう。
「ところで、だ。私達はこの遺跡攻略の依頼を受けて行動しているのだが、君達は何故ここに?」
「む、それは…」
知っているものからすれば多少茶番じみた挨拶も済んだところでケイがそう切り出す、自分から理由を名乗ったのは話の円滑化のためであろうか。しかし対するテーリアは少々困ったような顔を浮かべている。
「…」
「お?」
そしてクロブチにいたっては無言で腰元の剣に手を近づけており、それを見たユウは面白くなってきたと言わんばかりに口角を上げて軽く構えを取る。ナルとケイは少なくとも表面上は一先ず待ちの姿勢に入っているようだが、ノエルは分かりやすく、ソフィアも若干ではあるが警戒を強めている。それを確認したテーリアはクロブチの行動を嗜める。
「待て、クロブチ」
「テーリア様」
「彼らと敵対する利が無い、と言うより敵に回すわけにはいかない。だからお前は下がっていろ、ここは私に任せておけ」
「…分かりました」
不承不承、なのかも知れないがとりあえずクロブチはその場は引き下がる。それを見てソフィアたちは一先ず警戒を解き、ユウはつまらなそうに肩をすくめナルに窘められている。
ユウたちが下がってくれたことに表面には出さないものの内心テーリアは安堵していた。確かにいくらか力には自信があるものの、この場で戦えばまず間違いなくこちらが負けることは決定的な以上絶対に敵対したくない。クロブチは知らないがテーリアはナルたちの力の一端を見たことがある、その一端だけで勝てないと悟ってしまったのだ、絶対に彼らには勝てないと。なのでよっぽどの理由が無い限り彼らに喧嘩を売るわけにはいかない、…他にも個人的な理由もなるが。
「ふむ、何やら事情でもあるのか?」
「ああ、少々な。さて、どう説明したものか…」
そう言ってテーリアは考え込み、しばしの沈黙の後口を開いた。
はい、今回はいつもより短いです、申し訳ありません。大枠はともかく細かいところはふわっとした作品なので結構アドリブで適当に書いています、この二人が出てきたのも思い付きですしね。ではまた。




