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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第三章:ナルの再会
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勝利への演説

副題は生きて護れ


 日も落ち、夕と夜の狭間の時間。ネキッラムの街の外、森の方を向いている外壁の前に僕は立っている。横には再会したシグルさん、後ろには集められた百人弱の冒険者達。そして前、ここから200ムルほど先には無数の眼の光がある、あれがヴァンパイアの軍勢というわけか。三百以上とは聞いていたけど、ここから見える分と森の奥にもいるであろう分を合わせると下手すると倍はいるか?


「ふうん、分かっていたとは言え結構な数のようだね」

「そのようですね、突破は可能ですか?」

「当たり前だよ、僕を誰だと思っているんだい? …ただまあ、あれ全部を止めるのは無理だ。突破が主目的である以上、少なくとも半数は通すことになる。そもそも防衛が主目的だったとしてもまあ無理だけど。僕は広域殲滅を得意としているわけじゃないからね、どこぞの伊達や酔狂が大好きな僕の友人ならともかく」


 本当にユウがいればあれを一掃することを策に入れ込むことが出来たんだけどな、それにケイがいればこれ以上の策だったり相手の思惑だったりを思いつくんだろうけどねえ。いくら言っても仕方ない、無いものねだりに意味は無いしね。


「そうですか…。では取りこぼしはこちらで受け持つことになりますね」

「そうしてもらうことになるけど…、大丈夫かい、彼らは?」


 僕が見る限りでは彼らがヴァンパイアの軍勢を受け止められるか怪しい、脆い所を狙われれば数合の打ち合いで食い破られるかもしれないな。そもそも士気が高くない、低ランクを中心として冒険者達の感情は勇気よりも恐怖が勝っている。全体の感情に引っ張られて実力者達も後ろ向きな感情を持ち始めている。これでは本来の実力すら発揮出来ずに無駄に散るか?


「…正直そこまで期待は出来ないでしょう。彼らのうちヴァンパイアとの交戦経験を持っているもしくはヴァンパイアに対抗できるだけの実力を持っているものは半数以下、それ以外はあの軍勢と戦わせるには実力的に不安の残る者ばかり。数が多くても内部の実力差が大きければ結果として全体の戦力はガタ落ちする事もあります、今回もそうなりえる可能性が無いとは言えません」


 この辺りがハザード級何かの出鱈目に対して軍隊ではなく少数精鋭の冒険者をあてる理由でもある、少数の中級者と多数の初心者熟練者の混ざり合った集団ではどちらが強いのかって話だ。


「ううん…、だったら戦力を絞って防衛させた方がいいかい?」

「いえ、それでは広域には対処が出来ません」


 …ふむ、そういう思惑か。


「なるほど、つまり低ランクは捨石にするつもりだね?」

「…そうなります、彼らにも覚悟はあるでしょう」


 要は敵を倒させるための戦力とみなしていないんだ、僕が本丸を討つまでの間の時間稼ぎ、肉盾ってやつか。


「ま、そうかもね。だからと言って放置するのも気分が悪いけど」

「私とてこのようなことはしたくありませんよ、ですがこの街を護る者の長としてはそういった判断をしなければなりません」

「そこを否定するつもりは無いよ、それが責任を持つ者の務めだと理解はしているから。ただそれを割り切っているのではなく当然だと思っているような相手だったらあまりいい感情は持たなかっただろうけど」

「そこまで割り切れるほど私は歳を取っていません」

「そのあたりに歳は関係ないと思うけどね、そういった対応をとれる若者も知ってはいるし。とりあえず重要なのは防衛戦力をどれだけ生き残せられるかってとこだ」

「と言われても私には何の策もありませんが」

「一応僕には無いことも無いよ、ただあんまりやりたくは無いけど」

「有るのですか?」

「いやまあ、柄じゃないからやりたくは無いけどね。そうも言っていられないか、ちょっと時間を貰うよ」

「え? はい、かまいませんよ?」


 正直、僕は煽るのとか鼓舞するのとか得意じゃないから気乗りはしないんだけどねえ。ユウもケイもいないから僕がやるより他に無いのだけど、こういったことは僕より彼らの方がはまり役なんだけどなあ。


