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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第一章:ケイの出会い
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傷つける力、守る力

副題はフラグの土台作り

 依頼製作完了後ケイとシェルはすぐさま村へと取って返した。何とか日が落ちる前に村にたどり着くことができた二人は馬をつないだ後その足で村長宅へと向かう。


「村長、シェルだ、今戻った」

「おお、戻ったか。どうじゃった?」

「依頼は出せた、三日後の朝ここにツーリアから冒険者の一団が来るらしい。それとケイ殿も正式に依頼を受けてくださった。村の者達は?」

「そうか、まずはよかった。村の者たちにも知らせ終わったよ、どうにも真剣に受け取っているかは怪しいがのう。ケイ殿もよろしくお願いいたしますぞ」

「無論だ、依頼である以上は十全にやらせてもらう、知人もいることだしな。この村に戦える者は?」

「息子がいればよかったのですが、村の者では魔獣とやらの相手は無理でしょう」

「ケイ殿、私も戦おう。まだまだ衰えてはいない」

「わかった、頼むぞシェル殿。それとノエル嬢は戦えるか?」

「え…」

「ケイ殿、娘は!」

「シェル殿、今はノエル嬢に話を聞いているのだ」

「私は……無理です」

「そうか、ならかまわん」

「いいんですか?」

「無理強いして死なれてもな、予備戦力があったほうが防衛には良いというだけだ。シェル殿も防衛側だ、森に入るのは冒険者が行う」

「よそから来たものよりは私のほうが森には慣れていますが」

「あまり人の仕事を奪うわけにもいかんだろう、貴公は娘と村を守れ」

「…わかりました。ところでケイ殿の宿のことですが」

「わしの家に来てくだされ」

「村長?」

「年頃の娘のいる家に泊まってもらうわけにもいかんじゃろうて」

「そのほうが良かろうな、村長殿世話になる」

「かまいませんぞ、しかし三日後はどうしましょうかのう」

「急ぎ調査を済ませたとしても一泊はすることになるだろうな。野営の準備はしていると思うが、まあ食事だけでも提供しておくべきだな」

「そうしましょうかのう、ではシェル、ノエルまた明日な」

「わかった、失礼しますケイ殿」

「ああ」



 そのままケイは村長の家で夜を迎えることとなる、それまでケイも雑事を片付けたり自分が寝泊りする部屋の掃除をしたり村長の料理を手伝ったりした。その夕食時での話だ。


「いやはや、ケイ殿は手際がよかったですな」

「自炊する機会は多い、野営をする時も携帯食よりは温かいものを食べたいものだからな」

「それはそうでしょうな。話は変わりますがケイ殿、あなたはシェルとどのような間柄で?」

「シェル殿がグリエル帝国にいたころにその仕事関係で知り合いだった。あなたはシェル殿の事情についてはどの程度?」

「デューリ家の当主で貴族であったことは知っております。あとは何かの理由でその座を退いて、リンドの紹介でノエルとここに来たことぐらいですかのう」

「リンドというのはあなたの」

「息子ですじゃ。そういえばわしも名乗っておりませんでしたのう、わしはガンド・キエルと申します」

「では改めて、冒険者SSクラスのケイだ」

「SS!? すごいですのう、息子はどうでしょうかのう」

「やはりご子息は冒険者か、…思い出した、三年前のBクラス昇格試験受験予定者の一人の名がリンド・キエルだった」

「本当ですか!? してその結果は?」

「すまんがギルドにAクラス昇格試験の試験官を頼まれたときに受験予定者一覧をちらりと見ただけで結果は知らん」

「そうですか、しかしCクラスではあると。やつもがんばっておるようじゃのう」

「Bクラス以上で高位クラス扱いとなる、それを考えればご子息は実力者ということだ」

「だからこそこういったときにおれば良いのにのう」

「しかたあるまいよ。それとシェル殿から呪いの話は聞いたがこの村ではそのような言い伝えがあるらしいな」

「ええ、嘆かわしいことに村の人間はほとんどそれを信じております。年頃の娘にあのような不自由な思いをさせるとはなさけない。あの娘がここで婿を取るのは無理でしょうな、良き娘ではあるのですがのう」

「しかし、ガンド殿は信じておらんようだが」

「亡くなった妻は魔術師でして、そういったものは無いのだと教え込まれましたからのう。妻はノエルのことも気にかけておりましたし、わしらにとって孫のようなものですからのう」

「そうだったか、とはいえ彼女がここに住み辛いのは変わらんか。彼女は少し優しすぎる性格らしいな、他人を捨てるということはできんか。もう少し自分本位に生きればよかろうに」

