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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第二章:ユウの契約
43/112

過去の夢、未来の意志

副題はさらばミッヘ


「さて、戻って来たな」

「意外と時間がかかりましたね」


 仕方が無いとはいえ徒歩だと行きよりもだいぶ時間がかかってしまいましたね、それでもお昼過ぎといったところですか。


「そのまま歩いてきたからな、ニッヘレンに三人も乗れないし」

「ブルル…」

「気にするな、さして問題があるわけじゃないんだから」

「ブル」

「それでどうします? ギルドと宿、どちらを優先しますか?」

「うーん、ソフィアは人の町には慣れているよな?」

「無論じゃ、そこまで世間知らずではないのう」

「だったらニッヘレンと共にどこか良さげな宿を探しておいてくれないか?」

「合流が面倒では?」

「同じ街の中であれば契約陣を通して場所は分かる」


 そういえばそのようなことが出来るのでしたね、便利なものです。


「妾はかまわんぞ、何か条件のようなものはあるか?」

「そうだな…、金のことは気にしなくていいから一番良さそうな宿を頼む。昨晩泊まった宿はニッヘレンが知っているからそこは避けろ、とりあえず纏った金を渡しておく」

「分かったのじゃ、…多すぎないかのう?」


 けして小さくは無い袋一杯に入っているようですね、アレだと幾ら位でしょうかねえ。


「かまわん、やる」

「気前の良い主じゃのう、それじゃ行こうかのニッヘレン」

「ヒヒン」


 ソフィアさんとニッヘレンが場を離れる、ユウさんと二人ですか。なんだかんだとあまり二人きりにはなりませんよね、ニッヘレンが居ましたから。


「では私達もギルドに向かいましょうか」

「ああ、そうだな」


 すぐにギルドまで辿り着く、受付を担当していた職員が以前私達が訪れたときと同じ方だったのですぐに応接室にまで案内されました。


「お待たせしました、ユウさん、ザインさん。山の調査の方はいかがでしたか?」

「グレイドラゴンが居た」

「本当ですか!? して、どうなりました?」

「俺が討伐した、さすがに同じ山に二頭もドラゴンが訪れるとは考えづらいからその個体が発見された個体だとは思う」


 考えづらいとはよく言います、ソフィアさんがいらしたでしょうに。


「そうですか、ならばこの街の危機は去ったということですね。これで冒険者たちに入山許可を出せます。それと、疑ってはいませんが一応討伐した証拠のようなものはありますか?」

「証拠か、これでどうだ?」


 そういって彼が取り出したのは五枚の灰色の鱗、グレイドラゴンの鱗を剥がしていたのですね。


「これは、ドラゴンの鱗ですか。それなりに長くギルドマスターをやっていますが、見るのは初めてです」

「これに関してはあなたに差し上げよう」


 …本当に気前のいい人です。


「え!? グレイとはいえドラゴンの鱗ですよ!? 売れば一枚で一家族が一年生活出来ますよ!」

「あなたには色々と迷惑をかけたからな、これぐらいあれば十分その報酬になると思う。大体ドラゴン一頭分手に入ったから数枚渡すくらい問題ないさ」

「いえ、しかし…」

「俺は我が道を進んで迷惑をかけることが多々あるが、その分あとから何らかの形で補償するようにしている。出来れば受け取ってもらいたい」


 この人はあれですね、成果を出せばそれ以上の報酬を出すのですね。組織の長だと部下を疲れさせるかわりに報酬はケチらないでしょうから、存外部下から慕われそうですね。自分の行動力は満点、自分の感情に従う悪癖はありますが意外とトップは向いているのでしょか?


