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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第二章:ユウの契約
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疑問と状況証拠

副題は罪はいくつ?


「ニッヘレン!!」

「ヒヒーン!!」

「この、言うことを聞けよ!」


 追いついた! あの男は?! ニッヘレンを無理やり連れて行こうとでもいうのですか!


「ニッヘレン! 迎撃を許可する!」

「ヒヒーン!」

「ぐはっ!」


 ニッヘレンの首に縄をかけていた男の体が吹っ飛ばされる、風属性の魔法ですか? これがニッヘレンの魔法ということですか。…それにしても、A級の魔物であるペガサスを無理やり連れて行こうなどと、随分な馬鹿のようですね。


「ニッヘレン!」

「ブルル…」

「すまなかったな。お前に不快な思いをさせた」

「ブルル!」

「俺を気遣って攻撃しなかったのだろう? ありがとう、ニッヘレン」

「ヒン!」

「ニッヘレン、大丈夫かい?」

「ヒン」

「…ペガサスとは、長く生きていますが初めて見ました。成る程、これは美しい。ユウさんが所有しているのですか?」

「ああ、俺の契約獣だ」

「契約獣ですか、羨ましいものです。…え!」

「うん?」


 この間抜けな男に何かあるのですか?


「この盗人がどうかしたか?」

「えーっと、…この人が先ほど話した町長の息子です」

『は?』


 ユウさんと被ってしまいましたが、被りますよこんなもの。まさか今から会いに行こうとしていた人物が泥棒とは。


「マジか…。よし、コイツを拷問して情報を吐かせよう」

「やめてください…、後々が確実に面倒ですから」

「面倒以外の理由で止めてほしいのですが…」


 …そうですね、私まで好戦的になっているとこの人を止める人が居なくなりますね。もっとも私ではこの人を止めるとか無理でしょうが。


「とりあえずどうするかね、コイツの扱いとか」

「控えめに言っても窃盗未遂ですから」

「控えめですか? とりあえず身柄を拘束して事情聴取ですかね」

「この人はこの街の町長の息子なのですよね? 下手な手を打つと面倒なことになりませんか?」

「かもしれんな、コイツの親父は?」

「現在は政務中だと思いますが、お連れしますか?」

「…当人の性格は?」

「町長ですか? 私生活はわかりませんが公的な場で私情を優先させるような人ではないですね」

「なら公的な場に突っ込むか」

「…良いのですか? 町長との間にいらない軋轢を生む可能性が高いですが」

「どうにもな、気になることがあるのさ」

「…ドルンさんはどう思いますか?」

「そうですね、消極的反対といったところです」

「…ふむ」


 私もあまり事を荒立てるのは宜しくないと思いますが…。


「よし、行くぞ」


 こうなりますよね、この人のことですから。


「すいません、ドルンさんも同行をお願いできますか?」

「わかりました、少しお待ちを。職員に出ることを伝えてきますので」

「分かった」


 数分後ユウさんが男を縄で縛って担ぎ、ミッヘの役所に向かう。さて、これから先どのような事態になりますかね。


「…いや、先に現場を見に行きたい」


 おや? 何か思うところがあるのでしょうか?


「? 分かりました、…えっと、そのままですか?」

「ああ」

「そうですか、こちらです」


 何でこの人は成人男性一人を担いだままで動き回ろうとするのでしょうかね。



「…そういえばユウさんは何故ニッヘレンの危機に気がついたのですか?」

「契約獣と契約者の間にはパスが繋がっていてな、近くに居れば互いにある程度の感情や考えが分かるのさ。それでニッヘレンからの救援に気がつけた」

「なるほど、そういうことですか」

「ヒヒン」


 いいですねえ、動物の気持ちが分かるのは。うらやましいものです。



「ここです、修復が始まっていますから当時のままというわけではありませんが」

「…爆発による被害に見えますね」

「…」

「これはグリーンドラゴンによる被害なのですか? …ユウさん?」

「…」


 瓦礫を触ったり外壁を眺めたりと、私の話を聞いている様子ではありません。ふむ、被害は外壁の一部が損壊、いくつかの家屋も屋根は残っていますが人が住めるような状態では無いですね。……何か妙な違和感が有りますね、何でしょうか? 


「何か気になることでも?」

「うーん…」

「…火災は発生してないんだよな?」

「ええ、倒壊のみです」

「ならこれは?」

「瓦礫ですか? …焦げ跡?」


 火災は起きていないはずでは?


「焦げ跡ですか、先ほどのグリーンドラゴンとやらの攻撃でこのようなことは起きるのですか?」

「いや、あれのブレスはあくまで破壊のみで二次被害は出ないはず。それを踏まえると」

「爆弾等によるものと考えたほうが近い気がしますね」

「ああ…、役所に行くか」

「はい」


 どうにも疑問が湧いてきましたね、はてさて。



 役所に着くと数人しか居ない職員と住民全員に注視されました、縄で縛られた男性を担いだ人が居たら見ますよね。…ユウさん、ずんずん進まないでくださいよ。ああ、もう。


「失礼、よろしいかな?」

「何の御用でしょうか? ここはそのような出で立ちで入ってくるような場所ではありませんよ」

「町長にお会いしたい、この男についてだ」

「この? …町長の息子さん?! …分かりました、少々お待ちを」

「助かるよ」


 …十分弱程でしょうか、奥から男性が一人歩いてきました。あの方が町長さんでしょうかね。


「お待たせしました、町長のギッドンです。私の息子のことで話があるとお聞きしましたが……どういう状況なのか分かりませんが、とりあえずこちらに」

「ここでかまわない」


 ユウさん?


