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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第三章:ナルの再会
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決意

副題は死亡フラグと生存フラグ


「伍月さん」

「先輩?」


 あちらの軍勢はおそらく日が落ちてから動き出す、だからこちらは相手が十全に動けない今のうちに叩きたいところではある。ただそれをやると防衛を担当する冒険者の足並みを揃えることが出来なくなる。


 確かに僕が頭を潰せば終わるが僕が軍勢全てを受け止められるわけじゃない以上は防衛戦力もおろそかにはできない。だから冒険者達の準備が整うまでは僕も動くわけにはいかない。そのためその時まである程度の時間の余裕が僕には有った。その時間を利用して、僕も僕の不安要素を潰すために割り振られた部屋に移動しているところだった伍月さんを呼び止めた。


「君に渡しておきたい物があるんだ」

「? 何ですか、これ?」

「人口魔具の一つで、結界を発生させるものだよ。これを使えば半径5ムル、じゃない、半径5メートルを強力な結界が包み内部の人間を護ってくれる」


 手のひらに収まる程度の大きさでしかないコイツは、SSの攻撃でも一撃だけなら耐えられるほどの性能を持つ、これを使ってくれればそうそう彼女が危険に陥ることも無いだろう。


「え? だったら先輩が使った方が」

「これは発動後その場に固定化するだから、僕が持っていても使い道が無いよ。それよりも君が傷つく方が僕は嫌だ、万に一つの可能性だといってもね」

「先輩…」

「じゃ、行ってくるよ」

「…待ってください」

「え?」


 どうか、したのかな?


「戻ってきてくれますよね?」

「当たり前じゃないか、今の僕は強いんだよ?」

「本当ですよね? あの時のように居なくなったりしませんよね?」

「伍月さん…」


 そう、か。それが不安だったのか。今の僕なら大丈夫だと確信を持って言えるけど、それを彼女が信じてくれるかどうかは別問題だったな。


「安心して、ちゃんと戻ってくるさ。君を日本に帰すまで、僕は決して死なない、君も死なせない。僕の二つ名にかけて約束する」

「…信用できません」


 そ、そう言われてしまうとどうしようもないな。


「えっと、困ったな」

「ですから、言わせて貰います」

「何をだい?」

「好きです、先輩」


 ……ちょっと思考が停止した、もう一度彼女からそれを聞くことになるとは思っていなかったから。でも、いくら言われようと僕は。


「…悪いけど、僕は」

「聞いてあげません」

「え?」

「もう一度、貴方に告白したときに返事を聞かせてください」


 …それは彼女を、天月さんを、思い出す。君も僕にそう言うのか、どうして?


「それは、どうして?」

「聖にもそうしたのでしょう? だったら私にも同じようにしてください」

「それに何の意味があるの?」


 僕の答えが変わらない以上、何の意味も無いはずだ。…無いはずだ、変わらないはずだ。


「先輩は、答えを保留している状態でいなくなったりしないですよね?」

「?! …それは、キツイな。僕にとっては」


 僕はすでにその大罪を犯している、天月さんに対する裏切りを。もう一度それをなすほど僕は厚顔無恥では無いつもりだ、だったら僕はいよいよ帰ってこないという選択は無くなってしまった。元よりそのつもりも無いけれど、ね。


「先輩が戻ってきてくれるなら私は卑怯な手も使います、先輩が私をあちらに戻すために聖を利用したように」

「…」


 そうだ、僕は天月さんの存在を利用した。この世界に伍月さんを縛りたくなかったから、…伍月さんが僕を諦めてくれると思ったから。…諦める? 僕を? …そうか、そういう断りもあるか。……ある、が。


「…君が君の先輩の事を好きだったことは分かったよ、だったら君は僕に告白するべきじゃない。僕は君の先輩ではないから」

「貴方は、先輩ではない? …生まれ変わった自分はもう私達の知る先輩ではないと? そういうことですか?」

「そうだ、今の僕は日本に居た高校生、成宮 勝じゃない、ラクセイリアの冒険者ナルだ。だからそもそも君は好意を向ける相手が間違っている」


 そうだ、今の僕はかつての僕とは厳密には別人だ。そうだ、彼女の恋する相手はもう死んでいるんだ。今の僕はその幻影のようなものとも言える、それを愛するのは間違っている、と思う。


「そうですか? 私には間違っているような気はしませんが?」

「間違っているよ、だから君は」

「いいえ、間違っていません。いくら否定しようとも私は貴方を先輩だと認めます、ここに居るのが私ではなく聖だったとしても同じように判断するでしょう」

「どうして、そこまで固執するんだ?」


 分からない、僕には彼女がそこまで僕に固執するのかが分からない。どうしてなんだ? あの時から時間は経っているのに未だにそう思う心理が分からない。他人の恋路はなんとなく理解できる、今までもそういったことを見ることは有った。ただし僕が当事者になると分からなくなる、どうして僕を選ぶ? 僕には理解できないと言ったのに、それでもなお諦めない。分からない、分からない…。


「…いいですか、先輩。私はあちらに戻らないことにしました」


 ……は? 今何て言った? 戻らない? 僕が思考に沈みかけている間に何を言い出した?


