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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第三章:ナルの再会
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作戦決定

副題は戦力差はどれほどの?


「何だと!?」

「くそったれ!! 何時の間にそんなもんが来やがったんだ!?」


 各々の反応は似たり寄ったり…なんて観察している場合でもないか。


「ぼやくよりもまずは現状の把握です、ギルドから他に伝言は預かっていませんか?」

「いえ、これ以上特には何も」

「そうですか。…男爵、ギルドとの魔道通信機はありますか?」

「ああ、私の執務室にあるが…?」


 さすが、ネキッラムを治める貴族の屋敷だ。予想通りの物があってよかった。


「ここで使用することは出来ますか?」

「出来ないわけではないが…必要か?」

「ええ、出来ればこの屋敷を出るのは避けた方が良いかと。先ほどのまでの話し合いが当たっているとしたら外の騒ぎですら陽動の可能性が無いとは言えません」


 今の街を護衛対象と歩くことも、戦力を二分することもどちらも避けたい。ここを動かずに情報を得られるならばそれを活用するのが是だ。


「…誰か執務室から通信機をここに持って来い、急げよ」

「はっ」



 しばらくして騎士の一人が応接室に抱えられるほどの大きさの魔道通信機が運んで来た、男爵はそれを中央のテーブルに設置させて起動させる。…この通信機は型が新しいものみたいだ。通信機の前部中央のカメラで撮ったこちらの映像を相手側に送信し、相手側の映像をこちらの上部に立体的に投影することが出来る。これ一台でかなりのお金が飛んでいく代物だ、大都市の一つを治めているとその財力は爵位よりも高いこともあるというのが良く分かるな。


「誰か居るか?」

「…はい、こちらはネキッラムギルドです。そちらは…、グルム男爵? どうなされました?」


 映像にはギルドの職員らしき人物が映っている。さて、すんなり進んでくれるといいんだけど。


「今外で起こっている事についてギルドマスターと話したい、そこに呼んでもらえるか?」

「は? 失礼ながらこちらにいらっしゃった方がより良い情報共有及び対策会議が可能となると思いますが?」

「すまないがそれが出来ぬ理由がある、出来ないか?」

「…少々お待ちください」


 通った、後はギルドマスター次第となるか。


「すみません、男爵。無理を通させてしまいました」

「私はそちら関係については門外漢だ、だったら専門家の忠告は受け入れた方が後々良くなるだろう」

「感謝します」


 男爵が話の分かる人で助かった、この調子で行けばいいけど。



「…お待たせしました、グルム男爵。一体どうなさったのですか? 私としてはこのような通信ではなく直接会って話をしたいのですが」


 人間の女性、僕とそこまで歳は変わらないくらいかな? ギルドマスターの割には若いか? 冒険者の世界で見た目と実力が一致しないなんてことはざらだから女性の冒険者かが居ること自体は珍しく無いけど、それでもその絶対数というものは少なくなるものだ。特に高位クラスの冒険者となれば言わずもがな、ギルドマスターにまでなっているというのを加味すればかなり珍しい。


「すまんな、ギルドマスター。実はこちらの人員にヴァンパイアに襲われた者が居た」

「?! それは本当ですか!?」

「ああ、私の元で働く使用人数名と息子がヴァンパイアとなっていた。それとニスクの部下数名も同様の被害にあっている」

「はあ?! それは本当ですか!? どうしてそれを早く教えてくれなかったのですか!」


 随分と感情的だな、何気に高位クラスの中では結構珍しい…わけでもないか。ここにキャルアという感情的な男が居たね。


「すまん、これらは今日の調査で判明したことだ」

「そ、そうでしたか。それでその被害にあった方達はどうなりましたか?」

「すでに灰となっている、こちらで雇った冒険者の働きでな。彼が今外に出るのは危険だと言うのでこうして通信を使うことにしたのだ」

「灰、ですか。そうですか…。通信については分かりました、このまま情報共有といきましょう」


 話が早いな、ヴァンパイアに関する知識が有るのか。いくつか現状について意見を求めた方がいいか? いや、その前に街の外に対応するべきか。


「…お前、シグル・レッソか?」


 うん? キャルアの知り合いなのか?


