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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第三章:ナルの再会
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一直線に

副題は過去

「…いざ、参る!」


 閉じた眼を開き、大地を強く蹴り軍勢に向かう。奴らの先頭と100ムルほどの地点で激突する。右の刃で目の前の魔物を切り捨て、その勢いのまま体を廻す。右で左を、左で右を。体を廻し、踊るように切り伏せ進む。その足を止めることなく、その足を止められることなく、さらに先へと進んでいく。


 数十の敵を消滅させたところで急激にその数が減る、そこにあったのはこれまでのそれと比べてより大きな力を持つと確信できる十数の個体。そしてそれを従える桁違いの力、闇の如き黒い衣を纏う美男子。この感覚、間違いない。これまでの経験が告げている。これもまた、ハザード級であると。


「こんなところでヴァンパイアキングに出会うことになるとはね、まったく運命って奴はどうなっているんだか」

「運命は貴様を嫌っているようだな、私に出会わなければ長生きできたものを」

「言ってくれるね? 僕に勝つことは規定路線ってことかな?」

「無論だ、貴様も少しは腕に自信があるようだがあの程度の力では私は倒せん。否、貴様を殺すことなどここにいる私の忠実なる僕達で十分だ」

「まったく、そういう台詞は自分の実力と相手の実力を理解した上で言わないと単なるかませでしかないよ?」

「貴様こそ、虚勢では私は倒せんぞ?」

「ま、理解できるとは思っていないさ。それよりもどうしてネキッラムの街を襲うのかな?」

「気になろうな、良いだろう、教えてやる。私の目的は彼の地にいる異世界の娘だ」


 …まさか、大当たりだったとはね。


「…どうして彼女の存在を知っているのかな?」

「我が僕の眼を通してあの者の姿を知った、あれはまさしく異世界の者の姿であるからな。故に私は彼女を欲した」

「何で彼女が必要なんだ?」

「かつて異世界より来たりし少女の血を飲んだことがある、あの血こそ我が生涯最高のそれであった。あれを知ってからは他の血に何ら価値を見出せなくなった、あれこそ私の心を満たす唯一のものだ。かつてはその美味ゆえに耐え切れず飲み干し殺してしまったが、今度はその失態は犯さん。少しずつ、少しずつ、いつまでも彼女の血を味わい続けるのだ」

「…へえ、舐めた口を利いてくれるじゃないか? 覚悟は出来ているということだよね?」


 殺気と怒気が体から漏れているのが分かる、むしろ止めるつもりは無い。彼女をそのような目に遭わせようっていうのなら。


「ここで、必ず殺す!」

「死ぬのは貴様だ! 行け!」


 こちらの動きに応じ取り巻きが向かってくる。確かに速い、速いけど。


「この程度なら!」


 腕を伸ばしてくるというのならその腕を切り落とす、一瞬の再生の隙にその体を、頭を巻き込みつつ斜めに切り伏せる。魔法を放ってくるのならそれを避け距離を詰め、その心臓に剣を突き立てる。この程度、いくら身体能力が高かろうと、いくら魔法に優れようと、僕の思考の範囲内の行動しか取れないというのなら。


「どうとでも、対処は出来るんだよ!!」



「ならば、これはどうかな?」

「?!」


 ヴァンパイアキングがこちらに手を向ける。奴から感じる魔力の量を考えるとかなりの大規模魔法か?! 僕はともかく後ろに通されるのはまずい!


「【我が上に在りし祝福の女神よ! 今こそ我に鉄壁の守りを与えたまえ!】」


 祈祷魔法を用いて障壁を展開する、これで相手の魔法を食い止める。


「残念だったな、その選択は間違いだ。【グッドドリームナイトメア】」

「?! しまった!?」


 これは破壊魔法じゃない?! これほどの魔力を使う精神魔法!?


「良き夢を、人間」

「クソッ…」


 いけない、意識が、薄れ…。




「…」

「…」

「…」


 かつての僕の家、成宮家には常に静寂に包まれていた。誰しもが互いに関心を持たず、互いに干渉しない、そして外で誰かと会ったときにだけ仲の良い家族を演じる、そんな日常であった。それが僕にとっての普通だったし時が経つにつれ一般的なことでは無いと理解しだしても、その生活を変えることもなく、そもそもその気があったわけでもなく、そんな日々を当然のように過ごしてきた。



「おい、ナル。これどうやって解くんだ?」

「ああ、これはね」

「ねえ、ナル君。クッキーを作ったんだけど味をみてくれない?」

「おいおい、ナルだけかよ。俺にもくれよ」

「えー」

「まあまあ、皆で食べようよ」


 社会で人に嫌われて生きていくことは難しい、その程度のことはすぐに分かった。だから僕はできる限り誰とも敵にならず、さりとて悪いことは悪いとはっきりと意思表示をする。そうやって何かに固執しすぎることもなく、何かを軽視しすぎることも無く、中庸に平凡に生きていた。そんな僕を好きだと言ってくれる人達もいたけれど、それに応える事も無く、そういったことだけは否定して生きていた。



「あ、すいませーん!」

「…はい?」

「すいません、第一多目的教室は何処にありますか?」


 転機があったといえるのは高校二年生、いや、正確には一年生の秋頃か。体験入学に来た彼女達に出会ったことで僕の人生は本当に動き始めたのかもしれない。そして、それが僕の人生を終わらせる遠因でもあった。



