アンデッド
副題は灰
「やはりそうですか! 先ほどからギーガ様にいくら攻撃をしてもまったく足止めにならない上に、ギーガ様ではありえない身体能力を発揮しておられるのです」
「そういう時はさっさと呼んでほしかったよ、まったく」
自分達でどうにかできないんだったら普通に僕を呼んでよ、おかげで不要な負傷をしてるじゃないか。
「申し訳ありません! まさかギーガ様がこのようなことになっているとは…」
「認めたくなかったってこと? 分からなくは無いけど一応君達は騎士なんでしょうが。その辺りの折り合いはつけて欲しかったね」
「貴様―!!!」
右手が修復されたと同時に再びギーガが吠える。まったく、他の言葉を知らないのか。
「ああ、もう。うるさいよ」
カウンターで首を蹴り飛ばす。…そのまま後ろを見えるようにしてやったってのにまだ動くか。これほどの身体能力と不死身っぷりを考えると…。
「!? そのような状態になっても…」
「そういうものになっているってことだよ、…殺してもかまわないよね?」
そもそもアンデッドになった時点で人間に戻すことなんか無理だけどね、もしかしたら出来るかもしれないけどそれを探るほど義理も無いし、何より面倒くさい。
「…こうなっては致し方ないでしょう、本来なら私達が手を下すべきなのでしょうが…」
「ちょっとキツイか、だったら下がって。ここに居られても邪魔だよ」
…どうにもさっきから口調がコントロールできないな、予想以上に苛立っているのか僕は。…コイツがこのまま人間として罪を理解しなかったから、かな。
「…はっ、分かりました。後はお任せします」
「急ぎ男爵達に伝えてね、こっちはこっちでやっておくから」
最後の僕の言葉には返答せず、その騎士さんは他の騎士を連れて下がる。
「これで二人っきりだ、…言ってて吐き気がするね」
「貴様ー!!!」
「まーたそれかい、…ああ、そうか」
もしかしたらコイツ、僕がこの街に来たときにはすでにアンデッド化していたんじゃないか? これまでの短絡的過ぎる行動は馬鹿だからかもしれないと思っていたけれど、アンデッド化による思考能力の低下が原因かもしれない。だとすると、いや、そうでなくてもコイツはどうしてアンデッド化した? …もしコイツが僕の予想通りのそれになっているのだとしたら。…試してみるか。
「【我が手に、太陽の如き、暖かなる光を灯せ】」
「ガ、ガァア?!」
「…ふむ」
僅かながらこれを嫌がるか、だったら決まったも同然だな。
「これで色々とはっきりした、もう君は死んでいい。これ以上在っても何も意味は無い」
「貴様! 貴様さえ! 居なければ!!」
「僕が居なくても君は終わっていたよ、引導を渡すのが僕になっただけだ。【我が敵を貫け、炎の矢】」
「き! ガ、ガァ…」
炎の矢がギーガの胸を貫く、本来であればありえないのにその体は端から徐々に崩れ散っていく。確定、やっぱりこいつは…。
「やれやれ、面倒なことになってきた。これは当分の間この街を出られないな、…はあ」
どうにも嫌な流れに入っちゃったな、すぐにでもノックスに向かいたかったんだけどこれは無理だ。…さーて、と。
「どう説明したものかな?」
こちらに歩み寄るニル男爵と推定グルム男爵、警護や騎士の人達を見つつ、僕はそうぼやかずにいられなかった。
「…して、ナル殿? そろそろ説明していただけるかな? 私の息子は何処に行ったのだ?」
現在僕達は闘技場を離れてグルム男爵の屋敷に招かれていた、今その客間にいるのは僕の他に両男爵とそれぞれの騎士、クエラさんに伍月さん、そしてキャルアの約十名だ。
「何処に、と言われましても。灰となって消えたとしか言えませんが」
「ならば何故、息子の遺体を灰にしたのだ?」
口調こそは穏やかなように聞こえるけども、目がまったく落ち着いていない。内心は怒りで一杯ということか。勝手にこっちにヘイト向けられても困るんだけどな。
「勘違いしないで貰いたいですね、僕は別に彼の遺体をわざわざ灰になどしていませんよ。あれは彼がそうなってしまったというだけです」
「何? どういう意味かね?」
「彼がアンデッドに成っていたというのは聞いていますよね?」
「ああ」
「アンデッドと一口に言ってもいくつか種類が有ります。人肉を食らうグールやゾンビ、死者の魂でもあるゴースト、そして夜を生きるヴァンパイア。彼はそのうちのどれであったと思いますか?」
実際はもう少し居ない事も無いけどね、とりあえずはこの程度でいい。
「グールではないのか? ゾンビは死体が変貌したものだから息子は違う、ゴーストの類は論外、日中で歩けていたことを考えるとヴァンパイアも無い、だったらグールだと思うのだが?」
