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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第二章:ユウの契約
41/112

山に居たもの

副題は人外大決戦?

 朝になって宿の食堂に下りてくるとすでにユウさんが食事を取っていました、私も食事を受け取ったら同席させてもらいましょう。


「おはようございます」

「おはよう、気分はどうだ?」

「なかなかです、確かに悪くは無い宿ですね」


 このレベルの宿に泊まるのは何年振りでしょうかね、現役時代もそこまで宿に泊まることはありませんでしたが。


「悪くは無いがそこまでだな、あまり声を大にして言うことではないが」

「それは仕方ないでしょう、この街の規模は決して大きくないのですから」

「そりゃそうだがな、どうにも飯がいまいちでな」

「そうなのですか? …確かにもう少しですね」


 何と言うか、後一歩足りない味ですね。昨晩はユウさんの意向で近くのお店で取りましたからここでは食べていなかったのですか、うーむ。


「仕方ねえがな。それで、今日のことなんだが」

「山に向かうのですよね?」

「ああ、ちょっと距離があるから時間短縮のためにニッヘレンで麓まで向かう」

「また空ですか…」

「いや、あの距離なら地面を走らせるさ。下手に飛ぶほうが時間がかかりそうだ」

「それは助かります。…ニッヘレンも山の中に連れて行くのですか?」

「ああ、昨日の夜に還そうとしたら悲しそうでな」

「ああ、それは仕方ないですね。しかし大丈夫なのですか? ドラゴンがいる可能性があるのに」

「大丈夫だろ、仮にもA級の魔物だしな。むしろお前のほうが心配だ」

「私は逃げに専念すれば大丈夫だと思いますが」

「いや、ハザード級に遭う可能性があるんだが。過去の記憶が干渉してこないか」


 ああ、そういうことですか。


「バジリスクならともかくドラゴンなら問題ないかと」

「ならいいがな。とりあえず一時間後に出るからそのつもりでな」

「分かりました」


 なら手早く食事を済ませてしまいましょうか、……。


「微妙だな…」

「微妙ですね…」




「ここまでか、後は歩きだ。助かったぞニッヘレン」

「ヒヒン!」

「ありがとうニッヘレン」

「ヒヒン」


 さて、それなりに大きな山ですねえ。


「どうします? 居るならともかくここにドラゴンがいないことを証明するのは骨が折れそうですが」

「俺はこの手の探査は専門じゃないんだよな、ナルが居れば良かったんだが…うん?」

「どうしました?」

「いや、ドラゴンかは分からんけどあの辺りに魔力を感じる」


 山の中腹辺りですか?


「私には分かりませんが、本当ですか?」

「うーん、自然の魔力と言われたらそうな気もするんだが。どうせ手がかりないからな、とりあえず行ってみようか」

「そうですね、そうしましょうか」

「ヒヒン」



「この辺りですか」

「ヒン?」


 自然の魔力ぐらいしか感じませんねえ。


「…いや、結界だ」

「結界? ここにですか?」


 私には分かりませんが、そんものが?


「だいぶ薄く張っているな、ここが境目だ」

「…分かりませんね」

 

 私にはさっぱり感じ取れません。ユウさんが虚空を撫でていますが同じように手を伸ばしても特に壁のようなものは無い、本当に在るのですか?


「しかし薄い、これで防御できるか? …ああ、そうか。そういうことか」

「どういうことです?」

「攻撃を防ぐのではなく中に入った人間の方向感覚を狂わせるタイプだと思う、たぶんエルフが里に張っている結界と同じようなものじゃないかねえ」

「エルフの? ではその中に居るのはエルフですか?」

「いやー、このタイプをこの規模で張るのは簡単じゃないからな、アイツならともかく一介のエルフでは無理だろう。数を集めればいけるか? …少なくとも一人は突出した奴がいないと無理か」

「アイツ?」

「アイツがこんなことをするとは思えんし、いるとしても俺に気付くよな。だとしたら別の奴か、しかしこの規模を誰がこんなところで? うーん?」


 聞いていませんね、自分の思考に没頭しているようです。置いてきぼりにされても困るのですがね。


「どういうことなのでしょうね?」

「ブル?」

「ニッヘレンはどう思う?」

「ブルル…」


 分かりませんねえ…。


「…よし、とりあえず入ってみるか」

「大丈夫なのですか? 先ほど方向感覚を狂わせるといいましたが、入ったら二度と出られないということは?」

「問題ない、こいつは人を惑わせるのではなく中心に向かわせないためのものだ。普通に入っても問題なく出られるさ、中心に行こうとしたらまっすぐ進んでも無意識のうちに中心を避けて進むだけだ」

