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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第一章:ケイの出会い
9/112

調査結果:全滅必須

副題は無双の前座

 到着予定日の三日目。

 

 ケイ、シェル、ガントの三人は村の入り口前で一行の到着を待っていた。およそ三十分ほど待っただろうか、彼らの視界に二台の馬車が入ってきた。


「む、あれがそうですかのう」

「だろうな、ケイ殿応対はどうします?」

「ガント殿に行ってもらう。ただし場合によっては私も口を出すつもりだ。シェル殿も何かあればそうしてくれ」

「わかりましたぞ」

「わかりました」


 二台の馬車が三人の前に着き、御者台に載っていた人物が降りてくる。見ればそれはヌルの街であった支部長であった。


「ヌルのギルド支部長のシール・イー・エーエルです。緊急依頼の指揮を取りに来ました」

「キエル町の村長でガント・ノエルと申します。まさかヌルのギルドのトップが来てくださるとは」

「それだけ緊急のものだと思って下さい。それで依頼内容の確認ですが、この周囲の森の中にある魔物化の原因調査及びそれの排除でよろしいですね」

「ええ、かまいませんが排除とはどのように?」

「森の中に魔力溜りがある場合であればその付近の木を伐採するなどしてそれを散らします、他の場合であればそれに応じた対応をします」

「もしそれが無かった場合は?」

「その場合は発見された個体が何処から来たのか等を調査します。もしそうでもそちらにさらに依頼料を出せなどとは言いません」

「ふむ、すぐに調査に入っていただけるので?」

「それについてだがシール殿、軽く調査したところ村の近くには危険は見当たらなかった。そのため調査班に多めに割り振りたいのだが」

「そう、では連れてきた冒険者11名の内1PT4名を村の防衛に、1PT3名と個別の4名、私とケイさんの9名を森の調査に割り振りましょう」

「ではそのようにしよう。分散時用に森の中での連絡手段は持ってきているか?」

「使い捨ての発光弾を持ってきたわ。緑が原因発見、黄色が変異個体との交戦、赤がその他緊急事態、青がその他集合としているわ。これがあなたの分よ」

「うむ、さっそく行動を開始しよう」

「ええ」


 そうして馬車から冒険者達が降りてきて森へ向かう準備をする最中、冒険者の一人がガントたちの下へと向かってくる。その顔を見てガントとシェルは驚きの声を上げる。


『リンド!?』

「久しぶりだな、父さん、シェル」


 そのままリンドはガンドと軽く抱き合い、一度離れた後シェルと握手を交わした。


「よく帰ってきたのう、しかしなんともタイミングが良いことじゃ」

「もともと里帰りをするつもりだったからな、PTのメンバーにも了承を取ってツーリアの街まで来ていたんだ。そしたら緊急依頼のことを知ってな、駆けつけたんだ」

「なるほど、しかし里帰りとは何かあったのか?」

「ああ、その、結婚することになってな。彼女の紹介に来たんだ」

「なんと、お主が結婚!? まさか生きている間にお前の嫁さんに会えるとはのう」

「あー、待たせて悪かったな父さん。母さんは?」

「…二年前に逝ったよ」

「っ、そうか…。出来れば母さんにも会わせたかったけどな」

「そればかりはしかたなかろう、その女性は?」

「PTメンバーの一人だ、俺達は防衛組にまわったから後で紹介する」

「楽しみにしておこうかのう、そういえばお主Cクラスだと聞いたがランクは上がったのか?」

「何で知ってんだ? ああ、今はBクラスだよ」

「ほう、お前も腕を上げたということか」

「シェル、今度模擬戦しないか。今度こそ勝たせてもらうぜ」

「ふっ、まだお前には遅れはとらんぞ」


 久しぶりの再会の中、冒険者たちの準備が整ったことを確認したケイが三人の下に近づいてきた。


「ガント殿、シェル殿少しいいか?」

「どうしましたケイ殿?」

「こちらの準備は整った、これから森の中を調査してくる。遅くても日が落ちるまでには戻ってくるからそのつもりでいてくれ」

