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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第四章:三人の合流
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詫びと要求

副題は、出発の意


 翌日、皆はミリアの執務室に集合していた。けして狭くは無い部屋だがさすがの人数に圧迫感を感じてしまう。


 あの戦闘のあと、ようやく到着した兵たちによって一応事態は収束した。襲撃犯達は全員確保され夜会出席者は客室で一息ついて眠る、勿論ナル達は元から用意されていた部屋だ。夜通し調査や修繕が行われておりその指揮を執っていたミリアは少々寝不足気味、とはいえナル達に蔑ろにするわけにもいかないので若干眠さと戦いつつ彼らの訪問を受けいれたのである。


 そんな経緯で集まった彼ら、まずはということで出されたお茶に手をつける。それぞれがお茶の味を楽しんだところで、さっそくユウが口を開く


「…で、結局アイツらは何だったんだ?」

「まあ分かっているとは思うが、お前達が鎮圧した馬鹿共の仲間だったようだ」


 ここは予想通り、地下に潜み人をさらっていた集団の一味だった。彼らによって誘拐された所在不明の民間人たち、その利用法が今回の襲撃の駒だったということなのだろう。


「目的は?」

「国家転覆、その第一歩。奴が吐いたのはそれだけだ」

「何故トルキアを潰そうと思ったのかは分かっていないということですか?」

「ああ、今のところまだ聞いている最中だ、他のやつらを含めてな。とはいえ成果が上がるとは思えないが」


 多少どころではなく痛めつけているが全く成果が上がってこない、どうやらそもそも目的を知っている者がろくにいないようだ。となると指令を与えていた者がいるはずなのだがそちらに関してはまるで尻尾がつかめないのが現状だ。


「ふむ、では今度は内側について聞こう。兵の動きが鈍かった理由は?」

「指揮がおかしなことになっていたらしい、兵たちに聞いたところ他の隊が対処するから自分達は他の防衛に回るように指示を受けたと」

「指揮を執っていたのは誰ですか?」

「それが問題でな、誰かよく分からんのだ」

「はあ? どういうこった?」

「私達王族の名の元に指示が出されていたそうなのだが、確認を取ってみたところ王族の誰もそんな指示を出していないのだ。もしくは私のようにきちんとした指示を出していたはずなのに途中で命令が書き変わっているのもあった」

「それは本当なのかの?」

「少なくとも兄上と姉上のものに関しては裏を取ってある、そもそも私や兄上からすればあの場でわが身を危険にさらしてまで指揮を混乱させるのはリスクが大きすぎるしな」

「ではどのようにして命令が書き換えられたのかは分かっているのですか?」

「伝令を担当した兵がやったのだろうと考えている、調べてみたところその兵の所在が分からない上に誰もそいつについて知らなかったようだ」


 それを聞いてナルは渋い顔を、ケイは呆れ顔、ユウにいたってはためらいもなく本心を口に出す。


「なっさけねえなあ、おい」

「全くだ、まさかここまでいいように翻弄されるとはさすがに思っていなかった。…本当に情け無い、今回はどうにかなったがこのままでは次は無いかも知れんな」


 その兵士一人でやれるようなことでもない、となれば後ろで手を回していたものが確実にいるはず。だから早くその人物を見つけ出してそれ相応の対処をしなければならない、しかし未だに検討がついていないというのが頭の痛いところだ。


