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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第四章:三人の合流
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事情聴取

副題は、つり橋効果?

「…大丈夫か?」

「…はい」


 先ほどの針についていた麻痺毒、手持ちの材料からそれに対応した解毒剤を飲ませて数分。元から飲んでいたものと相まって女性は起き上がって話す程度には回復していた。


「これを飲め、もう少しはましになるはずだ」


 駄目押しに一般用の回復薬も飲ませる。


「…すいません」

「気にするな、単なる気まぐれに過ぎん。それよりも梨は食べられるか? 問題なければ切ってくるが」

「…大丈夫です」

「では台所を借りるぞ、とりあえずは安静にしていたまえ」

「…はい」

「ノエル、君は彼女についていろ。何かあれば呼べ」

「分かりました」


 先ほど買った梨がこうも早く役に立つとはな、そう思いながら台所に向かうケイと、何故かその後を着いていく例の女性だった。



 ナイフで器用に梨の皮を剥いているケイを何故か眺めている彼女、作業をじっと見ながらその口を開く。


「…器用だな、私には良く出来ん」

「そうでも無いさ、それに刃物には慣れているのでね」

「そういうものか、…料理は出来た方が良いか?」

「出来ないよりは、だろうな。少なくともナルは気にせんよ」


 ナルは自分で料理が出来る分、人に強制させたりはしない。そして出来ないことを笑うような奴でもない、むしろ一緒に教えてくれるタイプだ。


「そうか…、それでだな」

「ナルとは今別行動だ、何処にいるかは知らん」

「…そうか」


 彼女の表情が見るからに曇る、ナルに会いたかったからであろう。


「すまんな」

「いや、貴方が気にすることでは無い。…そういえば彼女は何だ?」

「ノエルか、私の弟子のようなものだ」

「ほう? 珍しい」


 ケイ達は基本的に常に共にいる、だから外から人が入ってくるということは早々無い。それにケイに限らず彼ら三人の能力は圧倒的だ、それが逆に人を育てることにはマイナスに働きやすい。軽く手ほどきを施す程度ならばともかく特定個人に注力するようなことはそうそうしない、だから弟子をとるなどと言う事はそう無いだろうと思っていたが…。


「知人の娘でね、そうでなくても中々に有望だよ」

「なるほどな、いつか手合わせしたいものだ」

「さすがにまだ無理だがな、まだまだ足りないところが多い」


 そう、まだ足りない。器はあるがそれを満たすにはまだ足りない、だからこそのケイだ。


「そうだな、そもそも貴方ともまだ戦っていない」

「止めておけ、さすがに死なないように手加減できるほど君は弱くない」

「…そうだな、悔しいが私では貴方には敵わん」


 そう、絶対に勝てない。圧倒的とまでは言わないが決して届かない力の差、それが自分達の間には存在している。いつかは、と思いはしてもおそらくは無理だと断言できるほどの差が。


