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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第三章:ナルの再会
63/112

出発

副題は想い。

 …ん?


「わ?!」

「…ミチさんか、何?」


 前日の戦闘、と言うよりは勝利の打ち上げのほうで疲れた僕は、グルム男爵邸の客室で休むこととなった。で、寝ていたら顔に何かが近づいてきたのでとっさに手で掴んだらミチさんの手だった。朝から一体何だ?


「えっと、昔みたいに寝顔に触れてみたくなったので」

「…これでも高位クラスの冒険者だからね、寝ているときに近づかれたらさすがに気付くよ。だから僕が寝ているときに体に触ろうとするのは勘弁して欲しい、場合によってはそのまま攻撃しかねないし」


 むしろ昔みたいにって事に突っ込みたいけど、まあいいや。


「そういうことも出来るんですね。すいません、気をつけます」

「分かってくれたら良いよ、それで何の用だい?」

「あ、そうでした。朝食の準備が出来たので呼びに来たんです」

「ああ、そういうことか。分かったよ、着替えたら行くから先に行ってて」

「はい。…あ、おはようございます」

「おはよう」


 …何かあれだな、懐かしいやり取りだ。またこういったやり取りが出来るなんてね、運命って奴は皮肉なものだ。



 食堂には護衛以外の昨日会議をしていったメンバー、それにシグルさんか。そういえば彼女も昨晩はここに泊まったんだったな、事後処理の都合でここにいた方が良かったとかで。