「グールは生者が変貌したという以外はゾンビとさほど変わりませんよ、貴方のご子息は人肉を食らう趣味でもあったのですか?」
あったらさすがにびっくりだけど。
「…だったら、何だと言うのかね?」
「決まっています、ヴァンパイアですよ」
夜を歩くもの、人の生き血を啜るもの、人を支配せしもの、ヴァンパイア。それが奴の成れの果てだ。
「ヴァンパイアだと? 息子は日の光の下を歩いていたが?」
「そうですね、しかし彼は僕が魔法で出した光を嫌いました、ヴァンパイアは陽光に限らず強い光の類も嫌う事を踏まえるとそういうことなのでしょう。それにヴァンパイアの光を憎む度合いはその階級に反比例します、低級のヴァンパイアは昼間でも悠々と出歩けるものですよ」
正確にはあの光は聖属性のものだから他のアンデッドにも効かない訳じゃないけどね、と言ってもあの程度の出力ならヴァンパイア以外には効果が薄いと思うけど。
「そう、なのか」
「あと、彼の体の損傷は灰を経由して修復されました。これもヴァンパイア特有のものであったはず、グールやゾンビは受けた傷はそのままに動くものです。でしたよね、クエラさん?」
ぶっちゃけアンデッドを退治した経験そこまで無いから確証があんまり無い、大体合っているとは思うけどね。
「ああ、灰になったというのならヴァンパイア一択だろう。アンデッドに限らずそうなるのはヴァンパイアくらいだ」
「つまり、息子はヴァンパイアになっていたと…」
目に見えて落胆しているな、理解はしていても改めて事実を聞くとさすがにこたえているようだ。息子のことは愛していたということか? だったらあんなんになるまで放置するのは止めて欲しかったけど。いや、違う可能性もあるのか?
「失礼ながら問いたいのですが、彼は短絡的な性格でしたか?」
「? ああ、あまり思慮深いというわけではなかったが…」
結局か、まあいいや。どっちにしても聞いておかないとな。
「ではここ最近の彼に何か変わった様子はありましたか?」
「変わった…、そういえばここ数日は感情表現が大げさだったような気はするが…」
「ううん…」
表現が大げさ、ねえ。無くは無いか? どっちにしろヴァンパイア化してからそう経っていないだろうし。
「それがどうかしたのかね?」
「…ではここ数日中にこの屋敷を訪れた人はいますか?」
「ここ数日に? 何人かいない事も無いが」
「そのうちご子息の客は居ましたか?」
「いや、全て私の関係者だ」
「そうですか」
当てが外れたか? ギーガに接触した者が居ないとおかしいはずなんだが。屋敷の外だと探すのが面倒になるなあ。…いや、まだあるか。
「では最近使用人は雇いましたか?」
「ああ、十日ほど前から雇った使用人は居るぞ」
「本当ですか?」
「本当だ、しかしこの屋敷の人の流れがどうかしたのか?」
「ええ、ちょっと。申し訳ありませんが、その使用人に会うことは出来ますか?」
「? 可能だが…、何をするつもりだ?」
「少々確かめておきたいことがあるもので」
「ふむ、おい」
「分かりました、連れてまいります」
待つこと数分、騎士に連れられ一人のメイドが部屋に入ってきた。…なるほどね、やっぱりか。
「お待たせいたしました、私に何の御用でしょうか?」
「うむ、こちらの客人がお前に用があるそうだ」
「私に、ですか? 失礼ながら一体どのような」
「もういいです、分かりましたから」
僕はソファから立ち上がり手に出したナイフをメイドに向かって投げつける。
「な?!」
とっさに右手で弾いたか、その反応速度も証拠となりえるね。
弾かれたと同時に距離を詰める、ナイフを弾いて隙だらけのその胸にもう一本のナイフを突き立てる。そうするとメイドは驚愕の表情を浮かべたまま体の端から灰となっていった。
「先輩!?」
「これは?!」
「おい、ナル。こいつは…」
「ええ、彼女もヴァンパイアです。闘技場でギーガに感じた正体不明の違和感と同じものを彼女からも感じ取りました」
落ちてきたナイフをキャッチしつつそう答える、どうにも面倒な事態になってきたね。
さて、今回は特に書くことが思いつかない。…ふむ、前回書いた別作品についてですが微妙に書きたくなってきました。不定期更新にするつもりだとは言っても書き出したらこっちを毎日更新はたぶん無理でしょう。土日で書くかどうかを決めよるかもしれません。もし書き出したらこっちの更新頻度はどれくらいにしようかね、週に2,3回ぐらいがいいですか? どっちにしろそろそろ毎日更新はきついかと思っていたので更新頻度については考えておきます。