「君も食べていけ、美味そうだぞ?」


 会話も止めずに盛り付けまで済ませていた、相も変わらず器用で並列的な男だ。


「そうさせてもらう、私も彼女の話には興味がある」

「ほう?」


 軽く眉をひそめる、彼女が話を聞きたがる理由は…。ケイの頭にいくつかの予想が生まれる、が今はどうともならないと無視をする。


「行くぞ」

「そうだな」


 さて、何か手がかりになる話が出てくるであろうか。期待度はともかく両者は同じ事を思う。



「切ってきたぞ、まずは一口食べておくと良い」


 皿に乗った梨を差し出す、何にせよ食べることは物事を進められる。


「ありがとうございます」

「ノエル、君もどうだ?」

「あ、頂きます。…美味しいですね」

「どれ、…ふむ、美味いな」


 適当に目に付いた露店で買ったものではあったが、はずれではなかったようだ。


「なるほど、悪くない」


 四人それぞれがシャクシャクと梨をかじる、こういったものはどういう状況であれ何処となく微笑ましく思えるものである。


「さて、それでは自己紹介から始めようか。私はケイ、冒険者だ」

「私はノエル、ケイさんの、弟子?」

「そんなところだな」

「私はテーリア、ケイの知人といったところか」


 ここで明かされる女性の名前とケイとの関係、今だノエルは気になっていることがあるが今はガマンと自律する。


「私はフェニ・タルマと言います、一応はトルキア中央魔術学園の生徒です」


 要は国立の大学のようなものだと思って良い、ただ入学にはかなりの教養とそれなりの学費が必要となるため王都以外から入学者が出ることは早々無いのがトルキアの限界か。


「ほう? 専攻は何を?」

「詠唱魔術に対する最適な魔術理論構築です」

「なるほどな、今はどのようなことを?」

「えーっと、今は詠唱魔術におけるトルマイア式魔術理論適応時の内魔力消費量と最終威力の調査実験を」

「??」

「トルマイア式か、また古いものを持ち出してきたものだ」


 聞いたことも無いような単語郡に頭の上に?がぐるぐるするノエル、それと対照的に久々に聞くそれらについつい語ってしまうケイ。


「ご存知なのですか?」

「ああ、昔検証したことがある。魔術、にはいまいち噛み合わない理論だな」

「やっぱり! あれって当人の素質によるものが多すぎますよね!」

「ああ、誰もが扱えるように体系化した魔術にはどうにもな。と、言っている場合ではないな。話を戻そう」


 もとより知っている話であったために乗ってしまったがそういう場合でも無いなと軌道修正を施すケイ、さすがにここで脱線し続けるほど軸がぶれていないのはさすがというべきか少し乗ったのは珍しいと言うべきか。


「あ、す、すいません」

「それで、君はどうしてあんなことに?」

「えっと、人に呼び出されまして。あの路地裏で待って居たら後ろに気配を感じたんです、それで待ち合わせの相手かと思って振り向いたらあの男の人で。それで首筋に痛みが走ったかと思ったら身体が動かなくなって、後はケイさんたちがご存知の通りです」

「ふむ」

「質問だが、貴方を呼び出した相手とは?」


 テーリアがそう質問をする。そう、それが重要なのだ。


「あー、えっと、その」

「うん? そんなに答えづらい質問か?」

「その…、テーリアさんが気絶させた人です」

「…はあ?」

「やれやれ」


 思わずそう言ってしまうテーリアとケイ、まさかあの男が呼び出し相手とは。


「フェニさんはその人に呼び出されたんですよね? だったらその人が犯人側の人なんじゃないですか?」

「ドウメさんはそんな人じゃないと思いますけど…」

「理由は?」

「良くも悪くも善人といった感じの人ですから、犯罪に加担するということは無いと思います。ただ思い込みの激しい人でもあるので騙されて加担しているということは無いことも無いとは思いますけど…」

「まず無いと思うがな、あれは制御するぐらいなら捨て置いた方がよほど良い。はっきり言って役立たずだ」


 そう断言するケイ、実力も精神もこういった事態にはまるで向いていないと。


「否定しづらいですね…」


 そのケイの言葉に苦笑いしながらも否定はしないフェニ、彼女には思い当たる節が多すぎるほどにあるからだ。


「結局、貴方が呼び出された理由は何だったんですか?」

「…たぶん、告白、とかじゃないかと」


 口ごもりつつもそう答える、自意識過剰にも思われる発言ではあるがそう思えるのだから仕方ない。


「え?」

「たぶん、ですけど。彼とは少し前に学園からの依頼で知り合いまして、それから度々会うことがあったんです。その時の態度と呼び出すときの感じから、…その、自信無いですけど」

「呼び出しに応じた理由はあれですか? 告白を受けるためですか?」

「いえ、その、確定していませんし。そうだったとしても受けるつもりは無かったですし」

「あら、それは」

「…そこまでにしておけ、ノエル。私が言う事でも無いがさすがに脱線しすぎだ」

「あ、そ、そうでしたね」

「…さて、フェニ嬢。話は十分に聞かせてもらった、これでそれなりに情報を集めることが出来た。君の身体に打たれた毒は大体抜けたはずだ、おそらくあと一時間もすれば動くのに支障は無いだろう。私達はこれで失礼する、お大事に」

「あっ!」

「うん?」


 ケイが席を立ち上がったところで外套の裾を掴まれた、その手の持ち主は一人ベッドに居る彼女だ。


「あの、もう少しここに居てくれませんか?」

「何?」

「不安なんです、さすがにまた襲われることは無いと思ってはいますけど、それでも」


 不安ゆえか他の理由か、潤む目でケイを見つめる。


「分からなくは無いが、私達も調査や今夜の宿を探さなければならん」

「だったら、ここに泊まっていきませんか?」


 大胆なことを言うフェニに思わず顔を手で覆い逆の手で彼女を向けるケイ、さすがにこれはと思ったのだろう。


「待て、言っている意味が分かっているのか?」

「大丈夫です! 私は一人暮らしですから」

「そういうことではない」


 本当にそういうことじゃない、ケイならば問題ないが他の男に言ったら即アウトな発言だ。


「良いんじゃないですか?」

「ノエル?」


 ここでまさかの援護がノエルから飛び出す、いやむしろノエルだからこそ言える発言かもしれない。どうにも彼女は素直すぎる、美点ではあるがストッパーが居ないとまっさかさまに落ちそうだ。もっとも、ケイがいる限りはそういうことにはならないだろうが。


