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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第三章:ナルの再会
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闇の中での決着

副題は神と十字架

「さあ!」


「はあ、馬鹿馬鹿しい」


 伸ばされた手をパシンと跳ね除ける、そんな誘いに乗るわけ無いでしょうが。


「何?! 何故この手をとらん?!」

「こっちにも思うところがあったから最後まで見てはみたけど、だからと言ってその甘言に乗る義理は無いさ」

「!? 貴様、我が魔法の中で自意識を保っているのか?!」

「当たり前だ、この程度の魔法で前後不覚になっていたらケイ達にどやされる。この歳になってもそれはなかなかに怖いんでね」


 やっぱり対象者の意識をよどませる効果もあるのか、それで思考能力も落ちればその手を取りやすくなるからな。


「くっ! だとしても貴様は望まぬのか?! 自らにとって都合の良い過去を、未来を手に入れられるのだぞ?!」

「よく言うよ、出来もしないことを。高々ヴァンパイアキング如きが時に干渉するなんて不可能だ、これは単なる幻影に過ぎないんだよ。対象者に幸せな過去とそうで無い過去を見せ、過去を変えるという戯言に乗った人をその人自身の頭の中に閉じ込める。僕はただ夢を見ているような状態なだけだ、僕の身体は今もなお同じところにあるんだよ」


 この魔法によっぽど自信があったのかもしれないけど、さっさと僕の体を殺しておけば良かったんだよ。ま、意識が無くても自衛ぐらいはオートで出来るように色々と仕込んでいるからね、どっちにしたって詰んでるのさ。


「何故、分かったのだ」

「さてね。ああそうだ、僕が見ている過去もそっちは知らないんだろう? かけっぱなしで制御できない魔法をよくもまあそう大層なもののように語れるものだ」


 観られるのなら僕の過去について聞いてきているだろう、この世界の人間であるはずなのに異なる世界での過去があるなんて疑問に思わないはずが無い。


「貴様…!」

「個人的な悩みについて再考する機会を与えてくれたことは感謝しておくよ、お礼に苦痛を感じないように瞬殺してあげるよ」

「ふん、粋がるなよ。この囚われた世界からどうやって抜け出すと言うのだ?」


 こっちに姿も見せずに口だけ出している分際で、随分と上からな奴だ。その驕りを打ち砕いてあげよう。


「簡単だよ、僕に、僕達にとってはね」

「見せられると言うなら見せてみるがいい、貴様の根拠と言う奴を」

「そうだね、見せてあげるよ、僕の相棒達を」


 さあ、呼びかけに応じここに来い、僕を選んだ双剣よ。



「双剣 聖光」


 右の手に神々しい意匠の施された黒い剣が現れる。その剣は所有者が王とする為にいかなる災厄も斬り捨てる。


「双剣 正道」


 左の手に禍々しい意匠の施された白い剣が現れる。その剣は所有者が王とする為にいかなる困難も斬り捨てる。


「二つ合わせて双剣 両月!」


 同じ形状であるにもかかわらず見る者に真逆の印象を与える兄弟剣、持ち主の下に必ず在るという概念を込められた絶対の剣。伝説とまで称されるシュギルトルンベ兄弟が打ち上げた最初にして最後の合同合作、彼らが正真正銘僕のためだけに作り上げた最高傑作。


「これが僕の絶対なる自信、この程度の世界など切り捨てさせてもらうよ」

「馬鹿な…!? 意思による具現化ではなく、実世界から実際に力を持つ武具を!? そのようなことが出来るはずが…」

「いかなる場所であろうとも、この双剣は僕の元に現れる。それがたとえ実体の無い精神世界であっても…!」


 この剣はそう出来ている、それこそが彼らが僕に託した意思なのだから。だからこそ、こんなところで立ち止まったりする気なんか無い!


「くっ!? 貴様!」


「そろそろ決着をつけに行く、【我が上に在りし祝福の女神、プレネアよ! 今こそ我が剣に、己が道を進むための力を授けたまえ!】」


 祈り、構える。両月が美しく輝き一時的に聖剣と化す、自分達が女神の祝福で満たされているのを感じる。この力の前にこの程度の精神空間如き!


「馬鹿な!? 神の、祝福の女神の名を呼ぶだと?! 祝福の女神の加護持ちがこれまで発見されたことなど無いはず!?」

「僕がその最初の一人だ、よく心に刻んでおけ! 切り裂け、両月!」


 聖光を振り下ろし、正道を薙ぐ。十字の光が偽りの世界を切り裂き、僕をあるべき場所へと導く。


「そんな…」








「……君は」

 

 …何故だろうか。世界の最後に見えたのは、絶望する彼女ではなく、笑顔で僕を見送るいつもの彼女の姿だった。


「…天月さん、僕は」


 あえて言葉を口に出さず、その想いを心に秘める。僕が今成すべきことは、双剣にて敵を討つことだ!