「おはようございます、ニル男爵、グルム男爵」

「おはよう、ナル」

「よく眠れたかね、ナル殿?」

「ええ、それなりに疲れた所為かぐっすりと」

「あれでそれなりとはな、さすがだ」

「さすがにあの程度で疲労困憊になっていたら仲間に怒られますよ」


 あの程度、零の戦場に比べれば、…違うな、比べるのもおこがましいか。どちらにせよそこまでの脅威じゃなかった、…あくまで僕一人の話だけど。


「いいから飯にしないか? 話すのは食いながらでもいいだろ」

「あまり行儀は良くありませんがね、僕はかまいません」

「…そうするか」


 …いいね、この味。


「美味しいですね」

「そう言ってもらえて光栄だ」

「…で、結局昨日の被害はどうなったんだ?」

「幸いにも防衛を担当した者達には負傷者はいたが死亡者はいなかった」

「それは何よりですね」


 僕が突っ込んだ甲斐はあったってことか、上手く行って良かった。


「それ以外の人的被害に関しては現在調査中だ、一般人の中にヴァンパイアの手勢がまだ混じっていた可能性はまだある」

「だとしてももうどうしようもありませんがね、噛まれた時点で終わりです」


 こればっかりはね、昨日の時点で全てが終わっていた。噛まれた時点で手遅れだ。


「うむ、これ以上行方不明者がいなければ良いのだが」

「他の被害は?」

「外壁の一部が損傷したが今日明日どうにかなるようなものでも無い、折を見て修繕を行うこととする」

「ふむ、ヴァンパイアの軍勢に襲われた割に被害は少なくすんだな、どれもこれもナルのおかげか」

「だな、やっぱさすがだよナル」

「あちらが時間をかけて手駒をこの街に送り込んでいたら僕も身動きが取れませんでしたがね。どうにもあちらの不手際に救われた感があります」


 あの進軍に合わせて街中でも暴れられていたらこの町は滅んでいた可能性が高かっただろうな、慢心なのか限界だったのかは知らないけど本当に助かった。


「不手際、ね。お前がいなければそれだけでチェックな状態だったんだ、相手からしたら不手際ってよりは不幸だったって感じじゃねえかな」

「だとしても不手際ですよ、戦術に負ける程度の戦略なんて愚の骨頂ですから」

「SSなんかそれだけで戦略兵器みたいなもんじゃねえか」

「分かっていてなんで僕に固執したかな」


 そこまで理解していてあれは無いと思うけど。


「分かっちゃいてもそれで止まるもんじゃねえってこった」

「ふーん」

「…で、結局相手の目的は何だったんだ?」

「ああ、ミチさんですよ」


 結局ニーナさんが大当たりだったな、そういえば。


「え? 私ですか?」

「うん、君の血を飲みたかったらしいよ」

「私の血を? どうしてです」


 …あ、ここ事情を知らない人が結構いたな。ぼかすか。


「昔君と同郷の人間の血を飲んだら美味しかったからだってさ」

「…はあ」


 ピンとは来ないかもね、いきなりそう言われても。


「あんまり気にすることは無いよ、もう終わったことだからね」

「そうします」

「しかし、ナルさんへの報酬はどうしましょうか?」

「え?」

「ネキッラムのギルドにはナルさんへの報酬を払う義務がありますから」

「うむ、私も払わねばならぬな」

「あー、そうでしたね」


 ネキッラムの防衛は強制依頼だった筈か、一応僕はギルド無視して勝手に動いてるから受けて無いけど。それに元々のニル男爵からの依頼か、あんまりいらないんだよなあ。


「それで、ナルさん。敵の大将は何でしたか?」

「ヴァンパイアキングだったよ」

「そうでしたか、…は? はああ?!」


 …全体の反応が面白いな、これ。…あ、こうだから僕みたいなのが常識外なんて言われるのか、不本意だけど。僕なんかケイとユウに比べたら可愛いもんな筈なんだけどな、誰も信じないのは何故だ。