「宿を探す必要がなくなりますから、調査に時間を取れます。それに私がここで護衛ついでにお留守番していればケイさんも身軽に動けますよね?」

「…頼めるか、フェニ嬢?」


 しばし思案し結論を出す、ノエルの言うことにも一理ある。


「はい、勿論です!」

「…悪いが私は遠慮させてもらう、元々私はケイと行動を共にしているわけではないからな」


 ここでテーリアが離脱を宣言する、彼女にはケイ達に付き合う理由も無い上にむしろ付き合う方が不利益となるからだ。


「そうですか、残念です…」

「では私は調査に行って来る、夕方までには戻るから夕食は私が作ろう。昼食に関しては君たちで済ませておいてくれ」

「分かりました」

「では私は失礼する」

「私も行こう、それでは行って来る」

「いってらっしゃいです」

「いってらっしゃい」

「ああ」


 この後、ケイは宣言通り夕方前に戻りその腕前を披露した。彼が作った味はノエルを感動させフェニを落ち込ませるほどのものであったが、これはあくまで蛇足な話だ。



「では、ケイ。ここからは別行動だ、ではな」

「ああ。…そうだ、これを持って行け」


 フェニの家の前で別れようとするテーリア、そんな彼女にケイはあるものを投げてよこす。


「っと、りんごか。二つもくれるのか?」

「必要だろう?」


 意味ありげに口元に笑みを浮かべるケイ、見透かされていることに気付いて冷や汗を流すもののテーリアは何事も無かったように返す、


「…そうか、ありがたく頂く。ではな、ケイ。ナルによろしく」

「ああ、またな」


 二人は背を向け、互いに逆方向に向かう。何気ないそれすらもまるで彼女と彼らの未来を暗示しているかのようだった。


「テーリア様」


 フードを被りなおし歩くテーリアの元に同じくフードを被った人物が近づいてくる、容姿は見えないがその声から男なのだろうと思える。


「クロブチか、どうした?」

「は、此度の事件についてですが、どうやら鍵はティーラウスにあるようです」

「ティーラウスに?」

「ええ、あそこの遺跡には何かが在るようです。彼らはそれを狙っているようで」

「ならば今回のこれは陽動か」

「おそらくは、ここに目を向けさせるために噂を流したようです」

「その調査と対処に国の目を向けさせておくということか」

「そういう思惑かと」


 意味ありげな会話を繰り返す二人、今回の事件に関してこの二人はかなり深いところまで知っているのであろうか。


「ふむ、奴も遺跡に?」

「分かれた様子はありません、そのまま行動を共にしている可能性が高いでしょう」

「ならば私達も向かうぞ、ティーラウスに」

「はっ」


 ようやく近づいた、そろそろ奴の首に手が届くのだ。そう思い、拳を強く握りこむ。もうすぐ、もうすぐなのだ。


「…そうだ、クロブチ」


 唐突に振り向き、先ほどのりんごを投げてよこす。


「何でしょうか、…これは?」

「りんごだ、ケイから頂いた」

「でしたらテーリア様が頂いた方が」

「いや、私の分は受け取っている、それはお前の分だ」

「…もしや、私の存在が?」

「ばれていただろうな、さすがは、と言ったところだ」


 見えはしないが先ほどのテーリアと同じように冷や汗を流すクロブチ、自分程度ではケイとは勝負にならないと実感してしまう。


「…末恐ろしいですな、あの男は」

「ああ、まったくだ。ナルとユウを含めた彼ら三人とは敵対したくないな、本当に」

「ですな、…とはいえ我らは生まれながらの敵同士でありますから」

「…どうかな」


 誰にも、もしかしたら自分にすら聞き取れないほど小声で呟く。そうなるかもしれないと思っているのか、そうであって欲しいと思っているのか、私ですらよく分からない。


「は?」

「いや、何でもない。行くぞ、クロブチ」

「はっ」


 もしかしたら、ナル達ならどうにかしてみせるのではないかと思うのは、願望に過ぎないのだろうな。


 はい、今話でケイ視点終了です。次話からユウ視点で数話、その後はナル視点で進んでいくことになるかと。


 またまた書き方がふらふらしています、書き方の模索というよりはその時の気分で適当に書いているという風になってきました。読みづらい上にどうしてこうなると思うかもしれませんが、まあよろしくお願いします。そのうち安定もするでしょう、もしかしたらではありますが。


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