面倒な事態
副題は彼の肩書き
「それで、これからミチはどうするつもりなんだ?」
「どう、とは?」
「このままここで店を続けながらナルを待つのか、それともナルと一緒に行くのかって話」
「それは…、おじ様、先輩」
「お前の好きにするといい、一応はニーナもお前の味を覚えたのだろう? だったらこの店を続けることは可能だ、出資者としてはそこまで問題は無い」
「僕も君の意思を尊重するよ、君が僕についてくるつもりなら僕が君を護ってみせる」
「……少し考えさせてください」
「うん、かまわないよ」
「私もだ、ニーナと相談して決めなさい」
「はい、……それに関係して一つ困ったことがあります」
「困ったこと?」
「実は…」
「いい加減にしてください!」
店先から大声が聞こえてきた、誰の声だ?
「ニーナ?」
「まさか!? 少し失礼します!」
「ミチ!?」
伍月さんが席を立つ。妙にきな臭い感じだね、僕も行こうか。
「僕も行きます、お二人は?」
「私も行こう」
「なら俺も」
さて、何が起こっているのかな?
「ですから、貴方のような人にお嬢様はお会いになりません!」
「ひどいなあ、仮にも俺はこのネキッラムを治めるグルム家の嫡男だぜ? それがどうしてニル家のご令嬢に会ってはいけないんだい?」
「どの口がいけしゃあしゃあと!」
「ニーナ」
「お嬢様!? お下がりください!」
「おお、ミチ嬢! 会いたかったよ!」
「何の御用でしょうか?」
「君に会いに来るのに理由が要るのかい?」
「ふざけたことを言いますね」
「おお、照れているのかい? いくら僕が会いに来たからといって心にも無いことを言う必要は無いよ」
「…」
店先に居たのはメイド服を着た女の子と悪趣味なくらい着飾った小太りの男性、話を聞く限りは招かれざる客ってとこかな?
「男爵、彼は?」
「グルム家の長男のギーガ・ゲム・グルムだ、グルム家の当主とは友人だがその息子である奴は見ての通り好ましい男ではない。…しかし、ここまでふざけた男だったか?」
うーん、あんまり状況が良くないな。この状況に疑問を持ちつつも、男爵の額には青筋が浮かんでいる。あんまり彼を刺激するような真似はしたくないけど、どうしたものかな。
「どういうつもりだね、ギーガ?」
「…ニル男爵ではないですか! お久しぶりですね!」
うん? 何か妙な反応だな? 居るはずが無い人が居たことに驚いている? にしても驚きすぎだな……。
「私の質問に答えて欲しいのだがね、君はどのような意図を持って私の娘に言い寄ってるのかね?」
「おお、それは心外です! 俺がミチ嬢に対して抱いている想いは紛れも無く愛! それは紛れも無く純粋なものなのです」
随分とパントマイムが派手な男だね。どうにも中身がなさそうなのが透けて見えるよ。
「だとしても、娘が君の存在を疎ましく思っているのは間違いないようだが?」
「いいえ、これは男爵の前だから照れているだけなのです」
…さすがにむかついてきた、ここは出張らせてもらうよ。ごめんね、伍月さん? 男爵もここは空気を読んでくださいよ?
「いい加減にしてください、私は」
「そうですね、これ以上はさすがに不愉快です」
そう言いつつ伍月さんの横に立ち、ギーガに向き合う。
「ナル?」
「先輩?」
「何だい? 部外者は引っ込んでいて欲しいな」
「そうもいきませんね、この状況で僕を部外者呼ばわりとは気に入りません」
「…誰何だい、君は?」
「僕は彼女の、ミチの恋人ですよ」
「な?!」
「恋っ?!」
「お嬢様の?!」
「おーう」
ギーガ、男爵、メイドの子、クエラさんと四者四様な反応だ。伍月さんにいたってはあまりのことに言葉も出ないってかんじか、この場合はその方が都合がいいね。
伍月さんの腰に手をやりその体を引き寄せ、彼女の髪に顔を埋める様にする。これで彼女に小声で話しかけることが出来る、傍目には恋人のいちゃつきにしか見えないはずだ。
「せ、先輩?」
「(ここは僕に合わせて)」
「(は、はい。分かりました)」
彼女の顔が赤く染まっているのはこの際無視だ、とりあえずギーガに顔を向けて勝ち誇った顔をしておこう。
「これで分かりますよね、僕とミチが恋人であることが」
「そ、そうです。私とナル、さんは恋人なんです」
彼女も僕の体に手を回し、体を押し付けることでアシストしてくれる。…役得、かな?
「ふ、ふざけるな! 貴様のような男が彼女の恋人だと!! 平民風情が貴族の間に割ってはいるな!!」
「随分な言いようですね、所詮男爵家の嫡男風情が」
「何だと!」
単純だね、まったく。少しは考えて話をすることが出来ないのかな? それじゃ、ユウ風に言うのなら、切り札を切ることにしようか。
「自己紹介させてもらいましょう。僕の名はナル、ギルドランクSSにして“双剣奏々”の二つ名を持つ冒険者です」
ギルドカードを見せつつ誇る。これが、僕の切り札だ。
「SS?!」
「何だと?!」
「え?!」
「あ、ばらすのか」
またそれぞれの反応だね、伍月さんの反応が無いのはそっちまで教わって無いからかな?
「これで分かったよね? 君如きが高位クラスの冒険者に立ち向かえるとでも思っているのかい?」
「で、出鱈目だ! 貴様如きがSSなはずが無い!!」
「はあ…、言うに事欠いてそれかい? ギルドランクの詐称は重罪だ、君如きを相手にするのにそんなリスクの高い手を打つ訳無いでしょ?」
「なんだと! ええい、ならば決闘だ!!」
「はあ? 同じ事を言わせないで欲しいな、君如きが高位クラスの冒険者に立ち向かえると本気で思っているのかい?」
「うるさい! いいからお前は俺と戦え!!」
「だから、君じゃ僕には勝てないってば」
…ここまでくるとおかしいな? いくらなんでも仮にも貴族家の嫡男がここまで馬鹿か? なーんか妙な感じだ。
「いいな! 二日後の午後、この街の闘技場に来い!! そこでお前を倒してミチ嬢を頂く!!」
「聞いてる? って…」
そのまま踵を返して行っちゃったよ、どうにも変なことになっちゃったな。はあ、面倒だな、まったく。
「さて、ナル? 君には聞かなくてはならないことが増えたようだな?」
…はあ、本当に面倒だな。
なかなか書けないなあ、どうにも話が薄くなってしまう。話の切れ目も悪いし、どっかで気合を入れ直さないといけないな。
軽い裏話、元設定では伍月さんはヒロインじゃなかったです。どうにもこのままだとナルのヒロインが出てこなくなりそうだったのでヒロインに格上げしました。まあ、友達の恋を応援するだけだったのが自分も参戦に変わっただけなので、そこまで性格等には変わりないと思いますがね。むしろナルの方がぶれてる、最初はずっと丁寧語にしようかと思ってたけどもう違ってるし。ま、このまま行きましょうか。三章が終わったら人物まとめでも書こうかな? 元設定との変化点とかも入れて。…何時になるのかねえ、話自体は二章よりも短くなると思うけど執筆速度がなあ。




