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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第四章:三人の合流
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立て篭もり

副題は、嫌いな相手への対応は?


 二人から離れて少しといったところか。


「…ん?」


 足を止め前で出来ている人だかりに目をやる、何かあったのか? そう思い近くに居た中年男性に声をかけてみる。


「なあ、何かあったのか?」

「え? ああ、何でも強盗が立て篭もってんだと」


 どうやら人だかりの先にある店に強盗が入りそのまま立て篭もっているらしい。


「ありゃま、そりゃまずい。憲兵には通報したのかい?」

「ああ、若い奴らが呼びに行った。ただ犯人も気が立っているみたいだからどうなるか」

「ふうん…」


 そこまで聞き興味をなくしたのかその場を離れようとするユウ、その耳におかしな叫び声が飛び込んできた。


「おい! その人たちを放せ! そんなまねをして恥ずかしくないのか!?」

「あん? 誰だ今の馬鹿は?」


 この状況で犯人の神経を逆なでするようなことを言うなんて何処の馬鹿だ?


「ありゃ、ザイウの奴か?」

「知り合いか、おっさん?」

「ああ、この辺りに住んでいる奴で昔からの馴染みだ。少し前に冒険者になったとか聞いたけどよお、何をやってんだ」


 手で顔を覆い、呆れたように言う男性。


「知り合いなら止めてきた方がいいぞおっさん、あのまま好きにさせると人質がやべえ」

「そうだけどよ、アイツは話を聞くような奴じゃないからな」


 男性は彼とそれなりの付き合いだったためよく知っており、その内容をユウに対して語る。お節介な性質だがどうにも周りをきちんと見ていないというか、要らぬ節介大きなお世話を地で行っていることが多々ある。よく考えれば分かるのにパッと見が悪だからという理由で暴走し、目の前のことのみで判断することが多々ある。頭が固いというべきか視野が狭いと言うべきか、ともかく短絡的で思い込みの激しいのが彼なのだと。


「偽善者か」


 男性の話を聞いたユウの感想はそれだった。彼は気に入らないといった風な表情を浮かべている、自分の嫌いなタイプだと勘付いたのだろう。


「まあ、間違っちゃねえかもな。昔から自分が正しいと思ったことは絶対に曲げない奴だからな、悪い奴じゃねえんだけど」

「少なくとも頭が悪いわ、ついでに言うと腕も無い」


 見れば分かる、あれでは人質を殺すのが関の山だ。


「しゃあねえ、何とか止めてっておい!」

「あの馬鹿突っ込みやがった、ありゃ死人が出るな」


 結局、犯人たちに業を煮やした状況判断も我慢も出来ないその男は店内に駆け込んだ。外まで漏れる怒声からその結末が芳しくないのは聞き取れる。


「くそっ、どうすりゃ」

「ここが通報にあった場所か!?」

「やっと来たか、って騎士? 憲兵じゃないのか?」


 ようやく駆けつけた一団、その装備は街中の諸々のトラブルを担当する憲兵たちのものではなく騎士たちのそれであった。


「偶々居たんだろ、騎士の方が強いのは確かだからな。まあ上手く抑えられるかって言ったら知らんけど」




「…!?」


 そんな中一人の騎士がユウたちの方を見て何か驚いた顔をする、彼は隣の騎士に何事かを告げた後こちらに向かって小走りで駆けて来る。


「ん? あの騎士さんこっちに来てないか?」

「あん? 本当だな、何をやっているんだか…ってもしかして」

「どうした、兄ちゃん?」

「いやちょっと」

「ユウ殿!」

「ああやっぱり」


 騎士、こちらの顔に気付く、そして名前を知っている、確定だ。


「お久しぶりです!」

「まあ久しぶり、やっぱりあの時居た一人か」

「ええ、そうです。覚えていてくださいましたか」

「名前は忘れたけどね、正直興味なかったから」

「て、手厳しいですね」


 ざっくりと切り捨てるユウ、この男にとっては取るに足らない人物は誰であってもこんなものだ。むしろ顔を覚えていただけましだろうか?


