彼女と僕
副題は異世界転移
章の追加をしていませんでした、そのため改めて三章を追加しておきました。
「…ル? ナル?」
…え?
「何か言いましたか?」
「気付いたか、急に黙りこくっちまうから何事かと思ったぜ」
「あ、ああ、失礼しました」
「ナル、君は何故この文字の読み方を知っていたのだ? この文字を知っているものは限られているはずなのだが」
しまった、不用意なことを! …落ち着け、この程度ならどうとでもなるはずだ。
「いえ、昔何かの本で見たことがあったのです。それを思い出したので」
「ふむ? それは一体どのような本だったのだ?」
「すみません、私もはっきりとは。正直もう使うことは無い知識だと思っていたので」
「そうか…」
誤魔化せたか?
「そんなこともあるんだな、彼女と同郷の人間が書いたものとか?」
「うーむ、(…そのようなことがあるのか?)」
グリエルなら、ね。トルキアには無いんじゃないかな、たぶん。
「いいから入らねえか? 正直腹が減ったんだが」
「…そうだな、そうするとしよう」
「ええ」
…誰がこの名前をつけたのか、何にせよ、ぼろが出ないようにしないと。
「いらっしゃいませー! 三名様ですか?」
「ちょっと違うな。ミチに用がある、グエンが来たと伝えてもらえないか? ニーナでもかまわないが」
「? 分かりました、少々お待ちください!」
「結構繁盛していますね」
店の大きさはそうでもない、5人用のテーブルが五つあるだけ。でもそのうち4つが埋まっているのはすごいね。少し昼時から外れているのにこれか。
「うむ、よくやっているものだ」
「これは期待が持てるな」
「おじ様、いらっしゃいませ。歓迎します」
!? この、声って…。
「おお、ミチ。息災なようだな」
「ええ、おかげさまでどうにかやっていけています」
間違い、ない?
「うむ、…しかし私の事は父と呼んでほしいものだがな」
「すみません、それはどうしても、その」
20年以上も前に聞きなれた、声。
「いや、かまわんさ。お前にとって本当の父は私では無いからな、抵抗もあろう」
「申し訳ありません」
彼女と同様に僕の助けとなってくれた。
「気にするな、それよりもクエラにも挨拶をしてやれ」
「あ、はい。クエラさん、歓迎します」
そこには、
「ああ、久しぶりだな」
「ええ、そうですね。…貴方とは面識が無いですよね? 私は」
「いつつき、さん…」
「え?」
伍月 道の姿があった。
どうしてだ? どうして彼女がここにいる!? 何故あのときの姿のままなんだ!? どうして?
「どうして、私の名前を? 私の事を知っているのですか? 何故?」
「ナル! 君は何故ミチの名前を知っている!? 答えたまえ!」
「…え? ナル?」
!? 男爵に肩を掴まれた拍子にハッと意識が戻る。しまった、つい口に。どうする? どうする!?
「ナル!」
『ナル、先輩?』
! その、言葉は…!!
「うん? 何て言った?」
「あ、すみません。これじゃ分かりませんよね。…そうですよね、ナル先輩のはずが無いですよね」
その顔は、とても悲しそうで、その顔を見ていたくなくて、僕は。
『…元気だったかい? 伍月さん?』
こちらの世界で生まれて以来、僕がこれを教えたケイ達以外に初めて、日本語で彼女に話しかけた。
「ナル? 今何て言った? 何処の言葉だ、それ?」
『!? 本当、に?』
思い出す、彼女達との出会いを。
『…君と初めて会ったのは高校一年のときだったね、彼女と一緒にうちの高校の体験入学に来て、迷ったところを僕に声をかけてきた』
『それ、は』
思い出す、彼女達との思い出を。
『二年のときに一緒にプールに行った事もあった、君達がナンパされて僕が割り込むことになったりもしたね。あの時は内心ドキドキだったよ、君達が水着で僕にしがみついてきたりするもんだから』
『間違い、ない。貴方は、貴方は!』
伍月さんが僕の胸に飛び込んでくる。だから僕は、いつかしたように、ゆっくりと、丁寧に、その髪を撫でる。
『姿は違うけど、その喋り方は、その思い出は、この撫で方は、先輩なんですね?』
『うん、そうだよ』
『…ヒック、ヒック』
『…えっと、伍月さん?』
その、あの、泣き出されると、困るんだけど。声を上げてくれないのは助かるけど、男爵の顔が怖いのが、ね? でも、今突き放すわけにも行かないし、どうすればいいんだ? くそっ、クエラさんはさっきからなんかニヤニヤしてるし、いっそ斬ってやろうか。…本気でどうしよう…? ケイやユウならこの手の事には慣れているんだろうけど、僕はこういうのはてんで駄目なんだよ。…とりあえずは待つしかないか、ううむ。
『…すみません、取り乱して』
『いや、気にしなくていいよ。正直僕も迂闊が過ぎたからね』
