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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第四章:三人の合流
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強引な善意?

副題は、真意は何だ?


「…ん?」


 三人が特別用の方に並んですぐ、ナルは前方に見知った顔を見つけた。以前自分が受けたとある依頼の依頼人にして、その後別件で力を借りた商人である。あれ以来会うことはなかったがせっかくの機会なのだからと彼は声をかけることにした。


「どうしました?」

「ちょっと離れるね、知り合いがいたから挨拶してくる」

「分かりました」

「お待ちしております」



「お久しぶりです、ザガラさん」


 ナルが目当ての男に声をかけつつ、握手を求める。男は当初誰が声をかけてきたのかといぶかしんでいたようだが、声の主がナルと知るとその顔に笑みを浮かべながらその握手に応じた。


「え? おお! ナルさんではないですか、お久しぶりです」

「本当に久しぶりですね、二年ぶりくらいですか。こちらには商売で?」

「ええ、実はセントラルのほうに店を建てる算段が多少つきまして。それで下見を兼ねてこちらの市場や同業者の調査に来たのですよ」

「へえ、それはそれは。すごいじゃないですか」

「いえいえ、まだまだ確定した話ではありませんからね。調べてみて芳しくなければ今回は素直に引くつもりです。ナルさんはどうしてここに? 確か貴方達はセントラルにあまり近寄らないと聞きましたが」


 そういえば世間話ついでにそのようなことも話しただろうか、セントラルには会うと何かと疲れる知人がいるためにあまり来ないと言った様な気がする。もっとも、ここに来ないのはナルの意思だけでなくケイとユウの意思でもあるのではあるが。彼らにとっても会うと面倒な知人がいる可能性が無い訳でもないのだ。


「実はティーラウスの遺跡の調査をしていたのですが最深部で空間転移装置に引っかかってしまいまして、三人バラバラになってしまいましてね。今はあらかじめ決めておいた合流地点であるノックスに向かう途中です、色々あって同行者が増えましたがね」

「ああ、そういうことでしたか。ならここに来たのはあくまで中継ということですか?」

「そういうことです」


 ナルの事情を聴き、彼は少々考え込む。ナルにはこれが自分に依頼を出すか否かを思案しているのではないかとこれまでの経験から考える。


「…ではあまり時間は無いと?」

「いえ、数日程度なら問題ないと思いますが。依頼ですか?」

「実は少々気になることがありましてね、これからに関わってきそうですからナルさんがよければ調査をお願いしたいのですが」

「うーん、そうですね…」


 先ほども言ったが数日程度ならばここに滞在しても全体の流れが大きく変わることは無いだろう、こちらから声をかけた手前にもここで依頼を断るというのもばつが悪い。かといってここに長期間滞在すれば彼女に会う可能性が高まってしまう、そうなればまた自分は彼女に振り回されるかもしれない。しかし彼女はこちらが取り込み中であれば身を引く程度のことは出来るから依頼そのものは達成できるだろう、だったら……。


「とりあえずは話を聞きましょう、受けるか否かは依頼内容次第ということで」

「感謝します、でしたら一度どこかで落ち着いて話を詰めたいですね。ご足労をかけますが私が泊まる予定の宿を教えておきますから後で来てもらえますか?」

「分かりました、そうしましょう」

「助かります、それで宿の名前は」


 その時であった、それは。


「先輩!!」

「!!」


 ナル達の後方、そこから切羽詰った叫びの声が聞こえた。ナルの耳にはそれがまぎれもなくミチの声であり、その声の様子から間違いなく何かが起こってしまったということを聞き取る。


「む? 後ろで何か」

「失礼、連れに何かあったようです! この話は無かったことに!」

「え? わ、分かりました」

「失礼します」

(何だ?! 彼女たちに何が起きた!?)


 振り向くと先ほどまで彼女たちがいたはずの場所にはミチの姿しかなく、もう一人の同行者であるニーナの姿は見えない。まったくの情報の無いこの現状に困惑しつつも、急ぎナルはミチの元に向かう。自分の油断に苛立ち、ニーナの無事を願いながら。



 少し時はさかのぼり、ナルが列の前の知り合いに会いに行った頃。少々手持ち無沙汰なミチとニーナに声をかけてきた男がいた。


「あ、ちょっとちょっと君達」

「はい?」


 ミチたちに声をかけてきたのは二十代前半と言ったところの若い男、顔には人当たりの良さそうな笑みを浮かべている。かといって実際がどうであるかなど分からない、どう見ても非力な女二人である自分達に声をかけてくるということにも邪推してしまう。今は頼りになるナルのいないためにミチもニーナも警戒心バリバリで対応する。


