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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第三章:ナルの再会
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異世界の記憶

副題は笑顔と責任


「前世の記憶だと!?」

「それも別の世界の?」

「先輩…」


 僕は覚えている、あの時に感じた痛み、あの時に見た彼女の顔を。


「…僕は確実にあの時死んだはずだった、でも僕が気付いたときはこの世界に赤ん坊として生まれ変わっていました。それからは、まあ何だかんだと生きてきました」

「そんなことが本当に起きるのかよ」

「いや、別の世界から人が来たのだ。別の世界の魂が来てもおかしくは無かろう」

「そうかもしれんけどよ」

「何にせよ、それが僕にとっての事実です」

「待ってください。先輩が死んだのは1年前です、計算が合わない」


 1年前? だから姿が変わってないのか。


「それだけしか経ってないの? 僕はもう24なんだけど」

「24? …どういうことでしょう?」

「時間の流れが違うのかな? ものすっごい単純計算だとあっちの一日がこっちでの一ヶ月弱? それとも時間の進み方が一定じゃないのか?」

「ううん…」

「その辺りも気にはなるが、結局君とミチの関係は何なのだ?」

「先輩後輩ですよ、僕達が通っていた学校の」


 懐かしいね、僕の主観ではもう20年以上前のことになるのか。伍月さんと再会できた所為か、現在進行形であの頃の記憶が結構脳裏を駆け巡ってるけど。


「学校? お前達は貴族とかだったのか?」

「いえ、僕達の国では国民誰でも学校に通えましたよ、どれくらい学ぶかは別ですがね。そもそも僕達の国には貴族の類は居ませんでした」


 こっちの世界じゃまだ義務教育が存在して無いから、貴族か財力のある家の子供くらいしか学校に通えないんだよね。グリエル帝国は現在計画中だってこの間小耳に挟んだけど。


「むう、国民全てが教育を受けられるのか。何と力のある国家か、我が国でもいずれはそのレベルにまで至りたいものだ」

「もう一つ聞きたいんだがよ」

「何ですか?」

「お前と再会したときのミチちゃんの反応がただの先輩後輩のそれとは思え無いんだけど」

「それは…」

「僕が彼女の目の前で死んだからです」

「な?!」

「目の前で?」

「ええ、僕は彼女の目の前で車に…ああ、いや、事故にあって死にました。その僕が現れたらああいう反応になるでしょう、だよね?」

「…ええ、そうです」


 伍月さんの顔が目に見えて暗くなる。しまったな、この話題を出すんじゃなかった。


「ごめんね、思い出せちゃったかな」

「いいえ、気にしないでください。…先輩、聖のことなんですけど」

「天月さん? …彼女は無事だったかい?」

「ええ、身体的には。ただ精神的には…」

「それは、やっぱり」

「はい…」


 僕の所為、か。彼女なら、引きずるだろうね。


「その、ヒジリ・アマツキとやらはお前達の知り合いか?」

「はい、私の親友で同じくナル先輩の後輩に当たります」

「その子がどうかしたのか?」

「あー…、僕が死んだ理由は彼女をかばったからです。彼女がそれを気に病んでいないかが心残りの一つではあったのですがね。あれは僕の所為なのだから彼女が気にすることなんて無いのに」


 あの日僕達は天月さんの買い物に付き合った帰りだった。僕達が横断歩道前で信号待ちをしていたところ、急に彼女の体が車道に跳んだ。たぶん後ろから押されたんだろうね、あの日は妙に人が多かったから。もっとも、そのときはそんなこと考えもしなかったけど。何も考えずに彼女の手首を掴んで引っ張り込んだ、その代わりに僕の体が車の前に投げ出されたけど。あのときの彼女の顔は本当に忘れられない、…忘れられない。


「そのようなことが…」

「…先輩、あれは人為的に起きた事件でした」

「え!?」


 何だって!?


「聖が体を投げ出す羽目になったのは後ろから体を押されたからでした。聖の後ろに居た男があの子の背中を押すところを周りの人物が見ていたそうで、その人たちによって男は確保されたそうです。私達は後ろでそんなことがあったことに気付く余裕がありませんでしたけど」

「そうだったのか…。その人はどうして?」

「彼は私達のクラスメートでした。少し前に聖に告白したものの振られ、それを根に持っていたそうです」

「ちいせえ男だな、まったく。…そんな理由で、ナルは死んじまったのか」


 どうにも複雑な気分だね、自分が死ぬきっかけを作った人間の話を聞くっていうのは。


「それを知っても聖は自分を責め続けましたがね…。見ていられなかったです、あの聖は」

「彼女は、今はどうしているの?」

「表面上は普通に生活しています、薄っぺらな笑顔を貼り付けたまま」

「…だいぶきてる奴の症状だぜ、そいつは。そういう奴はどこかで唐突に壊れちまう、…最初っからかもしれねえがな」

「天月さん…、僕の所為、か」


 僕が彼女を救ったことは間違ってた、のかな…?