「ハザード級を単騎撃破とか化けもんか、テメエ」

「だからこその常識外クラスって事だよ」

「チッ、気に入らねえが納得だ」

「ちょっと待て」

「今、ハザード級と聞こえたが?」


 あ、やっぱり面白いな、これ。


「はい、ヴァンパイアキングはハザード級に分類される魔物です」

「本当にハザード級だったのかね?」

「ええ、僕の感覚はそうだと言ってました、あくまで僕の主観のみの話ですがね」


 ヴァンパイアは魔石が残らないから証明が出来ないのがね、こういう時にはすごく不便だ。


「今更君の言葉を疑ったりなどせんよ、君はそのような虚言を吐くような男では無いだろうよ」

「ありがとうございます」

「…ハザード級って何ですか?」


 うん、ミチさんは知らないよね。


「あん? 知らねえのか? 基本的には自然災害クラスの被害を出せる魔物のことだ、ほっときゃ一国が滅びるレベルの奴も居る」


 お前が解説するのか、本当に丸くなったなコイツ。


「えっと…、ナルさんすごいでいいんでしょうか?」

「いやまあ、間違っちゃいねえがよ。それで片付けんのか」

「今回はそこまですごくないけどね、所詮はヴァンパイアだし」

「馬鹿か、ヴァンパイアだからこそやべえんだろうが」

「そう? キングって言っても所詮は血を吸うだけしか能が無いってことじゃないか」


 あとはどれも戦闘タイプのハザード級の中じゃパッとしないと思うけどな、強くなるほど戦闘時間が限定されていくし。


「いやいや、それが問題なんだよ。血を吸われたらアウトなんだぞ? それが物量で攻めてくる、だからこそヴァンパイアは他のアンデッドよりも上位扱いされてるんだろうが」

「と言われてもね、単騎だとその辺りはあんまり関係ないし」


 大軍で行くと本当に厄介なんだけどね、味方がすぐに敵になって襲ってくるようになるんだから。味方が多ければ多いほど脅威が増す、けど単騎ならその心配が無い。


「…ああ、そもそも被弾を考えてないのか。だったらそういう反応にもなるか」

「君では無理なのかね?」

「全力の状態でも数百のヴァンパイアに突っ込めば被弾の一つや二つは免れないだろうな、それが積み重なっていずれこっちもってことになりかねねえ」

「私達も規格外クラスと言われてはいますが、さすがに常識外とは行きません。AとS以上にSとSSの差は大きいのです」

「…ふむ。さすがは、ということか。しかしこれでは報酬はどの程度のものが良いのか分からなくなってきたな」

「そこまでのものは望みませんけどね、依頼されていたとはいえ半分以上は私情で動きましたから」

「ううむ…」

「どちらにしろ僕は今日ここを出るつもりですから、受け取りはまた今度と言うことで」


 いくつかのギルドでも一度にはらうことが出来ないとかでツケにしているからなあ、今更一つ増えたところでって話だ。


「何? もう行くのか?」

「祭り上げられるのは性に合わないもので」


 嫌なんだよねえ、英雄だの何だの言われて感謝されるの。もて囃されるのはどうにもむず痒いから受けたくないのが本音だ。


「分からなくも無いが…、もう数日くらいはここでゆっくりしていく気はないか?」

「まあ今の僕は仲間とはぐれている状態ですからね、出来れば早めに合流したいんですよ」

「ならば仕方ないか。…ミチ、結論は出たか?」

「…ええ、私はナルさんについていくつもりです」


 だろうね、そうだと思っていた。これからの旅はにぎやかになるね、…元からにぎやかだったか。それよりケイ達になんて説明したもんかな、…いや? 単独行動すればフラグを立てる奴らだ、あっちも女性を連れてきそうな気がするな。だったらそこまで心配する必要は無いか。


「そうか…、ナル」

「分かっています、ミチさんは僕が必ず護ってみせます」

「頼む」

「店についてはニーナに任せてもいい?」

「拒否します」

「え?」


 おや? これはもしかして?


「私もお嬢様についていきます」

「けど…」

「私もいた方がナル様としても動きやすくなるかと思いますが」

「そうだね、僕としてもその方がたぶん都合が良い」


 二人だけだと僕が単独行動したいときにやりづらい、ノックスまでの道中でそんなことは無いと思うけど念のためにね。


「でも五月は?」

「五月に関してはうちから人を出そう、お前達ほどではないがミチの教えた料理を作れるものはいるからな」

「旦那様?」

「かつて下した命は未だに変わっていない、ミチの手助けをせよ」

「かしこまりました」

「…分かった、これからもよろしくね」

「はい、お任せを。ナル様も」

「ええ、頼みます」

「…って貴方を無視して話を進めてしまったけど、大丈夫かしら、キッカ?」

「あんまり大丈夫じゃないですけど、ミチさんのためなら大丈夫です。お店は私にお任せを!」

「ごめんね、いつか何かの形で埋め合わせはするから」

「いえいえ、ミチさんはご自身の思いを優先してください」

「…ありがとう、キッカ」


 …自分の事ながら何かむず痒いなあ。あ、そうだ。


「二人ともすぐにでも出れる?」

「私は問題ありません、あらかじめ荷物は纏めておきましたから」

「あ、私もです」

「そう、だったらいいか。アイテムボックスは持っている?」

「汎用型でしたら」

「私は持っていません」


 個々に有った方がいいか? でも今手持ちにアイテムボックスの余りは無い、…ふむ。


「ミチさんが持っているならいいか、だったら今日の昼過ぎにはここを出るよ」

「分かりました」

「かしこまりました」

「ちなみに何処に行くつもりかね?」

「ああ、ノックスですよ。そこで僕の仲間と合流する予定です」


 元から非常時の際の合流地点を決めておいて正解だったな。


「ふむ、ノックスか。確かセントラルトルキアの東にある大都市だったな」

「ん? だったらセントラルに寄ることになるのか?」

「あー…、中継の都合上行くことになりますね」


 行きたくは無いんだよなあ、こっちが気をつけていても会う時は会ってしまうものだし。


「だったら」

「断りますよ」

「そう言わずに」

「嫌です」


 ここで乗るのは論外だ。


「ばっさりだな」

「面倒なんですもん」

「面倒って、分かるがよくもまあ明け透けに言えるな」

「ご本人がいればさすがに控えますがね、この場なら問題ないでしょう」


 言ってもそこまで気にしない気もするけどね、試さないけど。


「俺が告げ口するかもな」

「だとしてもその時には僕達はもうセントラルにはいませんから」

「織り込み済みかい。それはさておき足があるなら俺もセントラルまで連れてっちゃくれねえか」


 …度胸あるなあ、この人。だから護衛騎士なんかやってられるのかな?