「わかりましたぞ、御武運をお祈りしています」

「ああ」


 そうして冒険者の一団はケイを先頭に森の中へと入っていく。少し歩いた後、一行はエイグマがいたとされる地点にたどり着く。


「ここだ、おそらくここに奴はいた」

「確かに大きな生物の痕跡があるわね、辿れる?」

「問題ない、ついて来てくれ」


 ケイを先頭としたまま、変異個体の道を逆に辿っていく。1時間ほど歩いたところで突然ケイが立ち止まる。


「どうしたの?」

「別の個体がいたようだ」

「見つけたの!?」

「痕跡だけだ。ここで奴は別個体と出会い分かれたようだな、戦闘を行った様子は無い。同種族だったか?そちらにこれを辿れる者は?」

「俺は辿れるぞ」

「私もなんとか」

「二人か、シール殿、私は別個体が移動した先に向かう。そちらは二組に分かれてそれぞれの元を辿ってくれ。おそらくこちらは戦闘になるだろうが問題は無かろう?」

「まあ、あなたならそうでしょうね、わかったわ。ではノックさんのPTはわたしと今までのそれを、残りでニーニャさんの案内で新しい方を行きます」

「ではな、何かあれば発光弾を撃て」

「そちらも…大丈夫でしょうけど」

「では、散会」


 そのまま三方に分かれて行動する。ケイが40分ほど歩いたところで開けた場所に出た。そこではあの時の奴と同じような個体が丸くなっていた。


「居たか、あれよりは小さい。やはり原因はこの森の中にあるようだな、まずは奴を倒すか」


 そう呟きつつ、近づく。あれと同程度なら、いや、あれより強かろうとも自分を傷つけることは出来ない。それをわかっているためケイは正面から近づいて相手がどう行動するか知ろうということだろう。ケイの近づく音にそれは眼を覚ましたらしい、その大きさの割りにすばやい動作で立ち上がるとケイに向かって腕を振るう。明らかにその腕が届くほど近くは無いのだが、ケイはすぐに飛び退る。それと同時にケイの居た地面に5シムルほどえぐった跡が残る。


「完全に魔物化しているのか、厄介だな。…まずいな、予想内ではあるといえもし奴が居れば面倒なことになる。さっさと始末するか」


 その言葉と共にケイの体が急加速する。魔物はそのスピードに反応しきれないらしく、懐に入り込まれることを許してしまう。


「一刀二閃、十文字斬」


 ケイの刀が抜かれ魔物の右腕と首に線が走る。納刀の音と共にドサリという二つの音とドシンと大きな音が鳴る。


「ふむ、強度は上がっていたが腕と首でそれが変わっているという事もない。全身が等しく硬い以上一撃でしとめられないなら目や口を狙うほうがよいか。…ちっ」


 死体を片付けていると別働隊が移動した方向から緑、黄色、赤の光が見える。予想内で最悪のそれが当たってしまったころに気づいたケイはすぐに光に向かって走る。先ほどまでのようにも地面の上ではなく枝の上を飛び移りながらかなりの速さで向かうケイ。10分ほどで彼が見た景色はけして喜ばしいものではなかった。




「ニーニャは下がって! クルー達はそのまま防御! ナイン、ノックの様子は?」

「傷は塞がりました、ただ左腕はすぐには」

「いや、やれる。ロン、援護するぜ!」

「待ちなさい!」


 調査隊は今危機に陥っていた。この少し前、二体の変異体を追った先にあった大きな空間、そこには十数体の変異体と10ムルはあろうかという六本腕の巨大な魔物が存在していた。発見と同時に合流した一団は対応に悩むこととなる。相手の戦力が未知数である以上最高戦力であるケイを呼び出したい、しかし発光弾を打ち上げれば相手を刺激することになるかもしれない。その二択に悩んだシールは周囲の警戒におろそかになり、冒険者達も予想外の光景に視線を奪われ、横合いからの奇襲に対して一手遅れてしまう。


 今回のメンバーのうちシールはAクラスであったが、他の7人のうち4名はCクラスでありBクラスの三名も昇格してから日が浅くここまで危機的な状態に陥った経験が少なかったこと、これが油断を生んでしまった原因だろう。唯一反応が間に合った一人も仲間をかばうことこそ出来たが自身が左腕に大きな傷を負ってしまうことになる。