「…で、今回の件についてはどう落とし前をつけるつもりだ?」

「調査終了後襲撃犯は全員処刑、今回の事件の責任をとって兄上がライトヘルト伯爵含め外部より招いた客人に詫びるということになるだろうな、金銭込みで。無論お前達にも」

「待ってください、今回の襲撃犯の大半が操られた民間人のはず、なのに彼らも処刑するのですか?」

「…兄上が頑として譲らんのだ、襲撃犯は全員処刑だとな」


 ザインの問いにミリアは不快さを隠そうともせずに吐き捨てる、彼女もそれを受け入れているというわけではないのだろう。


「僕とケイなら彼らを治すことが可能です、それでもですか?」

「聞くと思うか? あの兄上が」


 この場にいる全員がコラワに対する嫌悪感を隠そうとしない中、ユウが静かに口を開く。


「ミリア様よ」

「何だ、ユウ?」

「俺の分の詫びはいらん、そもそもあの野郎から詫びなんぞ御免被る。その代わり操られた民間人を釈放しろ、俺はそれを要求する」


 その言葉にミリア、ザイン、ソフィアの三人が怪訝な顔をする。自分の知るユウがこんなことを言うタイプでは無いと思っているからだろう。


「どういう風の吹き回しだい、ユウ?」

「ふん、たかが気まぐれでも最後まで突き通した方が気分の良いときもある、そんだけの話だ」

「…ふむ、私としても我が友の意見に賛成だ、私も同様の要求をすることにしよう」

「だったら僕もかな、正直見捨てるのは気分が悪いからね」


 ユウの言葉を聞いたケイとナルもまた彼の提案に賛成する、それを見たミリアは少々考え込んだ後口を開く。


「…お前達三人がそういうのか、だったらそっちはどうだ?」

「私は特に何もしていませんから、何も要求はしません」

「私も、守られていただけですからね」

「私も同じくとさせてもらいます」

「一応は戦った身としてはユウさんたちの意見に同意します」

「妾もじゃ、主様の意向のままにの」


 ノエル、ミチ、ニーナの棄権票、ザイン、ソフィアの賛成票。それを受けてミリアは再び深く考え込むが、やはり残念そうな表情で首を横に振る。


「……お前達の要求は分かった、だが私からそれを通すのは少々厳しい」

「そっちはコラワの領分ってことか?」

「そういうことだ、…不本意な話だがな」


 言葉以上に雄弁なミリアの表情、それを見ていたユウは口元に手をやりしばし考え込んだ後に口を開く。


「……ダチ公」

「私も行こう」

「助かる」

「じゃあ僕は待機しておくね」

「ああ、それで頼む」


 三人の間で交わされる必要最低限な会話、当然他の面々には何が何だか分からない。


「待て、お前達は何処に何をしに行くつもりだ?」

「あの野郎のとこに直談判してくる、止めんなよ」

「……私が止めても止まらんか、なら好きにしろ、上手くやれよ」

「助かる、ではしばし失礼する」


 そう言って二人が去った後、ミリアが口を開く。


「…なあ、ナル」

「何でしょう?」

「アイツら、何をするんだろうな」

「さあ? まあユウだけならともかくケイも一緒に行ったのでミリア様に被害が来ることは無いと思いますよ」

「…そうか、それは良かった」


 そう口では言ってみるものの、内心不安が残りまくりなミリアであった。




 小一時間ほど経ったであろうか、とりあえず世間話やらで会話を続けていたミリアたちのもとにケイ達が帰還する。


「ただいまさん」

「どうだった?」

「ばっちりよ、俺らにかかりゃな」

「それは良かった、後で治しに行こうか」

「ああ、そうするとしよう」

「一体どうやって要求を通したのですか?」


 そんなノエルからの素朴な疑問は、


「秘密だよん」

「聞かない方が精神衛生上良いと思うぞ」

「…聞かないことにします」


 こうして無かったことにされた。実際その方がいいのだから仕方が無い。



「さってと、んじゃ後決めんのは一つだけか」

「そうだな、何時ここを発つかを決めておこう」


 それを聞いてミリアは残念そうな顔をするが、本人としても何時までも彼らを引き止めるわけにはいかないことは重々承知しているので異論を唱えたりはしない。


「…ふむ、名残惜しいが何時までもお前達を拘束するわけにはいかんか。何時発つつもりだ?」

「特に希望がなければ明後日には発ちたいと私は考えている、皆はどうだ?」

「俺はねえ」

「僕も」


 三人が意を表した後残った面々の顔を見回すが、特に誰もそれに異を唱えたりはしない。


「…特に反対意見は無いようだな、では決まりだ」

「そうか、寂しくなるな」

「また来ますよ、機会があれば」


 ナルのその言葉を聞いてミリアは若干頬を緩ませる、彼女にとってそれは何よりも嬉しい一言であった。


「…それは朗報だ、それでお前達は次に何処に行くつもりだ?」

「ティーラウスに向かう、あそこにはやり残した仕事があるのでな」


 三人が離れ離れとなり、この面子が集まることとなったきっかけでもある遺跡のある地。そこが次の彼らの目的地だ。


「なるほど、何にしてもお前達の旅の安全を祈らせてもらおうか。とりあえず今日明日は存分にもてなされろ、それだけの価値がお前達にはある。王女としても、友としてもな」

「お言葉に甘えさせてもらおう」


 こうして皆は出発のその時までミリア王女の厚意により、そのもてなしを受けることとなるのであった。


 はい、夜会の次の日のお話です。どうにも話が進まなくなっていたので強引に進めました、そのせいで色々と適当な点も多く申し訳ないです。とりあえず次話かその次でこの章を終わらせることとしました、次章はティーラウスにてダンジョンアタックやらと新キャラ、新ヒロインの登場を予定しております。ではまた。

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