「いえ、しかし」

「ここでしてもかまわない話だから俺達はここに待たされたのだろう?」


 …怒ってます? あの男に対しての怒りかここで待たされた嫌がらせか、どちらにせよ少々大人気ないですね。


「ユウさん、ここは移動したほうがいいと思いますが」

「ここのほうが都合がいい」

「そうですか?」


 私の質問に対してユウさんが顔を近づけて小声で答える。


「(ここなら私的な行動は取れないさ」」

「(…そういうことですか)」


 要は町長が親心でこの件を無かった事にする可能性を潰す気ですか。


「(随分とキツイことをしますね)」

「(俺のものに手を付けたことを後悔させてやりたいからな)」

「…分かりました、ここでかまいません」


 潔い、これはどう出て来ますかね。


「それで、息子は何故このような?」

「俺が不在の間に俺の召喚獣を無理やりさらおうとしていたのでな、拘束させてもらった」

「本当ですか?」

「はい、私が保証します」

「ギルドマスター…。息子がそのような、申し訳ありません。謝罪として何か」

「それはいい」

「は?」

「俺はこの男に聞きたいことが元々あったのでな、これはそのついでだ」

「聞きたいこと?」

「町長、彼は先日のドラゴンの件でこちらに来た冒険者です。二日前の事件について息子さんにお話を伺いたいと」

「…それで話を聞きに行こうとしたら息子が馬鹿をやっていたと」

「そうだ」

「…そうですか、私としては息子に話を聞くのは好きにしてくださいとしか言えないのですが」

「いや、アンタが居たほうがいいかもしれないんでね」

「……とりあえずは私もここに居る事にします」


 ユウさんの思惑は何なのでしょうか。いずれ分かりますかね。


「それじゃ起こすぞ」

「…かっ?! 何だ? あ?! 何で縛られてるんだ!?」


 ユウさんが彼を床に置いた後、彼に活を入れるとすぐに意識を取り戻しましたね。さてさて、どのような人物ですかね。


「おはよう、罪人」

「は? 何言ってんだ? いいからさっさとこれをほどけよ!」

「お前は自分がやったことすら覚えていないのかな? 人のものを盗ろうとしたよな?」

「あ? ふざけんな、いいからさっさと縄をほどけよ」

「お前は本当に自分のやったことを理解して無いのか?」

「親父! 助けてくれ!」

「やかましい、お前がこのようなことまでする人間だったなどとはな。失望したぞ」

「何言われたか知らねえけど親父は騙されてるんだ! 息子よりもそいつらを信じるのかよ」

「客観的に見てギルドマスター自らお前を貶める理由は無い、今のお前よりは信じられる」

「親父!」

「親子裁判はそこまでで頼むぞ、とりあえずお前には俺の質問に答えてもらう」

「はあ? 何で俺が」

「…殺すぞ?」

「ヒッ!?」


 …一瞬ですがかなりの殺気でしたね、しかも一般人にも分かるようにしている。男にのみ向けたようですがこんなところで止めて下さいよ、まったく。


「質問に答えてくれるかな?」

「わ、分かった」

「お前が見たドラゴンとはどんなものだった?」

「で、でかい翼の生えたトカゲみたいな奴で」

「それは分かっている、色は?」

「色? …く、黒だ」

「ブラックドラゴンを暗闇の中見るのは難しいと思うが?」

「み、見えたんだからしょうがないだろ」

「ふーん、ではそのドラゴンはどうやって街を破壊した?」

「口から何かを吐いて…」

「ほーう、ほう。じゃあ何でお前はドラゴンに気付いたんだ?」

「は?」

「街の一角が爆発したからといって上を向くかね?」

「そ、それは…。音だ、音がしたんだ」

「音?」

「そうだ、何かが羽ばたく音がしてそれで」

「そうか、…町長さん」

「何ですか?」

「この男は何か魔法は使えるか?」


 ? 何故このタイミングでそのような質問を?