「この流れでよく言えますね。どっちにしろこっちの足は最大三人までです、クエラさんまで乗っける余裕は無いですよ」

「じゃあ仕方ねえか」

「ナルさん、あの方ってどなたのことですか?」

「内緒、どうせそのうち会うだろうからその時に」


 どうせ会うんだ、今ここで言ったところで無駄に説明が面倒になるだけだ。


「はあ、分かりました」

「ではミチ、昼まで時間を貸しなさい。家族たちへの手紙くらいは書いておいた方がいい」

「あ、はい。分かりました」

「じゃあ僕は昨日の戦闘の事後処理を少し手伝うことにするよ、あんまり時間無いから中途半端なそれになると思うけど」

「いえ、手は多いに越したことはありませんからね。期待させてもらいます」

「微力を尽くすよ」


 さあて、この街最後のお仕事をしましょうか。



 …やれやれ、やっとノックスに向かえるな。どうにも長い三日間だった気がする。


「それでナルさん、足って何ですか?」

「ああ、これだよ」


 アイテムボックスからこれを取り出すのも久しぶりだな、勘が鈍って無いといいけど。


「これって…、バイク?」

「そうだ、グリエル帝国製の魔道二輪車。これはそれにサイドカーを付けた物だね。いやはや、念のためそれぞれが移動手段を持っていて正解だったな。それで、二人はサイドカーと僕の後ろとどっちが」

「私はサイドカーで、お嬢様は後ろでお願いします」

「…まあ、それがいいわね」


 そうだね、迷う余地は無いよね。


「はいはい、それで君達はもう別れは済ませたの?」

「ええ」

「問題ありません」

「それじゃ行こうか、よっと」


 懐かしいなあ、これに跨るのはどれくらいぶりだったか。ここ最近は乗ってもユウの車ばっかりだったからなあ。


「し、失礼します」

「失礼します」


 …あー、言いたくは無いけど言うか。そうしないとスピード出せないし。


「…ミチさん、しっかり抱きついてくれないと危ないよ」

「あ、ああ、そうですよね。で、ではこれでいいですか?」


 …ふうむ、役得だねえ。ま、別に邪念は無いけどさ。


「うん、それで頼むよ」

「おやおや」


 何をニヤついているんだろうね、この人は。まあ分かりきったことだけど、さ。


「何が言いたいの? ニーナ?」

「いえ、別に」

「いいから行くよ、僕達の目的を果たすためにね」

「はい! 一緒に行きましょう」

「お供させてもらいます」

「それじゃ、出発だ」


 さて、と。僕も想いを決めるため、世界の枠に喧嘩を売る方法を探しに行こうか。


 …天月さん、君を、迎えに行くことにするよ。君やミチさんのためだけでなく、僕のためにも、ね。


 さあ、出発だ!


 はい、これで三章は終了です。後はここまでの人物まとめを投稿したらちょっと休みます、投稿は…木曜は無理かもしれないな。ゴールデンウィークまでには投稿して四章を明けに投稿する、ぐらいで行きたいですね。それまでは気力回復に、あとは別作品をもうちょっときりのいいとこまで書くかもしれませんね。四章に関してはアイデアは固まってきたので、今まで通り大枠だけ決めて細かいところはその場のノリで書いていきます。何かリクエスト等が有れば受け付けてますよ? 答えられるかどうかは分かりませんがね。


 さて、三章は二、三度方向転換した章でした。伍月さんの名前とかヒロイン化、章ボスの変更とか、結構色々変わっています。その辺りの裏話はまとめで書きますかね。あ、まとめはそれなりにネタバレを書くつもりなのでそれが嫌な人は読まない方が良いと先に釘を刺しておきます。


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