「おい、兄ちゃん。これはどういうこった?」

「ちょっとした知り合い。それで? 何となく分かるけどなに? 早く犯人を確保したらどうよ?」

「お力添えを願いたく」

「…まあいいか。その代わりに俺の好きにやらせてもらうからな?」


 その言葉に嫌な予感を感じる騎士、そもそもユウが悪い顔をしている時点でマズイのだが。


「可能な限り無用な被害は抑えて頂きたいのですが…」

「安心しなって、被害者は助けるから。それ以外は知らんってだけだ」

「…出来れば生け捕りでお願いします」

「あいよー、それと火事場泥棒の準備をしておけ」

「は? …ああ、分かりました。では任せます」


 火事場泥棒? と一瞬疑問に思ったが言わんとするところを理解して頷く騎士、ユウに敬礼をした後すぐさま同僚たちの元に戻りその時に備えだす。


「兄ちゃん?」

「やれやれ、さっさと片付けていきますかね」



「はいはい、失礼するよー」


 正面から堂々と、まるでこの状況が見えていないかのように店内に入る、しかしさりげなく結界を張り外から様子が探れないようにしている。その際の相手方の行動からこれすら感じ取れないのかとがっかりする、これでは面白くはならないなとそう思う。


「! 何だテメエ!」

「この野郎の仲間か!?」

「ちげえよ、知らねえよ」


 顔を顰め心底嫌そうに返すユウ、まあこいつの性格上こう言われるのはそりゃ気に入らないか。


「いいか!? ちょっとでも近づいたらこいつの命はねえぞ!」

「アンタ、俺はいいからこいつらを捕まえてくれ!」


 まるで主人公か何かのような台詞をはく青年、勿論ザイウのことだ、は縛られ首元にナイフを突きつけられている。いや、そもそも主人公はこんな状況に陥らないか。それはそれとしてユウはそんな彼に冷たい眼差しを向け、フンと鼻を鳴らす。


「分かってるっての、誰もテメエの事なんか知らねえよ」

「お、おい!? このナイフが見えないのか!? このまま近づくならこいつの首を」

「さっさと切れよ、面倒くさい」

『はあ!?』


 三人いる犯人たちの声が重なる、それに対してユウは耳を掻きながら言い放つ。


「人質を危険にさらすような真似をしたうえに自分から人質になるような馬鹿なんか知ったこっちゃ無いっての。俺がやることは被害者の救出とお前らの確保であってその馬鹿の事なんぞ知らん。いっそ殺せよ、その方が早いから」

「お、お前!?」

「何驚いてんだ? 普通だろ? お前らもどうして一人位殺さないのかね、そうすればこっちも慎重になるだろうに。人を殺す覚悟も無い癖に人質とは、馬鹿じゃねえの?」


 侮蔑の表情を隠さずに言ってのけるユウ、よもや人質をとったことではなく人を傷つけていないことを馬鹿にされるとは思っていなかった犯人たちに動揺が走る。特にザイウを人質にとっている男の動揺は激しく、その手に持つナイフをブンブンと振り回しながら喚きたてる。


「だ、黙れ! い、いいか? それ以上近づいたら」

「近づいたら?」


 ゆっくりと、確実に歩を進めるユウ。そんな彼の様子にもはや恐怖を覚えた男はついに。


「く、くそっ!!」

「…え? っぐ、あああああ!!?!?」


 深々と首に突き刺さったナイフ、得体の知れない恐怖に染まった刃はザイウの命を奪おうとしている。


「お、おい!?」

「何やってんだ?! それじゃ」


 想定していない人質への殺傷、筋金入りでもない即席の強盗集団は仲間の凶行ににわかに瓦解しだす。


「やっとか、まったく、踏ん切るのが遅いんだよ。だが、これで大義名分は得たってな」

「何を言って…、は?」


 突然に目の前が黒く染まる、何事かを理解する前に彼の首はゴキリと音を立てて捻じ曲がった。



「え? …え?」


 気がついたら仲間が倒れていた、しかも首を豪快に寝違えて。一体何が起こった?