「何の用ですか?」

「そっちは貴族用だよ、わざわざそんなところに並ばなくても一般用が空いているって」


 笑みを浮かべながら男はそのようなことを言う、男からすればその女性達は間違えて特別用の列に並んでしまった不慣れな旅行者であったからだ。確かにネキッラムにいた頃のような貴族家の、メイドの服装をしていれば彼女達が特別用を利用することに何の疑問も浮かばないだろう。しかし、如何せん今の彼女たちの格好はナルがネキッラムや途中の街で見繕った旅装であったので、パッと見は間違えて特別用に並んでしまった一般の旅行者に見える。とはいえ、それに従う道理など無い。そもそも彼女たちにはナルの指示に逆らう気など毛頭無いので、男の要らぬお節介を断ろうとした、のだが。


「いえ、私達は」

「いいからいいから、こっちに来て」


 ミチの話などまったく聞かず、その男はニーナの手を引っ張っていく。メイドの仕事として力仕事などもしてきたので一般女性と比べればそれなりに力に自信のあるニーナではあるが、その男は鍛えているのかニーナの抵抗を意に介さずに彼女の腕を引っ張っていく。


「きゃっ!? ちょっと! 離しなさい!」

「いいからいいから」

「ニーナ?! 先輩!!」


 いきなり現れたわけの分からない男にニーナを連れて行かれる、突然の危機にミチはつい昔の呼び方でナルを呼んでしまう。そののっぴきならない叫びを聞いたナルはすぐさま彼女の元に戻ってくる。


「何!? ニーナさんは!?」

「あっちに!」


 戻ってみればニーナが知らない男に腕を掴まれて連れて行かれている、こうなった経緯はまったく分からないがとにかく今は彼女たちを追うことが最優先だ。


「チッ! ついて来て!」

「はい!」



「ニーナさん!」

「ナル様!」


 ミチを置き去りにする速さでニーナの元に向かい、男に腕を掴まれていた彼女を上手くこちらに引っ張りこむ、傍から見れば今のナルはニーナを腕の中に抱え込んでいるような状態だ。生まれてこの方色恋に縁のなかったニーナは今の状況につい顔を赤らめてしまう、他人をからかうのはともかくこういったことは自分で体験すると恥ずかしいものだと初めて実感する。


「ごめん、遅れた。それで君は何だ?」


 しかし、ニーナにとって幸か不幸か、ナルはニーナの顔をろくに見ていない。今の彼は旅の仲間を無理やり連れ去ろうとした不審な男を見据えていた。その男が敵か否か、いや、敵なのは間違いない。目的は何なのかそれを見透かそうとナルは男を睨みつける。しかし男はナルの視線など意にも介していないかのように平然と言葉を返す。それは豪胆であるからか、それともただ鈍いだけなのか。


「あ、彼女の連れかい? 彼女が間違えてあっちの特別用の列に並んでいたからこっちに案内していたんだ」

「はあ? ふざけないでほしいな? どう見ても君が無理やり彼女を連れて行ったようにしか見えないね。それが案内? 舐めているのか?」


 男の答えにナルは普段の優しげな雰囲気を微塵も感じさせずに男に苛立ちをぶつける、ナルにとって男は紛れもなく敵であるからだ。しかし男はキョトンとしてまるでナルの怒りを理解していないようだ。


「? 何をそんなに怒っているんだい?」

「本気で言っているのか?」

(何だコイツ? これで素なのか? これで?)


 あのようなことをしておいて、まるで善意でやったかのように言うこの男は一体何だ? まるでこの男からは悪意のようなものは感じない、本当に良いことを行ったかのような風だ。さっぱり分からない、これは演技か本心か、今こそケイの助けを借りたいと思う。


「ナルさん! ニーナ、大丈夫!?」


 ここでミチがナルに追いついた。彼女はニーナがナルの胸に抱かれているという現状に一瞬眉をひそめてしまうが、今はそれよりもニーナの無事の確認を優先した。


「ミチ様!」

「ごめん、置いて行った」

「それはいいですけど、貴方は何なのですか?!」

「あ、さっきの」


 ニーナの無事を確認したミチもまた男に敵意を向ける、しかしやはりと言うべきか男はそれを何とも思っていないようである。三人は困惑と敵意を、一人は何かを、それぞれに胸に抱きつつ彼らは対峙し続ける。



 はい、風邪をひきつつもとりあえず書き上げましたよ。寝込まなきゃいけないようなそれではなかったのでとりあえずは良かったですけどね。


 さて、今回の話で今章のキーとなる人物が出てきましたね。…え? 商人のほうじゃないですよ? 無論最後に出てきた変な男の方です、コイツに対するそれぞれの対応の違いを書いていくつもりです。まあ、と言うってもちょいちょい沸いてくる程度になると思いますけどね。さーて、私は思い通りに話を進めていけるのでしょうかねえ。




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