「なら遭難は避けられそうですが、それでは中心にいけないのでは?」

「手はあるさ。俺が結界の中心に向かって通路を作る、そこを通っていけば結界の影響を受けずに中心に行けるはずだ」

「そうですか、でしたら早速お願いできますか?」

「分かった、少し待っていろ。…こう、こうして、ここを…あ」

「…どうしました?」

「ミスった」

「は?」

「間違って結界そのものを壊しちゃった」

「え? 大丈夫なのですか?」

「この規模の結界を張れる奴なら穴開けた時点でばれるさ、どっちだっていいだろう」

「…もしかして壊れてもかまわないという考えでやりましたか?」

「うん? うん、そうかもね。元々俺はこういった細かい仕事はそこまで得意じゃないんだよ」

「…はあ」


 何と言うか、この人は…。いえ、それはいいです。


「とりあえず行きますか? 私には何処が中心だったか分かりませんが」

「行くかね、こっちだ」

「ヒン」


 何が居るんでしょうねえ。


「もう少しかねえ……ほう」

「む? あれは…」


 銀髪の女性ですか? 遠目から見ても美人だと分かりますね、あの女性が結界を張ったのでしょうか?


「あの人ですか? パッと見た感じではエルフには見えませんが」

「いや、むしろエルフであったほうが分かりやすかった」

「?」

「話してから考えるか」



「失礼するよ」

「おや、お主等が妾の結界を破ったのかの?」

「そうだ、まさかこのような場所でエンシェントドラゴンの美人さんに会えるとはね」

「エンシェント!?」


 ドラゴンの中でも最上位の存在で、他のドラゴンの能力全てを擁しているというあの?!


「ほう、気付いておったのか」

「人化したドラゴンには以前会ったことがある、アンタの気配がそれに似ていた」

「なるほどのう」

「…いや、エンシェントドラゴンの体表は金では?」


 確か人化したドラゴンの髪の色はドラゴン時の体表の色と同じと聞きましたが。


「そりゃ男の話さ、女性の場合は銀だよ」

「よく知っておるのう」

「それなりにものは知っているさ。それにしても、アンタはドラゴンとしては若いだろうにあの規模の結界を単独で展開したのか?」

「若いといってもすでに100は超えておるがな」

「エンシェントの寿命は少なくとも1000年以上だろう、それを考えれば十分若い」

「人族と比べれば十分歳を食っとるよ。それでお主らは何故ここに来たのじゃ?」

「ここにドラゴンがいるかもしれないと聞いてな、調査依頼ということだ」

「貴方がこちらに来たのは何時ですか?」

「昨日の晩じゃな」


 それが事実なら目撃されたのはこの人ではないということですか。


「この山に他のドラゴンは居ますか?」

「山の裏側におるな、今はどこぞに出かけているようじゃが。元々妾はそやつを討伐しに来たからのう」

「討伐? 何故ですか?」

「父からの試練のようなものでな、妾が世界を見て回りたいと言ったらその対価として申し付けられたのだ。どうにもそやつはいくつかの人族の村や町を襲っているらしくてな、さすがに見過ごせなくなったと。結界を張ったのも奴に気づかれないようにするためじゃ、ドラゴン同士がぶつかれば周りへの被害がでかいからのう、それを防ぐための結界を張る下準備をしておったのじゃ」


 となるとこの人は人に危害を加えるつもりはなさそうですね、人に好戦的なドラゴンが二頭も居たらそれこそ一大事ですよ。


「危ない危ない、急いで来て助かったようだな。下手をしていたら実際にドラゴンがミッヘの街を襲っていたかもしれない」

「そうですね、あれ以上の被害が出ていたかもしれません」

「む? すでに何か起こっておったのか?」

「ええ、とある人物による狂言でしたが」

「ふむ? …ところでお主らはドラゴン討伐のために来たという話じゃが、つまりそれは妾の邪魔をするということかの?」

「あー、どっちでもいいんだがな。別に必ず俺が倒さなけりゃいけないわけじゃないし」

「そうですね、依頼としては強行偵察のようなものでしたから必ずユウさんが倒す必要は無いはずです」

「それならかまわんのう、もっとも人間二人とペガサス一頭程度で勝てるとは思えんからそちらも良かったのではないか?」

「あ、私はあくまで傍観者ですから。数に数えないでください」


 いくらなんでもドラゴンに勝つとか私では無理です。


「…気に入らねえな」

「ユウさん?」

「ほう?」


 えっと? やばいですか、これ?


