今日の報告
副題は、晩餐ですよ
「戻りました」
「どうだった?」
王城の一室、ミリア王女の執務室にてナルは今日の調査結果を報告する。
「昼間に建物の上を飛び回る不審者が居たのでつけてみたところ地下に潜っていきました、もし関係があるのなら件の組織は地下を本拠地としている可能性がありますね」
ちなみにだがこの不審者はケイのところで出てきた男のことだ。つまり、実はナルとケイはニアミスしていたと言うことだが、まあ会うのが遅くなっただけで大した問題ではない。
「ふむ、かもしれんな。どうするつもりだ?」
「明日はちょっと潜ってみます、上手く行けばあちらのトップと会えるかも知れませんし。…ああ、そうだ、捕縛の方向で行った方が?」
「殺害でもかまわん、余力があれば捕縛しろ。頭だけで良いからな、手足は無くてかまわん、どちらの意味でもな」
「了解」
要はトップ以外は殺してもかまわない、トップについても手足の一本や四本は壊していいということだ。
「それとこちらからも報告することがある、王都にあの二人が入ったそうだ」
「あの? ああ、ケイとユウのことですか」
あのと聞いてすぐさま二人の友人を思い出すナル、しかもそれが驚きも悩みもせずの一言だったので逆にミリアの方が少し驚く。
「驚かないのか?」
「あの二人のことですからね、このぐらいの偶然は簡単に起こしますよ」
そうなるかもしれないと思っていたがやっぱりそうなった、あの二人はしばしば運命神を従属させているんじゃないかと言いたくなる位都合のいいことを起こすからね。もう慣れたよ、本当に。
普通ならそんなことを信じる者はそう居ないのだろう。だがミリアもまたあの二人、正確には三人の出鱈目っぷりを知っている。故にむしろ得心が言ったかのような表情で頷く。
「ふむ、一理ある。合流はどうする?」
「放っておいたところで勝手に合流することになりますよ、あの二人に関しては世界が二人に合わせて動くと言っても良いぐらいご都合主義が起こりますから。それで、他には何かありますか?」
「そうだな、あの二人のことだが、連れがいたそうだ」
「連れですか、まあ一人で動くと誘蛾灯に早変わりする二人ですからね」
連れ、ね。一体どんな人だろ? 多分僕の知らない人だと思うけど、どうかな? …何となく女性のような気もするな、いや、ユウは変に人を引き付ける性質だからそうとも限らないか。まあ、会えば分かるか。
「お前もだろう?」
「否定はしませんよ」
くくっ、と口元を隠して笑うナル。それに対してミリアも同じように笑みを返した後立ち上がりながら夕食の提案をする。
「…さて、では食事としよう。ミチ達も呼ばなくてはな」
「ええ、そうしましょう」
所変わって食堂、おかえりただいまの挨拶をそこそこに済ませ席に座る四人。前夜にも感じていたがニーナの口数が少ない、どうやら元来メイドのニーナには落ち着かない場所のようだ。それを言ったらミチもわりとどっこいなのだが意外と肝が据わっているらしい。とは言え、得手ではないのは確かか。そのような夕食を他愛の無いお喋りを交えつつとっていると、ミリアがふと思い出したかのように話題を変える。
「…ふむ、こうやってみるとやはり城の料理は堅苦しいな。ミチの作った親子丼とやらは随分と手軽で味も良かったが」
親子丼? 一国の姫が言うには違和感ましましのその語を聞いたナルは何を言っているのかと軽い混乱に陥る。
「はい? 親子丼? ちょっと待って、何? ミチさん?」
親子丼なんてものを知っているのはミチぐらい、そう確信したナルは彼女に疑いの目を向ける。そうすると受けた彼女はうろたえながらも昼間にあったことを説明し始める。
「あ、その、ええっと。お昼も堅苦しいのはちょっときつかったので、自分達で作らせてほしいと頼んだんですよ」
「私達はミリア様預かりの客ということになっていますから、その辺りの申請の都合とやらでミリア様にまで話がいったんです」
「そして報告を受けた私が興味を持ち見学、出来上がったそれの相伴に預かったというわけだ」
ミチ、ニーナに続き話をするミリア。何故か自信にあふれる顔で彼女が話を締めた所で、ナルは額を押さえながら首を振り、王女に苦言を呈す。
「そのドヤ顔は止めてください、腹が立ちますので。それに部外者が作ったものをホイホイと食べないでください、何かあったらどうするんですか」
「ミチたちだって一緒に食べたのだ、何か起きる筈もあるまい」
「自爆特攻喰らう可能性だってあるでしょう、いくら僕の身内だといっても少しは用心してください」
「お前達がそのような遠回りな手を打つものか、やるなら直接私の首を落としにくるさ」
「そこは肯定しますがね」
ポンポンテンポ良くと互いに放たれる掛け合い、それをポカンと見ていたミチは唐突に笑みをこぼす。
「…ふふっ」
