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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第三章:ナルの再会
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敵の目的

副題は議論回



「…以上です」


 グルム男爵家に戻り皆に現状を報告する、対策本部のような状態になっている応接室には先ほどのメンバーにニーナさんとキッカさんが追加されている。貴族家でメイドとして働いているニーナさんは皆に飲み物を用意するなど常と変わらぬ態度であるけど、一従業員でしかないキッカさんは貴族家に招かれているという現実に戸惑っているようだ。一般人がこの場に居るのは平静でいられないと思うけど、ここにいてくれた方がこっちも護りやすいので今は我慢してもらうしかない。


「ううむ…」

「これはまずいな、何処に敵が居てもおかしくは無い」

「だな、これじゃ下手に動けない」

「調査は戦力の分散にも繋がりますからね、隙を突かれれば各個撃破の恐れがあります」


 広範囲を調べるには人手が居る、そうなると調査ポイント一つ辺りの人員を減らさないといけなくなる。その状態を襲われた場合上手く撃退できるとは限らない、そのままやられるか最悪の場合は相手に取り込まれる可能性もある。その調子で襲われ続ければこちらの戦力は大幅に減りここの護りもままならなくなる。そうなると取り返しがつかなくなるかもしれない。


「ナルだけで動くのは?」

「時間がかかりすぎます、それにその間に敵が動いたら遅れをとりかねません」


 僕が離れている間にここを襲われるのが一番まずい、そうなるのだけは避けたい。


「ではどうするのが良いと思う?」

「僕としてはここに待機して何かが起こったときに対応するというのが良いのではないかと」

「それでは後手に回らないか?」

「むしろ後の先を取るように動いた方が良いかと思ったもので」


 闇雲に探るよりは何かが起こってからそこに向かった方が結果的に手がかりは手に入ると思う、ただこの場合だと相手が静かに動いてきた場合に首が回らなくなる可能性もあるけど。


「ふむ、一理あるか」

「かといって何時までもそれとはいかないのでは?」

「それもそうなんだけどね、だからと言ってこっちが打って出ようにも何処に行けばいいのかって話になるし」


 相手のボスが居る場所が分かっているとかなら良かったんだけどね、このままだと何処に行けば事態を解決できるのかがさっぱりっていうのが面倒だ。


「そうだな、相手の親玉が居るとしてそれが何処にいるのかが分からなくてはどうしようもない」

「ヴァンパイアに関しては下っ端をいくら潰しても頭が生き残っている限りは徒労に終わりかねねえしな」

「本当に面倒な話ですよ、まったく」


 実際どうしたものかな、このまま手をこまねくというのも周りの精神衛生上宜しくは無いから何かしらの対応策なり何なりは思いつきたいところだけど。


「…でしたら相手の目的を考えてみませんか?」

「目的?」

「ええ、相手の今までの行動からその目的を探ることが出来れば次の行動を予測できませんか?」


 なるほど、その発想は出てこなかった。これまでのそれでは議論が進まない以上は伍月さんの考えに乗ってみるのがいいか。


「採用、今はそれを考えるのが最善かもしれない」

「だったらそうするか、今のところわかっている相手の行動といえば?」

「私の屋敷の使用人と息子、それにニスクの部下をヴァンパイア化かさせているな」

「地位の高い人の周囲を眷族にしていますね」

「そうなるな、だとすると本来の狙いは私とニスクであり」

「その下準備として周りから落としたということか」


 だとするとそれが何に繋がるのか、だ。


「その可能性がありますね、だとしてそうなると何が出来ますか?」

「…私はこのネキッラムを治める者であり、ニスクはこの街の商人の中で最も力を持っている。私達を支配することはこの街を支配することに繋がるな」

「でもヴァンパイアが人間の街を支配してどうなるんだ?」

「そこまでは分かりませんね、この街が本体の目的で無く他の街への足がかりにすぎないのかもしれませんし。これだけだとどうとでも考えられます」


 あくまでこの街を支配するのが第一目的なのか、それとも他の街を侵攻するための前段階にすぎないのか、それすら分からないというのはどうにも思考の幅が広がりすぎてしまう。ある程度は絞りたいところではあるけれど、そのための手がかりが少なすぎる。


「しかしそれでは思考が行き詰ってしまう、何か思いつかないか?」

「この街にしかないものとかはないのか?」


 僕が席をはずしている間にキャルアとの契約が正式に結ばれたらしく、彼も積極的に議論に参加することにしたようだ。仮にもSクラス冒険者の経験と思考だ、この場では当てにしていきたい。


「この街の目玉と言えるものはあの闘技場ぐらいしかない、だがあの程度のものならば他にもあるからな。かといって他にこの街特有のものなどは特に無いと思うがな」

「だったら人はどうだ? ここに居る重要度の高い人物などは思いつかないか?」

「人か、…いや、特には思いつかんな。今この街にいる重要人物など君とナル殿くらいのはずだ」

「この場合僕とキャルアは関係ないはずですからね、あくまでここに来たのは偶然ですから。もし相手の目的が特定の人物だとして、メイドの彼女のことを考えると少なくとも十日前から相手は動き出しているはず、だったらその前にこの街に来た人が対象でしょう」

「どちらにしても思いつかんな」


 皆の間を静寂が走る、それぞれが思考の海を泳いでいる最中ニーナさんが一石を投じた。


「…一人、思いつきました」

「え?」

「お嬢様です。お嬢様がこちらに来られたのは一ヵ月ほど前のこと、一応は範囲内かと」


 伍月さん? 確かに当てはまりはするかもしれないけど、でも狙われる理由はあるのか?


