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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第四章:三人の合流
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墓参りとその帰り

副題は、気まぐれか否か


 とりあえず必要なものは買ったか、…ああ、まだあったな。


 目に付いた花屋に入るユウ、ひとしきり花を見て回った後で首をかしげて店員に声をかける。


「いいかい?」

「はい、いらっしゃいませ。どのような花がご入用ですか?」

「墓参りにちょうどいいのを包んでくれるかい?」


 どうにもよう分からん、素直に聞くのが早いわな。


「分かりました、少々お待ちください」

「ああ、頼むよ」





 街外れ、常に人の少ないそんな場所。そこをユウは歩く、ここには友人に会いに来た。


 右の肩に花を乗せ、左の手にはビンを持っている。そんな彼に目を向けたのはとあるシスター、彼女はいつものように声をかけようとしたが、それが誰であるかと気付いて思わず呟く。


「…貴方は」

「やあ、アイツに会いにきたよ」

「…どうぞ、常にあの場は綺麗にしてあります」

「あいよ」



 歩みを止め一つの墓を見下ろす、そこにあったのは周りのそれを比べて少々豪華な墓であった。この一画に眠っているのはそのほとんどが無縁仏の類であり基本的にその墓は質素で画一的なものであるので、ユウの前にある墓はこの一角の中ですぐさま見つけられる。


「よお、来たぜ」


 腰を下ろし持って来た花を供える。片手でビンの口を開け、一口飲んで墓の前に置く。


「まったく、こういうときは酒が相場だってのにさ。お前のせいで格好つかないじゃないか」


 アイツは酒が飲めなかった、いつも酒場でジュースを頼んでは周りの奴らに突っ込まれていたものだ。そして随分な大食漢であった、一般人と比べてかなりの量を食べる自分ですら敵わないほどの量をいつも食べていた。そのためいつも金欠であったが、その食いっぷりが気持ち良かったので何度もおごったものだ。そのくせ食った分は何処に行ったのかと言いたくなるほど体は小さく、前衛職ではなく中衛の支援職を担当しているという変な奴でもあった。


「懐かしいねえ、まったく。…お前が逝ってからもう4年になるのか、そりゃあ懐かしいわな」


 しみじみとそう呟く、王都に来る度にここに寄っているが懐かしいと思ったのは今日が初めてか。


「どうして死んじまうのかねえ、見知らぬ他人を救う義理など無いだろうに」


 アイツが死んだあの戦場、あの場では多くの人が死んだ。知っている顔もいれば知らない顔もいた、ただ友人としての付き合いがあったのはこいつだけ、どうしてわざわざこいつが死ななきゃならなかったのか。


「まったく、支援職が前に出るようなことがあっちゃ駄目だろうがよ」


 自分が戦うことで誰かを守れるのなら、そう言って常に戦い続けていた。結局最後までそんな生き方を通して死んだ、満身創痍の中見知らぬ他人を庇って死んだと後から聞いた。無理も無茶も日常茶飯事、それをやっていいのは自分のような例外だけだっていうのに。


 背負いすぎる奴だった、目の前で人が死ぬのは嫌だと常々言っていた。依頼に手間取り無用な犠牲が出た時は依頼人たちに責められても平然としていたが、一人になればその体を丸め、声を殺して泣いていた。そこまで背負い込まなくていいだろうと言ったが笑ってそれを流していた、それでいてしばしば悪夢に苛まれていたというのにな。


「…くっかか、そういうことかよ。だから俺はアイツを」


 何故ザインを誘ったのか今分かった、アイツにどことなく似ているからだ。自分の所為でない死を背負い込みそれに囚われる、そうして何故か勝手に俺に恩を感じた。そんなところが似ていたのか、通りで何処となく気に入ったわけだわ。