「何だい、ミチさん?」
「ああ、いえ。変わったなと思いまして」
「僕がかい? そりゃあそうだろうね」
「違うかな、何と言ったらいいのか…。ああ、そうだ、自然体になったって感じですね」
「自然体?」
自然体という言葉にしっくりきたのか何度も頷くミチと、思ってもみなかったという表情をしているナル。
「ええ、以前の、あっちに居た頃のナルさんはどこか演技しているような気がしてたんですよ。でも今の貴方は自然体で、素が出てるような気がして」
「…なるほどね、ばれてたんだ」
「気がする、程度でしたけどね」
「そう…、まあ、あの頃はどうにも、ね」
あの頃はほとんどが表面上の付き合いだった、かろうじてミチ達との時間だけは深いところを出していたつもりだったがそうでもなかったらしい。…やれやれ、だね。
「分かってますよ、それに大事なのは今です」
「だったらケイ達に感謝しないと、今の僕があるのは彼らのおかげだからね」
「なら私もお礼を言わなければいけませんね」
「何か王都にいるみたいだし、もうすぐ会えるんじゃないかな?」
ひょいと出された重要そうな話、その軽さにミチは調子を崩されながらも訊いてみる。
「な、何か軽いですね。会いに行く気は無いんですか?」
「あの二人主人公体質だから、どうせ都合の良いようになるよ」
「…居るんですね、そういう人」
「居るんだよね、これが」
はははと二人して笑う、その脳裏に映るのは仲間と目の前の彼。それぞれが思う主人公を思って笑う二人に仲間はずれな感じがして内心寂しくなったミリアも混ざる。
「ふむ、なにやら面白そうな話だったな。詳しくは訊かんが」
「そう言って貰えると助かります」
「ふ、私はいい女だからな」
「それを言わなければ良かったんですがね…」
その突っ込みに思わずニーナも混ざって笑う、そんな風に和やかな食事も終わりに近づいた頃に、ミチは今日のナルの成果について質問をする。
「ナルさん、今日のお仕事はどうだったんですか?」
「ん? そうだね、あちらさんは地下に潜っているかもしれないことが分かったよ。だから明日は実際に潜って調べてみるつもり」
「地下? ここの地下って何があるんですか?」
「水路だ、生活排水用のな。王都建設当初から存在しているもので時折増改築をしているので迷路のようになっている、そのため良からぬことをしている輩にとっては格好の隠れ家になるな」
「分かっているのなら対策は出来ないんですか?」
そのもっともな疑問に苦笑しつつもミリアは国の実情を説明する。
「そうしたいのも山々だがな、内部が複雑な上広大なものだから満足な警備を行えるほどの人手が無いんだ」
「人工の迷路みたいになっているから人を入れ難いんだよ、防衛上の観点から地図を渡し難いのに慣れて無いとまず迷うし。他所からの侵攻対策に複雑化するのは間違って無いんだけどね、その分内からには弱くなるから考え物だよ」
あちらは迷うがこちらは見つけられない、効果はあるが痛し痒しなところもあるのが玉に瑕だ。
「なるほど、そういうことですか」
「多分あっちは増改築時に作られた工員用の休憩所なんかを利用しているんだと思う、だからその辺りの地図を貸してもらえませんか?」
「…いや、無理だな。さすがに自国の民以外に貸与するのは私の一存では無理だ、確実に陛下の耳に入るだろう」
防衛用に複雑化しているのにそれを無効化可能なものを宮仕えでもない冒険者に貸すのはさすがに難しい、例え個人としての信頼があっても国家としては不可能なのだ。
「それはそれで都合が悪い、と。分かりました、こっちだけでやってみましょう」
「すまん」
「いえ、あれば良いといった程度ですから。無くてもどうとでもなります」
「頼もしいな、よろしく頼む」
「はい。…あ、施設の破壊は?」
「……水路は壊すな、確実に捕縛しろ、これを守れるならある程度は納得させる」
顔をしかめつつそう指示を出す、壊れないに越したことは無いが目的達成ためなら目を瞑るといったところか。もっとも、ナルの戦法ならそうそう施設破壊は起きないだろうが。
「了解です」
「こうなるとユウが居ないのは行幸かもな」
「いや、さすがに壊すなと言われていればユウだって気をつけると、思い、ますよ?」
そんな風にして、地味にユウへの友人からの信用が薄いことが発覚したところで、今夜はお開きとなるのでした。
はい、文の締めが苦手だと良く分かる本文になってしまいました。まあそれはいいとして、今回からナル視点となります。次話かその次で合流するんじゃないかな?
章をどうしようか考え中です、このまま行くか合流した時点でいったん切るかで。個人的に王都でもう少しやっておきたい話があるのでそのまま行こうかとは思っていますが章の内容と合わない気がするんですよね。…まあいいか、何となくで行きましょう。では、また。