 再び目覚めた世界の正面には、驚愕の二文字を顔に貼り付けたヴァンパイアキングとその配下達がいた。さあて、仕切りなおしと行こうじゃないか、ヴァンパイア?


「馬鹿な…」

「さあ、始めようか!」

「…はっ!? ええい! やれ、お前達!」


 取り巻き達が僕に迫る、血気盛んなところ悪いけどそれに正直に付き合ってやる義理も無い。とっとと決定的な札を切ることとしよう。


「【燃え尽きろ、世界】」


 僕に飛びかかろうとした三体のヴァンパイアの体が炎に包まれる、そして瞬き一つほどの時間も無くその三体が灰と消える。この程度か、やっぱりたいしたことは無いな。


「…何が、起きた?」

「すでにこの場は僕が掌握した、もはや君たちに逃走という選択肢は無い」

「何を、何をした?!」


 さて、ちょっとしたネタバラシだ。理解できるなんて思わないけど、ここはそういう場面だろう?


「分子運動って知っているかい?」

「…何のことだ?」

「ここで分子の説明をするのは面倒だから省くけど、温度って奴は分子がどれだけ動いているかによって変わるらしい。つまり分子運動が鈍れば寒く、活発になれば暑くなるそうだ。もしそれを操ることが出来れば物体を一瞬で燃やし尽くすことも、一瞬で凍りつかせることも簡単に出来るんだ」

「何を言っている?」

「もっともこの知識が合っている保障が無いんだよね、僕はそういったことには聞きかじった程度でそこまで詳しく無いから。…ああいや、物体の場合は原子だったっけ? どうだったかな…。ま、正確な理屈はこの際どうでもいいんだ。重要なのは僕の固有魔法はそういうものだってこと。僕が望めば万物を焼き尽くし、凍りつかせる。君程度では防げない絶対の魔法。これが、僕の切り札だ」


 かつてあちらで覚えた知識を基にした魔法を開発していたときに急に生まれた僕の固有魔法、未だにケイやユウですら模倣できない僕だけの切り札。この魔法、ハザード級如きが破れるものじゃないんだよ。


「何を…」

「ああ、なんとなく説明はしたけど理解する必要は無いよ。要はお前がここで死ぬってだけだから。大体冷静に考えればこんなことをしている場合じゃないな、さっさと大将首を獲らないと防衛を担当している冒険者達がやられるんだった。いけない、いけない。これ以上の無駄話はなしでさくっと行こう」


 周囲にまだいた取り巻き達を適当に凍らせ、燃やし尽くす。それでここに残っているのは僕と全てを失った王のみ。


「…貴様!?」

「チェックメイトって奴だ、ヴァンパイアキング。これで終わりにしよう。さあ、極寒と灼熱、そして聖剣、どれで滅ぼされたい?」


 聖光を横に、正道を縦に構え僕の前に十字架を作る、ヴァンパイアには十字架が相応しいってね。


「私の手勢が、この私が、人間風情に負けると言うのか?!」

「驕り過ぎだ、ヴァンパイア。だから知れ」


 他者への驕りゆえに動揺する隙をつき、一瞬でヴァンパイアキングの前に移動する。両の手の双剣、聖光を振り下ろし正道を振りぬく。僕が背を向けた奴の体には、その心臓を中心に光り輝く十字架が刻まれた。これが、夜の支配者への手向けだ、この皮肉を味わって逝け。


「人間の、強さって奴を」

「ば、か、な…」


 見えなくても奴の方だが灰となって消えていくのが分かる、それと同時に街のほうにあった戦闘の光が消えていくのが見て取れる。これで、終幕だ。


「十字の印をその身に刻み、神への祈りをささげて死ね」

「ぁ…」


 …完全に消えたか、死して屍を残せないというのは幸なのか不幸なのか、…って柄じゃないな。さて、もはやこの一帯にネキッラムに害をなすものは存在しない、さっさと帰るとしましょうか。


 次で三章最後かな? その後はこれまでを纏めたものを投稿するかも。


 …えーっと、三章が終わったらちょっと休ませてもらいます。四章をどうするかがまったく決まっていないので、その辺りが固まるまで少し待ってください。ゴールデンウィークの後ぐらいには投稿出来るようにしますから。


 あ、前から言っていた別小説を投稿してみました。ただ序章みたいなものなので第一話だけ読んでもしょうがないかも? まあ、こっちとはだいぶ違ったものですから良ければどうぞ。…もう一個ぐらい投稿してみようかな? なんて思ってたり。

 

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