「まったく、気まぐれだと思ったらそういうことかよ。まあいいか、どっちにしろ変わらん」


 立ち上がり墓に背を向ける。


「いつかは知らないが、また来てやるよ」


 そう言って後ろ手を振りながらその場を去る、残った花が通り過ぎた風に軽く身を揺らした。それはまるでユウに向かって手を振っているかのようだった。




「…お帰りですか?」

「ああ、またいつか来るよ。これは寄付だ」

「…感謝します、貴方にも安寧神のご加護を」

「いらんさ、俺にはもう俺の神がいるんでな。それにそいつはあんた等のためじゃない、アイツの為の金だ。ま、余った金をどうしようと俺が関知したことじゃねえがな」

「…お気をつけて」


 彼女は深く頭を下げる、それを見たユウは彼女に背を向け歩き去る。彼女は、亡くした友人が最後に守った元冒険者は、ユウが居なくなった後も深く頭を下げ続けていた。



「…うん?」


 大通りに向かって歩いていると路地裏の一角からフードを被った人物が飛び出してきた、背格好からおそらくは子供だろう。子供はユウのところまで走ってくるとその手を掴みこう叫んだ。


「助けて! お兄ちゃんが、お兄ちゃんが!」


 声からすると少女なのだろうか、ユウは彼女に向かっていくらか柔らかい口調で問いかける。


「どうした? 何があった?」

「あの奥でお兄ちゃんが! 助けて!」


 必死だが何処となく作り物臭い、そんな風に感じる少女の様子を気に留めていないのかユウは力強く彼女に頷く。

「分かった、案内してくれ」



「? 何処だ? …?」


 彼女に導かれて路地裏に入るとそこには何も無かった、そのことに首を傾げるユウ。少女に問いかけようとユウが振り向いた瞬間にナイフがその腹に突き刺さった、彼女がナイフを突き立てたと気付くと同時に彼はその場に倒れ伏す。


「…」


 少女はフードの奥の意思の感じられない目で彼を見る、彼が動かないことを確認した少女はその場から離れる。少女は路地裏のさらに奥を目指して歩く、歩く、歩く。彼女は何時までも歩き続ける、目的地は見当たらずいつの間にか歩けど歩けど周りの風景は変わらなくなる。少女はそんなことにすら気付けずに歩き続ける、そんな中突然に彼女の意識は落ちた。





「やれやれ、何なのかねえ」


 ユウは壁に背を預けた状態で少女を見る、少女は先ほどのユウのように地に伏している。違う点は少女には別に怪我等があるわけでは無いということか、ついでに言えば先ほどまであったはずのユウの傷は一切存在していない。


「やっぱり便利だねえ、この魔法」


 つまりはそういうことだ、ユウが何時ぞやに覚えた夢幻魔法を使って少女を幻の世界に閉じ込めたのである。かけたのは路地裏に入った瞬間、そこから先は彼女の脳内でだけ存在した虚構の現実であった。だからユウの知らない道は彼女の現実には出て来れずに途中からループし続けたというわけだ、本来であればその瞬間に異常に気付くはずなのだが…。


「薬か何かで操り人形、本人の意思は薄く薄くってか。見た感じだと麻痺の類が仕込まれたナイフ、その後の移動、人攫いか何かの手駒って所か」


 倒れている少女を見下ろし溜め息を吐く、どうしようかと思いながらしゃがみ込む。


「普段ならどうでも良いってとこなんだがねえ、アイツの墓参り帰りだからなあ」


 少女が被っているフードを上げる、そこには年端もいかない少女の顔があった。その顔はやつれており、この年頃の少女が本来しているべき顔ではない。


「…んー」


 少女の顔を覗き込んでいると思い出した、何時だったかの依頼でアイツがぼろぼろになりながらも守り抜いた少女の顔を。


「ま、何かの縁だ。柄じゃあないが、解決しますか」


 やれやれと呟きながら少女の身体を持ち上げる、ユウの力を差し引いても軽々と持ち上がるほどのその体は軽い。そのことに軽く顔をしかめつつもユウは自分達に何かしらの魔法をかける、そのままで大通りに出て行くが誰もユウたちを気に留める様子も無い。そんな風にしてユウは左手の契約印を頼りにソフィアたちが見つけた宿に向かうのであった。




 さて、これで明日の予定は決まったかね。そんなことを考えながらソフィアたちと合流すると誘拐犯呼ばわりされたわ、何でだ? ……フードで隠した少女を背負った成人男性か、そりゃ誘拐だわな。どう言い訳したもんかねー、ってな。


 はい、ザインを仲間にした理由が薄いかと思ってその補填として考えてみた話です。もうちょっと深く書こうかと思いましたが別にメインじゃないのでさっさと一話に纏めました。刺されたあたりも次話に跨ごうかとも考えましたがそこまでの話でも無いので却下。次からナル視点となります、それではまた。




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