「ガキでも勝てる程度のドラゴンにこの俺が負けるかもしれんとは、随分な話じゃないか」

「言葉を慎んだ方がいいぞ、人間よ。吹いたら飛ぶような小さき者が仮にもエンシェントドラゴンに対して言うことではないのう」


 エンシェントドラゴンさんも乗らないで下さいよ、何で二人とも沸点が低いのですか。


「上等だ、雑魚の前にお前をぶっ飛ばしてやる」

「良かろう、奴が戻ってくる前の準備運動にしてやろう」


 ……。


「あ、私は逃げておきますね。ニッヘレンも行くかい?」

「ヒヒン」

「じゃあ一緒に逃げようか」

「ヒン」


 人外大決戦の間に割って入るつもりはありません、とっとと安全圏まで逃げましょう。




「久しぶりにマジでやってやるぜ」


 目の前の男が着ていた外套が消える、アイテムボックスになおしたか。装備は両手のガントレットと両腕に付けた小盾程度かの?


「随分と軽装じゃのう」

「魔法で防げるなら過剰な防具は邪魔だ」

「なるほどのう」


 かなり自信があるようじゃの、つい挑発に乗ってしまったがどうするか。人間相手にあまり本気を出すわけにもいかんしのう。


「さあ、とっとと本気の姿で来な。人化した状態で勝てるほど俺はぬるくないぞ」

「…よかろう」


 気が変わった。ここまで言うのじゃ、本気を出してやろう。


「ならばそうさせてもらおう、死んでも恨むでないぞ」


 人化を解く、すぐに妾の視線が3ムルほど高くなり男を見下ろす形になる。


「さあ、初手は譲ってやろう。かかってくるがいい」

「だったらそうさせてもらおうか! 【火よ、風よ、闇よ! 我が右手に破壊の力を宿せ!】」

「む!?」


 奴の右手に精霊が集まる。この速度は、尋常なものではない!?


「食らってみろや、デッドナックル!!」

「!?」


 奴がこちらに向かって跳んで来た。とっさに魔力障壁を目前に展開すると奴の拳と妾の障壁が激突する。何と!?


「この威力は!?」

「結構硬いな! 言うだけあるか!」


 馬鹿な?! 妾の障壁を歪めるのか!?


「ならば、次はこちらの番だ!」


 口内にブレスを溜め込む、空中でこれは避けきれまい!


「だったら! 【水よ、地よ、光よ! 我が左手に防御の力を宿せ!】」

「食らえい!」

「行けよ、アライブフィスト!!」


 妾のブレスが奴を包む、っ?! 妾のブレスが奴の拳で上空に曲げられた?


「妾のブレスが?」


 何事もなく着地しおった。こやつ、予想以上にやりおるな。


「くそ、反射し切れなかった。予想以上の威力だな、楽しくなってきた!」


 反射? 本来は軌道を変えるのではなく反射する技だったじゃったか。


「随分と余裕じゃのう。お主の攻撃は妾には届かず妾の攻撃は反射できなかったというのに」

「はっ、今のはただの見せ札だ。次はそれなりの札を切らせてもらうぜ」

「ふん、強がりか」

「そうでも無いさ。来い、三黒が一つ、黒剣!」


 奴の右手に身の丈を越えるほどの大きさを持つ黒い大剣が現れる、なんじゃ? 魔具の類か? かなりの力を感じるが、あれが奴の切り札かの?


「行くぜ!」


 こちらに駆けてくる、狙いは翼か? ならば、真っ向から受け止めようぞ!


「ぬうん!」

「でえい!」


 奴の大剣と妾の翼がぶつかり合う、軽々と使うから見た目ほどの重量は無いのかと思ったが、見た目に違わぬ重い一撃じゃな!


「翼で受け止めるとはな! なかなか俺好みの戦い方するじゃねえか!」

「お主もドラゴンに真っ向から殴りかかってくるとはな、随分と度胸のある奴じゃ!」


 そう言いつつ奴を弾き飛ばす、さすがに重量差はどうしようもないようだの。


「っち!」

「次はこれでどうじゃ」


 翼と魔法で持って空へと昇る、さあ奴は向かってくるかの?


