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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第四章:三人の合流
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近況報告

副題は、異世界よりの

 ユウの強烈な先制パンチのおかげで一時は騒然となったが、夜会は今のところ滞りなく進んでいた。もっとも、コラワ王子は先のユウの発言を受けて一時退席しており、進行のいくらかをミリアがアドリブで進めなければならなかったのだが。元より多くの者達が認識していたが、これを見ていた出席者達はコラワとミリアの格の違いを改めて確認することとなる。


 また、壇上を降りたユウがミリアとは和やかに挨拶を交わしたいたことから彼らと王女の繋がりが真にあることを理解し、彼女を敵に回す愚を否応なく知ることとなる。これによりミリア王女側についている者達は主への忠誠を強め、コラワについている者達は離反を画策し始める。


 そんな表面上は和やかな、しかし実態は損得と保身の飛び交う夜会。他国から来た彼は我冠せずとばかりにその茶番を眺めている、先の騒動のおかげでそれとなく情報を集めることが困難になったためだ。無論この状況だからこそ突っ込んで情報を手に入れることも彼にとっては容易いがそれを使えば後の交流に響く、それゆえ静観を決め込む彼に一人の青年が声をかけてくる。


「ライトヘルト伯爵、お久しぶりですな」


 その青年、ケイはいつもの尊大な様を微塵も見せず、穏やかな笑顔を浮かべながら挨拶をする。それは普段の彼を知る者からすれば驚きの光景であり、彼を理解する者からすれば相変わらずの光景である。


「! ケ、ケイ、殿か。久しぶりだな」

「ええ、おかげさまで」


 何故か一瞬動揺するライトヘルト伯、しかしすぐさま持ち直し挨拶を返す。ケイは彼の態度に触れる事もなく、変わらず穏やかな笑みを浮かべている。


「ふ、む、そうか。…ここで会ったのも何かの縁だ、積もる話もあることだしどこか場を移して話さないか?」

「ご随意に」

「うむ、君、どこか二人で話せる部屋を用意してもらえるか?」

「畏まりました、どうぞこちらへ」


 メイドに連れられその場を離れる二人、去り際にケイはいつもの表情に戻りユウとナルに視線を向ける。その視線に気付き彼らが軽く頷くのを確認したところでケイは先の表情に戻し、ライトヘルト伯についていくのであった。




「こちらに」


 メイドに連れられ辿り着いたのは来客やこういった夜会の際の休憩室として用いられる一部屋であった。


「ああ」

「お飲み物はいかがいたしましょう?」

「不要だ」

「承知しました、何かありましたらいつでもお呼び下さい」

「ああ、分かった」


 恭しく頭を下げ退室するメイド、それを確認しケイはざっと辺りを見回す。そうして部屋に何も仕掛けられていないのを確認した彼は笑みを取り払い、いつもの雰囲気に戻る。


「…さて」

「失礼いたしました、貴方様にあのような態度を」


 片膝をつきケイに敬意を示す伯爵、ケイはそれを手で制し立ち上がるように告げる。


「かまわん、あの場では都合が良い。それと今の私はただのケイだ、そのつもりでな」

「…承知しました」


 互いに向き直って座り、互いにアイテムボックスの中から出した飲み物を一口飲んだところでケイが口を開く。


「さて、本題に入ろう。グリエルの近況は?」

「そうですね…、トッサイ男爵家のことはご存知で?」

「ふむ、貴族家としては歴史の浅い家だったな。それに良く無い噂も多く領民の評判も良くなかったはず、大きな失態が無いから存続出来ているが何かあればすぐさま取り潰しとなるだろうな」