「…もしかしてキャルア・ベッソス? どうして貴方がこんなところに? ってどうしたのその傷?! もしかしてヴァンパイアに襲われたの?! 貴方がそこまでの深手を負うなんて」

「違う、これはそこの“双剣奏々”にやられたんだよ」


 おいおい、それは自爆だろうが。こっちが全部悪いみたいな言い方するなよ。


「え? “双剣奏々”?」

「えっと、こんにちは」

「お、お久しぶりです!! ナルさん!」

「え? あれ、知り合いだったっけ?」


 心当たりが無い、よな? ユウほどではないとはいえ僕だって人の顔をそこまで覚えられるわけでも無いから忘れているだけかもしれないけど、えっと? あ、でもそう言われると何か顔に覚えがあるような? 何処の誰だったっけ?


「覚えていないのも無理はありません、零の戦場で一方的に助けられただけですから」

「あ、あの時にいた人か。……ああ、思い出した。“弩弓葬矢”さんか」


 高位クラスで弓をメインに使っている人は少ないから記憶に残っていたようだ、あの戦いはなかなか興味深いものだったね。…ま、言われるまではすっかり忘れていたんだけどさ。


「覚えていてくれましたか、嬉しいです! それと私の名前はシグル・レッソと申します、良ければ覚えておいて頂きたいです!」


 こういう対応をされるのは何か久しぶりな気がするな、…いやまあそういう場合じゃないか。


「あはは…。で、だけど」

「あ、そうでした。貴方がそこにいらっしゃるということは」

「ええ、僕がヴァンパイアの調査と討伐を行っていました。その辺りの調査からこの場を動くのは得策では無いと判断しましたのでこのような手段をとってもらっています」

「そうでしたか、一体どのような状況だったのですか?」

「僕とギーガの決闘騒ぎは知っていますか?」

「決闘? お昼のですか? あれは貴方のものでしたか」

「成り行きでしたがね、それはともかくとして。その最中にギーガがヴァンパイアとして覚醒したので僕が討伐しました、その後状況説明のためグルム男爵邸に移動したところそこのメイドの一人もヴァンパイアであったことが分かりました。それでその女性周りの調査をしたところ商人のニスクさんの部下、例のメイドの家族を含めた部下数名がヴァンパイアであったようです。これらの情報から相手側の思惑等を議論していたところにそちらの連絡が入ったというわけです」

「そういうことですか、理解しました。では次は私が話しましょう、こちらの情報は先ほど依頼を終えて戻ってきたBクラス冒険者からもたらされたものです。彼が言うところには森の中に多数の魔物が居たためその場は逃げることにしたそうですが、思ったよりも数が多くて数度戦闘を余儀なくされたとの事でした。それで相対した魔物にいくら傷をつけても治ってしまい、攻撃が頭部や胸部に直撃した場合のみ相手の体が灰のように崩れていったとのこと。このことから私達ギルドはヴァンパイアの襲撃と判断、調査隊を森に送ったところ確認できただけで三百以上の魔物が存在するようです」


 三百、か。いくら大都市とはいえそれだけの戦力に対応できるだけの戦力が常在しているとは思えない、これは僕が出張らないとキツイか。


「三百だと!? 今動員できる冒険者の数は?!」

「…約90名、ただしヴァンパイアを退治できるレベルのものは50人程度ではないかと」

「戦力比は6対1かよ、…いや、ヴァンパイアの軍勢は普通のそれとはかなり異なるから実質の戦力さはそれ以上か、やっかいだな」

「相手の種族は?」

「ゴブリンやオークが多数を占め、他にはコング系やウルフ系も見受けられます」


 ゴブリンやオークか。ヴァンパイア化しても奴らの性質は変わらないだろう、他種族の牝を繁殖に使う奴らが街に侵入すればその被害は単純なものではなくなる。結果として物理的でなく精神的に死ぬ人もでるだろう、それだけは避けなくては。


「…まずい、な。ネウム、ギルドマスター、住民の避難についてはどうなっている?」

「非常時は中央の集会場等に非難させることになっている」

「非難誘導に関してはいつでも行えます、グルム男爵の指示さえいただければすぐにでも」

「いえ、それは止めた方がいいかもしれません」


 普通の防衛戦ならそれが良いのだろうけど、今回に関してはそれは下策となる可能性がある。


「何を言っているのだ?」

「お忘れですか? この街にはヴァンパイアが居たのですよ? 僕が討伐した分で全てとは限りません、もしかしたらまだヴァンパイアが市民にまぎれて潜んでいる可能性がある。それらを含んだまま市民を集めればどうなるか」

