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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第五章:勇者の召喚
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遺跡の益

副題は、名乗れない人


 ギルドマスターに連れられて辿り着いた奥の部屋、そこは応接室ではなくギルドマスターの執務室であった。何でも人数がちょっと多いために応接室だと座る場所が無かったとのこと。そのためギルドマスターは自分の机の椅子に、ケイ達八人でソファーの両方を占有する形で腰掛ける。


 ギルドマスター自らが入れた茶をナル達はすすり、一拍遅れて自分も茶を飲んだギルドマスターは居住まいを正してナル達に視線を向ける。


「さて、早速だが本題に入ろう。君達が遺跡に入って二十日弱、何がどうなったら遺跡の入り口を介さずにこの街に帰って来られるんだい? しかも人が増えているし」

「そうだな、そこが重要だ。簡潔に言おう、あの遺跡の最深部に空間転移装置があった」

「なんだって!?」


 単刀直入に切り込んだケイの発言にギルドマスターの顔が驚愕に染まる、それほどまでにケイの発言は衝撃的であったからだ。世界中に大小問わずいくつもの遺跡が存在しているが空間転移装置の存在する遺跡は数少ない、しかもそれが生きている遺跡となるともっと少ない。その生きている空間転移装置がまさかこのティーラウスの遺跡にあるとは思っていなかったのだろう、いくらティーラウスの遺跡の攻略難易度が高かろうともである。


 どういうことかというと、多かれ少なかれ遺跡というものには自己防衛装置がついているものである、しかしそれの手ごわさと実入りは基本的に釣り合わない事が多いのだ。実力者が満身創痍で攻略した遺跡の最深部にあったのが既に発見されている理論を纏めた本であったり、初心者たちでも偶然攻略できた遺跡にいくつもの魔具があったりと、攻略困難な遺跡だからといってお宝が眠っているわけではないのである。


「事実だ、その装置が勝手に動作したことにより私達はバラバラに飛ばされた、結果仲間を増やした上で合流することが出来たがな」

「…なるほど、そういう事情だったんだね。となると遺跡の空間転移装置はまだ生きていて、その上転移先は固定式じゃないと」

「ああ、私達がトルキアの北、南、西にそれぞれ飛ばされたことを見ても少なくともトルキア国内であれば転移先の縛りは無い可能性がある」


 そのケイのまとめを聞いたギルドマスターの表情が鋭くなる、もしそれを自由に利用できるようになればその遺跡を所有する組織は輸送面においては他と一線を画せるほどの力を得られるからだ。ギルドで所有できるか国に渡すことになるかは分からないが上手く行けばギルドにとって大きな益となるのは間違いない。


「ふむ…、再突入は可能かい?」

「無論だ」

「多分他のやつらじゃ無理だぜ、浅いところならともかく深いところは俺たちでも手を焼いた」


 ユウの補足を聞いたギルドマスターは深く頷く、これまでの報告からもそれは間違いないだろう。


「だろうね、そこは疑っていないよ。護衛対象を連れて行くことは?」

「気は乗りませんね、荷物を気にしていられるほど容易い場所じゃない」

「…なら遺跡の防衛システムを止めることは?」


 科学者を彼らの攻略に連れて行かせることは実質不可能、となると防衛システムを止めて安全にしてから改めて科学者たちを最深部に連れて行くより他にない。つまりはケイ達が遺跡のシステムを止められるかどうかで無理をさせるか一拍置くかを決める必要がある。