「いやいや、だったら天月さんはどうす」

「聖も、こっちに連れてきます」

「はあ?! いきなり何を言いだすんだい!? 君はそんなにぶっ飛んだ子じゃないでしょ?!」


 何時からこんなことを考えるようになったんだ?! 天月さんならまだ分からないでも無いけど、伍月さんはどちらかというと普通の、言っちゃ悪いけど面白みの無い行動をするタイプだったはずでしょうが!?


「聖なら先輩が居れば万事納得します、むしろ先輩が居ない世界で彼女は自分の存在理由を見出しませんよ。だったら聖が世界から居なくなる前にこっちに引きずり込んでやればいい」

「む、無茶苦茶な。君達の家族とかどうするんだい?」

「うちの親は先輩に対して良い印象を持っていませんでしたからね。正直、先輩が亡くなった時に清々したみたいなことを言っているのを聞いてから、もう両親には嫌悪しか感じていませんよ」

「いや、だからって…」

「聖の両親も同じようなものですよ、事業家か何だか知りませんが政略結婚みたいなものを画策していたようです」

「は? え、それって本当?」


 嘘、そんなこと初耳だよ? それなりに長い付き合いだったけどそんな事情が有ったなんてまったく知らなかった…。


「だから聖は先輩に告白したんでしょうね、その後どう転ぶにしても聖なりに先へ進むためのきっかけにしたかったんでしょう。ただあの調子の聖が両親の要求を拒むかどうか分かりませんから急がないといけませんね。これは手早くあちらへ一時的に戻る方法とこっちに来る為の方法を探し出さないと」

「いや、その、あの、…本気?」

「本気も本気です。いいですか、先輩? たとえ先輩が生まれ変わろうとも、私はその上で貴方を、ナルという一人の人間が好きなんです。ですから、私達は、ナルさんを諦めてなんかあげませんよ?」


 おどけたように笑う、その笑顔の隣に、いつかの彼女の、天月さんの笑顔が見えたような気がした。それに僕のことを先輩ではなく名前で呼ぶのは今の僕を見ているという意思の表れか。…そうか、これほどまでに強いのか。だったら、僕も。


「まったく…、そういうのを死亡フラグって言うんじゃないの? 映画とかだったらこの後君も僕も手を取り合って死んでそう」

「その程度で死ぬほど柔じゃないんでしょう? それに私の事も護ってくれますよね?」

「あはは、そうだね、その通りだ。…行ってきます、ミチさん」

「…はい、行ってらっしゃい、ナルさん」


 今までのようにあちらでの呼び方でなく、こちらでの呼び方で互いの名を呼ぶ。新たな関係を形作るための第一歩として。僕も帰ったら踏み出す決意を語ろう、…いや。


「ああ、そうだ」


 今、言っておくことにしよう。そうした方が、いいような気がした。


「?」

「考えてみることにするよ、恋や愛ってやつを。そう、僕は生まれ変わったんだ。だから今度は怖がらなくて良いのかもしれない、今のナルなら前のナルとは違った選択を出来るかもしれない。それなら、僕も否定ではなく肯定していけるようにしよう。僕は愛というものを生み出せるということを、僕が君達の想いを受け入れられるようにね?」


 おどけたように笑ってみよう、今度は僕が強くなる番だ。


「…まったく、遅いんですよ。そういうのを死亡フラグって言うんじゃ無いんですか?」

「今時は死亡フラグを重ねると生存フラグになるそうだよ」

「そうでしたか、だったら大丈夫ですね。…ただいまを期待しています、ナルさん」

「お帰りなさいの準備はよろしくね、ミチさん」


 さあ、行こうか、僕の戦場に。


 はい、時間の割には短い本文です。どうにも気力が湧かないなあ、もう少し本腰を入れないとこれはまずい。早く気力やら何やらを回復させないと。


 今回の話はもう少し短かいものでした、それがちょいちょい合間合間に入れたいことが増えて最初の倍の長さになっていました。ま、話の切り時的にはここで一話終わったのはよかったんですがね。ちなみに後三話くらいで終わるか? って感じですかね。ではまた。


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