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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第四章:三人の合流
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路地裏事件

副題は、例の男再び


「それでこれから何処に行きますか?」


 店を出たところでノエルがケイに問いかける、それに対してのケイの返答は答えではなく質問であった。


「君はどうすればいいと思う?」

「え、私ですか?」

「全部が全部手を引かれていては成長出来ないだろう? 時折こうやって問わせてもらうぞ」

「なるほど、分かりました」


 ケイの言葉に納得したノエルはこれからすべきことについて考え出す、その様をケイは何処と無く微笑ましそうに見守る。


「…うーん、情報を集める?」

「場所、手段、内容、それぞれどう考えている?」

「え? えーっと、市場で、買い物ついでに、…何を聞けば良いのでしょう?」


 はあ、とケイはこめかみを指で押さえ軽く首を振りながらため息をつく。


「先ほどやって見せたから手本にするのは分かるが、オチがそれか」

「だって、分からないんですもん」


 店を出たときに再びフードに隠した顔をしょんぼりとさせながらそう言うノエル。対してケイの反応は、


「だろうとは思っていたが」


 これである。この男、こうなると確信を持っていてわざわざ聞いたのか。


「分かってたならやらせないでくださいよ!」


 うがー! と珍しくノエルは怒り、ケイはクククと笑いながら彼女をなだめる。先ほどから二人していつもよりも軽いのは久しぶりに甘いものを食べて機嫌でも良いのだろうか。


「すまんすまん、では早速…」

「どうしました?」


 浮かべていた微笑を唐突に取り去るケイ、その目は鋭く少し先の路地の入り口を睨みつけている、


「今日は何なんだろうな」

「はい?」

「ついて来い!」

「え? ちょっ!? い、急がないと!」


 予備動作も無くいきなり駆け出す彼に目を丸くしたものの、すぐさまにその後を走り出す素直なノエルであった。



 路地裏、ケイが自身の感覚頼りに走りこんだ先に居たのは地面に倒れている女性と手に針らしきものを持つ顔を隠した人物。体型から男と分かるそいつはケイの姿を確認したところですぐにその場を去ろうとする。


「…!」

「無刀一閃、鎌鼬」

「くっ!?」


 無刀術、ケイが手刀のみで放った空気の刃は逃げる男の手を狙い飛ぶ。狙い済まされたそれは正確に男の指を切り裂き持っていた針を落とさせる。男は針を落としてしまったことに動揺するが、そのまま路地を挟む両の建物の壁を蹴り空へと逃げ去る。それは並みの人間にはまず不可能な動きだ、冒険者で言えばBランク以上で軽業を得手としている者でもなければ出来ないだろう。無論、ケイならば容易く追い越せる、が。


「…いや、まずはこちらか。大丈夫かね?」


 ここでは女性の保護を優先する、このような場所に放置するのは宜しくない。


「…ぁ…ぅ」


 意識はあるようだが身体はおろか口すらまともに動いていない、おそらく針に毒の類が塗られていたのだろう。針を拾って調べる前に一先ず汎用で効果の高い万能薬を取り出して彼女に飲ませようとする。


「これを、飲めるか?」

「……ぅ」


 彼女を片手で抱き上げ口元に薬を持っていく、嚥下することすら困難だったようだがどうにか必要量は飲ませることが出来た。


「…よし、このまま」

「おい、何してる?!」

「む?」


 次は針の毒を調べてそれにあった解毒剤を飲ませるか、そう考え実行しようとした矢先に路地裏に男の声が響く。声の発生源のほうを見やれば二十代半ば頃かという青年がケイ達に元に歩いてくる。その身なりと腰に佩いた剣から冒険者であろうかと推察されるが、ケイの見立てでは体幹がぶれていて大した実力が無いということが分かる。その表情は怒気に満ちており、おそらくはこの状況を誤解しているのであろう。


「お前、タルマさんに何をした!?」

「待て、私は」


 知り合いか、それなら誤認してもおかしくは無いか。そう判断したケイはとりあえず言葉で以って青年を抑えようとするが、


「タルマさんから離れろ!」

「話を聞け、私は」

「よくも!」


 聞く耳持たず。剣を抜きやたらめったらに振り回す、それこそ当のタルマさんとやらがどうなっても良いのかと聞きたくなるほどに。打ち倒しても良いがそれはそれで後が面倒になる、今か後かかのどちらで苦労するか。


「ちっ、面倒な。…む?」

「がっ!?」


 突如として倒れ伏す青年、その向こうには先ほどまでは確かに居なかったフードを被った人物が立っていた。見た目からは性別すらも分からないが知った気配であったのでケイにはそれが誰だかすぐに分かった。男を気絶させた拳をしまうフー

ドの人物は、やれやれとでも言いたげなケイに対して声をかける。


「大丈夫か、と聞くだけ無駄か」


 その声は硬く男性的な喋り方ではあるものの、間違いなく女性のそれであった。相も変わらず男性的な喋り方をする彼女に昔を思い出しつつもケイは感謝を述べる。


「助かった、何故ここに?」

「野暮用という奴だ」

「そうか、深くは聞くまい」

「助かる、それよりもどういう状況だ?」

「彼女が何者かに襲われていた、その治療をしていたらこの男が襲ってきた。それだけだ」

「理解した、これからどうする?」


 さくさくと進む会話、簡潔な会話を好む彼女と基本的には相手に合わせるケイが噛み合うと大抵こういった風な要点重視な会話が主となりやすい。


「場所を移したい、手伝ってもらえるか?」

「貴方一人で運べるのでは?」

「私一人だと邪推されかねん」


 ぐったりとした女性を運ぶ男性が路地裏から出てくる、間違い無く事件だ。こればかりはケイであっても如何ともし難い…訳でもないが、まあ素直に女性を足すのが手っ取り早い。