「…分かりました、ありがたく頂戴させてもらいます。その代わりとしてはなんですが、昨日の事件についての報告をさせてもらいます」

「どうなりました? あの男の処遇などは?」

「ええ、彼についてですが現在は素直に自供しているようです。随分とユウさんの脅しが効いたようです。それとその内容なのですが、あの事件は彼の単独犯ではなく、彼に友人達も一緒に行ったものだそうです」


 複数犯でしたか、自らの街を破壊するなど本当に嘆かわしい。


「やれやれだな、奴らは何故そのようなことを?」

「彼曰く酔っ払ったが故の行動だそうです、彼の友人たちとの酒の場で何か派手なことをしたいという話になったそうで、今噂になっているドラゴンの所為にすれば相当派手なことをしても誤魔化せると高を括っての犯行だと」

「馬鹿ですねえ、そのようなことが本気で出来ると思ったのでしょうか。皆が冷静になればいずれ発覚したでしょうに」

「ええ、あの後復旧を手伝っていた者達からの見解がおくられてきましてね。すでに無用の長物となってしまいましたが、あの場でユウさんが語った推理と合致する意見がありました。つまりユウさんがいらっしゃらなくても疑念は出たでしょうね。もっともこうも早く解決したかは怪しいですが」

「その友人達はどうなった?」

「街の噂を聞いて隠れようとしていたところをどうにか確保できました、警備から手配されてすぐに多数の冒険者が無償で逮捕に協力してくれたおかげです」

「やはりそうとう恨まれたようですね」

「ええ、殺傷事件に発展しなかったのは幸いでした」

「あの町長さんはどうなった?」

「自身は職を辞するつもりだそうです。ただしあの場で追求したときに一切私情を挟まず逮捕に協力したところは見られていましたから、今までの功績とあいまって役所職員や市民からは結構引き止められているそうですよ」

「へえ、結構人望はあるんだな。息子がかなりの馬鹿をやったのに」

「あの人は職員に対して完遂を求めはしますが、だからと言って失敗を許さないということはありませんでしたから。あの人に自分の仕事のツケを払ってもらった恩があるという人は多かったのです」

「なるほどねえ」

「出来れば最善の結末を迎えてほしいものですね」

「はい、ミッヘの一市民としてもそう思います」

「そうだな。さて、俺たちはそろそろお暇しようかね」

「おや、もうお帰りですか? ドラゴン討伐のお礼に何かしらの場を催そうかと思ったのでその打ち合わせをしたかったのですが」

「今討伐の知らせを聞いた割には随分大きな事を考えられましたね」

「どちらにせよ、あの事件の真相を明らかにしてくれましたからね。町長も何らかの形で謝礼をしようと思われたそうで、私もそれに一つ噛むつもりだったのです。ドラゴンを退治してくれた以上規模は大きくするつもりでしたが」

「とのことですが、どうしますユウさん?」

「悪いが辞退させてもらう、ガラじゃないんでな」

「そうですか、それは残念です。あなたのような実力ある冒険者の功績を聞けば、この街の冒険者たちの発破剤になると思ったのですが」

「あー、それは止めた方がいいだろうな。S以下ならともかくSSになるとどうにも諦める奴の方が多くなるんだよな」


 ? …ああ。


「圧倒的な力の前に自分の自信が吹き飛ぶということですか。いつかの私と同じように気力を無くしかねないと」

「そんなところだ」

「ふーむ、一理ありますね。ならばこの話は無かったことにしますか、それでは何か別の形での謝礼を用意したいのですが」

「それもいい、正直すでに俺はいくつか利益を得た、これ以上は必要ないさ。それに明日の朝にはこの街を出るつもりなんでな、それなりに忙しいのさ」

「…それは残念です、ではまたこの街に訪れることがあれば私を頼って頂いて構いません」

「そうさせてもらうさ、ではこれで失礼する」

「それでは失礼させてもらいます」

「ええ、今回は本当にありがとうございました」


 ドルンさんが深々と頭を下げる、それを見つつユウさんは席を立った。私もそれに続いて街に出たところでユウさんに話しかける。


「それではソフィアさんたちの元に行きましょうか、どちらですか?」

「こっちだな、ついて来い」

「分かりました」


 ユウさんに案内で街を歩く、…依頼も完遂した以上この人とももうすぐお別れですね。


「…あなたはすごい人ですね」

「ん?」

「あれほどの力と度量を持つ、まさしく私がかつて憧れた冒険者の姿です。…少々性格に難有りですが」

「褒めるか貶すかどっちかにしとけ」

「はは、すいません」

「…さっきのことだが」

「はい?」

「俺の力を見れば自信がなくなるという話だ」

「ああ、それですか」

「アンタはどうだ?」

「私、ですか?」

「ああ、あんたはすでに一度折れた。そのアンタが見たらどうなるんだ?」


 そうですね……。


「私は、過去の可能性を考えました」

「…」

「過去にあなたが近くに居れば、過去にあなたと知り合っていれば、過去にあなたと親しくなっていば、過去にあなたと依頼を受けていれば、彼らは死ななかったのではないか、と。…笑ってください、過去をまともに見られない弱者の妄言です」