「えーっと、君達が僕の担当の人達かな? …あれ、君達は?」

「あ!?」

「あの時の?」


 二年生になってすぐの春、一応は優等生で通っていた僕は新入生の面倒を見るという仕事を貰うはめになった。それで放課後に僕が面倒を見る新入生達と顔合わせをすることとなったのだが、その中に見覚えのある顔があったことには驚きを隠せなかった。



「弱ったな…」

「あれ、ナル先輩?」

「どうしたんですか?」

「ああ、いや。持ってきた傘がなくなっていてね、誰かが持って行っちゃったのかな」

「だったら一緒に帰りませんか?」

「傘は二つでもぎりぎり三人入るんじゃないでしょうか」

「あー、お願いできるかな?」


 新入生のお世話係の仕事が終わったにもかかわらず、梅雨の時期になっても彼女達はよく僕のところに来た。何かは分からなかったが彼女達は僕のことを気に入ったようだった。どうしてだろうと疑問には思いつつも今までと同じように八方美人な付き合いを続ける。そのはずなのに、何故だか彼女達には少し甘かったような気がする。



「ねえねえ、いいじゃんか?」

「ですから、私達は」

「はいはい、そこまでにしてもらうよ」

「あ? 何だよテメエ?」

「先輩!」

「僕はこの娘達の連れだよ、分かったら引いてくれないかな?」

「…チッ、行くぞ!」

「…やれやれ、行ってくれたか。…二人とも?」

「すいません、ああいったことは慣れていないので」

「もう少しだけこうしていてもいいですか?」

「…はあ」


 夏には二人と一緒にプールに行った。いつからだったかは忘れたか二人と学校の外でも遊ぶようになった。休日にはどちらかの提案でどこかに遊びに行くと言うのがもっぱら常識になっていた。僕は友達と出かけることなんて今までにもあったはずなのに、彼女達と一緒の時は何かが違う感じがした。



「…あ! 今の!」

「え?! もしかして流れたの?」

「しまったな、見逃しちゃったよ」

「大丈夫ですって。これからもっと流れますよ」

「それもそうだね、…あ」


 秋の夜、山に星を見に行ったこともあった。珍しく僕から二人を誘ったんだ、テレビで紹介していた流星群を見に行こうって。周りには同じように星を見に来た人達がいて、その多くが親子や恋人のようであった。その人達を見た彼女は「私達はどう見えているんでしょうね?」なんておかしそうに笑いながら聞いてきた。確か僕は「さあ? 仲の良い友達かなんかじゃないの?」なんて返したような気がする。彼女は僕の言葉に少し不満げな表情をしていたかもしれない、ただそれを確認する前に彼女は彼女の元に歩いていった。三人で来て恋人には見えないだろうとでも答えた方が良かったのだろうか。だけどその時の僕はそこで見た家族という存在に心が揺れていた。僕にとって、それは当然のものではなかったから。



「それ!」

「うわっ?!」

「今だ! あのお兄ちゃんに集中攻撃するぞ!」

『おー!』

「ちょっ?! 待って待って!?」

「あ、先輩がやられた」

「あはははは!」


 冬休み、来年は僕が忙しいだろうからという少々謎の理由で何故か学校近くの公園で雪合戦をやることになったこともある。何故か彼女達はノリノリで、僕はそのテンションにかろうじてついていくのが精一杯だった。それがいつのまにか近所の子供達もそれに混じっていたために、すぐに僕は雪だらけになってしまった。最後に彼らが親と一緒に僕たちに礼を言いながら帰っていく光景が、しばしの間脳裏を離れなかった。今まで疑問には思いつつも、それに納得していたはずの何かについて考えずにはいられなかった。



「先輩、好きです」


 冬、いや暦の上では春になるのだろうか? 新たな年度になる前のある日に彼女に告白された。だけど僕にとってそれはどうしても受け入れることの出来ない言葉だった、それ故に僕は彼女を傷つけてしまった。…どうして、それでも良いと彼女は言ったのだろうか? どうして彼女は諦めると言う選択をしなかったのだろうか? 僕一人では分からない。かつての僕も、今の僕も、どうしても理解できない。



「…?」

「!? っく!」

「……え?」

「先輩!?」

「ごめ」


 そしてあの日、僕は彼女をかばって車にはねられた。どうして、だとかどうなるか、だとかは関係なかった、とっさに体が動いた結果だった。最後に見た彼女の、彼女達の顔はどうしたって忘れることが出来ない。



「…」

「さあ、どうだ? これが貴様の過去なのだろう?」

「…」

「やり直したくは無いか? もう一度、時を遡ってやり直したくは無いか? どうだ?」

「…」

「この手をとるのだ、そうすればお前は望む過去を選ぶことが出来る」

「…」

「たとえそれで失敗したとしても、また過去をやり直せば良い。何度でも、何度でも、過去をやり直してお前が望む未来を選ぶのだ」

「…」

「さあ、この手を掴め。そうすればお前の夢は必ず叶う」

「…」

「さあ!」



 はい、最初のほうは戦闘シーンでした。さして戦闘していませんがね。ぶっちゃけ主人公が強いので苦戦のしようが無く、がっつり書くほど戦闘が激しくならないと思うので当面はこんな感じかも。あと一人称でそういったものを書くのが難しい、こりゃ四章以降は三人称固定になるな。


 これなら三章は四月以内に終わりそうですね。ただ四章は時間をおかないと書けないかもしれないので三章終了時にそのまま続行か充電をさせてもらうかの意思表示をします、たぶん。



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