「なかなか難しいでしょうなそれは。わしらに義理立てなどせんで良いのにのう。出来れば幸せになってほしいものじゃが」

「同感だ」


 その後は他愛も無いことを話したりしながら夜はふけていった。翌日はケイがノエルとともに森の中を軽く調査し、例のエイグマがいた地点を見つけたが痕跡から森の奥のほうから来たことがわかり、続きは冒険者達が来てからという事となりその日を終えた。


 二日目は森の浅いところを広く回り何か普段と変わっていることがあるかを調べたが、慣れているノエルからも冒険者としての視点を持つケイからも特に不審な点は無く、当日は調査に戦力を多く割り振ってもかまわないだろうと言う結論を出した。


 その最中の二人は雑談を交えていたのだがノエルの発した一言から話は真剣なものとなっていく。


「…ケイさんは怖くは無いですか?」

「何が」

「その、魔獣と戦うことが」

「…君が聞きたいのはむしろ、力を振るう恐怖ではないのか」

「え? …はい、私は昔、友達に怪我をさせてしまいました。それから力を使おうとする度にそれを思い出すんです」

「固有魔法か、どういった状況だったんだ」

「私の固有魔法は視界内に壁を作り出すと言うものです。友達と遊びに行ったときに変質者に殺されそうになって、それで壁を作り出して相手の足を挟んで相手がひるんでいる間に逃げたんです」

「それで友を傷つけるとは思えんが」

「…そのときの私は初めての恐怖に混乱していたのでしょう。間違って前を走っている友達に対して使ってしまったんです。彼はそれに足をとられて転がっていた石で目を」

「なるほどな、それがトラウマになっているのか」

「はい、ケイさんは人を傷つけることが怖くは無いのですか?」

「ない。力を振るう方向を間違える気はない、ならばそれを恐れる必要も無い。それだけだ」

「強いですね、ケイさんは」

「当然だ、そもそも私は人を傷つけるどころか殺したこともあるからな」

「えっ?!」

「盗賊討伐などで人を殺すことは冒険者にとっては珍しくない、ランクが上がればそういったことを強いられるものだ。そんな私を恐怖するか?」

(ケイさんが人を…? 彼は人を傷つける力を持っていて、でもこの人は)

「……いえ、貴方はあいつのように殺したいから殺すという人ではないのでしょう。それに貴方は私を助けてくれましたから、傷つけるのではなく守るために戦える人だと思います」

「ならば君もそうあればいい」

「それはどういう」

「君の固有魔法も聞いた限りでは守る側の力だろう。人を傷つけるかも知れんが本当にそれが本質なのか? いや、たとえ殺す力であってもそれが自分や誰かを守るためならばそれは守る力だ、君は自分のそれをどうしたい?」

「私は……」

「まあ急ぎ考えなくても良い、今回のことで君が戦う可能性は低いのだから。ただ、君は強くなるべきだと思う、いろいろな意味でな」

「……」

「…私の友人が言っていたのだな」

「?」

「悩み事と言うものは考え込んでも仕方ないそうだ。何かの拍子にふっと結論が出るものだと言ってな。あまり普段から考え込むな、それが結論だと」

「…ふふっ、そうします」

「そうしておけ、ノエル嬢」

「それと」

「何だ」

「私のことはノエルで結構です」

「わかった、ノエル。私のことも呼び捨てでかまわんぞ」

「わかりました、ケイ…さん」

「まあ好きに呼ぶといい」


(ケイさんが居れば私も前に進めるかもしれない…ってなんかあれね。でも)


 再び思考の海に沈むノエルをケイはいつものように無表情のまま、しかし冷たさは見せずに見つめる。彼女の頬が軽く赤らんでいることからそれが後退的なものではないと理解したケイはそれを咎めずに、彼女と共にゆっくりと村に戻る。そして二日目は終わりを迎える



ケイの記憶力:ケイは一度認識したことを決して忘れることは無い。そのため三年前に一度ちらりと見ただけの資料の内容も覚えていた。ただしあまり意識せず覚えた内容に関しては思い出すのに時間がかかる。


ケイの独り言:ケイは普段常に複数のことを並列で思考している。その能力のおかげで彼は現状考えられる自体をすべて予想できるので予想外のことで思考を乱すということが無く、常に冷静にことを進められる。その分ひとつのことに思考を集中させ考え込むことが出来ないので、思考をそちらに誘導するためにわざと独り言を多く言っている。彼視点が無いのはこのあたりが原因。

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