「はい、次」

「え?」


 そんな暢気なことを考えていたら、つまらなそうな男の顔とその手を最後に闇に沈むこととなった。



「ひっ!? お、お前!?」


 瞬く間に二人の仲間が地に伏した、それも目の前の男に素手で首をへし折られるという非現実的な行いでだ。それを成した当人は残った犯人の表情を見て心底馬鹿にした顔を浮かべる。


「何を動揺してんだか、ちょっと頭のある奴なら分かるはずなんだがな。リスクとリターンの理解と覚悟もなしにこんなことをしでかすとは。もしかして自分だけは何をやっても大丈夫なんて思ったのか? だとしたらとんだロマンチストだな」

「く、くそっ! だけどまだ人質が」

「そうでも無いさ、なあ?」

「ええ、上手く盗ませてもらいました。囮感謝です」


 犯人の後方に向かって声をかける、そこには先ほど外で会った騎士の姿があった。つまり、ユウの役目は最初から陽動に過ぎなかったのだ、要は裏から侵入して人質を救出する騎士たちであったということだ。


「なあに、かまわねえよ。防衛はともかく奪還は苦手だからな、俺は」

「な、な」

「理解が吹っ飛んだか? だったらそのまま頭も吹っ飛ばして」

「待ってください、全員殺すのはさすがに勘弁願いたいです」


 こちらでも捕縛はしているが背景などを探るためにも情報源は多い方がいい、まあ頭は抑えたから下っ端はいくらか死んでもどうにかなりはするのだが。


「うん? まあいいけどよ」

「しかしユウ殿、これは…」

「何かまずかったか?」

「一人重傷のようですが?」

「三人だろ」

「民間人が、です」


 ザイウの怪我の状況を見ながらそう言う、通常なら手遅れだが魔法を用いればどうにか出来るかといったところ。とはいえ治癒系の適正が無い彼では何も出来ない、だからユウに頼みたいところ。


「俺には加担にしに行ったようにしか見えなかったんだがな、あんな馬鹿な真似をしていたから」

「だからと言って」

「別に俺は殺してないっての、こいつが勝手に殺したんだよ」

「でしたら治療をお願いできませんか? さすがに放置するわけには行かないもので」

「知らん、そっちでやってくれ」

「はあ!?」


 そっけなく言い放つユウに驚愕の声を隠すことが出来なかった騎士、そもそもこいつにそういうことを期待する方が間違っているのだが。


「俺は普通に悪人側の人間だからな、嫌いな奴をわざわざ助けたりはしないさ。じゃ、俺は帰るからあとよろしく」

「ちょ、ちょっと!」

「じゃあねー」


 こうして裏口からさっさと帰るユウ、そもそもの目的を果たすためにも全てを押し付けて手早くここを去るのであった。


 …本体の目的を考えると良いのかと言いたくなるのだが、まあユウだからしょうがないのだろう。…そもそも前提関係なく良くは無いか。


 はい、割と適当な最新話です。元々予定に無かった話ですからね、こうでもしないとユウ編でザイウが出で来ないような気がしたもので。というわけで今回はユウのスタンスとザイウのようなタイプへの対応を書いてみました。


 纏めるとナルは敵対はするが必要なければ適当にあしらう、ケイは基本的に言葉で対応するがいざとなれば実力行使、ただし二人とも殺しはしない、そしてユウは殺す方向で行くといった感じ。基本的には無用な被害を出さない性分のケイが一番安全、敵には容赦しないナルは時によりけり、ユウは危険と言ったところですか。この三人のスタンスの違いを書くためにやってはみましたがそうでもなかったですね、まあいいか。


 他には言うことは無さそうなので今回はこれまで、次話で会えたら会いましょう。

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