「そんなことはありません!!」


 バン! とテーブルに手を叩きつけ、伍月さんが立ち上がる。


「先輩は悪くありません、悪いのは全部あいつなんです! 聖の命を助けてくれた先輩が悪いなんて事があってはならないんです!!」

「落ち着いて、伍月さん。まだお客さんが居るよ?」

「あ…、すみません」


 伍月さんが席に座りなおす、こちらに目を向けてくる人たちも当然居たけど手を振って誤魔化しておこう。


「ごめんね? 正直そんなに反応するとは思って無かったよ」

「…私も、聖と同じですから」

「え?」

「私だって先輩の死から立ち直ってなんかいませんでしたよ、ただの空元気で生きてきました。あの男が全て悪いのだと、あの男を憎むことで無理やり現実を見ないようにしていた。私があの時気付いていたら、聖は、先輩も…」

「…気にしなくていいんだよ、伍月さん。あれは全て僕が僕の意思でやったことだ、それで君が泣くのなら、それは僕の責任なんだよ」

「そんなことは」

「いいや、僕の責任だ。だから」


 テーブルを叩いた伍月さんの手をそっと握る。


「ごめんなさい、伍月さん。君たちのことも考えずに勝手なことをして、でも」


 まっすぐと、彼女の目を見つめる。


「君達が無事で良かった」

「先輩…」

「…ごほん」


 男爵がわざとらしく咳き込む、保護者の前でこれはまずかったかな。今は手を離しておこう。


「あ…」

「話を進めようか、伍月さん。伍月さんのこれからについてだ」

「私の?」

「ああ、君は日本に帰りたいかい?」

「当たり前です! 今の聖はまだ危ないんです、私がついていないとどうなるか分からない。もし私が居なくなって日が経っているのなら、今頃聖は気に病んでいるかもしれません。今度は、私が自分の傍から居なくなったと」

「かもしれない、でも」


 告げたくは無い、それでも告げなくてはならない。それが僕のやるべきことだ。


「君はおそらく、帰ることは出来ない」

「え? …何か、何か方法は無いんですか?」

「この世界はあっちと違って空間転移の技術が存在している、それを使えばあるいは帰れるかもしれない。けど」

「けど?」

「あっちの座標が分からない。空間転移には転移先の空間座標が必要だ、それが分からないとどうやっても飛べない、山勘でいけるようなものじゃない」

「で、でも。私はこの世界に来ています、転移に座標が居るのなら私をこちらに連れてきた人にはそれが分かるはずです」

「…残念だけど、無理だよ」

「何故です!」

「君がこちらに来たのは自然的なものだからだ」

「? …災害のようなものだと?」

「うん、僕たちの世界にもあった神隠し、おそらくはそれと同様のものだと思う。神隠し全てがここに来る訳じゃないと思うけど」

「何故そう言えるのですか?」

「過去にこちらに来た日本人が居るからだよ」

「本当ですか?」

「グリエル帝国にはかつてこちらとは違う知識を持ち、国の発展に尽力した人達の記録がたびたび存在する。その人達の手記なんかを読む限りは彼らが日本人であった可能性はある」

「グリエル帝国の他の国には無い技術や発想は別の世界のものだと?」

「ええ、あちらの記憶を持つ僕には見覚えのあるものがいくつも存在します。彼らの知識を継ぐ者達が発展させたものでしょう。そして重要なのはこれからです。彼らの中にはグリエル建国時代にこちらに来た者も居る、その時はまだこの世界には空間転移の技術はなかった。正確にはまだその手の知識が遺跡等から発見されていなかった。もし秘密裏にその手の知識を手に入れた者たちが居たとしても、空間転移技術が発見されるまでの間秘密裏に異世界人を呼ぶ理由が無い。異世界人を呼んでおきながら放置っていうのもおかしい、伍月さんに関しても男爵の所に放置するわけが無い」

「つまり、たびたび異世界人が来た事例はある。しかし誰かが呼んだ割にはその後の対応がおかしい。つまりは人為的なものではないと」

「そうなります。僕がこちらに来たのもそうなのでしょう、でなければ転生など神でもなければ不可能だ」


 …神? そうだ、この世界には神様が実在する。今まで考えたことは無かったけど、彼らなら可能では無いのか? いや、だとしても何のために? …これは保留だね、僕だけじゃ詰められない。ケイの助けが無いとたぶん無理だ。


「そんな…。だったらこれから聖は一人なのですか? 私達は彼女を見捨てないといけないの? せっかく、もう一度先輩に逢えたのに」


 それは……僕には責任がある、僕はそう認識した。だったら僕は義務がある、彼女を救う義務が。けれど何かあるのか? 何か、無いか? …ん? さっきの考察にその可能性は無いか?


「…僕の友人に魔法やこちらの科学技術にに詳しい人が居る、彼らなら何かいい手を思いつくかもしれない」

「本当ですか!?」

「うん、断言は出来ないけどまだ完全に希望を失う必要は無いかもしれない」


 もしも神の力で僕達がここに来たのなら、神の力を借りれば帰ることができるかもしれない。ユウの力を借りれば、いけるか? 彼の神なら? 分からない、でも。


「可能性はある、か。だったらやってみるしかない、これ以上彼女を泣かせないためにも」

「先輩…、その時は先輩も一緒に」

「それは無理だよ、伍月さん。僕はもうこちらの世界の住人だ、今更あちらに帰るわけにはいかない。それに…」

「それに?」

「いや、気にしないで」


 あちらには、帰りたくない。こっちには親友も居る、でも…。


「ナル? どうしたんだ?」

「…何でもありませんよ」


 いけない、過去のことを思い出してしまった。あんな記憶はいらないのにね、いまだに忘れられない。嫌な記憶ほど覚えてるもんだって聞いたことがあるけど、まったく持って同意だよ。


なかなか筆が進まない、どうにも中途半端な感じがするけど投稿。次話はもうすこし話が進む? かも?


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