 スラスラとグリエルの貴族家の情報を話すケイ、そんな彼の知識に疑問を持つでもなく伯爵はその知識に頷く。


「ええ、その通りです。そのトッサイ男爵家に不穏な動きがあります」

「ほう」

「どうやら十数名の魔法使いを内に引き込んでいるようです、目的は不明」

「手がかりは?」

「召喚魔法を使えるものが多いようです」

「ふむ、召喚か」

「どう思われます?」

「今のところはどうとでも言える、絞り込むのは無理だな」


 右手を顎に当てそういうケイ。ケイの考察に期待していたのか、伯爵は一瞬顔を暗くするがすぐに表情を戻す。


「そうですか…、ドラゴンでも呼ぼうという気でしょうか?」

「ドラゴンか、確かに男爵家程度ではそれが精一杯だろう。しかし一頭程度ならグリエルの空戦機動部隊で十分対応できるはず、その程度では脅威にもならんな。」

「ですな、故に陛下も今しばらくは静観をするしかないとの判断のようです。ただし影は忍び込ませているようですが」

「だろうな、さすがに目を離すわけにもいかん。出来れば何かしらの証拠なり何なりを手に入れて欲しいものだな、具体的には取り潰せるような証拠を」

「とはいえそのような証拠など早々見つからないでしょうな、あの家は小者ばかりで大きな悪事などしませんから。それゆえに被害は少ないが中々排除できない、いっそ何かしでかしてもらえると助かるのですが」

「それで民に被害が出たら元も子もないだろう、民に被害なく奴らを拘束できるのが最善だ。とはいえ早々都合よくは行かんが」

「そうですな、苦労するのは我々だけで結構。民たちには健やかに、安全に暮らしてもらいたいものです」

「まったくだ、他に何かあるか?」

「そうですな、…ライクル・クルルカという男に聞き覚えはありますか?」

「ライクル・クルルカ…、いや、ないな。そいつがどうした?」


 先と違い聞き覚えの無い名前に眉をひそめるケイ、伯爵は軽く頷くとクルルカについて語りだす。


「クルルカは三年前にグリエル軍に入隊し昨年には第三魔法戦闘部隊隊長となった男でした。が、先日除名処分を受け帝都を去っています」

「除名理由は?」

「城にある禁書庫への無断侵入です」

「閲覧した本は?」

「禁書庫に存在した全本の封印処理を確認したところどの本の封印も破られていないことが判明。ですからクルルカは禁書の閲覧に失敗したと判断され特に処理されることもなく除名処分となったようです」

「不自然なほど軽い処分だな」

「ええ、禁書の閲覧に関わらず禁書庫への侵入の時点で既に重罪。たかだが除名処分程度で済むはずがありません」


 本来であれば禁書庫に忍び込んだ時点で禁書の閲覧如何に関わらず最低でも記憶の抹消、場合によっては処刑されるはず。だというのに単なる除隊処分というのはいくらなんでも不自然だ。


「その件の担当者は?」

「事件後、死亡しています」

「…何者かの陰謀か?」

「その可能性があるかと、さきのクルルカの不自然な対処もその担当者の死亡による調査の結果判明したものです」

「何者かがクルルカを助け、尻尾を切ったと」

「ええ、現在その線で調査をしています。そしてこれに関してももう一件」

「何だ?」

「禁書庫の再調査の結果、禁書が一冊紛失していました」

「クルルカの仕業か?」

「不明です、紛失したタイミングが分かりませんから。ですが」

「まず間違いない、と言う訳か」

「はい」

「本の内容は?」

「不明です」

「不明?」

「紛失したのは“異界より来たりし本”でしたから」

「“異界より来たりし本”、か。なるほど、分からないのも頷ける」


 “異界より来たりし本”、それはグリエル帝国最初期から伝わる禁書である。ラクセイリアに存在するいかなる言語とも異なる文字で書かれた本であり内容はおろかタイトルすら判明していない、それ故に“異界より来たりし本”という仮の名が与えられ禁書扱いで厳重に保管されてきたのだ。しかし、である。