「聞け!」


 振り向き、後ろで待機している冒険者達に向かって叫ぶ。今回の作戦を通達するに当たって僕の正体はすでに知らされているため、彼らには何を言うのかという疑問こそあれど僕が話すこと自体には戸惑いはないように見える。さあて、柄じゃないとはいえ、より多くに生き残ってもらうためにはしょうがない。気合を入れて語るとしよう。


「今このネキッラムの街に大きな脅威が迫ってきている! それは夜の支配者にして不死者の軍勢だ! 君達はそのような相手に勝つことが出来るであろうか? 否! 少なくとも今の君たちでは不可能だ! 無数の目に恐れを抱く君たちでは、今から来る暴力に立ち向かうことなど出来ない!」


 いくら実力者の言葉でも余所者から自分達は無能だと断言されるというのは気に入らないだろう。それゆえに彼らの心には僕への敵愾心や不快感、そして怒りが生まれるはずだ。そして今はその怒りこそが彼らの恐怖を塗りつぶすことが出来る。


「そうだ、その怒りだ! 怒りは人を曇らせるが時として人の力を高める発破剤となりえる! 今君たちの中に恐怖は無い! ならば、あの程度の軍勢を受け止めることなど容易いことだ! 理解せよ! 君達こそが街を護る最後の盾であるのだということを! 君達こそが、護られる者達にとっての希望であるのだということを! 誓え! 彼らを悲しみに落とさぬと!」


 これで多少は冒険者達も実力を出せるようになるだろう。そして、ここからがダメ押しだ。


「そして! この戦場に敗北は存在しない! 何故なら、我らは大いなる女神に見守られているからだ!」


 両腰に佩いている双剣を抜き、右手のそれを掲げる。そして魔力を載せた言葉で以って僕が信奉する神に祈る。


「【我が上に在りし祝福の女神よ! 今、我らにその力の一端を授けたまえ!】」


 僕達の体を温かい光が包む、これこそがラクセイリアを構成する神々が一柱である祝福の女神の御力。この力によってこの場にいる全員の身体能力を高め生存確率を上げること、そして言葉によって全員の気力を高めることが僕の策。


「これは、身体強化? 祈祷魔法でこの人数に身体強化をかけたというの? こんなことが出来るなんて…」

「聞け! 我らの戦いは祝福の女神に見守られている! その戦場で、我らが敗北することなどあろうか? 否! 我らに有るのは勝利のみ!」


 そうだ、心から勝利を確信しろ。意思は時に体に力を与える、それでもって自らの実力以上の力を発揮して見せろ。


 そして忘れてはならないこともある、僕はそれも告げなくてはならない。それを理解して戦いに望んでもらわなければならない。


「そして聞け! 君達に戦死は許されていない! 何故なら、君達の死もまた悲しみを生み出すからだ! 知れ! 君達の死によって多くの人が救われようとも、それを悲しむ者が必ず居るのだと言うことを! 思い浮かべよ、家族の顔を! 思い浮かべよ、友の顔を! 思い浮かべよ、愛しき者の顔を! 彼らの顔を涙で飾りたく無いと思えるのなら、生きて全てを護って見せろ!」


 最後に叫ぶ、彼らの背中を押すために。


「根性見せろよ冒険者!!」


 一瞬の静寂、そして。


『おおーー!!!』


 空を揺るがす大声、冒険者達の決意の声。実にいい気迫だ。そうでなくては、ね。


「さすが、と言ったところですか? これなら…」

「さて、僕は行くよ。ここの護りは任せたよ、“弩弓葬矢”」

「お任せください、そして御武運を、“双剣奏々”」

「ああ」


 こちらの叫びに呼応したのか、不死者の軍勢がこちらに走り出す。それを視界に捉えつつも、あえて一度その目を瞑る。剣を持った腕をだらりと下げ、ふうと軽く息を吐く。


「…いざ、参る!」



 今回は特に後書きは無しです。四月中には三章も終わるかな?

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