「逃がすか! 行けよ!!」


 奴が腰を捻った後左拳を突き出すと腕に付けていた盾の先端がこちらに飛んでくる、飛び道具か? しかし。


「そのようなもの当たらんわ!」


 飛来物を避ける。…む?


「これは?!」


 飛来物にワイヤーのようなものが繋がっておった。そのワイヤーが妾の体に巻きつく、狙いはこれか!


「ええい、うっとうしい!」

「はっ、届いたぜ!」


 奴はあの黒い剣を消し、ワイヤーを巻き戻して妾の元まで迫る。


「舐めるな!」


 体を振り奴の体を妾の上に飛ばす。これで位置は逆転した、下から狙い撃ってくれるわ。


「【世界を荒ぶ暴風よ、我が元に集い、我が敵を貫け、暴風の剛槍】」

「狙い通りだ! 来い、三黒が一つ、黒槍!」


 奴の右手に先ほどの大剣と似通った意匠の黒い長大な槍が現れる、あれも魔具か?


『貫け!』


 奴の槍と妾の槍が真正面から激突する、一瞬の均衡の後敗れたのは妾の方であった。


「ええい、ならば!」


 先ほどのことを考えて障壁を厚く、二重に展開する。槍と障壁がぶつかり合うが貫かれてはいない。


「その程度では妾の障壁は破れん!」

「だったらよ! 【風の精霊よ、俺を押せ!】」

「何?!」


 奴の体がこちらに向かって加速する、風の精霊とワイヤーの巻き戻しによるものか。しかし、あの体勢は。


「妾に蹴りを入れるつもりか!」

「でえい!」


 奴の蹴りが槍に当たりさらに押し込む、障壁の一枚目はその勢いで破れてしまったが二枚目で受け止める。多少の皹は入ったが耐えきったか。


「これでも貫ききれないか!」

「ええい、奇怪な戦法を繰り出しおって! だったらこれはどうじゃ! 【我が意思の元世界に命ず、我が体を縛るものを、我に敵対するものを、炎で以って焼き尽くせ】」

「ぬおっ!? チッ! 【風の精霊よ、俺を受け止めろ】」


 炎が妾の体を舐める、その炎は妾の体は傷つけずにワイヤーのみを燃やす。奴はその炎が自分に迫る前に盾から切り離して着地に成功しおった、なかなか反応が素早い奴じゃ。


「これがエンシェントドラゴンの意思魔法って奴か。まさか金属すらも燃やせるとはな」

「知っておったか、意思魔法の前には常識は通用せん。出来ないことすらやってのけるのが意思魔法じゃからな」

「使い手の意思で世界の常識を書き換える魔法、普通の魔法と違い発生させた現象自体が物理法則を無視するか。まったく面倒だな」


 奴は左手に付けていた盾を消し去る。さすがに二度も同じ手には引っかからん、それを奴も理解しているのだろう。


「さて、まだ妾に立ち向かうか?」

「当然だろう?」

「ほう、どうやってじゃ?」

「無論、真っ向勝負でだ! 来い、三黒が一つ、黒斧!」


 奴の右手に巨大な両刃の戦斧が現れる、三黒と言っておることから察するにあれが最後の一つということか。しかし真っ向勝負とは。


「面白い! ならば妾の必殺の一撃で以ってお主を倒そう!」

「くっかか、だったら決めようか! SSクラスが一人、“蹂躙闊歩”、ユウ! 罷り通る!!」

「良かろう! トリニティ公国三大家の一つ、ゲオルギウス家が長女、ソフィア・トリニティ・ゲオルギウス、押し潰してくれる!!」


 楽しい、楽しいぞ! ここまで楽しいのは久方ぶりじゃ。なるほどSSであればこれほどの戦いを見せてもおかしくはない。感謝しよう、ユウ! これほどの力を見せてくれたお主に。その礼を、受け取れい!


「【我が意思の元世界に命ず、我に敵対するものを、極寒の風で凍てつかせよ】」


 意思魔法で以って発生した冷気を奴にぶつける、いまさらこれだけでは終わるまい?


「薙ぎ払え黒斧!」


 奴はその手の斧で冷気を切り裂く、あの斧は魔法すらも切り裂くのか、だとしても。


「これだけかよ!」

「まだあるわ! 【我が意思の元世界に命ず、我に敵対するものを、灼熱の炎で溶かし尽くせ】」

「だから効かねえっての!」


 再び奴は斧を振るい炎を切り捨てる、だからこそ!