「そうか」

「ええ」

「一つ言ってやろう」

「何です?」

「今、アンタは過去を直視できないと言ったな」

「ええ」

「前に、死者が語りかけてくるとも言ったな」

「ええ、私の所為で死んだと」

「つまり、だ。アンタは過去をまともに見ずに仲間を殺したと言っているのか」

「は? どういう」

「ろくに知らないくせに自分が殺したとほざいているのか」

「そのような」

「違うか?」


 そのような、ことは。私は、皆を。


「自分が殺したと信じるなら、過去をはっきりと見ろ。過去の行いを自覚しろ。死者の本当の声を聞け。その上でお前が殺したというのなら、潔く死ねばいい」

「え?」

「お前が罪を背負っているとして、今更それを償う手段など無いだろう? だったら死者の呪詛を聞いてその通りに死んだ方が、そいつらの怒りを落ち着かせられるかも知れんぞ?」

「私が」

「今度また死者が語りかけてきたときによーく聞いてみればいい、その上でもう一度結論を出せばいい。過去に俺が干渉することは出来ない、だから今のアンタに干渉してやろう。俺にアンタたちを救えた可能性があったと言うのなら、アンタを救うことも出来るじゃ無いか?」


 もう一度、彼らと…。


「…随分と優しいですね、あなたがそのようなことを言うとは思っても見ませんでした」

「くっかか、単なる気まぐれだ。確かに俺は身内以外はさほど重要視しないが、それ以外の奴に興味を示さないわけじゃない。何より俺は基本的にノリで動くからな。態度も口調も戦いも、全てはノリだ。もっとも、それでも変わらんものもあるがな」

「…ふふ、なるほど、納得しました。…私が死者の思いを曲げているかもと言いましたね」

「ああ」

「もう一度だけ、向かい合ってみることにします。そして、生き死にを決めようかと」

「そうしとけ」

「はい、どちらにしてもギルドは辞めましょうかね」

「うん?」

「職を持ったまま死ぬわけには行きませんし、生きるのなら私は再び冒険者として生きることになるでしょう。どちらにしても私はギルドにいられません」

「そういうことか」

「はい、…生きると決めたらあなたについて行きたいですね」

「うん?」

「あなたのおかげで生きることにしたようなものでしょう、私がその選択をしたら」

「…くっかか、考えておいてやるよ。猶予は無いがな」

「ええ、そのときはお願いします」

「さあ、まずはソフィアと合流しようか」

「はい」


 彼らの声、今夜聞けるでしょうか?



 ユウさんの先導で一軒の宿には辿り着けましたが、えっと、ソフィアさん?


「おう、来たか主様」

「ああ、ここか?」

「うむ、なかなかに良さそうではないかの?」

「そうだな、雰囲気は悪くない。アンタはどう思う?」

「いえ、その、とりあえず私はそこで倒れている人たちが気になるのですが」


 なぜ男性が五人も倒れているのでしょうか? とりあえず話はそこからだと思うのですが。


「大方ソフィアかニッヘレンへのナンパの結果だろ」

「うむ、最初に三人組が来ての。そやつらがニッヘレンを売れと言ってきたのじゃ。そいつらがしつこかったためやむなく撃退したのじゃが、次はまた他に二人来て妾に対して強いだの美しいだの何だかんだと言って妾を誘ってきての。どうにもうっとうしかったから気絶させたのじゃ」

「そうでしたか、しかしそれは少しまずくないですか? 過剰防衛気味ではないかと」


 さすがにやりすぎでは無いでしょうか。


「それは大丈夫だと思うぜ」

「うん?」


 どなたでしょうか?