ようやく泣き止んでくれた、よかったよ。
「…それで、ミチ? 彼とはどういった関係なのかね?」
「あ、えっと。その」
僕がフォローした方がいいか、これは。
「その辺りのことは後で話しませんか? ずっと店先に居るのは良く無いでしょう」
「…そうだな。案内してくれるか?」
「は、はい。こちらにどうぞ」
「それで、だ。君とミチはどういった関係なのかね?」
伍月さんが注文を受けて厨房に下がった後、改めて男爵が問いかけてきた。…正直どう答えたものか、僕にも良く分からないことが多すぎるんだよね。うーん、…とりあえずは。
「男爵はどうして彼女を養子に?」
「質問をしているのは私だが?」
「正直僕にも状況が分かっていません、僕の認識を事実とすり合わせるためにも男爵の話を聞きたいのです。その後改めて質問に答えましょう」
「その方がいいんじゃないか? このまま問答を続けてもお前が望む答えが返ってくるかは分からないぜ?」
ナイスフォローです、クエラさん。たまには役に立つじゃないですか。
「…よかろう、まずはそちらの質問に答えよう」
「感謝します」
「私がミチと会ったのは私の家の敷地内だ。事情を聞いたところ、どうやら空間転移か何かで予期せず飛ばされたようだったので、これからをどうするのか相談しようと一度家に帰ったのだ」
「よくそんな言葉を信じたな、そんなにお人よしだったか?」
「ちょうど訓練で家の周囲の警戒を強化させていたのでな、その中に侵入するのは無理だと思ったのだ。それにどうにも彼女の様子がおかしくてな、異常なほど混乱しているようだったからひとまず落ち着かせなければならない、と思ったのだ」
だろうね、普通に考えていきなりこの世界に来ればそうもなる。特に彼女はイレギュラーな事態に対応するのが苦手だったはずだし。
「それで家に連れ帰ったところ、家の者は最初私の隠し子か何かと一瞬思ったそうなのだが、私達の話を聞いて納得したらしい。それで妻達と共に彼女の話を聞いてみると、どうにも彼女は違う世界から来たようなのだ」
「違う世界だあ? 何だそりゃ?」
「うむ、私も良くは分からんのだが、彼女のいた場所では魔法などというものは存在しなかったそうだ」
「魔法が? マジかよ」
ええ、あの世界に魔法は存在しなかった。もっとも知られて無いだけかもしれないけど。
「ああ、彼女がどうやってこの世界に来たのかは分からん。だからこそ彼女が元の居場所に帰る手段は無い可能性が高い。そういった話をしたところ彼女はひどく落ち込んでな、私や息子達もどうしたものかと頭を捻っていたところ妻が私達の養子にしようと言い出したのだ」
「何で?」
「お前も知っているが私達の子は全て男だ、だが妻は娘も欲しかったそうでな、彼女が帰れないのなら彼女の居場所になってやろうということを思いついたそうだ。正直私としてもこのまま彼女を放り出すのは忍びないと思ったので、めったに言わない妻のわがままに乗ったのだ。それでミチの承諾の元、彼女は対外的にはミチ・ニルとして過ごすことになったのだ」
「そういうことでしたか…」
それが彼女がここにいた理由か、…それでもまだ疑問はある。これらの矛盾は何を意味するんだ?
「お待たせしました、皆さん」
伍月さんが料理を持ってきた、うーん、美味しそうだね。
「おお、ミチ。ありがとう」
「うん、これは美味しそうだ」
「あ、ありがとうございます、先輩」
「ふむ。ミチ、君もここの話に加わってくれんか? その方が良いと思うが」
「賛成します、僕も伍月さんが居た方がいいと思う」
「…分かりました、同席させてもらいます」
伍月さんが席に座るのを見て、僕は口を開いた。
「それでは次は僕が話しましょう」
皆の視線が集まっているのを自覚しつつ続ける。
「僕は彼女と同じ世界の出身です」
「何!?」
「おいおい、マジかよ」
「でも、先輩の姿が全然違うのは何故ですか? それに先輩は確かに…」
「うん、それも含めて話すよ」
一度目を閉じ、覚悟を決めて目を開く。
「僕は一度死んでいます」
『…は?』
「僕は彼女のいた世界で死に、そしてこの世界で再び生を受けました」
驚愕する皆をよそに僕の秘密を告白する。
「僕には、前世の記憶があります」
最後の台詞がしっくりきてないので書き直すかもしれません。
追記ちょっと変えました。
それにしても、やはりこの話のタイトルとあらすじはそっけないのでしょうか? どうにも最近の奴はタイトルで説明しまくっているのが多いですよね、その方が目に付くかなあ? あ、この話のタイトルを変更する気は無いですよ。ただ、そのうち別の話を書く時にその方がいいんだろうかというだけです。まったく本編に関係の無いことを書いてすみません。