「あの本の内容は既に解読済みだ」

「は!? 一体どうやって…、いえ、貴方なら不可能でありませんな」

「正確にはあれを解読したのは私では無いがな。それはともかく内容に関してだ、あれは異世界の人物の召喚について書かれていた本だった」

「異世界の?」

「ああ、異世界の住民をこちらに呼び寄せる。大雑把に言えばあれに載っているのはそれだけだ」

「異世界の住民を呼び寄せたところで何の意味が? 確かにグリエルでは度々異世界の客人が迷い込むことはありますが、彼らを呼び出したところで」

「世界を超えて来た者には特殊な力が宿る可能性がある、それは知っているな?」

「ええ、しかし力といっても宿る可能性は低く強さもピンキリ、固有魔法と同じようなものですよ」

「あの本を用いて召喚された異世界人は強大な力と持つことが出来るそうだ、それこそ英雄レベルのな」

「…そんなことが本当に可能なのですか?」

「どうだろうな、そこに関しては試してみなければ分からん。とはいえ試すわけにもいかんがな、解析した結果あれは少なくとも五人以上の命を喰らって発動する魔法だからな」

「なるほど、試すわけにもいきませんな。…それで貴方は解読の結果を報告しなかったのですね?」

「ああ、知られていなければ悪用するものも現れないからな。…しかし、今回は裏目に出たかもしれん」

「裏目? …! トッサイ家!」


 ピースが繋がったことで思わず叫ぶ伯爵にケイは頷く。


「もしクルルカとトッサイが組んでいれば面倒なことになるかも知れん、異世界人の強大な力を背景に何を企むか」

「国家転覆でも図っているのでしょうか」

「あれは小物だよ、そんな度胸があるはずも無い。だが、国家のために使い点数を稼ぐということはするかも知れん。例えば、魔族根絶、とかな」

零の戦場の原因にして人族共通の敵とされる魔族、確かに魔族を滅ぼすことが出来ればその地位は不動のものとなるだろう。

「…可能、だと?」

「さてな、そもそもその必要があるのかどうか」

「?」

「何でもないさ、今はな」


 意味深なケイの言葉に伯爵は首を傾げるが、ケイはその真意を語る気は無いようだ。


「…分かりました」

「これ以上は何かあるか?」

「いえ、現状特には思い当たりませんな」

「そうか、…陛下のご様子は?」

「御健在であらせられます、他の王族の方々も。そちらこそ問題はございませんか?」

「我が友については言わずもがな、ナルにしてもミリア様の傍にいたのは確認しているだろう?」

「そうでしたな、ユウ殿のあれは何と言うか、お父上がまた気を揉むでしょうな。ナル殿にしても、えらく入れ込んでいるようですな、ミリア王女に」

「自分に好意を向ける相手を邪険には出来んよ、アイツは優しいからな。我が友については、まあいつものことだ」


 多少ケイが炊きつけはしたが、概ねいつものことである。


「ふむ、まあ私としてはグリエル帝国の益となるのであればどうこう言うつもりはありません。これもまた何かの形で我が母国の益になるものと信じております」

「そうであることを願うよ、私もな」

「…ああ、そうだ。何か陛下にお伝えすることなどありますか?」

「そうだな…」


 ケイは一度目を閉じる、だがすぐに目を開け言葉を伝える。


「我ら三振り、陛下の命あらば何時如何なる状況にあろうとも迅速に駆けつけましょうと」

「分かりました、必ずお伝えします」


 深く頭を下げ恭しくその伝言を受け取る伯爵とそんな彼の様子に軽く笑みをこぼすケイ、その後少々の世間話を済ませたところで伯爵が部屋の外に目を向ける。


「…さて、どう致しますか? あちらに戻りますか?」

「そうだな、そうす…」


 そこまで言ったところでケイがその言葉を止め雰囲気を硬化させる、そのケイの様子を見て伯爵もまた警戒したように彼に問う。


「…何か起こりましたか?」

「ああ、どうやら懸念が実現したようだ。情報を知るためにも戻るぞ、私の傍を離れるな」

「お手を煩わせ申し訳ありません」

「かまわん、お前を護るのも私の務めだ。さあ行くぞ、私たちの勇姿を特等席で見せてやる」

「お供しましょう、御心のままに」


 自信満々に言い放つケイ、彼は伯爵を従えてその部屋を出る。部屋を出たところで聞こえたのは怒号と悲鳴、確実に何かが起きていることを示していた。


 はい、会話回なので地の文が少なかった本編です。何か久しぶりに長めの話を書いた気がしますね、最近が短かっただけか。今回は露骨な伏線回でもあります、ちゃんと回収しきれるか不安に思っていますがね。ではまた。

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