到着前の戦闘
副題は、王都到着直前
ナルがミリアと再会し、彼らが王城に泊まった次の日の朝。王都北部、その街道を王都に向かって走る大きな金属の塊があった。ナルの所有するタイプと異なり知っている者からすればオーソドックスな形をしている、それがケイの所有する魔道バイクでありその背にはケイとその同行者であるノエルを乗せていた。今、彼らは合流予定地点であるノックスへの中継点として王都セントラルトルキアを目指していた。そんな彼らの視界範囲内にようやく王都がその姿を見せ始めた。
「…見えてきたぞ、ノエル」
「え? …あれですか?」
「そうだ、あれが王都セントラルトルキアだ」
「意外と速かったですね、これなら昨日のうちでも着けたんじゃないですか?」
「勘違いするのも分かるがまだまだ遠いぞ、王都が大きいから距離感が狂っているだけだ」
昨日、ケイがまだ時間がかかると言ったために野営をしたがこうもすぐに見える距離ならばその必要が無かったのでは無いかと疑問を持つノエル。しかしケイも言っているがこれは王都がノエルの想定よりも大きいから起こる勘違いである。実際、王都の大きさを大都市のそれと同じように考え、ここで見えるならもう少しだなと考えた結果辿り着けずに不十分な状態で野営をせざるを得なくなった、という少ししゃれにならない笑い話が冒険者間で出回るのが王都の常である。
「そうなんですか?」
「大都市であるツーリアよりはるかにでかいぞ、あれは」
「へえー」
「まあ着けば分かるさ、…ふん」
ノエルとの会話の最中、ケイが軽く鼻を鳴らす。ノエルからは見えないがその眼は戦闘時の鋭いものになっており、この先に何かを感じ取っているのが分かる。
「? どうしました?」
「血の臭いがする」
「え?」
「…戦闘音も聞こえるな、前方で何らかの集団が戦闘を行っているようだ」
「どうします?」
ノエルの眼も耳も何も感じることは無いが、これまでの短くとも濃い経験からケイの五感が常人のそれをはるかに上回っているのは重々承知している。だからケイの言葉を疑うつもりは持とう無い、ケイがこの先に何かあると言うのならそれに間違いは無いのだ。まだまだ経験の浅いノエルは特に考えずに素直にケイの指示を請う、それを受けたケイも少しだけ考えるそぶりを見せるが最初からほとんど決めていたのかすぐに判断を下す。
「状況が分からんが…、近づいて必要とあれば参戦する。君もその心積もりでいろ」
「分かりました」
ケイがバイクの速度を上げ、ノエルはさらに強くケイの身体にしがみつく。未だ戦闘経験の浅いノエルとしてはこれから起こることに軽く緊張を覚えずにはいられなかった。
「見えてきたな」
「あれは…、襲われている?」
ノエルたちの目に飛び込んできたのは魔物、ウルフ系の群れに襲われている何らかの集団であった。魔物の数は多く、ノエルの目から見ても随分と旗色が悪いように見える。
「魔物の群れか、…加勢するぞ。相手が魔物なら良い練習だ、暴れてやれ」
「はい!」
「行くぞ、障壁の全域展開の準備を怠るな」
「はい!」
「くそが!」
「まだ居んのかよ!?」
(くそったれ!!)