「これで決めようぞ!」


 身体の後ろから魔力を放出して体を加速させユウに向かって飛ぶ、同時に魔力を限界まで注ぎこんで魔力障壁を展開する。この一撃、受け止めきれるか!


「体当たりか、だったらよ! 【我が身体、いかなる存在にも負けぬ、金剛の如く全てを弾かん】【精霊よ、我が願いに応じ、我に力を与えよ】」


 詠唱魔術と精霊魔法による二重の身体強化か、よくそのようなことをする気になるものだな。だとしても!


「妾を止められるか!」

「真っ向! 勝負!」


 妾の障壁と奴の戦斧が真っ向から激突する、奴は吹っ飛ばされずに受け止めたがその結果はすぐに出る。


「! 黒斧が!?」


 奴の斧に皹が入る、これが先ほどの意思魔法による布石、これで。


「これで終わりじゃ!」


 さらに魔力を用いて加速する、奴もなかなか粘りおるがその身体が後ろに下がりだす。


「まだだ! 黒斧、根性見せろや!!」

「な?!」


 ピキピキと、少しずつ妾の魔法障壁に皹が入りだす。まさか、これすらも?!


「これすらも、破ろうというのか!」

「ぶち抜けや!!」

「くっ!?」


 バキンという音と共に障壁が砕け散る、とっさに身体強化をして頭で斧を受け止めたが、これはまずい!!


「ぐおっ?!」

「っ!」


 とっさに身体の下方後部から魔力を放出して、身体を無理やり前転させることでこれ以上のダメージを受けることは防げたが、このような手を使わざるをえんとはのう。


「黒斧が損傷するとはな、こいつを使い出して10年以上経つが初めてだ。超低温と超高温による急激な温度変化を用いた金属崩壊。そのようなことはありえないはずの三黒にすらそれを起こすか。意思魔法とそれを成す絶対の意思を持つお前さんは凄いな、まったく」

「この一連の攻撃を受けて壊れなかったものなど今まで一つもなかったのだがのう、それに耐えたお主の武器とそれを振るうお主もまた凄かったぞ」

「…くっかか」

「…くくく」


 どちらともなく笑い出す、良い疲労感を感じるのう。なんともこれほど清清しいのは初めてかもしれん。人化し、その場に身体を投げ出す。後ろに目を向けるとユウもまた同じように地面に寝転がっていた。


「いやはや、なかなか楽しかった。三黒を以って仕留め切れなかったのは何時以来かな、まったく」

「妾も存分に楽しめたぞ、ユウ」

「そうだな、ソフィア」


 ああ、なかなか良き戦いであったな。あのような戦法で来る様な奴など今まで居なかったらのう、このような男がいるなど世界は広い。…お! そうじゃ。


「のう、ユウよ」

「何だ?」

「お主、妾の婿にならんか?」

「また唐突だな、おい」

「妾もいずれ結婚しなくてはならんがどうにも周りの男共は妾よりも弱くてのう、自分よりも弱い男を立てる気になどなれん。その点お主なら何の問題も無い」

「力の強い種族は同族とじゃないと子が成せない可能性が高い。人間の俺とでは跡継ぎに困るぞ?」

「なに、妾が家を継ぐ訳ではないのじゃ。それは他の兄妹に任せればよい」

「俺の方が先に死ぬ、長い人生を未亡人として過ごすつもりか?」

「魔力の多い者、強大な力を持つ者は種族の寿命を超越した長い年月を生きると聞くぞ。お主の強さなら数百年は生きそうじゃないかの?」

「あいにくと俺には恋人がいてな」

「かまわんぞ、妾は側室でも。この世界において力を持つ者が多数の妻を娶るのは珍しくない、それが分かっているからお主もこれを最後に言ったのだろう?」

「…」

「とりあえず妾はお主に着いて行くことにするからのう、よろしく頼むぞ」

「…まあいいか」

「決まりじゃの、くく」


 しかしこれは少々予定を変更せざるをえんかのう、まあなるようになろうよ。それにしても父上にはどう話そうか、…これもなるようになるかの。



これだけで八千字いったよ、おい。本来ならもう少し書くつもりだったからこの話だけで一万字いったかもしれん、何か想定していたよりも戦闘が長引いた。実はもう少し話が続く予定だったけど順番を入れ替えて次話に放り込むことにします。それはそうとして明日はあまり時間が取れないから今月で終わるか分からなくなってきた、とりあえずここから二日は予定に無いことは書かないことにしよう。


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