「…! 避難所内で一気にヴァンパイアに感染する?!」

『?!』


 この場に居る全員に僕が危惧していた事が伝わったようだ。そう、それが現状の最悪。街を護ったにも関わらず、街が滅ぶことになりかねない。


「そう、避難所というものは外からの進入を防ぐようになっているものですが、裏を返せば中からの脱出もすぐにとはいかないものです。その内側にヴァンパイアなんてものが一体現れただけでも相当数がやられます、ヴァンパイアが居るかもしれないこの状況で一箇所に市民を集めるのは賛同できかねます」

「ではどうするべきだと言うのだ?」

「簡単な話です、敵を一体たりともこの街の中に入り込ませなければいい」


 一箇所に集めるのが駄目ならば最初から集めなければいい。そもそも街の中に敵を入れなければ避難をする必要も無いんだ、だったらそうすればいい。


「無茶を言わないでください! 戦力差が分かっているのですか?! 街に侵入させずに食い止めることなど現状の戦力ではまず不可能です!」

「君こそ何を言っているんだい?」


 僕に助けられたと言う割にはわかってないじゃないか。


「え?」

「忘れたのかい? あの戦場を、あの戦場を駆け抜けた者達の力を。その一つが今ここに居る、常識外と言われる存在が。この程度あれに比べればぬるま湯同然だ、僕一人で事足りる」


 そう、SSのいる戦場に敗北など存在しない。僕一人であってもそれは証明可能なことだ。


「で、ではどうやって対処するというのですか?」

「簡単だよ、僕が敵陣に突っ込んで大将を討伐する。他の戦力は街の外周で防衛に専念してくれればいい」

「…は? ナル、君は何を言っているのだ?」


 ニル男爵含め非戦闘員の人達から、何を言っているんだ? という感じの眼を向けられる。…いや、あの、そんな眼で見ないでくださいよ。


「いえ、実際これが一番手っ取り早いと思いますよ? すでに説明したことですがヴァンパイアっていうものは急所を叩かないと倒せません、だからヴァンパイアの軍団相手にまともに戦うのは面倒極まりないです。だったら親を潰してその子以下を連鎖的に消滅させた方が早い、ですから他に目もくれずに頭を狙いに行くべきです」

「理屈は分かるが…、君一人でかね?」

「ハイヴァンパイアらしき者が居たのですから頭はロード以上の可能性が高いです、そのレベルだと取り巻きのレベルも相当なものだと思います。だったら最低でもA、望むならS以上で無いと同行させるのは不安です。大体僕のスピードについて来れないと足手まといになりますし」


 それに数百のヴァンパイアを指揮しているということを考えればその親は下手をすればハザード級に分類させるヴァンパイアキングの可能性があるんだ、そうなるとますます僕一人で行った方が被害が少なくなる。


「そういうものか?」

「…そうですね、私もナルさんの意見に同意します。戦力差が相当なものである以上早期に決着をつける方が良いと思います。さすがに単騎突入というのは避けて欲しいですが…」

「だからと言って君を連れて行くのは論外、キャルアは問題外、他に候補がいない以上は僕が単独で突っ込んだ方が良い」


 指揮を執らなければならないシグルさんも動けないキャルアも連れて行けない以上は僕が一人で行くしかない。…はあ、ケイとユウがいればもっと簡単だったのになあ。


「…問題外っつうのは気に入らねえが、俺もそれが一番良さそうだと思うぜ? どうせコイツのことだ、一人で突っ込ませたところで平然と戻ってくるだろうぜ」

「まあ、それは分かるけど…」


 二人のSクラスが納得したか、だったらこのまま強引に締めて進めよう。


「だったら決まりだね、男爵達はここで待機、キャルアとクエラさん達はその護衛、シグルさんはその他冒険者達を指揮して街の外周で防衛、僕が相手の陣に突っ込んでかく乱しつつ頭を叩く、以上」


 さあ、戦闘の時間だ。力で以って皆を護りに行こう。SS、常識外クラスと言われるものの所以、存分に発揮することとしようか。



 隔日投稿にしても書留がたまらない、どうしたものか。次の投稿は日曜だからそれまでに書けるだけ書いておいて方がいいか、それとも書き出している別作品を書き進めて気分を変えるか、どっちがいいものかね。


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