(マズイな、これは)
商隊を護衛している冒険者達は心内外問わずに悪態をついていた、いつもと違う魔物の数、その強さに。常であればここまで王都に近づけば魔物に出会うことなどまず無いのに今日は何かがおかしい、そう思う余裕も無いほどに切羽詰りこの現状に先を見出せない彼らの目におかしな物が飛び込んできた。
「…お、おい! あれ何だ!?」
「あ?! …何だありゃ?!」
こちらに向かって近づいてくる黒い何か、その背には人らしき姿もあるが一体何だ?! そんな風に冒険者達が考える中それは魔物の前で横を向き、魔物を弾き飛ばす。それに乗っていたのは一人の鋭い雰囲気を持つ美しい男と外套を着込みフードを被った人物。言うまでも無いがケイとノエルの二人のことである。彼らはバイクを降り、ケイはバイクを自立させている。そんな彼に隙を感じたのか背後から飛び掛る魔物を、振り返りざまに抜刀した刀で切り捨てながらケイは冒険者達に問いかける。
「援護する、否は無いな?」
「お、おう」
「味方、なのか?」
「無論だ。ノエル、片っ端から斬っていけ」
「はい!」
ケイはそのまま走り出し、各場所でピンチに陥っている冒険者達から優先して助けに回る。その速さは最初から気にかけていなければ彼らでは眼で追うことが精一杯なほどだ。
「うおっ!?」
「え? 何が起きた?」
そしてノエルもまたその強さを遺憾なく発揮して冒険者達を援護していた。彼女はその場を動かずに近くにいる魔物たちを不可視の刃で切り裂いていく、これこそ彼女の固有魔法である障壁魔法によるものであった。短い期間ではあったが師がよかったのか、元の素質が高かったのか、それともその両方か、彼女は自身の固有魔法をある程度意のままに操れるようになっていた。キエル村に居た時点での彼女はあくまで障壁を展開することしか出来なかったが、ケイ監修の修練をすることで障壁の形状、設置場所、そして展開後のコントロールが出来るようになっている。それを利用して彼女は薄く、鋭く展開した小さな障壁で周りの魔物の急所を切り裂いている。
元々彼女はこの力を使うことを忌避していたがそのトラウマは一応ケイによって克服されている、それに彼女は森の中の村で暮らしてきたので生物の命を奪う覚悟が無いわけではなかった。だからその力で人を脅かすものたちを駆逐すること自体に怯えは無いのだ、これが対人ならばまた話も変わったであろうが。そんな彼女の戦い方はケイとまた違った意味で傍からはよく分からないものではあるものの、それを感じ取れる者からは目の前の不可思議な現象が彼女の手によるものだと理解できた。
「何だ!?」
「あの嬢ちゃんの仕業、か?」
三台ある馬車を中心として行われているこの戦闘、周りの指揮を執るために自身の安全が疎かになっているリーダー格の男がいた。そのため横手から襲ってきた魔物への反応が遅れてしまいその爪の餌食になりかけたその瞬間、ぎりぎりで割り込んできたケイの手でその身は救われることとなる。ここで間に合った理由としてはケイがこの集団の指揮者を探していたことも挙げられる。ケイとしてはすべてを自分達で解決するつもりは無く、だからここで指揮者が倒れることが一番まずいと考えていた。それゆえに時折聞こえる声から所在を探していたためにぎりぎりで間に合わせることが出来たのだ。
「大丈夫か?」
「! 助かる!」
「援護する、早く纏め上げろ」
「言われずとも! おい、援軍だ! 気を引き締めて押し返せ!」
『おう!』
男の力強い指示に周りの冒険者達も同様に力強い声で返す。彼らのなかには先ほどまであった焦燥や絶望はもはや無く、それをもたらしたのは間違いなくケイとノエルの二人であった。
ケイ達が介入して十数分、ようやく動いている魔物が居なくなり冒険者達は勝鬨を上げる。それを横目に見ながらケイは刀を納め、バイクの横に立つノエルの元に立つ。
「…やれやれ、片付いたか。どうだった?」
「何とか、皆を守れました」
「それを忘れるな、忘れない限りそれは護る力だ」
「はい!」
未だ完全には癒えぬ彼女の傷、ケイのおかげでいくらか軽くなったとはいえそれはまだ彼女の心の底に確かにある。だからケイもそれを刺激せず、なおかつそれを乗り越えられるようフォローをする。今回の戦闘もまたその糧となればよいとケイは思っているがその効果が現れるのはいつになるだろうか。
はい、ケイ達の番となりました。余計なもの入れた所為で王都前まで辿り着かないとか、何でこうなるのか。さて、いつの間にやらノエルが強くなっています。これに関しては理由があってカットしたのではなく元から強くなる過程は書くつもりがありませんでした。何でかと聞かれると書く必要が無いと思っただけです、特に大した理由は無いです。それと色々出来すぎじゃないかとも思うかもしれませんがそこはケイがすごいということで一つ。