「お主は?」

「ああ、俺はこの宿の店主だ。こいつらは度々旅人相手に問題を起こしていてな、だから警備の奴らもあんたらに対して悪いようにはしないはずだ」

「そうでしたか、でしたら警備隊の人間に知らせに行った方が良いでしょうね」


 以前訪れた際に詰め所の場所は把握しています。


「そうだな、頼めるか? 俺はギルドのほうに行く」

「うん? 急にどうしました?」

「野暮用があったのを思い出した」

「野暮用? 一体何です?」

「それを聞くのは野暮ってもんさ」

「そうですか、では行って来ます」

「俺も行って来る」

「行ってらっしゃいじゃぞ」

「ブルル」



「ふう、なかなか良かったです」


 今朝の宿とはまた違った形でこの宿は当たりですね。部屋の広さはそうでもないですが掃除等の気配りは隅々まで行き届いていますし、食事も美味しかった。またここに来ることがあればこの宿を利用することとしましょうかね。


 さて、明日の打ち合わせは済み、後は寝るだけとなったのですが。…見られるでしょうか、今夜は。ユウさんの言葉でこの心は決まりました、私は改めて過去と向き合いたいのです。





 私は見ている、俺達が歩いているさまを。私は知っている、この後俺達が奴に襲われることを。私は気付いた、俺達の後ろに奴がいることを。私は叫ぶ、俺達に逃げろと。だがその言葉は届かない、奴が俺達に迫る、その牙を俺達に突き立てようとする。いつの間にか私の後ろに彼らが居る。


「お前が気付いていれば俺たちは死ななかった」

「先輩の所為で僕達は死んだ」

「お前が俺を殺した」

「貴方があの人を殺した」


 それは…、それがお前達の言葉なのか? やはり、それが。


「くっかか」


 !? 誰だ!?