「ちょっと待って、どうして私が狙われたりするの? 何も心当たりが無いわ」

「いや、無くはねえ可能性じゃねえか? ギーガの奴はグエンを殺してでもミチを手に入れようとするぐらいミチに固執していたんだぜ? もしかしたらその辺りも関係あるかもしれねえ」

「しかしその間の彼はまだ変異しきっていたわけじゃない、あくまで彼の独断の可能性の方が高いのでは?」


 変異しきっていなければヴァンパイアとして従わせることは出来ないはず、その状態では親の思惑が何であれ彼を利用できない、はず。…いや、何かを見落としているような?


「…先ほどから考えていたのだが、奴は何故私を襲った? ただミチを得たいだけならば私を襲う必要は無いだろう、私が居ることによる不都合が他にあったのではないか? いくら思考能力が落ちているとはいえ、いや、むしろ思考能力が落ちているのにミチを手に入れるために私を殺すという発想に至れるのか? ならば私を殺そうとした明確な目的があるのかもしれない、…だとすれば私を殺すことが主目的の可能性もあるが」

「…なるほど、なくは無い考えです。考え直してみれば変異しきっていないとはいえ思考能力が落ちている状態なら誘導にすぐに引っかかるでしょう、ならば彼にそういった考えを吹き込めば思い通りに動かせたかもしれない」


 そうだ、そうすればある程度なら思惑通りに操れる可能性がある。それなら命令を下すことは出来なくとも結果的に命令を実行させられるはずだ。


「だとしたら結局どっちだ? 男爵さんとアンタの女の」


 …は?


「誰が誰の女だって?」

「そっちのお嬢さんはお前の女じゃないのか? だから決闘に乗ったものだと思ったが」


 いきなり何を言い出すんだ、この死に損ないは。


「違う、彼女が僕の友達だからだ」

「ほう、そうは見えねえがな」

「死にたいのかい?」


 その気になれば君なんていつでも殺せるんだよ?


「悪かった、勘弁してくれ。…で、結局どっちが標的なんだ?」

「…ニル男爵、どう思います?」

「…貴族としてなら私が狙われる理由はあるだろう、だがこちらに来て間もないミチが狙われる理由など思いつかん。そう考えればまず間違いなく標的は私なのだろうが、どうにも、な」


 伍月さんの事情、か。それが目的に繋がると考えるのは少々飛躍している気もするけど、気にはかかるな。…ここで話しても大丈夫か? いや、へたに知らせる必要も無いか。伍月さんの事情について確かめるために男爵に近寄り小声で話しかける。


「(男爵、伍月さんの事情を知っているのは?)」

「(…私の家族と使用人、この場に居る護衛達も知っているな。この街だとネウムにしか教えていない)」

「(ネウム?)」

「(グルム男爵のことだ、ともかく事情を知っているのはそれぐらいのはずだ)」


 ああ、グルム男爵のことか。今の今まで名前聞いていなかった。…いや、それよりも。


「…ふむ」


 その環境で彼女の事情が漏れるか? …それには露呈人数が少ないか、面子的にも不用意に周りに話したりはしないだろうし。だとするとどうなんだ? …ん? こちらに来る人の気配、急いでいるな、何かあったか?


「報告します!!」

「何だ? 騒々しい」

「ギルドより伝令! ネキッラム西部の森に多数の魔物を確認! しかもその全てがヴァンパイアの可能性あり!!」


 …事態が動いた、か。ある意味で待ち望んでいたとはいえ、これは面倒なことになってきた。…とは言えやることは決まった、後は力づくで押し通るのみ、だ。




 えー、前触れなく投稿しないという選択を取り申し訳ありませんでした。とりあえずは書き上げたのでお許しください。どうにもこの話は筆が進まなかったんです、理由は大体分かっていますがね。


 最初この章は闘技場のところでほとんど終わらせるつもりでした、ただそれだと短すぎるのでその後に戦闘を追加するというのは前に書いた気がしますが、実はここからさらに予定が変わっています。どういうことかというと、もとはグルム男爵家についてすぐに今話のラストのようなことが起きるという流れにするつもりでした。それが、ヴァンパイアについての説明をしているときにその被害のほうに話を進めようと思いついてしまったので、ここ数話を書き上げることになってしまいました。もともとこの作品においては、私の気まぐれなアイディアで話がずれるというのは今までにもありました。が、今回のものは結構無理な思い付きだったようでなかなか文章が出てきませんでした。そのために一話を書き上げるのにかなり時間が掛かってしまいました。…ええ、単なる言い訳です。もう少し考えて書けばいいのにって話です。


 何にせよ、こういったことを減らすためにも毎日投稿というのは辞めさせてもらいます。大体私がせっかちな性質だから毎日投稿していたというだけで、別に止めたところで何もありませんからね。以降は日、火、木の投稿にするつもりです、これでまた何か起きればその時に判断して対応します。


 この章に関しては後数話で戦闘を終わらせて締めを書いて終了になる予定です、ここから予定に無いほうに行く事はさすがに無いと思います。むしろ次章をどうしようか? 三人の再会までを書くつもりではありますが、その流れをどうするかはまだ未定なんですよねえ。…あ、その前に三章までの纏めを書くんだった、忘れないようにしないと。


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