「いえ、息子は魔法の才など無いはずですが…」

「じゃあ、あんたの家に何か広範囲を破壊可能な武器や魔具はあるか?」

「そのような物は特には…」

「じゃあこの男はその手の代物を手に入れる術を持っているか?」


 …まさか。


「………この街には冒険者向けに魔法爆弾を販売する店があります」

「そうか、お前はそこで爆弾を買ったな?」

「な、何を根拠に」

「調べれば分かるさ」

「ユウさん、あなたはこの男が街を破壊したと思っているのですか?」

「ブラックドラゴンはブレス攻撃よりも格闘戦を好む、普通なら尾を使って攻撃するさ」

「魔法を使ったのでは?」

「わざわざそんな真似をする理由が無いだろう、なんで街を攻撃しているくせに魔法を使って被害を減らしてくれるんだ。それにブラックドラゴンは隠密性が高く飛行による音など発生させない、音で気づくわけが無い。」

「なるほど」

「失礼ですが、それを断言できるのですか?」

「町長、この方のギルドランクはSSです、まず間違いないかと」

「SS!? 貴方が!」


 周りの職員や住民達もユウさんを見つめている、その目には驚愕や尊敬の色が浮かんでいる。実態はともかくSSと聞けば普通はそういう反応ですよね。


「そしてあの被害、あれはほぼ間違いなく爆弾によるものだ」

「断言できる根拠は?」

「上空からの攻撃による被害ならああはならんさ、あれは横からの爆発による被害だ」


 そうか、あの違和感はそれか。被害を受けた位置が低かったんだ、上空から攻撃を受けたのに建物の屋根が残っているのは妙だ。


「つまり、息子が爆弾で街の一部を吹き飛ばした、と?」


 町長の一言に周りの人たちがざわつきだす、まさか町長の息子が自分達の街を破壊したなどと聞けばそうのなるでしょうね。


「しかし、証拠はあるのですか?」

「さっき言っていた店で爆弾の購入履歴を調べれば一応は分かるだろうが、あくまで状況証拠かもな。こいつが犯行を行ったという決定的な証拠になるかどうか」

「ふむ」

「は、はは。俺に難癖付けて俺を犯人にしたいようだが、残念だったな。わかったら早く俺を解放しろ」


 どうにも反応を見る限りこの男が犯人だと思いますがね、これ以上の追求は難しいですか。


「いや、解放する気など無いけどな。少なくともお前が人の契約獣を盗もうとしたのは事実だし。…ギルドマスター」

「何ですか?」

「あの被害による人的被害は?」

「はい、破壊された建物のうち5つが民家だったのでそこに住んでいた五世帯のうち10名が軽症、3名が全治半年以上の重症です。幸いにも死亡者は居ませんでしたが、けして小さな被害ではありません」

「そうか、ならその人達は自分達を傷つけた存在を恨んでいるだろうな。他にも被害を被った人も居るだろう」

「ええ、しかしドラゴン相手では…まさか?」

「それが人によるものだと知ればどう動くか分からないなー、怖いなー」


 え、えげつない手を考え付く人ですね。


「さすがにそれは、そんなことをするつもりなら私は全力で抵抗しますが」

「嫌だなあ、俺はそんなことしないよ」

「え?」

「俺の仕事は終わり、後はコイツを警備隊に引き渡せば後は彼らに任せるさ」

「だったら何故そのような話を」

「だってねえ、もう俺が何かする必要は無いんだよな」


 ……なるほど、ここのほうが都合が良いと言った理由が分かりました。


「そういうことですか、もうあなたが何かしなくてもここに居る人たちがすでに知ってしまった。人の口に戸は建てられない、この場の話は街に広がり被害者たちの耳にも入る」

「そしてその犯人かもしれない人物が街をうろついていればどうするだろうなー」

「…被害者の中には冒険者本人やその近縁の人物も居ます、なかには血気盛んな人もいるでしょう。まず間違いなく刃傷沙汰が起きるでしょう」

「分かったかな?」

「…」


 もはや男の顔は真っ青ですね、たぶんこの男が犯人なのでしょう。無実の罪を着せられそうだからこの反応をしているとも考えられますが、今までの言動を見る限りはまず間違いないでしょう。彼は罪を認めて逮捕されるかもしくは否認して被害者に殺されるか、どちらかということですか。私としては町長が先ほどから恐ろしいほど無表情なのも気になりますが、ね。


「さて、ギルドマスターさん。あとは任せていいかい?」

「あ、はい。分かりました」

「俺達は今夜の宿を取りに行こう、明日は朝早くに山に入るぞ」

「ドラゴンはこの男の虚言では?」

「二日前のそれは嘘だろうな、だからと言ってそれ以前の目撃情報が偽りかどうかは分からん。調査は必要だろう?」

「意外と乗り気なのですね」

「ドラゴンと戦える可能性があるんだ、そうもなる」

「バトルジャンキーですか?」

「平和主義者がSSになれるか」

「だからと言って積極的にハザード級に向かうものですか?」

「俺はな」

「でしょうね」


 もうこの人はそういう人なのだと理解しましたよ…。


「この辺りに良い宿は有るか?」

「中級ぐらいの宿ですが有りますよ、ここを出て左に曲がったすぐ先です」

「それじゃそこに行くか、ほら行くぞ」

「分かりました、すみませんが後はお任せします」

「任されました」


 …意外とこの人についていたほうが被害を受けないのかもしれないですね、後に残されるとどうにも後始末が大変なことになりそうです。でも一緒にいると精神的に来そうなんですよね…、はあ。



こんなのを書いているから本編が進まないのですがね、本編にはまったく影響が無いであろう話です。こんなのを書いているから二章だけで九万字超えるんだよ、まったく。明日はドラゴンとの戦闘回になるはず、その後の二つで終わると思うんだがなあ。まだ書いていないが大丈夫だろうか? 



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