「最深部を調査してみないと何とも言えんが、不可能だとは思わん」


 システムを止める事は可能、それを聞いたギルドマスターは腕を手を組みそれに顎を乗せ考え始める。


「…よし、君たちにティーラウスのギルドから正式に指名依頼を出そう。内容は遺跡の踏破と空間転移装置の確保だ」

「対象は? 私達三人以外の同行者についてはどうする?」

「この場にいる全員かい?」


 八人全員で攻略するのかと問われてナルがまず首を振る、少なくともミチとニーナの二人は同行させられない。


「いや、こっちの二人は非戦闘員だから残していくつもりです。二人もいいよね?」

「むしろ連れて行かれる方が困ります」

「私もです」


 その二人の返答にだろうなと頷きつつケイはノエルに視線を向けて口を開く。


「ノエル、君はどうする?」

「私もいいんですか?」

「どちらでもいい、実践に勝る修練は無いからな。残る場合は彼女たちの護衛をやってもらうことになるが」

「うーん…」


 その言葉にノエルは考え込む、それを見ていたザインがひょいと手を上げる。


「あ、私は残らせてもらっても?」

「ザイン? 何でだ?」

「実は私、遺跡攻略の経験はないんですよ。勘も戻りきっていないうちに未経験な場所に挑戦するのは少々不安が残ります、なのでお二人の護衛も兼ねて残ろうかと」


 ユウの質問にザインはこう返す、正直な話復帰してからまともにやった戦闘がこの間の夜会の時のそれぐらいしかないので、いまいち勘が戻りきっていないのだ。いくら勘を取り戻すのに実践が一番手っ取り早いと言っても博打を打ちたくは無い、そんな風に考えた為だ。


「俺はそれでもいいが、他はどうだ?」

「僕はそれで構わないよ、ザインさんは信用できるからね。二人は?」

「異論無いですよ」


 ミチの発言にニーナも頷く、これでとりあえず二人の護衛は問題ない。


「ではそれで行こう、ノエルは結局どうする?」

「…行きます」


 考え込んだ末にノエルは同行を決意する、ケイの期待に応える為にも前に行こうという思いからだ。


「よし、ということで私達三人の他にこの二人が同行することになった」


 そういってノエルとソフィアを指すケイにギルドマスターは少し考え込んだ後口を開く。


「…じゃあ依頼自体は三人に受けてもらって報酬を二人分追加する形にしたいんだけど、それでいいかい?」

「何かある者は?」


 ケイの問いに特に誰も反応を見せない、異論は無いということだろう。


「…では、その条件で契約を結ぼう」

「頼むよ、皆」


 

 そうして代表してケイが契約書を書き終えたところでミチが口を開く。


「…あ、そういえば」

「うん?」

「ギルドマスターさんのお名前って何ですか?」


 そういえばまだ聞いていなかった、そのことに気付いたノエルたちもギルドマスターの顔に視線を向ける。


「え? ああ、そういえばまだ名乗っていなかったね。僕の名前は」

「ギルドマスター、少々よろしいですか?」


 と、名乗ろうとしたところでドアをノックされる。どうやらギルドの職員が何かしらの用事を持って来たのだろう。


「…」

「では私達はそろそろお暇しよう、そちらはそちらの仕事をなせ」


 完全に調子を崩されたギルドマスターを見ながらケイはそう言って腰を上げる、それを見てナル達も次々と同じく席を立つ。


「あ、うん。そうだね、皆もがんばってくれ。…はあ」


 職員の入室と入れ替わりに出て行く皆を見送りながら、ギルドマスターは深くため息をついた。



「なあ、主殿」


 ギルドの受付のところまで帰ってきたところでソフィアが口を開く。


「あん?」

「結局あのギルドマスター殿の名前は何なのだ?」


 結局有耶無耶になってしまったその疑問、しかし問われたユウは肩をすくめる。


「知らね、ナル?」

「いや、僕も知らないよ。ケイは?」

「私も知らん、思えばこれまで一度も彼女の名前を聞いたことが無いな」

「言われてみれば彼女が自己紹介するたびに何かしら邪魔が入ったような…」


 確かに、ティーラウスに来てから何度となく顔を合わせているが一度も名前を聞いたことが無い。何度か聞こうとしたのだがギルドマスターが名乗ろうとするたびに今回のような邪魔が入ってしまい、聞けずじまいだったのだ。


「んじゃこっちに聞いてみるか。なあ、ギルドマスターの名前って何?」

「ギルドマスターの名前? …あれ? 何だったけ?」

『…』


 受付の彼女の言葉にその場の全員に沈黙が漂う。


「今度聞くか…」

「そうだね…」


 何となく呆れたように呟いたユウの言葉に、ナルも苦笑いを浮かべながら同意した。


 はい、…今回は特にここで書くようなことは無いですね。ではまた。

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