「おいおい、まったくこの程度の雑魚に何を恐れることがある?」


 俺達と奴の間に男が立っていた、身の丈を越えるほどの戦斧を肩に担ぎ不遜な顔で奴を見上げている。アイツは誰だ? あの人は! 俺は知らない。私は知っている。


「まったく、これで仕舞いだ」


 彼が斧を振るう、その一振りで奴が消滅する。それを成し遂げた彼がこちらに顔を向ける。


「さて、露払いは済んだ。友の言葉を理解しろよ」


 彼の姿が消える、それを契機に私の後ろに居た彼らと俺と共に居た彼らが近づいてくる。


「お前の所為で」

「お前の所為じゃない」


 アイツが語りかけてくる、同じ顔をした二人が同時に。


「お前が俺たちを殺した」

「お前は誰も殺していない」

「お前が俺達を殺した」

「お前は俺達を殺したわけじゃない」

「先輩の所為だ」

「先輩は悪くありません」

「貴方の所為で」

「貴方の所為じゃない」


 口々に皆が言う、同じ顔で違う主張を。どちらだ、俺は、私は、どちらを信じればいい。


「友の思いを、蔑ろにするな」


 !? 再びあの人の声が響く、…そうか、そうですね。俺は、いや。


「私は、仲間を信じます。私を恨んでなどいない、彼らはそのような人では無いと」

「そのような」

「消えなさい、幻影。私の弱さよ、彼らの言葉を歪めるな」


 消える、私の後ろに居た私の弱さが。話し出す、私の前に居た仲間達が。


「やっと、俺達の声が届く」

「お前は俺達のことを背負い過ぎだ」

「俺達の死は俺達が未熟だっただけだ」

「だから気に病まないでください」

「僕達は先輩を恨んでなどいません」


 彼らが言う、笑顔で、生前のそれで。


「よう、やっと目が覚めたか」

「____」


 名を呼ぶ、あれ以来一度も口に出せなかった友達の名を。


「まったく、勝手に人の死を自分の所為にしやがって。お前は昔から無駄に考えすぎなんだよ」

「…お前が考えなかったからだろうが」

「だな。それはともかく、俺がお前を助けたのは俺の意思だ。お前に誘導などされていないぞ、俺はそこまで馬鹿じゃねえ」

「どうだか、いつも俺達に引っ掛けられてたじゃないか」

「ぐっ」

「ははは」


「ザインさん」

「___」


 彼女の名を呼ぶ、いつからか呼ぶのを止めた名だ。


「ごめんなさい、貴方にすべてを押し付けて。私の所為で貴方に重荷を背負わせてしまった」

「…いいや、俺が弱っただけだ」

「弱かったのは私のほうよ、____が死んだからといって私は逃げてはいけなかったのに。貴方を他の人たちから護らないといけなかったのに。ごめんなさい、ザインさん」

「気にしないでくれ。時間はかかったが皆の言葉は俺に届いた、もう俺は過去にとらわれずに生きていける」

「…ありがとう」

「…そろそろ時間みたいだな」

「え?」


 彼らの体が薄くなっていく、これは…。


「いくのか?」

「ああ、俺達は少しばかりここに居すぎた。そろそろ死者が居るべき場所に行くさ」

「そうか、いつか俺もそこにいく」

「当分来るなよ、お前の人生を肴にして酒を飲みたいからな。すぐにお前が来たらお前をからかうネタが減るじゃないか」

「…ったく、勝手に人を肴にするなよ」


 ああ、これだ。俺達の関係はこうだった、死のうが生きろうがそれは変わらな

い。


「じゃあな、ザイン」

「…ええ、さようなら皆、さようなら____」


 彼らが消えていく、私の意識も消えていく…。


「__________」





「…朝、ですか」


 目覚めたとき、すでに部屋は朝日で明るくなっていました。…覚えている、彼らの言葉を。もう私の過去は私を縛らない、私は私の新たな道を歩みます。軽く目を触り、雫を散らす。…それにしても。


「何がその口調は似合わないな、ですか。余計なお世話ですよ」


 最後の言葉がそれなんて、まったく。


「お前らしいな、なあ?」


 久々に、心からの笑顔を浮かべているような気がしますね。



「よう、おはよう」

「おはようじゃ」

「おはようございます」


 朝食を持って二人の元に向かう、お二人とも早いですね。


「あっちと違って朝食もなかなか美味いぞ」

「そうですか、…そうですね」


 朝食もかなり美味しいですね、食事が良いと朝から気力が湧きますね。


「それで、すぐにシュタットに帰るという事で良いのですよね?」

「ああ、食事を済ませたらすぐに宿を出る」

「ニッヘレンだけで三人も運べますか?」

「いや、無理だ。だから別の奴も呼ぶつもりなんだがな…」

「何かあるのかの?」

「ああ、そいつはニッヘレンと仲が悪いからな。その辺りがどうにもな」

「それ以外に空が飛べる召喚獣は居ないのですか?」

「居なくも無いんだが、その二頭以外で空を飛べる奴はどうにもでかすぎてな。悪目立ちする」

「ふむ、だったら仕方ないかのう」

「ああ、その辺りには目を瞑って呼ぶ。色々と俺が宥め賺せよう」

「お願いします」




 街を出て少し、道を外れたところでユウさんがもう一頭を呼び出すそうだ。


「さて、この辺で良いか。それと、ニッヘレン」

「ブルル…」

「あまり喧嘩をするなよ」

「ブル…」

「期待している。…さあ、いこうか」


 ニッヘレンのときと同じように彼が再び詠唱を始める。


「【我と契約を結びし者、我と共に生きると決めし者、我が呼びかけに応じ、汝の名を呼びし我の元、疾く来たれ。来い! 屈強なる剛爪、ジールア!】」

「ギャルルー!」

「…これは」


 召喚陣から呼び出されたのは、ペガサスと同じくA級の魔物のであり、空を駆けるものとして知られるグリフォンでした。


「ヒヒーン!」

「ギャルー!」

「おいこら、ニッヘレン。ジールアもおとなしくしないか」

「なるほど、仲が悪いというわけじゃ」

「? どうしてなのですか?」

「ペガサスとグリフォンは種族全体で仲が悪いのじゃよ。互いの行動範囲や行動理由が一致しやすいそうでな、しょっちゅうぶつかり合っているそうじゃ」

「はあ、そういうことですか。大丈夫なのですかねえ」

「大丈夫じゃろ、主様はそこまで甘くは無かろうて」


 でしょうか? …うん?