「ぐっ!?」

「ノック?!」

「くそ、こいつ!」


(しまった、油断したわ)


 襲ってきた固体は通常のエイグマとさして変わらぬ姿であった。そもそも魔物化したからといってその初期段階ではその姿に変化は少ない。動物が魔力溜りに入り込んだときその濃厚な魔力の影響で体内に新たな器官が作られる、それが後に魔石と呼ばれるものとなるのだが、魔石と呼べる状態に成長するまでは取り込んだ魔力はそのほとんどがそこに集中する。その器官が魔石となって初めてそれ以外の部分にも魔力による影響が出始め、魔獣を経て魔物となっていくのだ。ただし初期段階であってもその動物の習性を変化させるなどの影響が現れることがある。奇襲してきた個体もいまだ初期状態でありながら魔力による影響で好戦的となっており、体が小さいままだったので木々の間をぬってすばやく接近できてしまった。

そのあたりのことを考えていなかったことに気づいたシールは静かに舌打ちを鳴らす。

 襲ってきた個体はすぐに始末できたが、これにより変異体共に敵意を向けられてしまい強制的に戦闘へと陥ってしまう。一体や二体であればすぐに倒せただろうが五体以上に同時に、しかもアタッカーを一人欠いた状態でかかられて優位に立てるほど彼らは巧みではなかった。この中で最高ランクであるシールも火力型ではなく技術型の魔術師であったため、時間をかけ確実に一体ずつ減らすことは出来ても一気に圧倒することは出来なかった。しかも魔物が数体混ざっておりその攻撃から皆を守るために防御に徹さざるを得ず、自分の強みでもある多重陣魔術を使えずに攻撃を封じられた状態であった。


「くそ、こいつはきついぞ。支部長、撤退しよう!」

「無理よ、今背を向けたら確実に死ぬわ」

「このままでも確実に死ぬだろうが!!」

「さっき上げた閃光弾にケイが気づいてこちらに来てくれるまで耐えなさい!」

「いつまで待ちゃいいんだよ!? だいたいいくらSSっつってもたった一人でこれがどうにかできんのかよ!!」

「かけるしかないわ、その可能性に」

「やべえ!!」

「っ!」


 盾役を担っていた男が耐え切れずに吹っ飛ばされ、後ろに下がっていたものたちまで射線が通る。それを見た六本腕は口を開き火球を吐き出す。シールにはそれが先ほどまでのそれよりも大きく消耗した今の自分では防ぎきれないと悟る。火球が迫るなか、シールはAクラスになって初めて戦闘中に目をつぶってしまう。そのまま焼き尽くされるのを待つかと思ったシールだがその身が熱を感じることはない。怪訝に思ったシールが目を開けると、そこには大きな光の壁が聳え立ち、その横に見知った男が立っていた。


「あなたは…」

「さあ、圧倒させてもらおうか」


魔力溜り:自然界に存在する魔力が何らかの要因によってよどんだ結果生まれる場所。最も多いのは大気に含まれる魔力が空気の動きの少ない森の中にたまり続けた結果発生した場合。魔力はほんのわずかだが魔力の多い場所に移動する性質を持つのでそういった場が生じる可能性が有る。これが発生した場合の対処法としてはそこにある魔力を散らせばよいので、森の中であれば木を伐採して風を通すことで魔力を散らしたり、魔力が引き寄せられる原因を取り除くなどが挙げられる。


エルフ:ラクセイリアに住む種族の一種。全体としては他種族に深くかかわることは無いが個人単位で見ると人族の町で冒険者をやっていたり、何かの職人になっているものも少なくない。魔法、主に精霊魔法に適正が有りそれを強みに持つものが多い。身体的特徴としては人族と比べ耳が長くとがっていることと感情に合わせて動くことが挙げられる。寿命は300~500年ほどで生まれてから二十年ほどは人族と同じように育つが、そのあとは200年ほどはそのままの姿を維持し老化も極めて遅い。また、エルフはすべてミドルネームを持ち、名を親が、ミドルネームを祖父母が決めることが多い。


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