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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第四章:三人の合流
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思い

副題は、酒で背中を


「…来たか、ナル」


 出立前日の夜のこと、ナルはミリアの私室を訪れていた。と言ってもナルが夜這いに来たとかそういう話ではない、明日に備え休もうとしていたナルの元にミリアのメイドがやってきて部屋に来るようにと伝言を受け取ったからだ。


 そうして何が目的なのかといぶかしんでいるナルが部屋で見たのは椅子に腰掛けグラスを傾けるミリアの姿、テーブルには酒のボトルが置かれその頬は赤く染まっている。


「酔っているのですか、ミリア様」

「たまには良いではないか、こんな姿をみせるのはお前だけだぞ?」

「はいはい、そうですね、良かったです」


 少なくとも他の男にはみせたことの無い酔い姿、だというのに適当な返事を返すナルにミリアは不満そうな声をあげる。


「ふん、気の無い奴だ。お前も一杯ぐらいは付き合え、一人で飲むのも寂しいものだからな」

「…では一杯だけ」


 差し出されたグラスを持ち一口味わう、さすがに王族が飲む酒だけあって非常に美味しい。しかし飲んだ感じからすると結構なアルコールが入っているようであり、それほど酒に強くは無いミリアが呑むにしては違和感を覚える。


「また随分と強いお酒ですね」

「たまにはな、それに酒に頼らねば一歩の踏み出せない臆病者なのさ、私は」

「はい?」


 いつもの強気な様と違うおとなしさ、そんな見慣れぬミリアの姿にナルは戸惑いを覚える。そんな彼の困惑を理解しているのかいないのか、グラスの酒を一息に飲み干した後ミリアは口を開く。


「…なあ、ナル」

「何でしょうか?」

「私の傍にいるつもりは無いか?」

「…」


 この状況ではないとはいえ予想できなかったわけではない彼女の言葉、一息に却下することは容易いがナルは酒で口をふさぐことであえて言葉を紡がない。


「別に私に仕えろとは言わん、ただ私が会いにいける場所に居てくれさえすればいい、それだけでいいんだ」

「…僕は、ケイ達と共に旅をすると決めています。そしてその旅が終わった後の定住の場所はここではありません」


 一瞬の躊躇いの後ナルはそう答えを返した。そう、どう思案した頃でこれ以外にナルの行き先は無い、彼はケイとユウに返しきれないほどの恩があるのだから。


「グリエル、か。私もかの地の生まれであったのなら、いや、この国の王女でなければお前の帰る場所に行けたのかもな」

「ミリア様」

「分かっているさ、王族で無い私がお前と縁を持つ事などできよう筈も無い。これは単なる戯言、酒が紡いだ妄言にすぎん。だが、だがとは思ってしまうな。ミチとニーナと話していると、お前と言葉を交わしていると」


 遠くを見ながらそうミリアは呟く、その横顔は悲しげで、儚げである。


「…ミリア様、僕には愛というものが理解しきれません、ですから何故そこまでミリア様が僕に固執するのかというのが分からないのです。もし僕にも」

「愛が理解できたなら、か? 愛など私にだって理解できていないさ、むしろ完全に理解出来ているものが本当にいるのだろうかと思う。愛を理解しようと思ってはいけないのだ、愛は感じるものだよ」

「感じる、か」


 自身の言葉を遮って言われたミリアの言葉、それこそが自分の求めていた答えであり先へ進む為の道しるべになるかもしれないとナルは思った。直感的で何か根拠があるわけじゃないが何となくそれが一つのあり方ではないかと、感じたのだ。


「何となく、何となくその人の傍にいたいと思えるのが愛情だ、とは何がきっかけで知った言葉だったか。軽く、説明不足な言葉ではあるが、納得は出来ないか? それこそ何となく、な」

「…そうかもしれませんね」

「なあ、ナル、お前はミチの傍にいたいと思っているか?」

「……ええ、そして、遠い地にいる彼女の傍にも」


 遠く、世界を隔てたところにいる彼女の姿を思い出す。自分と、ミチにとって大切な彼女の姿を。


「…なあ、ナル。私の傍に居たいとは思ってくれないのか? 私ではお前のよりどころにはなれんのか?」

「それは…、……僕は」


 口ごもり視線を彷徨わせるナル、答えは決まっているがそれを口に出すかを迷っていた。それでも誤魔化すわけにはいかないと覚悟を決め口を開いたナルを、ミリアはうつむいて手のひらを向けることで制する。


「いい、聞きたくない。今聞いてしまえば私はどうするか分からん、私はお前達と敵対したくなど無い」

「…すみません」

「お前が謝ることじゃない、全部私のわがままだからな。…だが、だがだ、ナル」

「はい」

「いつか、私もお前の帰る場所に行ってやる。何を犠牲にしてでも、例え王女として後ろ指を指されようとも、我を通してみせる」

「…」


 真剣な面持ちで向き合う二人、それが数秒、または数分経ったところでミリアはふっと笑いをこぼす。


「…ふっ、案ずるな。そうは言っても狂った行動をとる気は無いさ、この国にしてもどうせ王となるのは私ではないのだからな。だからな、ナル。いつかお前を私の………」

「…ミリア様?」


 話す途中でうつむき言葉を発さなくなったミリア、何となく予想はつきながらも彼女の顔を覗き込めば。


「………」

「…寝ちゃったか、あんまりお酒に強くない人だからしょうがないか」


 グラスを煽り残っていた酒を飲みほす、そのまま部屋の外に出ようとしたところで立ち止まり呟く。


「…勝手かと思われるかもしれませんが、その言葉を聞いて僕が揺らいだのは事実ですよ。…傲慢な願いですが、待っていてください、僕が傍にいたいと思えるまで」




 部屋の外、そこに控えていたメイド、ナルを呼びに来た彼女に伝える。


「ミリア様が眠っています、後の頃はお任せします」

「分かりました、…そこは手を出す場面では?」


 ミリアのお付きであり、ナル達と何度も面識のある彼女は咎めるような口調で言う、対してナルは苦笑いをしながら口を開く。


「無茶言わないでくださいよ、そんなことできるわけも無いでしょう? 大体、寝込みを襲うなんて格好悪いじゃないですか」

「それもそうかもしれませんね、ではナル様、今宵はよき夢を見られますよう」

「ああ、君もね」


 去って行くナルを見送った後、メイドは主の部屋に入る。眠る主を寝姿に着替えさせベッドへと運ぶ、最後に深く一礼し部屋を退出する。

 

 部屋で眠る彼女の顔は、良き夢でも見ているかのように、何故だか軽い笑みを浮かべていた。



 翌朝、ミリアとの別れの挨拶も済ませた皆は街の外で出立の最終確認をしていた。


「…各自、準備は済んだか?」

「こっちは問題ないぜ」

「僕達も問題ないよ」


 それぞれの出立準備が完了して居る事を確認し、彼らはそれぞれの乗り物に乗る。


「よし、では進路をティーラウスに。私達の忘れ物を回収しに行こうではないか」

「あいよっと」

「そうだね」


 こうして八名は次の目的地へと向かう、解けぬ謎と懸念と、思いを残して。


 はい、ちょっと短いですがこれで今章の締めとさせてもらいます。次章からはまたキャラも増えることとなります、ヒロインもね。しかしストーリーは特に思い浮かんでいないのが難点。まあ何とか書き上げてはみます、次章はテンポ重視で行った方がいいのかな。ではまた。

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