「…俺の命令が聞けないのか?」

「ヒ、ヒン」

「ギャル、ル」


 二頭が目に見えて萎縮していますね、何だかんだと躾はしているということですか。


「やはりの」

「みたいですね」

「ああ、乗り分けなんだがな。ソフィアは一人でニッヘレンに乗ってくれ、アンタは俺と一緒にジールアだ」

「ふむ?」

「理由は何です?」

「あんたは空に弱いのは分かっているから一人乗りは不可、だから俺と一緒だ。それでソフィアが一人になる以上、一応知っている相手でもあるニッヘレンがいいだろう」

「なるほどのう」

「分かりました」


 そうですね、私にはまったくもって反論の余地が無いです。


「では頼むぞニッヘレン」

「ヒヒン」

「えっと、頼めるかいジールア?」

「ギャルル」

「それじゃ行くぞ、ジールアが先だ」

「ギャルル!」

「ヒヒーン!」



 空を駆ける、ジーレの乗り心地もニッヘレンとはまた違った感じで実にいいですね。


「いいですねえ、私も召喚魔法を習いたくなってきましたよ」

「うん? 今日は意識が飛ばないのか?」

「とりあえず今は」

「そうかい、召喚魔法は個人適正が重要だから習いたいなら適性を調べた方が…って、その口ぶりだと生きる気になったのか?」

「ええ、昨晩彼らの言葉は聞きました。私はもう過去に縛られずに生きていくことにします。貴方にもお礼を言わなければなりません」

「うん? 俺は特に何もしていないが」

「いえ、夢の中に貴方が出てきましてね。彼らの言葉を届けてくれたのです、ありがとうございます」

「俺は何もしていないがな、まあアンタがそう思うならそれでいいさ」


 私にとってはあなたに会えたことで過去を乗り越えられたのですから、あなたのおかげだと断言できますよ。


「えっと、あんたの名前はなんだっけ」

「今更ですね、ザイン・シュッテンベルグです」

「そうか、ザインか」

「急にどうしました? あなたは人の名前を呼ばないのでは?」

「アンタが俺について来たいって言ったろ? だったら名前で呼ぼうかと思ってな」

「…ついて行っても良いのですか?」

「俺の暴れっぷりを見た上でついて来たいって言う奴はあまり居ないからな、そういう奴を連れて行くのも面白いかと思ったからだ。アンタの固有魔法も面白そうだし」

「…そう、ですか。よろしくお願いできますか?」

「ああ、歓迎するぜザイン」

「感謝します、ユウさん」


 私の人生はここから始まる、そのような気もしますね。この人についていくのは大変でしょうが、力の限り、前を向いていこうと思います。


「それではシュタットについたら少し時間を頂かなくてはなりませんね」

「ああ、それについてだがそこまで時間はかからんと思う」

「?」

「ミッヘのギルマスさんに頼んでギルドの通信機を借りてな、“夢現幻影”の奴と連絡を取ってザインの辞職処理を進めておいてくれと言っておいた。どちらにせよ職を辞するつもりだと言ってたから別にかまわんかと思ってな」

「そうでしたか、お手間を取らせてすみません」

「いいさ、あの時点でアンタを連れて行く選択肢ができた以上、俺も街で待つのは面倒だったからな」

「なるほど」

「それじゃ俺の仲間について話しておこうか」

「ユウさんの?」

「ああ、いつかは会うことになる以上ある程度のことは教えておく。まずはな…」


 そうしてユウさんのお仲間やその他の話を聞きつつシュタットを目指す、話している所為かそこまで空を恐れずに済みました。



 そんな調子で空の旅も進み、ミッヘを出て二日目の午後。ようやく私達の目にシュタットの街が現れたのです。



夜にもう一話上げるつもりです、まだ一文字も書いていませんがね。がんばってみますよ。

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