「…なるほど、それもそうか。しかし何処に運ぶ?」

「どこかの宿にでも、む?」

「…ぁ」


 被害を受けた女性がケイに向かって手を伸ばそうとする、何かを伝えたいのであろうがそれよりも弱々しく腕を伸ばす様が痛ましい。受けた毒があくまで麻痺系の毒で苦痛をもたらすものでは無いが、思うように体が動かせないというのは精神に痛みを与えると見ているだけで察してしまう。


「無理をするな、まだ動き辛いはずだろう」

「…」

「何だ? 何がしたい?」


 フードの女性には被害者の彼女が何を言いたいのか分からないようだが、ケイには彼女の言いたいことを汲み取ることが出来る。


「連れて行って欲しい場所があるのか?」

「…ぃ」


 ケイの言葉に女性は力なく頷く、ひどく不自由な身体を無理やり動かしてまで意思を伝えようとする彼女の強さに感服しそれに従うことにする。


「分かった、従おう。私が君を担ぐ、かまわないな?」

「…」


 女性は、目で了承の意を伝える。


「私達が君の意を汲み取る、キツイだろうが手で行き先を示してくれ」

「…」


 軽くだが女性は手を上下させる、それを見てケイもフードの女性も彼女に向かって頷く。そしてケイが彼女を担ぎ、その横にフードの女性がつく。


「…よし、行くぞ」

「ああ、…この男はどうする?」


 ちらりと倒れたままの青年を見る、聞きたいことが無いでもないが。


「今は放置だ、まずは彼女の安全を確保する」

「分かった、……あれは?」

「私の連れだ、ようやく追いついたか」


 そうして歩き出そうとしたところ、路地裏にまたもや登場人物が増える。言わずもがな、それはノエルだ。ケイ達の前に着いた彼女は壁に手をつき息を整える、それを見てケイは体力もつけさせようかなどとついこれからの成長方針を考えてしまったり。


「はあ、はあ、はあ。…もう、いきなりどうしたんですか、ってえーっと? 何事ですか?」


 いきなり走り出したケイを追って路地裏に入ってみれば、男性が一人倒れており、ケイは女性を背負っていて、その横にフードを被った謎の人物がいる。なるほど、ノエル視点だとさっぱり分からない。


「どうやら噂の失踪事件の被害者のようだ、彼女を安全な場所に送り届けるから君も手伝え」

「えっ!? わ、分かりました」


 何から何まで急なことだが、ケイさんがそう言うのなら従おう。思考放棄気味でもあるが仕方の無いことだ、閉鎖的な生き方をしてきたせいか少々素直過ぎる気もするがおそらくケイの言うことだからだろう。…それはそれで問題があるのではないか?


「それと二人ともフードは脱いでおけ、さすがにそれは怪しすぎる。互いに理由があるのは承知しているがここはな」

「分かりました」

「仕方ないか」


 そうしてフードを脱ぐ二人、ここで露になった件の女性も容姿は、綺麗よりの凛々しい顔立ちに鋭い瞳、そしてこの辺りでは珍しい黒い髪に黒い瞳である。そんな彼女の横顔をノエルはしばしじっと見つめる、これに対し女性は隠していた自分の黒が理由かと勘ぐるが、そうでもない。黒はトルキアでは珍しいがグリエルではそう珍しくも無いためにノエル的には改めてじろじろと見るようなものではないのだ、そもそも彼女は自身のこともあって珍しいだけで注視するようなことはしない。だと言うのにノエルが彼女を見つめる理由は単にケイとの関係が気になるというだけだ、ここに恋愛的な意味が含まれているかと聞かれると…少なくともノエルはそうは言わないだろう。それは事実なのか自覚していないのか、今はどうでもいいことか。


 まあそれはともかく、三人して路地裏を出て被害者の女性の案内に従う。途中で怪訝な顔をされることや直接話を聞かれるようなこともあったが、その度にケイが口八丁で誤魔化しまくった。やはり何と言っても女性が一緒なのが強い強い、これがケイだけなら別の方法をとる羽目になっただろう。…ただ被害者女性に関して酔いつぶれてしまっただらしの無い女性といった風に扱ってしまったのはどうだろうか? 当人も目で訴えていたような気がする、…もっとも、ケイにはそれは見えないのだが。


 …何にせよ、そうして彼らが着いたのは一軒の家、被害者の女性の自宅だろうか。そこで彼らは女性の介抱ついでに一休みを取ることになるのであった。



 はい、投稿日変更後初の投稿となりますね。まあいつも通りな内容と分量です。ただちょっと書き方を変えましたが、どうでしょうかね。適当に書きたい様に書いているのでこれからもちょいちょい変わるかも? です。


 で、あと一、二話でケイ視点は終わりかなといった感じです。例の女性の話を聞いて行動開始、といったところで切ろうと思っていますので。それと今回出てきた新キャラ二名、フードのほうはケイ関連の人物ではないですが被害者のほうは微妙なところ。何にも決めてませんので準ヒロインくらいにはなるかもしれないといった感じです。何にしても、次話も良ければお楽しみに。


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